日能研教務部算数科 真藤 啓
「算数エッセイ『算数学入門』」です。
偏差値50位の人が一回読むだけでたちまち80になってしまう、……というものが書けないかなあと思いながら書いていこうと思います。また、次のそれぞれの算数エッセイのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことの補足も続けたいと思います。けれども、毎月それらの文を読まなくても本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。
『キッズレーダー』2月号(日能研) 算数エッセイ「おいしい算数 借一還一」
『学校選択』2月号(全国中学入試センター) 算数エッセイ「算数好きのきっかけをもとめて 図形のことばを作った人」
日本の受験算数の問題は大変素晴らしいものが多いと思います。ですから、たとえ、中学入試をしない人でも、中学入試の算数に取り組むとよいと思います。中国や韓国では中学入試もありますが、中学入試と関係なく、「小学数学(日本で言う算数)」のテスト大会があります。中国では競賽(きょうさい)、韓国では競試(けいし)というようです。
日本では算数オリンピックというのが近いかと思います。
中国や韓国の「小学数学」の試験を見て、日本の受験算数と比べてみると、大筋で、日本の受験算数が優っているように思いますが、一部の「計算の工夫」や「規則性(数列)」の問題に限っては、「ああ、こういうのは、日本の中学入試には出ないなあ」という感じの難しい問題が見受けられます。
「計算の工夫」や「規則性(数列)」では、中国はもともと難しかったのですが、最近は韓国のものも難しくなっています。韓国の算数の試験ということで忠州市数学競試大会(主催忠清トゥディ新聞社)をご紹介していますが、WEBで入手しやすいものとしては、そのほかソウルを中心とした、「全国初数学競試大会」というのもあります。次の問題は、2003年全国初数学競試大会3年生 30番(30問中)の問題です。
全国初数学競試大会はソウルを中心とする韓国の全国版の算数の試験で、3年生から6年生対象だったのが、最近は1年生から6年生までになっているようです。主催は「朝鮮日報社少年朝鮮日報」と「キューブ立体数学研究所」です。「朝鮮日報社」はソウルにある韓国最大の新聞社です。
問題
30 次の三角形の中の数は規則によって並べられています。下の五番目の絵のAに当てはまる数を求めなさい。
(2003年 全国初数学競試大会3年生30番(30問中))
小学3年生の問題ですよ。難しいですねえ。こういうのは日本の中学入試では見たことがありませんが、「小学3年生向きの難問」となるとこうなるものでしょうか。解答は、第9節に載せています。関心があれば、考えてみてください。子どもにも難しいけれども、算数が得意なおとなにも難しいのではないでしょうか。
中国で作られた四字熟語は無数にあります。その中のいくつかは日本に伝えられ役に立っています。しかし、中には日本には入ってきていないものもあります。たとえば中国には「借一還一」という四字熟語があります。
「借一還一」の文字の意味は、一を借りて一を返すという意味で、ちょっとしたものを借りて、同じものを利子などを付けないで返すといった意味です。
こういうことは、普段の生活で日本でもよくあることですが、別にわざわざそのためのことばはいらないということなのでしょう。
算数の解法のくふうなどにもこのことばが使われています。
算数で使われるときには「いったん、仮に付け加えて、うまく問題を解決したあと取り除く」という感じに使われます。2010年に日本人二人が触媒(しょくばい)の研究でノーベル化学賞を受賞しましたが、この触媒と「借一還一」とは似た感じがします。
今回は「とんち算数」の「借一還一」のお話をしてみたいと思います。
第1話 馬と遺言
昔1人の牧畜民がいて、全財産は19頭の馬でした。この人が亡くなる前に遺言(ゆいごん)をしました。3人の息子を枕元に呼んで「子どもたちよ。19頭の馬のうち、長男ガッキーは2分の1、次男アッキーは4分の1、三男サカシュウは5分の1に分けなさい」と言って逝(い)ってしまいました。
さて、残された3人の兄弟はとても長いこといっしょに相談しましたが、馬を遺言どおりに分けられなくて困ってしまいました。そこに、ロバに乗ったミツキイというおじさんがやってきました。3人の兄弟は分け方をミツキイに相談しました。
