第006回国会 本会議 第7号
昭和二十四年十一月十日(木曜日)
 議事日程 第六号
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説に対する質疑
    ―――――――――――――
●本日の開議に付した事件
 国務大臣の演説に対する質疑
    午後一時十一分開議
○議長(幣原喜重郎君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
○議長(幣原喜重郎君) 国務大臣の演説に対する質疑に入ります。鈴木茂三郎君。
    〔鈴木茂三郎君登壇〕
○鈴木茂三郎君 私は、日本社会党を代表いたしまして、総理大臣の施政方針に関する質疑をいたしたいと存じますが、総理大臣の施政方針の内容は、大体において、前段において講和会議を含む国際関係の問題、後段においては国内の主として財政経済に関する問題であつたと承知いたしておりまするから、私の質疑も、大体前段において講和問題を含む国際関係、後段において財政経済、主として現在のデフレ、不景気政策をいかに転換するかという観点に立つて、それぞれ数点に及ぶ質疑をいたしたいと存じます。
 第一に、国際関係に関しましてまずお伺いしたいことは、対日講和の問題と関連をいたしまして、日本の国内の行政は、ポツダム宣言並びに降伏文書あるいはアメリカの日本管理の方式に従つて、最高指令官のもとに行われておることは、申し上げるまでもないことでございまするが、私はそれと関連いたしまして、政府の独自性、政府の自主性に関しまして第一の質疑を行いたいのでございます。
 マッカーサー元帥は、五月二日の憲法施行二周年の記念の声明にあたつて、私どもにとつては欣快にたえない、喜ばしい声明を発しておられるのでございます。それは何かと申しますると、声明のうちの占領継続の理由といたしまして、日本の国民はポツダム宣言の諸公約を勤勉かつ忠実に多くの重要な面において達成しておる、講和が成立しないのは外国のいろいろな事件と諸情勢のためであるという点を明らかにされて、講和が成立しないのは日本に事情があるのではないという点を明確にされまして、続いて日本の政府、国民がみずから自治の責任をとることができるような度合に応じて、できるだけすみやかにその進行をはかる、こういうことを声明において明白にされておる点を、私どもはこの機会に繰返し記憶を呼び起して明確にいたしておきたいと存じます。こういう元帥の意志は、続いて九月二日の降伏調印の四周年における声明においても裏書きされておるのでございまして、日本の自治の責任をとることができるようにその進行をはかるという元帥の高邁にしておおらかな御意思は、ただ声明だけではなくて、着々とあらゆる方面において実践に移されておるという事実は、総理の施政方針の演説においても種々御指摘になつておる通りでございます。
 ところが、吉田内閣成立以来、政府のとつて来られた行政上の御処置を見ますと、こうした元帥の高邁にしておおらかな御方針とまつたく反して、政府のなすところは、重要な問題はもとより、瑣末な問題に至るまで、政府は自治の責任をとらざるもののごとく、一切をあげてGHQに責任をかぶせて、政府は何らそれの政策と道議における政治的責任を負わない態度をとられ、そこに自主性、独自性もないという印象を国民に強く與えているのでございます。(拍手)たとえば二十四年度の予算案の編成にあたりまして、できもしない公約をしておいて、これを織り込んだ予算案をつくつて、それを政府案として国民に示して、それをドツジ氏に修正されて、政府の意見が実現されないのはドツジ氏が修正をされたからであるという、政治的の責任を回避するかのごとき御処置をとられて参つております。(拍手)今回の臨時国会、続いて開かれる通常国会に近く御提案になるはずの補正予算並びに来年度の予算案に関しましても、これと同じような御処置をとられているようでございまして、できもしないものを政府案として予算案をつくり、しかも大蔵大臣は関西の遊説の途中において、この政府案はいずれドツジ氏が修正をするだろうということを、しやあしやあと述べられているのでございます。(拍手)
