(2011年11月25日 岩波書店刊 1995円)
摩訶不思議な本である。鶴見俊輔と亡くなった小田実との鶴見氏想定の架空対談(第一章)に始まり、小田実の絶筆となった寓話小説『トラブゾンの猫』(第四章)で締めくくられている。鶴見氏の「哲学の効用」(第三章)は常人とは一味違う自称"悪人"としての鶴見氏の視座から見た世界が広がり、交遊関係やそのエピソードも満載である。小田実最後の講演をそのまま収録している第二章「オリジンから考える」では、小田氏の語り口が生き生きと再現され、"小さな人間"の虫瞰図の大切さ、自由さについての話など、到るところでその一貫性と行動力が、膨大な作品群にも通底して流れていることを思い出させてくれる。


本webサイト「資料館」の中に、小田作品の表紙を展示した"書影の展覧会"のコーナーがオープンしました。 初刊を含め過去に刊行された収録作品の表紙の数々は、著者だけでなく装丁家、編集者の思い入れやその時代のにおい、勢いを垣間見せてくれます。 全82点をお楽しみください!





作品案内

電子書籍版
オンデマンド版(全82巻)
2010年6月より順次刊行
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文学者・思想家として活躍し、平和運動をしながらも膨大な作品群を遺した小田実の全小説32作品と代表的評論32作品を網羅!