ミツキイは「そんなことなら簡単です。この馬をあげましょう。これで20頭の馬になったよね」と言ったので、兄弟たちは驚いて、「これは、馬ではなく、ロバでしょう」と言うと、ミツキイは「心配いりません。これはロバはロバでも、馬(ば)という称号があるロバですから」
兄弟たちは、よけいに心配になりましたが、ミツキイはお構いなしに「さて、20頭の馬のうち、長男は2分の1の10頭、二男は4分の1の5頭、三男は5分の1の4頭になる。
おや、1頭余ったね。これは返してもらおう」と言って、ミツキイはロバを連れて帰っていきました。このようなお話は有名で、日本にもラクダだの羊だので同じようなお話がありますので何度か聞いたことがあるでしょう。
第2話 ビールキャンペーン
もう一つ、これも聞いたことがあるようなないようなお話です。ある酒屋が「3本の空きびんで1本のビールを交換します」というキャンペーンを行いました。
ここに12本の空きびんだけ持ったノンピーがいました。さて、このノンピーは空きびんを利用して、何本のビールを飲めるでしょうか。
アッキイと言う人は
「このノンピーは4本のビールしか飲めない。簡単さ、12÷3=4(本)だからね」
と言いました。
ガッキーは
「ノンピーは5本まで飲むことができます。先に12本の空きびんで4本のビールと交換し、飲み終わった後の4本の空きびんのうちの3本であと一本のビールと交換できます」
と説明しました。
当のノンピーがそれを聞き
「ノンノン。6本の酒を飲むことができます」と言いました。
5本まで飲むと、空きびん2本できます。この2本を酒屋に持っていき、
「空きびんあと1本はすぐに返すから、この2本でビール1本ください」
と言って、そのビールを飲みほしてから、できた空きびんを差し出すと言いました。
これが、「借一還一」だというのです。
「空きびん3本」と「中身2本分と空きびん1本」が取り換えられるので、「空きびん2本」と「中身1本分」が取り換えられることになり、空きびん12本あれば中身6本分になることは算数的には問題ないように思います。ただ、お店としては、リピーターを増やしたいということもあり、実際にはこのようなことは断られるのではないかと思われます。例えば割引券なども「次回にお使いになれます」などということが多いですよね。ですから、よそから空きびんを1本借りてきて、空きびん3本にして1本と取り換えて、飲み干したあとで、借りた所に返すとよいかと思います。
ジュースの空きびんなどよく似た問題は中学入試にもときどき出てきます。ただし、こういう問題を初めて見た人は混乱しやすいことで知られています。
中国では、文字式の変形などにいろいろな解法のくふうの場面で、「借一還一」ということばを頻繁(ひんぱん)に使う先生も多いようです。日本では、「借一還一」ということばは使いませんが、「いったん借りて、問題を解決した後に返す」という解法自体は、算数の問題を取り組むときに結構広く使われます。
日常生活でも五百円の会費を集めているときに千円を持ってくる人には、お釣りをまってもらうというのも似ています。お釣りの必要のない人から払ってくださいとしたほうがわかりやすいけれども。
別に「借一還一」でなくて「触媒法」でもよいですが、こういうことばはあってもよいような気がします。
付記
中国で、数学(算数)の「借一還一」の説明に関連して、「馬」を遺言通り分けたり、「ビール」と空き瓶を引き合いに出したりするお話が数値を変えたりしてほかにもあります。
「ビール」のところは「鉱泉水(こうせんすい)」とか「汽水(きすい)」となっているものもありました。話題が小学生向けなのでその方が良かったかと思います。
「鉱泉水(こうせんすい)」とは何かというと日本語では「ミネラルウォーター」という方が通りがよいかもしれません。日本語じゃないじゃんという人もいるかもしれません。日本語では、単に「水」とか「天然水」とかいうのかもしれません。外国語を読むと、あ、これ日本語でなんというのかなあと思うことがありますよね。
「汽水」とは「ラムネ」とか「サイダー」です。
中国では、「借一還一」という言葉を「因数分解(文字式の変形)」など、中学・高校などの数学でもいろいろな解法でよく使っています。言葉があるほうが考えが定着しやすいように思います。
次の問題は2010年神奈川大学付属中の問題です。
問題
(5) 半径が3cmの半円を,図のように点Aを中心に回転させます。円周率は3.14とします。