 こういうことは、予算案に関する問題だけではなくて、公務員の政治的自由を剥奪いたしました問題、農民の供出後の米の措置に対しまする食確法の問題、米券制度その他政府のなされているところは、あたかも意志のない政府のごとき処置をとられているのでございます。従つてその結果、国民の間にはいろいろな間違いが起つているようでございまして、現在の日本には重要な問題、あるいはささいな問題に関しても、政府または国民には何らの政治的自由がないから、だからどういう政府であつても、どういう政党であつても同じではないかというような、民主主義に反する傾向も生じているということを聞いております。あるいは外国の援助や政府の援助によらないで、すなわち竹馬経済によらないで、自立経済を立てることを強く内外より要請されております今日、国民が自分の意志で立ち上がることをしなければなりませんのに、政府のこういう措置のために、かえつて国民の自立精神を阻害する結果を招いているということと、最近私は――こういうことはあり得べからざることとは存じまするが、外国の新聞雑誌によりますと、日本の国民の中には、外国の援助の好意によりまして、かえつて逆の考え、批判を持つような者が起つて来たということが伝えられておるということを承ります。私は、マツカーサー元帥によつて明白にわれわれに指示されましたように、講和が成立しないのは、われわれ国民のせいではなくて、外国のいろいろな事件や諸情勢のせいであり、従つてできるだけ日本に自治の責任をとることのできるようにしたいと言われた元帥の御方針に沿つて、政府は明確、確固とした自主性を堅持した行政を行われる必要があると確信いたしまするが、この点に関する総理大臣の御答弁を得たいのであります。(拍手)
 第二に対日講和の問題に関しまして――対日講和に関しては、わが社会党は、一日も早く講和を成立させ、これを促進させて、貧しくとも乏しくとも、同じ血につながる同胞は一つになつて、日本国家の基礎となる国民の生活を保障し得る産業の建設、経済の再建に邁進いたしたいという考えをもつて、前の議会の際に講和促進に関する提唱をいたしまして、幸いにして衆議院においては、皆さんの御賛成を得て決議案となることができました。従つて社会党は、講和促進に関しまして、今日まで各地において国民大衆より署名を求めて参つたのでございますが、この際国民は、講和会議の問題に関しましては重大な関心を拂つて、その推移を見守つておる次第でございますから、真相をできるだけ早く国民の前に明白にされて、国民の前途に対する希望と覚悟を新たにさせますと同時に、国民の向う道を統一いたしますためにも、総理の施政演説をさらに掘り下げて二、三の見解を承りたいと存じます。
 講和会議が行われるといたしまして、伝えられるようにソビエトまたは中共政権を含んだ形において行われるのであるかどうか、それともソビエトを除いた米英との單独講和の形において講和が取進められておるのであるかどうか。外務当局の御見解によると、あたかも後者の單独講和の形に受取られるかのごとき印象を與えておるのでございますが、これに対する明確なる総理大臣の御所見を承りたいと存じます。
 あるいは新聞の報道によりますれば、日本の領土に外国の軍隊を駐屯させ、あるいは戰略上の基地に関する租借の條件を締結する意思があるやにも伝えられております。これは新聞の報道にすぎないものではございますが、われわれは戰争を放棄することを憲法において明らかにいたしております。諸外国の国民の公正と信義に信頼いたしまして、平和国家の建設に精進しております次第でございまするが、総理は、いかなる方策によつてわが国民と領土を断固として戰争から防衛し、国民生活を保障するための産業の復興、経済の再建をされようと考えられておるのであるかどうか。最近の国際情勢より見まして、ただ日本に軍備がないからだというだけの事実によつて世界の信頼をつないで平和が維持できるなどとは、おそらく総理はお考えになつておらないであろうと存じます。
 次には、総理は條約のない講和ということの御意見をよく述べられておるのでございまするが、かりに講和会議の成立が外国の事情によつて遅れるといたしまして、條約のない講和の段階といたしましても、解決が可能で、また解決をしなければならない問題が多多あると存じます。たとえば、あとでお尋ねいたしますように、貿易の自主性に関する問題のほか、交戰国ではない中立国との間の外交関係は、私はマツカーサー司令部の許可のみによつて再開することができるのではないかと存じます。あるいは、最も関係の深いアメリカとの間に外交使節に準ずるようなものを送る必要もあり、またでき得ることのようにも存じまするが、これらの問題に関しまして、総理は関係方面との間に何らかの御折衝をされたことがあるかどうか。国際関係に関する私の質疑は以上でございます。
 次は当局のデフレの問題に関しまして――政府は一切の責任をドツジ氏の名によつて遂行されようとしております。当面のインフレ抑制のための、いわゆるデイスインフレという名の陰に隠れて政府の行つておるデフレ政策、すなわち国民の産業と国民の生活の上に重いおもしをかけておる政府のデフレ政策、不景気対策、これをどう転換するかという点に関して、若干の御質疑をいたしたいのでございます。
