夜更けの午後11時。今宵も国産ワインと自家製ラキ(アルコール度数の高い地酒)を堪能し、ほろ酔い気分でひとり歩いていると、小学生くらいの男の子8人が、オレンジ色にライトアップされた石畳で鬼ごっこをしているところに出くわしました。
ひと筋向こうでは女の子たちがアイスクリームをなめていたり、あちらでは自転車を止めたグループが駄菓子屋にたむろしていたり。なぜか子ども、それも児童に分類したくなるような小さな子たちが、毎晩のように夜中まで遊んでいるのです。
ここは、マケドニア西部にあるオフリドの旧市街。文化的・歴史的景観と自然環境が評価され、1980年に世界複合遺産に登録されています。透明度の高い美しい湖に面した石造りの旧市街は、ローマ帝国時代の姿をいまに伝えるもの。ローマ風のコロッセオや修道院、さらには劇場など、歴史を感じさせる重厚感のある建築物が並ぶ街に、子どもたちの明るい声が幾重にも重なって響き渡ります。
あの子たち、確かゆうべもこのあたりにいたな。目が合うと、リーダー格の子がみんなにつつかれながら近づいてきました。「こんばんは。おしゃべりしてもいいですか」。声をかけてきたのは14歳の9年生で、生徒会長を務めるというキリルくん。昨夜わたしを見かけたので、動画サイトで日本や東京の映像を見てくれていたのだとか。好奇心のかたまりみたいになって、うずうずしながら深夜の路上でわたしを待っていたようです。
マケドニアでは、小学校にあたる基礎学校は6歳からの9年制です。パソコンがひとり1台貸与され、通信費も無料。教科書を含めて学費も通学代も無料といいます。基礎学校から英語とパソコンを学んでいるため、英語を話しパソコンを使いこなす子どもが多いようです。「大きくなったらマケドニアと世界を結ぶ仕事をしたい」。子どもたちは口々に大きな夢を語ってくれました。
学校は午前と午後の2部入れ替え制。そのため授業が午後から行われる週は、年上の子が年下の子の面倒を見ながら街角で遊んでいるのです。家族で夕食をとり、宿題をすませてから友だちと待ち合わせるのが夜9時ごろ。ひと騒ぎしてジュースを飲みながらくつろいでいる午後11時に通りかかったわたしは、恰好(かっこう)の遊び相手になったというわけです。低学年は深夜1時ごろ、大きい子は午前3時ごろまで遊んでいるそうです。
「マケドニアでいちばんおいしいものは」。その夜、子どもたちにたずねてみると、一斉に返ってきた答えは「ハンバーガー」。世界各国いずこも同じかと思いきや、マケドニアのハンバーガーはちょっと違いました。
ハンバーガーはファーストフードのチェーン店で食べるものではなく、基本的には家庭でつくるもの。粗めの牛と豚の合い挽き肉に玉ねぎのみじん切りを混ぜ、粉をさっとはたいて両面を揚げ焼きに。これを、やはり家で焼いたパンにはさみながら食べます。
組み合わせる前菜は、色とりどりの野菜を盛り合わせた、どんぶりいっぱいほどもあるサラダ。農業国であるマケドニアでは、新鮮な野菜がとっても安く手に入るのです。
皿からはみ出すほどボリュームのあるマケドニア版ハンバーガー。これをぺろりと平らげる子どもたちの健やかな食欲がうらやましいったら。わたしはちょっと持て余したけれど、それは素朴でやさしく温かい味わいでした。
旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化を体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案する。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。「江藤詩文の世界ゆるり鉄道旅」をmsn産経に連載中。
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