半円の面積と,斜線の部分の面積が等しいとき,角は何度ですか。
角yが20°のとき,斜線の部分の面積は何cm2ですか。
(2010年 神奈川大学附属中2番(5))
解法
なので、
よって、45度
6×6×3.14×=6.28(cm2)
答え 45度 6.28cm2
で、次のような図をかきましたが、これも「借一還一」です。
徐光啓は全身の血が騒ぎ出したような強い衝撃を受けました。そこには自分のまだ知らない知識が、素晴らしい順番に並べられていたのでした。今回は、点、線、直線、曲線、平行線、角、直角、鋭角、鈍角、三角形、四辺形、……という、図形を学ぶのに必要なことばを作った人のお話です。
『農政全書』
1562年、光啓は、今の上海(しゃんはい)の呉淞(ごしょう)で生まれ、やがて中国の科挙という難しい試験で一番になりました。いろいろな知識を持っていましたが、特に天文学に優れていました。そのころ、農業の本は様々な小さな本がありましたので、そのバラバラな知識を丹念に集めて、それを自分で確かめ自分の新しい研究を付け加えたりして洗練して、『農政全書』という本を編纂しました。六十巻余りのそれぞれ六十数万の文字による大書で、明(中国)はもとより、朝鮮半島を通じて日本にも伝えられ、農業が改善されました。また、算数についても研究していて、算術書『九章算術』はもとより、重要な算術書をたくさん読んでいました。
光啓は苦労して学んだ最高の知識を上海、広東、広西などあちこちで教えました。そのころ、広東では、宣教師が来ていました。その宣教師に、マテオリッチという人がいると聞き、追いかけて南京でマテオリッチに会い、強い衝撃を受けました。マテオリッチが持っていた書物『ストイケイア(もとにするもの)』との運命的な出会いでした。『ストイケイア』はばらばらに学べは千年はかかりそうな知識が、誰もが簡単に学者になれるように系統だてて並べられていたのでした。それからというもの二人は北京で暮らし、常につきあうようになりました。光啓はマテオリッチに『ストイケイア』を一緒に中国語に翻訳しないかと持ちかけずにはいられませんでした。出会ってから7年、1607年に15巻のうち前の6巻を訳し終えました。光啓は最後まで訳したいと言いましたが、マテオリッチはもう嫌だと言いました。それで、6巻を『幾何原本』と名付けて、世に出しました。『幾何原本』はラテン語の数学書を中国語に訳した第一号です。前代未聞の難行は、原著者ユークリッドの難行にも匹敵(ひってき)するものだったことでしょう。
図形のことばを創造
多くのことばがまだなかったのです。
点、線、直線、曲線、平行線、角、直角、鋭角、鈍角、三角形、四辺形、……これらのことばは初めからあったのではなく、ユークリッドが作ったのでもなく、中国人の徐光啓が創造したものです。
後進が疑問がなく優美に研究できるように大変苦労して作りました。この訳本中の多くの訳名は十分に適切で、だからこそ、中国にそのまま根付き、しかもまた日本や朝鮮各国に影響しています。
そのうちで、ただ、少ない何個かの用語はのちの人に作り替えられました。徐光啓が当時使っていた「平辺三角形」は「等辺三角形(日本では正三角形)」のように、また、今「比」というところを「比例」と訳し、今「比例」といっているところを「有理比例」などと訳していました。
上海には徐光啓にちなんだ光啓公園があります。
『幾何学原本』の後の9巻は次の晩清の時代に至って李善蘭(1811-1882)によって翻訳されました。
付記1 日本に来た数学者宣教師カルロ・スピノラについて
西洋の宣教師は東洋でスムーズに普及活動をするため、お土産として魅力的な道具を持ってきたほかに「数学」を持ってきました。中国へは宣教師マテオリッチが、日本へは宣教師カルロ・スピノラがやってきました。中国と日本のその時の国情の違いから、マテオリッチは中国で大事にされ、一方のカルロ・スピノラは日本で死刑にそれも火あぶりの刑になります。この辺の事情を分かりやすく解説しているのが、次に示す「スピノラ神父とマテオリッチの生涯」です。引用の許可もいただきましたが、リンクで飛んでみてください。
参考文献1
スピノラ神父とマテオリッチの生涯
http://www.salesio-gakuin.ed.jp/morning_talk/?date=20081105
です。筆者は鳥越政晴氏です。氏は2010年4月より、サレジオ学院中高(神奈川県男子校)の校長先生です。
付記2 マテオリッチが後の9巻を学んでいなかった!