 インフレの抑制、あるいはインフレを根本的に解決いたしますについては、社会党は、インフレを抑制または根本的に処理する以外に産業を復興し生活の安定をはかる道はない。従いまして、昨年、一昨年インフレ抑制、続いてインフレの根本的処理に関する方針を明白にいたしてございまするが、少くともインフレの抑制には、ただいま行われておりまするデフレ政策を、計画的にデイスインフレに転換する必要がございます。デイスインフレと言われておりまするのは、私が申し上げるまでもなく、イギリスの労働党の政府において提唱し、これに成功をいたしておる問題でございまして、片方においては、労働者に対して、働く人に対して総合的な生活を保障するあらゆる対策をとつて働けるようにし、産業を復興さして、その産業の中から、通貨がむだにならないように、通貨の安定をはかるのが、ほんとうのデイスインフレでございます。(拍手)しかるに、ただいま政府のとつておられまする、ドツジ・ラインの名によつて行われておるデイスインフレは、本来のかようなデイスインフレではなくて、イタリヤのエイナウデイ政策によつて、当初失敗をいたしましたデフレ、産業を犠牲にし、生活を犠牲にして、金融資本家と大産業を保護するために通貨だけを安定させようというデフレにほかならないのでございます。(拍手)
 政府のデフレの予算が四月に実施されまして以来、四月以降すでに五月から、生産、物価、通貨、あるいは商品の滞貨、貿易の不振、中小工業の倒壊、農村の窮乏等、政府のデフレを反映する社会不安など、あらゆる方面に、急激に通貨の安定だけをはかつたところから起る安定恐慌が起つて参つております。総理大臣は、施政方針において、こうした現実に関しては、あるいは目隠しをされておるのか、施政演説においては何ら御認識されておらないようでございました。
 ただいまの安定恐慌が、急激にはげしい形をとつて、恐慌と社会不安が起つて参りませんのは、片方において政府が見返り資金による資金をだんだんと出して参つておることが一つでございますが、この出して来ておる資金は、ほんとうに外国に輸出されるために、国内で消費されるために必要な生産に出されておるのではなくて、売れる見込みがなく、輸出の見込みもなく滞貨を積み上げておるものに資金を出しておりますから、ただいまデフレの中で信用インフレが展開をいたしております。(拍手)信用インフレのために安定恐慌のはげしさが押えられておるのでありますが、社会不安がはげしい形をとつて急激に起つて参つておりませんのは、日本の特殊事情といたしまして、いわゆる失業者は農村や小売業やサービス業などに吸收されておりますから、外国から見た目には失業者とは見えないかもわかりませんが、これらの失業者は完全に生産を離脱いたしまして、労働力としてはまつたくの失業者である。それは大きな数に上つておるということを政府は十分認識されねばならないと私は存ずるのであります。(拍手)この状態で参りますならば、おそらく来年の一月から三月にかけて、われわれは経済上の重大な危機に陷るのではないかということを憂慮しております。
 かような政府のデフレによつて起つて参りました不景気対策に対しまして、私は三つの点より、すなわち独立国家の基礎をつくる産業の建設、自立経済のための輸出の増進、産業と輸出に協力するために労働力を養うための賃金の引上げ、この三点より政府のデフレ政策転換に関する質疑を展開いたしたいと存じまするが、この三つは、いずれの点を実施することになりましても、ただいまの政府のデフレ政策、不景気政策の破綻を意味するものであるということを明確にいたして、私の質疑を展開いたします。
 デフレに関する第一の点は、産業の建設、経済の再建に関する問題でございます。片山内閣の成立の当初から、産業復興計画五箇年案というものができております。吉田総理大臣は、内閣の成立後、この五箇年計画案を引継がれて、いわゆる経済復興審議会の会長となられ、一応ドツジ・ラインとにらみ合せた修正を行つて、二十四年度を大起点とした五箇年計画案というものをつくられたのでございますが、総理大臣は、せつかくできたこの五箇年計画案を発表さえ禁止され、しかも長期にわたる計画は必要がないという理由をもつて、せつかくの計画案を放棄されておるのでございます。
 今日日本の生産は、西ヨーロッパに比べまして、イギリスあるいはイタリア、チエコスロバキアなどはもとよりのこと、敗れたドイツに対しましても、はるかに立遅れとなつておるのでございます。日本は、ようやく今年を初年度として五箇年計画を遂行し、五年目にようやく一人歩きのできる自立経済ができるというのがこの計画案の建前でございまして、本来は四千二百万トンの石炭を掘る計画はできた。しかるに、この四千二百万トンの石炭が、ほんとうの有効需要たる産業に使われないで、各所に消費となつて積み重ねられているのは、政府のデフレ政策によつて石炭を使用する産業が次々とつぶれて参つているからでございます。(拍手)かような、特に中小企業の状態は、私がここで申し上げるまでもありません。
