観客それぞれの解釈にゆだねた“踊る”の未来2ヶ月間の連載もいよいよ最終回!ラストの締めくくりにご登場いただくのは、“踊る”を国民的大人気シリーズに育て上げた第一人者、本広克行監督!!“踊る”とともに歩んできた特別な15年への想い、『ファイナル』ラストシーンへのこだわり、観客それぞれの解釈にゆだねた“踊る”の未来……すべてを語っていただくロングインタビューです。これまでに登場したキャスト、スタッフの声もぶつけてみました! お約束?『ファイナル』の黒澤明作品オマージュは…──“踊る”シリーズにはさまざまな見どころがありますが、巨匠の作品のいちシーンをオマージュとして取り入れているのもそのひとつですよね。『1』〜『3』では『天国と地獄』『砂の器』『野良犬』のオマージュシーンがありましたが、『ファイナル』に選んだ映画は何ですか? 【本広】 今回は、黒澤(明)さんの初期作品『わが青春に悔なし』のDVDが潜んでいるんです。黒澤オマージュはよく言われるネタなので今回も「どうしよう……」と悩んだんですが、「そうだ、DVDだ!ブルーレイだ!」と思いついて、すみれさんがブルーレイを手渡すシーンが登場しています。その下の2本目には『ダーティー・ハリー2』があるんです(笑)。 ──前半のあのシーンですね!そもそも“踊る”にオマージュを取り入れようと思ったきっかけは何だったんですか? 【本広】 もともと僕の映画は、すべてになんらかの作品のオマージュがあるんです。巨匠と言われる方たちの作品以外にも、自分の過去作品をさり気なく入れてみたりもしています(笑)。そうすることで自然と口コミでそのネタが広がって、もう一回観たくなるということがありますし。でも、スピルバーグ監督しかり、多くの監督はそうやってオマージュを入れています。僕の場合はそれが少し濃いめに出ていますけど(笑)。“踊る”では、黒澤作品のオマージュを入れるのがお約束になっていて、毎回お題を出されている感じでした。 ──そうなんですね。『ファイナル』ではほかにもオマージュがあるんですか? 【本広】 たくさんあります……たとえば、青島さんのデスクの一番下の引き出しを開けるとスタンドライトが出てくるんです。それはテレビシリーズのときの小道具で、刑事になりたくて仕方のない青島さんが、刑事になる適性審査のときにそのスタンドをわざわざ持って行って、「カツ丼食べるか?」って言うシーンに使ったスタンドです。15年もやっているので、そういうたくさんの小物たちをいろいろなところで登場させています。 ──引き継がれているんですね。 【本広】 そうなんです。応接室に変な形の壺があったので、スタッフに「これ何?」と聞くと、『踊る大捜査線 秋の犯罪撲滅スペシャル』の陶芸教室のシーンで、署長たちが作った壺でした(笑)。 青島さんとすみれさんのキスシーンを入れたかった(笑)──そんなふうに15年にわたって愛を注いできたシリーズを終わらせるという決断について、監督としての想いを聞かせてください。 【本広】 『3』のときに(『3』と『4』で)終わりと聞いていたので、ずっと「終わりって何だろう……」と考えていたんですが、『4』のタイトルに『新たなる希望』という言葉を入れると聞いて、「ああ、本当に終わらせるんだな」と。監督として何をもって終えるのかを考えたとき、見たことのないシーンを入れることが“終わる”ことだと思えました。それは青島さんとすみれさんの気持ちと気持ちをぶつけ合うシーンだったり、これをやったら(後は)ないなというものですね。僕的には本当はあのふたりにチューをさせてやろうと思っていたんですが、周りから「10年前だったら見たいけど、今は……」という声が多くて(笑)。なので、結果的に「キスシーン以上の芝居を見せてください」と。ふたりにとってはプレッシャーになってしまいました。 ──いいシーンでした。君塚さんは今まで禁じ手にしてきたものをすべて盛り込んだとおっしゃっていましたが、ほかに『ファイナル』だから、最後だからこその挑戦はありますか? 【本広】 演出というよりも、まとめる作業が大変でしたね。というのは、『ファイナル』は今までにないくらい社会派のストーリーで、世の中にアプローチをかけているんです。これまでは娯楽映画として笑って泣ける映画を作ってきましたけれど、今回は震災の影響を受けています。震災についてはひとことも触れてはいないけれど、描いているのは震災後の日本なんです。そして、織田さんが最後に話すシーンが追加になりました。何度も何度も話し合って、3ヶ月かけて原稿を作って、それを君塚さんに見てもらって、あのラストの青島さんのセリフが出来上がったんです。 ──あのセリフはそれほど時間をかけたものだったんですね。また、今回は今まで以上に登場人物も多いですよね。 【本広】 そうなんです。しかも、あんなに売れている人(俳優)たちがエキストラ並みの扱いになってしまっているのが申し訳なくて……。他の映画にいったら主役級の人たちばかりなので、監督としては非常に気を遣うんです(笑)。 ──そんな監督のプレッシャーを感じ取っての言葉なんでしょうか、ユースケさんは僕のシーン、僕の作品のときは監督に自由にやってほしいと言っていました。 【本広】 そうなんです、ユースケはいつもアドリブを全部考えてきてくれて。何パターンも用意してくれるんですよ。 ──ユースケさんをはじめ、“踊る”をきっかけにブレイクした人、脇役であるのに大注目を浴びたスリーアミーゴスなど、“踊る”は脇役までも光る作品でしたよね。 【本広】 でも、僕自身は何もしていないんですよ。彼らが考えてきたアイディアがおもしろければ、ほかのシーンを削ってでもそれを採用する、そういうスタイルを取ってきただけです。スリーアミーゴスはまさにそこから生まれたようなもの。あのお三方は、個々では2時間ドラマの悪役を張っているような人たちなのに、3人が集まるとあんなにおもしろい。演劇の方なのでエチュード(即興劇)をやらせると永遠とおもしろいことをやってくれるんです。彼らのなかで「この監督(本広監督)はおもしろければ採用してくる」というのが認知されることで、そこからまた新しいものが生まれていく。そのアドリブを観た君塚さんがそこにつながる脚本を書いてくれるんです。 次のページへ ⇒【水野美紀とユースケの会話、台本に書かれていたのは!?】 (文:新谷里映) PHOTO GALLERYプロフィール
本広克行
1965年7月13日生まれ。香川県出身。 BACKNUMBER
踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望湾岸署管内で開催中の国際環境エネルギーサミット会場で誘拐事件が発生。数時間後に被害者は射殺体で発見される。使用されたのは、警察が押収した拳銃。緊急招集された捜査会議では、全ての捜査情報を管理官・鳥飼へ文書で提出することが義務付けられ、所轄の捜査員には一切の情報が開示されない異例の捜査方法が発表される。 そんななか、第2の殺人が発生。そして、捜査員たちを嘲笑うかのように起こった第3の事件。「真下の息子が誘拐された……!」――疑念を抱きながら必死に真実を突き止めようと捜査する青島。その捜査こそが、青島、最後の捜査になるとも知らずに……。
監督:本広克行
2012年9月7日(金)全国東宝系ロードショー P R
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