誰が「もう作りたくない」と言ったか。
中国の書物には「徐光啓は最後まで訳したいと言いましたが、マテオリッチはもう嫌だといいました。」と伝えられています。これに対して、もしかりに、光啓の方が「もう作りたくない」と言ったとしても、「マテオリッチがもう嫌だ」と言ったと伝えられるだろうと思う人がいるかもしれません。
こうしたことを調べた人がいます。中国の上海交通大学教授の楊沢忠氏です。
このときの、どちらか暇だったかとか、いくつかの例をあげているほか、決定的な理由として、マテオリッチが後の9巻をしっかり学んでいなかったことを突き止め、結局、伝えられるように、マテオリッチの方が「もう作りたくない」と言ったと結論付けています。
参考文献2
マテオリッチと徐光啓の《幾何原本》の翻訳の過程(中国語)
http://shc2000.sjtu.edu.cn/0409/limad.htm
上海交通大学 科学史教授 楊沢忠
参考文献3
マテオリッチと徐光啓の《幾何原本》の翻訳中止の原因(中国語)
http://shc2000.sjtu.edu.cn/0410/limadou.htm
上海交通大学 科学史教授 楊沢忠
参考文献4
北京大学科学歴史誌と科学哲学
明末、清初、公理化の方法が、まだ中国に広範に拡がらなかった原因(中国語)
http://hps.phil.pku.edu.cn/viewarticle.php?sid=2266
上海交通大学 科学史教授 楊沢忠
付記3 上海交通大学について
「上海交通大学」は日本ではあまり知らない人もいるかもしれません。日本で中国の大学というと「北京大学」を思い浮かべるかもしれませんが、「北京大学」はどちらかというと文系に強い大学です。理系では「精華大学」と並んで「上海交通大学」が同国内では最も有名な国立大学です。
付記4 ラテン語と英語
ギリシャ語から来た、ラテン語『ストイケイア(もとにするもの)』は英語では『エレメンツ(要素)』と言います。また、ユークリッドは英語読みで、ギリシャ語ではエウクレイデスです。
付記5 光啓公園(中国国家重点文物保護単位)
光啓公園は上海南西部に位置して、土地の面積が19畝(≒1319m2≒約400坪)を占める、もとは、南丹公園と呼ばれていた公園で、1983年11月8日、徐光啓に逝去してから350周年の記念日に、上海市人民政府が明代の優秀な数学者の徐光啓の名前によって命名することを認可したものです。
光啓公園の中に徐光啓の墓と『南春華堂』という記念館があります。
徐光啓の墓は公園の北東部に位置して、1988年には国務院の全国重点文化財の1つとして保護されることになりました。『南春華堂』は2003年は公園に転入して、地面が300平方メートルを占めて、館内は明清代の歴史写真や、図画や徐光啓一生略説などが陳列されています。
この公園・記念館とも内外の人に無料で開放されています。
http://arcadia.cocolog-nifty.com/nikko81_fsi/2010/12/1211-vol1-ac35.html
funny 一時 serious のち interesting/上海の休日 12/11 vol.1。(nikko81氏)
李 善蘭(りぜんらん1810年-1882年)の幼名は李心善(りしんぜん)です。字は竟芳(ついほう)、号は秋(しゅうじん)、もう1つの号は壬叔(じんすく)です。浙江省(せっこうしょう)嘉興海寧(かこうかいねい)で生まれました。近代的な著名な数学、天文学、力学、植物学者です。おさないころから進んで塾に通い、経学・数学を学んでいました。
9歳で父親の持つ『九章算術』を読み、数学を熱愛するようになりました。
15歳のとき、『幾何原本』6巻を読破しました。
17歳で杭州の科挙の郷試を受けましたが不合格となりました。しかし、学問に向けての情熱はかえっていっそう高まりました。