 私どもは、五箇年計画というような全国的な総合的な計画案と同時に、アメリカにおいて行われて成功をいたしておりますいわゆるTVA計画というような、電源と新興産業、農業の経営、治山治水、こういう総合的な開発計画を一つの地域に向つて行うというような新たな構想を持つことも必要と存じておりますが、いずれにいたしましても、かような五箇年計画案に対しまして、総理大臣は、わが党の参議院議員椎井康雄君の質問に対して、三点の理由で反対をされております。
 総理の反対理由の第一点は、変転きわまりない時期に五箇年というような長いものはいけない、来年あるいは再来年くらいまでのものだ、こう言つております。それならば、来年、再来年の計画はどこにあるのか。計画案もなくて五箇年計画を放棄するということは、私は放棄する理由にならないと思います。(拍手)
 第二点は、計画の基礎となつている日本の統計が怪しいということを、その理由にあげておられます。しかし、統計のことは総理は非常なる御努力をされて参つておりますから、よく御了承と存じますが、日本の統計は、この三箇年の間に長足の進歩をいたしまして、ただいまの日本における統計が基礎となつて、伝えられるところによれば、ワシントンにおいてアジアにおける経済復興計画案というものが検討されており、その計画案の基礎は、ただいまの日本の統計などがその基礎案となつているように伝えられているのであります。
 第三の点に関する総理の反対の理由は計画経済の点でございます。施政方針の中においても、計画経済の一つである統制に反対の意見を述べておられますが、私どもも、いわゆる官僚的な統制には反対の意見を持つております。しかしながら、総理が統制に反対をされておりますその理由は、外国から援助を受けておつて、それから物がだんだん入つて来ている、国内の生産が回復した、だから統制をはずすと、こう言われるのであります。ただいま政府のとつておられるこのデフレの基本方針は、外国の援助をできるだけなくして自立経済を立てるために、わざわざこのデフレ政策をとつておられるのに、外国の援助があるからということを理由に統制をはずすということは、私は理由にはならないと思う。生産が回復されたと言われますが、生産が回復されたのではない。生産された品物を有効需要として産業に使う道が絶たれたから物は余つているのでございます。
 かように、統制に関しましても総理の考え方は、実際とはたいへんかけ離れておりまするが、特に計画経済に関しまして総理が反対をされておりますのは、かえつて日本の経済を阻害しないか、こう言われている。しかし計画経済といいましても、資本主義的な計画もあれば、社会主義的な計画もある。今日戰後のいずれの国を見ても、イギリスはもとより、アメリカのニユー・デイールにいたしましても、あるいはフエア・デイールにいたしましても、いずれもある意味における計画経済でございまして、総理のいわれるように、国民の自由な活動は公益的、社会的な必要のための計画経済の大きなわくの中でこそ許されるべき問題であると存ずるのであります。(拍手)かりに今日の経済に移して見まして、予算も限界がある。貿易も限界がある。この限界の中において、乏しい物資の中で、商品の生産と消費の調整をとらないで、無政府的に、無計画に放置されて参りましたならば、結局はどうなるかというと、むだを省くために、業者はポツダム宣言によつて禁止されておりまするカルテルによつて統制をする以外にないという道に陷ることは明白でございまして、本日の新聞によると、GHQのウエルシユ氏は、政府のとつておる経済政策は次第に独占の傾向、トラストの傾向にもどりつつあるということを警告されておるのでございまするが‥‥
○議長(幣原喜重郎君) 靜粛に願います。
○鈴木茂三郎君(続) デフレに関する第二の点は、かような計画経済に対しまして、総理は御認識を改められて、日本の産業の復興のために、国家の独立の基礎をつくるために、計画経済をあらためて樹立して、これを実施される御意思はないかどうかということをお伺いいたしたい。(拍手)