→立ち読みは、オンデマンド版にてお読みいただけます。

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最新刊(小説)
明後日の手記/泥の世界

傷ついた魂の高校生群像を描いた、小田実17歳の処女作と、敗戦を抱きしめムーサ(詩の女神)に贈った「難死の思想」の短編小説。

わが人生の時

敗戦後の占領期、嵐の時代に遭遇した20歳の著者が、当時の若者たちの魂の彷徨と愛、闘いを描いた。青春の墓碑銘。

アメリカ

『何でも見てやろう』の姉妹編として書かれたフィクションの巨編。人間の性と人種差別問題とは何かを深く考えた作品。

大地と星輝く天の子

ソクラテスを裁いた古代アテナイの陪審員たちが主人公のこの小説は、善と悪が共存する現代社会を撃つ古い未来の長編。

現代史

日本が若かった1964年頃の社会風俗、国際関係、社会構造が、若きヒロインの視線を軸に描かれた"現代の『細雪』"。

ガ島

大阪弁ドタバタ喜劇の語り口の裡に隠された物語は、日米戦場の孤島ガダルカナルに眠る兵士の遺骨拾いへの旅であった。

冷え物

大阪の底辺に生きる「善良な」人たちのあいだにひそむ「差別」の心理と構造を描いた、1968年の「反差別文学」。

羽なければ

七十近くの老主人公と十六歳の岡本あつ子が繰り広げる奇妙な関係。人間のはかなさと出会いの尊さが切々とうずく名品。

列人列景

中年の主人公「タダの人」の眼で、人間にとって切実な原風景、愛、性、志、生老病死を魅力的な題名に込めて描く連作集。

円いひっぴい

庶民の中心をなす、保守的中間層の心理と感覚、倫理と思考をくらしの言葉、「ボヤキ万才」よろしく大阪弁で精密に描く。

タコを揚げる ある私小説

地球上の秩序からはみだし、「らしさ」からはみだす心優しき世界中の「途中者」たちのタメ息と感動が鳴り響く私小説。

HIROSHIMA

ジョウは、戦闘機乗員として対日戦に参加、撃墜され捕虜となり広島で被爆。英訳本、BBCラジオ劇にもなった衝撃作。

海冥

全ての戦死者の屍が眠る戦場の海。太平洋が著者に語った無数の、縄のようにもつれた「流民」の話が16の短篇となった。

風河

少女が見た昭和初期の大阪。朝鮮人医学生と日本人女学生の愛と、その破滅の物語。心を揺さぶる郷愁と時代への諷喩。

最新刊(評論)
何でも見てやろう

フルブライト留学生が、欧米・アジア22カ国を貧乏旅行した現代のオデュッセイア。本物の知性と勇気のベストセラー。

壁を破る

1962年から64年にかけて、日本が国際化に向けて外へ開こうとする時に多大な影響を与えた国際関係論。

日本の知識人

日本人自身が現代の日本をどう考えるかを書いた自己認識の書。他に類を見ない厚みと深みをもつ「日本論」。

戦後を拓く思想

本書にある「難死の思想」は、戦争を体験・体感していない人にも戦争の本質を想像力によって思想的に体験させてくれる。

平和をつくる原理

戦争に駆り出された人間は、被害者であることによって加害者となるという戦争のメカニズムをあぶり出した平和論集。

義務としての旅

一人の作家が、自ら拠って立つ平和思想に基づいてベトナム戦争をどう受けとめかねているか、その苦しみの中間報告。

世直しの倫理と論理

国家のしくみの中に否応なく巻き込まれながら巻き返す回路を、日常を生きつづける人びとの「現場」から解明した書。

状況から

1973年の世界状況の中で、虫瞰図の視点をもつ思想者が現代日本の「法人資本主義」と国家権力のしくみを考察する。

「鎖国」の文学

文学にとって大事なものは、私の「眼」と他者の「眼」をもつこと。1971年から75年まで書かれた独自の文学論。

「共生」への原理

太平洋の「どんづまり」から、「共死」の重い意味を抱きしめ、未来を拓く人びとを考察した、異者との「共生」への哲学。

「民」の論理、「軍」の論理

「軍」=「国家」の論理の壁の前で、「民」=「市民」の論理が恢復するには市民の「自立」と「自律」が肝要という政治学。

小田実 小説世界を歩く

漱石からジョン・オカダまでの小説を著者が一人の読者としてたっぷりと愉しみ、含味した文学論。

基底にあるもの

一九七四年から八〇年にかけて著者が「知る」という意味をめぐり、人びと、世界、ギリシャ古典と文学について考察。

「ベトナム以後」を歩く

ベトナム戦争終結後、約十年目にベトナムを歩いた。東西冷戦中、「惨勝」した国の抱える辛い戦後期を広く深く省察。

毛沢東

中国の歴史を変えた毛沢東の矛盾と実践を、少数民族や第三世界を含め、普通の人々の眼で考えた「人びとの毛沢東」論。

われ=われの哲学

「よりよい明日」のため、社会の問題を解決しようと互いを支え合う自立した市民の繋がりを平易な言葉で説く市民の哲学。

資料館

2000年までは著者自身の執筆によるもの。以降は『環[特集]われわれの小田実』(2007年藤原書店刊)の「年譜」を増補。

原稿用紙だけでなく、ノートにも書かれている自筆原稿や、絵や表などが随所に見られる創作ノート。適宜更新。

幼少期、高校時代から若き日のギリシアへの旅、ベ平連の集会、ベルリン、ベトナム各地やデモ行進まで、行動し続けた軌跡。

主に中学時代に書かれた詩。早熟な少年の思索に感性の鋭さがうかがえる。「駄目になったおれを見てくれ…」

『ベトナムから遠く離れて』(1991年講談社)の出版記念に、はさみこみの冊子に書かれた小説論。書影は第1巻のカバー表紙。

1995年1月17日阪神淡路大震災で被災した小田実に宛てて、3日後に書かれた。「小田さん、貴兄のために私はどうしたらいいのでしょう?」

小田実の“人生の同行者”玄順恵氏が、ともに生きた小田実の作品の独自性、奥に秘められた著者の思いに迫る作品論。

初刊を含め、過去に刊行された収録作品の表紙を展示。 著者、編集者、装丁家の思いと時代のにおいをまとって、全集収録作品の82点の書影が勢ぞろい!!