元代の著名な数学者の李冶(りや)(1192-1279)の撰『測円海鏡』を手に入れ、これに基づいて研鑽(けんさん)することによって、数学に関する造詣(ぞうけい)は日に日に深まりました。『四元解』、『麟徳術解』、『弧矢啓経秘』『方円闡幽』『対数探原』などを書き、中国国内で次第にその名が知られるようになりました。
1852年から1866年まで上海の墨海書館という出版社の編訳スタッフとして招かれ、ロンドン(イギリス)出身の宣教師の漢学者アレキサンダー・ワイリー(中国名偉烈亜力)とともに、明代に徐光啓とマテオ・リッチ(利瑪竇)とが訳し残した『幾何原本』の後半9巻を中国語に翻訳しました。
他に、偉烈亜力や、アレクサンダー・ウィリアムソン(韋廉臣)、ジョセフ・エドキンス(艾約瑟)らとともに『代数学』『代微積拾級』『円錐曲線説』『奈瑞数理』『重学』『植物学』『談天(だんてん 世間話)』などの自然科学系の沢山の本を訳し墨海書館から刊行され、いずれも好評を博しました。このころの著作には『即古昔斎算学十三種』『考数根法』などがあります。李善蘭は翻訳に際して、多くの数学に関することばを作りました。「代数」「常数」「変数」「既知数」「函数(かんすう 日本ではのちに関数)」「三角函数」「冪級数展開式」「係数」「指数」「単項式」「多項式」「微分」「横軸」「縦軸」「曲線」「相似」などです。また、数学以外にも「植物」「細胞」などの植物学の訳語を創作しています。その多くの訳書が日本にも持ち込まれ、その用語が現在に至るまで使用されています。
1868年、北京の同文館で天文学を教えることになり、そこで一生を終えました。
付記
函数(かんすう)は、中国読みではハンスウです。語源Function(機能)ファンクションの音をとってハンスウとしたといわれています。昔は日本でも函数という文字が使われていましたが、この字は最近では関数という文字になっています。
参考文献
李 善蘭 日本版ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E5%96%84%E8%98%AD
李 善蘭 百度(バイドゥ) 中国語
http://baike.baidu.com/view/5269.html?wtp=tt
昭和女子大附属昭和中(東京女子中)の問題です。
問題
(2010年 昭和女子大学附属昭和中5番)
解法
対角線が10cmの正方形は、小さな正方形5個分だから、
10×10÷2÷5=10(cm2)
答え 10cm2
付記
正方形の1辺の長さは分かりません。面積は分かります。
この問題のもとになる問題では、
という解法を使う問題がよく出ています。2010年では日本大学第一中(東京共学校)に出ています。
参考類題1
(1) 四角形ABCDは,1辺の長さが20cmの正方形です。次のしゃ線部分の面積を求めなさい。
(2010年 日本大学第一中3番(1))
略解
20×20÷5=80(cm2)
答え 80cm2
変化球として、2010年東邦大学東邦中(千葉県共学校)の次の問題も、結局同じなのですが、とっさには迷う人も多いのではないでしょうか。
参考類題2
(3) 右の図のように,面積が150cm2の平行四辺形があります。
各辺のまん中の点A,B,C,Dと,平行四辺形の頂点とを結んでできた四角形(斜線部分)の面積を求めなさい。
(2010年 東邦大学付属東邦中2番(3))
略解
斜線部分の平行四辺形の辺に平行な線で囲んで考えると、結局、先の問題と同じになります。
150÷5=30(cm2)
答え 30cm2
昭和女子大付属中と似たような問題が2010年豊島岡(としまがおか)女子学園中(東京女子中)で出ました。
問題
(4) 右の図のように,1辺の長さが3cmの正方形の辺をそれぞれ3等分した点をすべて通る円があります。この円の面積は何cm2ですか。
(2010年 豊島岡女子学園中2番(4))
解法
半径×半径×2=5(cm2)
だから、
半径×半径=2.5(cm2)
円の面積=半径×半径×3.14=2.5×3.14=7.85(cm2)
答え 7.85cm2