 第二点は貿易の問題でございまするが、現在の経済危機を打開いたしますについては、国内においてできるだけ物を買う力をつくつて、同時に国外にできるだけ物を輸出して行く貿易の振興以外に自立経済を立てることは不可能と存じます。しかるに、輸出貿易に関しまして重要な関連のあるポンドの切下げが行われました。これに対して、総理は円を切り下げないと言われておる。私どもも、円を切り下げます場合には、消費価格が上つて来て、輸入が不利になることは当然でございまするから、為替の切下げに関しましては、できるだけ慎重な態度をとらなければならないと存じます。しかしながら、それならばこの安定恐慌がだんだんと発展をして、安定恐慌の中で、特に十月以降は貿易が極度に惡くなつておりまするが、この貿易の状態に対して、このままでいかにして円を切り下げることをしないで輸出の振興をはかられるのであるか、この点をお伺いいたしたい。(拍手)伝えるところによれば、トルーマン大統領のフエア・デイールにおける未開発地域の開発という提案によつて、極東またはアジアにおいて、あるいは必要とする建設の材料を現在の日本のストツクをもつて補つてはどうかという御意見があるというようにも伝えられております。しかし、いずれにいたしましても、今日この状態の中で、ただ合理化だけで、経営者と労働者の犠牲だけで輸出貿易を振興することは不可能と存じておるのであります。これに対する総理の御見解を承りたいのであります。
 次はアジアの経済の問題に関しまして――国連の経済社会理事会のもとにあるアジア及び極東経済委員会は、さきにアジア及び極東地域の産業開発に関する報告書を作成されて――これは日本はオブザーバーとしても参加することができませんでした。最近はシンガポールに開催されて、この会議においては、日本の貿易を他の極東諸国の利益になるように拡張するような決議案が採択されたと承つております。今日の貿易を振興いたしますために、かような国連の会合とにらみ合して、アジアの各国がお互いに協力し合う建前の上に立つて、日本もこれに参加できるような建前をとつてもらいたい。また私は、インドのネール氏の提唱により、お互いに極東、アジアの国民が協力し合い、経済復興の態勢をつくりたいという考えをもつて、いささか努力いたしたのでございますが、かようなアジア経済の再建に関する問題に関しまして、総理は、日本として積極的にかような会議に参加され協力される御意思はないかどうか。
 次は船舶、航空、航路の問題でありますが、今日許されておりますのは、航路といたしましては、ペルシヤ湾に油をとりに行くだけであつて、その他は一九四六年七月二十四日のスキヤツプの覚書にある水域を一歩も出ることを許されない。船舶の所有も、船の型も、大体において日本に最も不利であるポーレー案というものよりも、ややよくなつた程度でございますが、ドレーパーの報告によりますと、日本の貿易の赤字は、日本の品物を外国の船によつて運ぶ、そこから来る不利であるから、チヤーターその他の対策によつて航路、船舶、これらの問題の解決をしなければならぬという報告を作成されております。昭和二十四年度の貿易を見ましても、貿易総額に対して運賃は二億八千ドル、大体二割二分と予想されております。私どもが日本でつくつた品物を、日本で使う品物を日本の船で運ぶような建前をとらなければ、今日の貿易の不利を打開いたして、ここから自立経済を建設することは困難と存じます。またあるいは航空、商業用の飛行機、旅客用の飛行機――航空機のない文化国家というものは、私は想像ができないのであります。こういう問題に関しまして、総理は何らか関係方面との間に折衝を行われたことがあるかどうか。あるいは講和條約のない今日の段階といたしましても、私はできることは相当にあると存じますが、かりにただいまの貿易の問題のほか、あるいは領事館の再開であるとか、関税上における最惠国待遇であるとか、少くとも貿易の基本にわたるような問題に関しては、貿易が許されておる以上、貿易によつて自立経済を立てることが、日本国家の基礎となる産業を建設する今日の段階において、私は当然貿易の自主性を確保することなくして自立経済を立てることはむずかしいと存じます。なお貿易の問題に関しまして、あわせて中共政権との貿易は、現在のように香港との間接貿易によつて進まれる御方針であるかどうかということも、お伺いいたしておきたい。
 最後にデフレ政策の転換に関する私の第三の問題は、いわゆる公務員または公共企業体の従業員の賃金の問題でございます。政府は労働者の犠牲において、中小商工業の犠牲において、農村の犠牲においてこのデフレを強行されておりまする建前上、賃金の引上げに関しましては、これを絶対に行わないということをしばしば繰返されて参つておりますが、施政方針においても、その点を明らかにされておるようであります。公務員の賃金に関しましては、公務員法の第二十八條によつて、物価が百分の五、すなわち五分高くなつた場合には、人事院は国会と内務に対して賃金引上げの勧告を行う義務がございまするし、国会はまた、人事院がこれを怠つた場合には、人事院に対してこれを彈劾する権利を第九條によつて持つておるのでございます。(拍手)
