現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年12月17日(土)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

原発事故―「収束」宣言は早すぎる

野田首相がきのう、記者会見で福島第一原発事故の「収束」を内外に宣言した。周辺の人々が避難生活を強いられていることや、本格的な除染などの課題が山積していることに触れ、事故[記事全文]

原発事故―住民の安心に力尽くせ

弱い放射線を長く浴びたときの健康への影響をめぐり、不安が広がっている。どう考え、どう対応していけばいいだろう。細野原発相の要請で検討を進めてきた内閣府の有識者会議が報告[記事全文]

原発事故―「収束」宣言は早すぎる

 野田首相がきのう、記者会見で福島第一原発事故の「収束」を内外に宣言した。

 周辺の人々が避難生活を強いられていることや、本格的な除染などの課題が山積していることに触れ、事故炉に絞った「収束」だと強調した。

 だが、そうだとしても、この時点で「収束」という言葉を用いたことは早すぎる。

 いまは、急ごしらえの装置で水を循環させて炉の温度をなんとか抑えているだけだ。事故炉の中心部は直接、見られない。中のようすは、計測器の数値で推測するしかない。

 これでは、発生時からの危機的状況を脱したとは言えても、「事故の収束」だと胸を張る根拠は乏しい。

 そもそも、今回は炉が「冷温停止状態」になったと発表するとみられていた。首相が、この年内達成に努めることを国際社会に公言していたからだ。

 だが、それは事故収束に向けた工程表のステップ2の完了にすぎない。あくまで途中経過であり、過大にみてはいけない。

 「冷温停止状態」という見立てそのものにも、さまざまな議論がある。

 政府の定義では、圧力容器底部の温度が100度以下になり、大気への放射能漏れも大幅に抑えられたことをいう。

 だが、東京電力が先月公表した1号機の解析結果で、圧力容器の底が抜け、ほとんどの燃料が容器外へ落ち、格納容器を傷つけたらしいとわかっている。

 いまなお混沌(こんとん)とした炉内で、再臨界の恐れはないのか。巨大な地震に耐えられるのか。こうした懸念をぬぐい去ったとき、初めて「収束」といえる。

 敷地内の作業員らが日夜、危険な仕事を続けたことで、事故処理が進んだのは紛れもない事実だ。その結果、安定した冷却が続いているのなら、そのことを過不足なく説明すればよい。そのうえで「少しずつ前へ進もう」というメッセージを発信すれば十分なはずだ。

 「収束」という踏み込んだ表現で安全性をアピールし、風評被害の防止につなげたいという判断があったのかもしれない。しかし、問題は実態であり、言葉で取り繕うことは、かえって内外の信を失いかねない。

 いま政府がすべきは、原発の状況をにらみながら、きめ細かく周辺地域の除染をしつつ、人々の生活再建策を積極的に進めることだ。

 国民を惑わせることなく、厳しい現実をそのまま伝え、国民とともに事態の打開を図る。それが首相の仕事だ。

検索フォーム

原発事故―住民の安心に力尽くせ

 弱い放射線を長く浴びたときの健康への影響をめぐり、不安が広がっている。どう考え、どう対応していけばいいだろう。

 細野原発相の要請で検討を進めてきた内閣府の有識者会議が報告書をまとめた。

 科学的にわかっているのはどこまでか。それをまず明らかにしたうえで、安心して暮らせる環境を取り戻すための放射線対策を提案している。

 まず、最も低いレベルの放射線の影響として科学的に立証され、国際的に認められているのは、100ミリシーベルト浴びるとがんで亡くなるリスクが0.5%高まる、というものだ。

 これより低いと、健康への影響は科学的にはわからない。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)は健康を守る立場から、線量に比例してがんのリスクが高まると仮定して防護策をとり、線量を減らしていくことを求めている。日本もこれに従っている。

 また、同じ量でも短期間に浴びた方がリスクは大きく、また同じ量なら、外部被曝(ひばく)も内部被曝もその影響は同じだと、国際的に認められている。

 リスクの大きさを理解する一助として、野菜不足や受動喫煙による発がんのリスクは100〜200ミリシーベルトに相当する、といった数字もあげた。

 こうした知見に基づき、報告書は、年間20ミリシーベルトという目安は、人が住み、除染して放射線量を下げていくスタートとして適切とした。除染には優先順位をつけ、目標を立てて段階的に進めるよう求めた。

 そして、子どもの健康に不安を感じる人が多いことを考え、子どもがいる環境の除染を優先すべきだとした。

 福島県のがんによる死亡率は全国でほぼ中位だが、放射線の影響が表れたとしてもなお、全国で最も低い県をめざすことも提案する。禁煙や食事、がん検診などもあわせ、がん対策で世界を先導しようというわけだ。

 福島県伊達市の仁志田昇司市長は会議で、個人の線量や食品の放射能など客観的なデータをもとに、自分で安全安心を判断できることが大切だと話し、そのための環境整備を望んだ。

 市内の家庭には、二つの食卓があるそうだ。地元の食材を使った老人用と他県産を使った子ども用だ。安全とわかれば、食卓は一つにできるはずで、市が用意した食品の放射能の測定装置は長蛇の列という。

 住民の安心のため、各地域で測定できる態勢を整え、疑問に答えるための対話を尽くす。その支援は、政府の役割だ。

検索フォーム

PR情報