もちろん、次のような問題も作って考えておくと面白いです。
参考類題1
右の図のように,1辺の長さが4cmの正方形の辺をそれぞれ4等分した点のうち,,の点をすべて通る円があります。この円の面積は何cm2ですか。
(2010年 豊島岡女子学園中2番(4)改題)
略解
半径×半径×2=4×4-1×3÷2×4=10(cm2)
半径×半径=10÷2=5(cm2)
5×3.14=15.70(cm2)
答え 15.7cm2
参考類題2
右の図のように,1辺の長さが5cmの正方形の辺をそれぞれ5等分した点のうち,,の点をすべて通る円があります。この円の面積は何cm2ですか。
(2010年 豊島岡女子学園中2番(4)改題)
略解
半径×半径×2=5×5-1×4÷2×4=17(cm2)
半径×半径=17÷2=8.5(cm2)
8.5×3.14=26.69(cm2)
答え 26.69cm2
問題
(2010年 京都大学(前期)数学(文系))
筆者による補足
OB・PBで、「・」とは「×」と同じ意味です。つまり、OP2=OB・PBというのは、OP×OP=OB×PBと同じことで、線分の長さの比がOB:OP=OP:PBということです。
解法
OP2=OB・PBから、OB:OP=OP:PBです。
角OABの二等分線とOBの交点をQとおくと、AB=AQ=OQとなり、
OB:OQ=OQ:QBとなるので、QはPと一致します。
よって、OP=AB
付記
中学入試では正十角形では出てきませんが、正五角形ではよく出てきます。正十角形の中に正五角形が潜んでいるとみると、小学生でも解けます。
このようにQを仮に決めて結局Pになるという解法を、同一法といいます。少し借一還一に通じるような気がします。
正十角形の中に正五角形が二つ入るようで、それが5+5が10になるようで面白いですね。正十角形の周の長さと、2つの正五角形の周の和も等しくなります。
そういえば、「円周」と直径を共有する「複数の円周」の和が等しいというのとも似ています。
参考例題
次の図で、ABとACの長さが等しく、AD、CD、BCの長さが等しいとき、角Aの大きさを求めなさい。
(古典)
解法
角の大きさは次のように ・ で表せるので、
180÷5=36(度)
答え 36度
こういう問題は中学入試では時々出ています。
ちょっと変えられるとぐんと難しく感じると思いますが、それがわかってみると、力が付いてくることを実感できると思います。東京大学だけでなく、最近、京都大学も楽しい問題を出してくれるようになり大歓迎したいと思います。
では、冒頭の韓国の「全国初数学競試大会」の問題の解法を考えましょう。
問題
(2003年 全国初数学競試大会3年生30番(30問中))
解法
三角形の各場所を次のようにア、イ、ウ、エとします。
アの場所は、1、2、4、7、11なので、差を次々に並べた階差数列は
1、2、3、4、……
となっています。
つまり、ア=1+(1+2+3+…+(n-1))=1+(n-1)×n÷2
イの場所は、1、5、15、34、…なので、差を次々に並べた階差数列は
4、10、19、……
となっています。これでは規則が見えないので、さらに、階差をとると、
6、9、…
もしかしたら、6、9、12かもしれません。
だとしたら、
その前は、
4、10、19、31、となりさらにその前は
1、5、15、34、65となりそうですが、確信は持てません。
1、5、15、34、65を2数の積にしてみると、
1×1、1×5、3×5、2×17、5×13、となってラチがあきません。それぞれに1を加えてから考えてみましょう。
2、6、16、35、66となります。これを2数の積にしてみると、
1×2、2×3、4×4、5×7、6×11、
これは、アが1、2、4、7、11だったので、
2×ア、3×ア、4×ア、5×ア、6×アとなっているのでした。
おっと、これならよさそうです。
イ=(n+1)×ア
です。
ウ=ア×イ-1です。また、ア+エ=イ+ウです。