 現在の六千三百円ベースが決定されたのは、去年の七月が基準でございます。去年の七月が基準であつて、その去年の七月と今年の七月の物価を比べてみますると、三割七厘高くなつております。民間の給與は、全工業においては五割一分四厘高くなつており、地方鉄道、軌道などは四割五分七厘賃金が引上げられております。これは国鉄の賃金の問題に関しまして、国有鉄道中央調停委員会の調停案の理由の中に明白にされている点でございます。
 しかるに今日の状態を見ますると、政府は片方では勤労所得税を引下げると言つておりますが、他方では補給金を大幅に削減いたしまする結果、それ以上にかえつて物価が上つて、生活が困難になつて参りますので、公定や、やみ値、これらはだんだん下る傾向にございますが、しかし下るのは生産財だけであつて、かんじんの生活の必要物資は下つては参つておりません。(拍手)
 しかも、こういうような状態の中で、政府はまだ米の値段を御決定になつておらない。施政方針の中に、農村問題についてはほとんど言及されておらないという批評を聞きました。(拍手)おそらくは農村に対して何もしておらない。していることは、農村に不利なことだけやつている。(拍手)この政府のもとでは、施政方針において農村の問題に触れることは困難でありましよう。しかしながら私どもは、米の価格の問題に関しましては、生産者価格を引上げるのは当然といたしまして、消費者価格はいろいろな賃金、物価とにらみ合したいと思いますが、大蔵大臣は米価――米の値段だけは引上げることをドツジ氏に要請すると、こう言つておられます。賃金は押え、米だけは上げるように要請する。こういうことで、どうして公務員の人たちが真劍に職務に盡瘁することができるでありましようか。(拍手)
 公務員または公共企業体の従業員に対しまして、日本の今日の現状は、公務員に、公務員法に規定されておりまするような、ゆたかな生活を保障することのできない財政の状態にある。あるいは公務員を使用し、公務員の権利を擁護する人事院は、旧態依然として、官僚がまだ民主化されておらない状態でございます。かような中で、政府は公務員や公共企業体の従業員の生活や権利をほんとうに擁護することをしない。この惡條件のもとにおいて、ただ公務員だけに対しまして、公共企業体の従業員に対しまして、勤労階級の本来の権利であるところの、基本的な権利であるところの罷業権や、団体交渉権を制約し、剥奪し、しかも人事院の官僚が、公務員を擁護すべき人事院が、公務員の政治活動をかつてに抑圧いたしておりますような現状に対して、われわれは断じてこれを默視することを許さないのでございます。(拍手)教員の首をどしどし切つているような組合彈圧、大学教授の研究に制約を加えている思想彈圧、これとあわせて吉田内閣の反動性を端的に率直に表明いたしたのがこの公務員法の問題でございます。かような問題に関しまして、われわれは、労働組合の新しい民主的な動きとして、世界の労働組合の新しい結成が行われまする際には、こうした外国の民主的な労働組合に対してまして、日本の現状における公務員または公共企業体の従業員諸君に対するかかる官僚の圧迫をはね返して、ほんとうに勤労階級を擁護することのできるために協力を求めなければならない事態に至るかと存じます。
 当面の賃金の問題に関しましては、賃金の引上げに必要な財源に関しましては、決して財源がないということはございません。かりに、人事院が近く勧告されようという七千八百八十円に引上げるといたしますと、一箇月に、定員法関係の八十七万四千人といたしまして、大体十三億円でございます。あるいは国鉄の裁定案によつて八千五十八円に引上げるといたしますと、財政の負担は月に十四億円、あるいは国鉄の要求のように九千七百円に引上げるといたしますと、財政の負担は二十九億円となるのでございます。
 私どもの見るところによりますと、人事院総裁は、国会または内閣に対して、当然国家公務員法二十八條によつて引上げの勧告を行うべきであるにかかわらず、何のために国会に勧告を行わずして、ただ政府との間にこそこそと話合いをされているのであるか。(拍手)人事院の総裁は国会に向つて引上げの勧告をされればよろしいのであります。首相は、人事院のかような独立性をまつたく無視したようなことで、公務員を守り企業体の勤労階級を守るために独立機関としてつくられたところの人事院の権威が今日いずこにあるか、政府は勤労大衆の生活を少しでも考えて、少しでもよくするというために、賃金の問題に関しまして、私はあらためて総理の決意を促したいのであります。
