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◆北アメリカ(3)
   
「カズー ―― 声を変装するファンキーな楽器」
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執筆: 柘植 元一


七世紀から十九世紀にかけてアフリカから奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人が、アフリカ音楽をアメリカ大陸にもたらしました。アメリカという新しい環境の中で、黒人たちは身につけてきたアフリカの伝統音楽を白人のヨーロッパ音楽と混ぜあわせることによって、「アフロ=アメリカン音楽」と総称される新しい音楽文化を作りだしました。かれらはヨーロッパ起源の楽器を巧みに弾きこなし、そこにアフリカ的な要素をつけ加えてアフロ=アメリカン風のスタイルを作り出しましたが、アフリカに起源をもつ楽器もいくつか作りだしました。そのタイプのもっともよく知られている楽器はバンジョーです。しかし、奇妙なことにバンジョーは今日では、むしろ白人中心の音楽であるブルーグラスなどで盛んに用いられています。いずれにせよ、バンジョーは優れて「アメリカ的」な楽器といえます。

回はもう一つのアフロ=アメリカンの楽器を紹介しましょう。それは「カズー kazoo」と呼ばれる楽器です。多くの人はこれを楽器ではなく、むしろ「玩具」だと思っています。なぜなら、これは口にくわえて「吹く」のではなく、「ハミング」するのです。これは吹き手が「歌う」ための「音具」なのです。カズーは葉巻ほどの大きさで、ブリキ製の円筒をいささか平たく押しつぶしたような形の楽器です。ホルンボステルとザックスの楽器分類法では、これを「拡声」のための膜鳴楽器に分類されています。なぜ、「膜鳴楽器」なのでしょうか。

カズー ま手許にあるニューヨーク州のイーデンにあるカズー会社 (Kazoo Co. Inc.)の製品を例にとってその構造を見てみましょう(写真参照)。筒の長さが12センチメートル、楕円形の吹き口の口径の縦が約1.5センチ、横は約2センチあります。筒の先端は尻つぼみに細くなっていて、開口部はほぼ真円でその直径は約1センチです。肝心な点は、筒の吹き口から4センチほどの所に直径1.2センチほどの孔が空いておりそこに半透明の薄い膜が張ってあることです。この皮膜は破れやすいので保護するために、一見、金冠のようなカヴァーで覆われています。

て、カズーを鳴らすには吹き口をすっぽりくわえて声をだして歌うのです。すると、声の振動が皮膜をビリビリと震わせて元の声とはすっかり違った音に変わるのです。皮膜の部分を手で覆って振動を調節することによって声の質のみならず量も変化させることができます。これは声に「仮面」をかぶせる、つまり、声を変装する装置であり、かつメガフォンのように拡声する機能をももった特殊な「楽器」なのです。同時に、声帯模写のように、いろいろな楽器の音色を真似ることのできる手っとリ早い方法でもあったのです。カズーは元来、初期のジャズなど黒人音楽において重要な役割をもっていました。カズーで奏でられる音楽は、かなりファンキーな響きであったろうと想像されます。

かし、カズーは十九世紀の中頃アメリカで工場生産されるようになって程なく、ヨーロッパでも生産されるようになりました。イギリスでは「バズーカ」とか「ガズーカ」と呼ばれて、1920から30年代に労働者のバンドで盛んに用いられました。ちなみに、一時代前の兵器に「バズーカ砲」という名の対戦車ロケット騨発射筒がありました。この「バズーカ」の命名はこの楽器に由来しています。発射筒の形がカズーに似ていたからにほかなりません。

ズーのレコードとしては、かつて「カズーフォニーKazoophony」(1975)ほか数枚のLPがありましたが、今や蒐集家のアイテムになっています。CDとしては稀にしか出ていないようです。

※参考書 Barbara Stewart. How to Kazoo: Complete Method Book, New York:Workman Publishing, 1983.

■参考リンク
Banjo in Traditional Music:バンジョーの絵と歴史など(英語)
www.kazoos.com:カズーのサイト。Productsのページに音源あり(英語)

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