A=65+714-11=768
答え 768
付記
ちょっとわかり始めると、するすると解けますが、これは難問ですね。いかがだったでしょうか。
東京農業大学第一高等学校中等部(東京共学校)は、難しいというよりは斬新な問題を狙うことが多く楽しみですが、前節の問題に比較的似ているように思います。
日本の中学入試の算数の中ではかなり斬新な出題と言えるのではないでしょうか。
問題
(1) 10番目のブロックに書かれた数字ア~エをそれぞれ求めなさい。
(2) は何番目のブロックで,オ~キにはどのような数字が書かれているか求めなさい。
(3) は何番目のブロックで,ク~コにはどのような数字が書かれているか記入し,理由も答えなさい。
(2010年 東京農業大学第一高等学校中(第3回)5番)
解法
答え (1) ア 2 イ 38 ウ 19 エ 59
(2) オ 1 カ 3141 キ 6283
(3) ク 2 ケ 20942 コ 10471
付記
割と難しいかもしれませんが、前節の問題に比べ、規則性が素直なので、攻めやすい感じがします。
忠州市小学数学競試大会3年のラスト3題です。こういうのは自分で見つけて苦労して訳すと面白いのであって、人から見せられてもあまり面白くない……というようにも思います。
問題
(2010年 韓国忠州市競試大会3年生28番)
解法
27×××=8(cm)
答え 8cm
問題
(2010年 韓国忠州市競試大会3年生29番)
解法
6×=22(秒)
答え 22秒
問題
(2010年 韓国忠州市競試大会3年生30番)
解法
三角形は4×3=12
四角形は、
長方形は、7本のたてぼうから2本を選ぶ。7×6÷2=21
平行四辺形は、3本の斜めぼうから2本を選ぶ。3×2÷2=3
台形1種が4×3
台形2種が6
合計 21+3+12+6=42
42-12=30
答え 30
これら3題は、確かに3年生にしてはとても難しいことでしょう。よくぞ出したものだと感心します。日本でも、中学受験までに何度も取り組む問題ではあります。特に、最後の30番などは、6年生でも瞬時にはできない人もいそうな難問です。問題の意味はわかりやすいけれど結構難しい問題というか、難問をさらりと軽い感じで出すところがいいですね。
日本数学教育学会誌2010年第10号に、古林早苗氏(国分寺市立第2小学校)と片桐重雄氏(元横浜国大教授)の連名で、「韓国の2009年度からの教育課程」について、和訳文が載っています。全体的にざっくり言うと、従来通り日本の教科書と似たりよったりです。
ただ、この報告の最後に「おわりに」と題して次のように締めくくっているのが注目されます。
韓国の教育課程と日本の学習指導要領では、細かく見ていくと、例えば、整数の範囲の広げ方が日本のほうが少し早いことや、韓国では角錐、円錐、回転体、連比、比例配分を扱い、6年で簡単な例で確率の意味を指導するといった多少の差異はあるものの、学習時期、内容はほぼ同じである。特徴的なのは、「規則性と問題解決」という領域である。この領域の「問題解決の方法」の部分が、教科書の各巻の最後に一単元ずつ設けられている。そこには「図や表をかいて解決しよう」「規則を見つけて解決しよう」「予想して確認しながら解決しよう」「問題を簡単にして(数の小さい場合から順に)解決しよう」「問題解決した過程を説明しよう」「実生活に適用してみよう」などの小見出しや問いかけがある。ここでは数学的な考え方を中心に扱っており、非常に興味深い。
近い将来、日本でも各学年に、「予備知識はあまりいらないけど、従来より難しい規則性の問題」をパズル感覚で与えることがはやるのかもしれません。というような気がちょっとよぎっています。
素数に関連して書き残したことがあり、次号からは、2011年の中学入試関連の記事一色になりかねないので、ここで述べたいと思います。
「数学教育学会誌臨時増刊2010.9.232425」は2010年9月23(木)~25(土)に開催された同会の秋季例会特集ですが、ここに、渡辺信氏の「発見する面白さ-情報機器活用の方法」という論文があるので、さわりをご紹介します。