 総理は、参議院におけるわが党の質問に対しまして、人事院が勧告をされた場合には考慮するということであります。一昨日の施政方針においては、さしあたり引上げを行わないという草案の「さしあたり」を削られたということが言われております、私はこの際、重大なデフレの問題に関しまして、日本の国家の基礎となる産業を復興するために、経済を再建するために、働く人たちに立ち上つてもらう、働けるようにするために、働く人たちの生活を保障するに必要な、そのための賃金の問題に関しまして、総理より、あらためて十分なる御検討の上、御見解を承りたいのであります。政府の御答弁のいかんによりましては、われわれは労働組合の諸君とともに断固として闘う決意であるということを明らかにいたしまして、私の質問を終了いたしたいと存じます。(拍手)
    〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) お答えをいたします。ただいま鈴木君から、政府はできもせぬ約束をしておいて、ドツジの名に隠れて、その公約を果さない、こういうお話でありましたが、できもしないというのは鈴木君のお考えで、われわれはできるのである。(拍手)できて漸次これを予算面に盛つておりますから、補正予算をごらんになつて、さらに御検討を願いたいと思います。(拍手)また政府の予算はその当時私がはつきりここで申した通り、政府の予算は政府の責任において提出いたしたのであります、ドツジ君の名に隠れて、勧告に隠れて責任を回避したことはかつてないのであります。(拍手)
 また自立経済、自立経済と、しきりにここにおつしやいますが、自立経済は昔のことであつて、むしろ今日は列国協調、国際協調経済が成立しつつあるのであります。自立経済は、封建時代においては自立経済であつたかもしれないが、しかしながら今日は、国際協調、国際の関係において経済が成立いたすのであります。自立経済をいたしておれば、日本のごとき国においては枯死するよりほかにしかたがないのであります。
 また講和問題については、かねてからマツカーサー元帥が非常な好意をもつて日本の講和を考えておられるので、第一次吉田内閣がやめる時においては、私はその年の――すなわち、一九四七年の秋には講和会議が開かれるであろう、講和條約ができるであろうと言われておりましたが、その後国際の状況その他のために今日に至つたのであつて、その間、終戰以来、あるいは日本にマツカーサー元帥が進駐以来、絶えず元帥が心を労しておられたのは対日講和であります。この元帥の好意ある盡力が今日報いられて、やがて講和の時期近きにあらんかと思わるるに至つたのであつて、社会党のごあつせんによつてできたことではないのであります。(拍手)條約のなき講和があるかないか。私が絶えず申しておる通りに、單独なる事実において、対日関係は漸次事実において回復されつつあるのであります。この事実がさらに生んで、やがて講和條約も近きにあらんかと思うのでありまして、これは私は、一に元帥の日本に対する好意ある一層の努力を希望して、一応のお答えといたします。
 さらに外交使節を出すか出さないかということは、いまだ御相談に乗つておりません。
 さらに失業問題、労働問題その他についていろいろお話がありましたが、これはどうぞ補正予算をごらんになつた上で具体的にお話を願いたいと思うのであります。
 また、五箇年計画を中止いたしましたのは、しばしば私が繰返して申すようでありますが、私はさらに検討をするがいいと申しておるのであります。重ねて申しますが、一体統計のごときは、二年、三年にして正確を期することはできないのであります、長きにわたつて統計の計数が集まつて、ここに統計が正確になるのであります。ゆえに、五箇年計画といえども私は短きに失するという考えから、五箇年計画等の案についてはさらに検討するがいいということを申しておるのであります。(拍手)また計画経済がいいか自由経済がいいかというような抽象論を、ここで学者の議論として研究いたすことはさしひかえたいと思います。(拍手)
 為替と輸出の関係について先ほど議論がありましたが、これは私の施政演説の中に詳しく申し述べておりまするから、さらに施政演説をごらん願いたいと思います。
 またアジアの各国との間に相提携するなり、アジア再建のために協議をいたしたらどうかというお話でありまするが、これは日本が外交を停止せられた今日においては、事実できないのであります。