第1問
a,b,cを0~9までの整数とする。
このとき、6桁の自然数abcabcは13で割り切れる
これは、すでに千一減算でも述べていますが、もちろん割り切れます。
第2問
a,b,cを0~9までの整数とする。
このとき、6桁の自然数abcabcは13で割り切れる
この問題の解決をしてほしい。数学がきちんとこの問題に答えられるのであろうかと思うと、数学も楽しいことのひとつ見なると思った。結果は簡単である。
abcabc=abc×(1001)=abc×7×11×13
このa,b,cにかかわらず、13で割り切れることがわかる。
これも、すでに千一減算でも述べています。
a,b,cを0~9までの整数とする。
このとき、6桁の自然数abcabcは13で割り切れる
- (1) aaは11で割り切れるという問題はつまらない
- (2) ababは何で割り切れるといえるか?101が素数であることから問題はつまらなかった
- (3) abcabcが13で割り切れるというよりも11で割り切れるといったほうが問題は面白いか
- (4) abcdabcdは13で割り切れるか
- (5) どこまでもこの問題は続くのか
(1)(2)(3)
(4) 10001=73×137なので、一般には13で割れない。
ABCDが、いいかえると、(BCD-A)がで13で割り切れると割り切れる。
(5) どこまでも続きますというか・・・?
わかったことは次の通りである
- (1) 10…01(n)でnが偶数のときは必ず11で割り切れる
- (2) 10…01(n)でnが1,5,10,13……のときは101で割り切れる
- (3) 10…01(n)でnが5,11,17,23,29……のときは10…01(6n-1)が約数になる
- (4) 10…01(7)=17×5882353
- (5) 素数かどうかの判定ができない数として、10…01(31)、10…01(39)、10…01(55)などが判定方法がわからないままに残った
【補足】
10…01(n)
とは、ここでは、「両端が1でなかは0ばかりn個並んでいる整数」を表します。
「10…01(39)は合成数です」
証明
39から、偶数2、4、6、8、…を引いて、差を引いた数より1大きい奇数でわり、割りきれることがあれば合成数です。
39-2=37は3の倍数にならないのでパス
39-4=35は5の倍数なのでもとの数10…01(39)は合成数です。
10…01(39)
=1――0――0――0――0――1(――は0が7個並んでいることを表します)
=(1――1――0――0――0――0)
-(1――1――0――0――0)
+(1――1――0――0)
-(1――1――0)
+(1――1)
=(1――1)の倍数 Q.E.D.
10…01(55)は合成数です。
証明
55から、偶数2、4、6、8、…を引いて、差を引いた数より1大きい奇数でわり、割りきれることがあれば合成数です。
55-2=53は3の倍数にならないのでパス
55-4=51は5の倍数にならないのでパス
55-6=49は7の倍数になるのでもとの数10…01(55)は合成数です。
10…01(55)
=1――0――0――0――0――0――0――1(――は0が7個並んでいる)
=(1――1――0――0――0――0――0――0)
-(1――1――0――0――0――0――0)
+(1――1――0――0――0――0)
-(1――1――0――0――0)
+(1――1――0――0)
-(1――1――0)
+(1――1)
=(1――1)の倍数 Q.E.D.
とても、お忙しい中で書かれたのでしょう、文中には変換ミスもかなりありました。こういうものをみると、つい面白がって解いてみたくなります。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。