 それから外航について――外航と申すのは、船についてのお話がありましたが、これもわれわれとしては、日本の船が外国において、少くとも工業原料その他を取入れるために就航せしめたいと考えておりまして、種々陰ながら盡力いたしております。陰ながらと申すのは、外交を中止せられておりまするから陰ながらと申すのであるが、しかしながら現在の状況におきまして、マレーとかフイリピンとかいうようなところにおいては、日本に対して今なお相当恨みを感じておるのであつて、日本の船が行くさえも危険ではないかというような事態にあるので、この日本に対する怨恨、日本に対する誤解を解くことがまず第一であると考えておるのであります。
 中日貿易については、これはしばしば申すのでありまするが、片一方において戰争が起き、片一方において貿易をする、右の手においてけんかをする、左の手において商売をするということは、事実できないことであります。
 その他長い、いろいろの御議論がありましたが、主管大臣より、もしくは予算案の提出後においてさらに御検討を願いたいと思います。(拍手)
    〔国務大臣稻垣平太郎君登壇〕
○国務大臣(稻垣平太郎君) 私に関連した御質問についてお答え申し上げます。
 問題はポンドの切下げの対策についての御質問であつたと思うのであります。鈴木さんはもうよく御承知のように、ポンドの切下げが行われます前に、すでに対米三ドルを唱えておつたのは、御承知の通りであります、従つて、実際においてポンドの切下げが行われましても、すでにそれはその前に三ドルの切下げで予見せられておつたのであつて、業者の連中は皆そのことを十分頭に入れて商売をやつておつたと私は承知いたしておるのであります。一応そのことをまず申し上げまして、対策を申し上げたいのであります。お聞きを願います。
 そこで実際におきましては、ポンドが三〇%切下げられたということは、事実におきまして、ポンド・ブロツクにおきまして、スターリング・エリアにおいては、実際にすでに物価の騰貴が始まつております。これは伝えられておるところによりますと一五%に及ぶと言つておりますけれども、それはともかくといたしまして、すでに一〇%あるいは一二%という程度の値上りが起つておることは御承知の通りであります。従つて、その差額というものは、まず実際の影響を受ける差額は一五%あるいは一六、七%ということに相なりますることも、これは鈴木さんのよく御承知の通りだと存ずるのであります。
 それで、これに対するところの対策としてわれわれが考えられますることは、むろん先ほど御指摘のように、輸入の面において安いものが入つて来ると、それだけ原料が安くなるということは、これは申すまでもないことでありまするが、それと同時にわれわれが考えておりますのは、この際まず第一にフロア・プライスを廃することが必要だというので、先般フロア・プライスを撤廃いたしましたことは御承知の通りであります。次にわれわれがとつておりまするところの方策は、この際できるだけ早い機会においてCIF建を行つて行きたい。輸出においてはCIF著港渡し、輸入においてはFOBの取引きにいたしたい、こういうことを考えまして、関係筋との交渉も大体了承を得ておるようなわけであります。CIF建で行くということになりますならば、従つてフレートあるいはインシユアランスにおいて、われわれが相当のデイスカウントを得る、このデイスカウントという言葉が惡ければリターンを得るということは、むろん御承知の通りでありまして、これによつて相当のいわゆる差額を埋め得ると考えるのであります。またそのほかの点におきましても、輸入におけるところの自由貿易の問題をわれわれは取上げております。また御指摘の調査員を出すとか、あるいは商務官を出す問題についても、われわれに考えて行かなければならぬと思つております。また日本の船舶を利用することにつきましても、これもできるだけ日本のオーシヤン・ゴーイングの船の許す範囲において、また今後実際に、従来の戰時標準型をオーシヤン・ゴーイングの船に改裝することが許可されましたので、これの改裝が終れば、これもオーシヤン向けに利用する、こういつたことによつて、これらの点を償うこともできると思うのであります。またその他最惠国條約の問題も先ほどお話がありましたが、それらの点についても、われわれは十分考慮いたしまして、この点の対策を講じておる次第であります。
 また輸出がポンド切下げ以来非常に不振である、こういうお話がありましたが、なるほどポンド切下げが行われました直後一箇月というものは、実際に円の切下げが行われるのではないかというような予見から売り急がなかつた、売り控えておつたという現象があつたのでありますが、最近は円の切下げがないということがはつきりいたしましたので、最近の貿易じりというものは、非常に輸出がふえておるということは御承知の通りであります。実際に数字が示しておりますから、よく数字をごらんくださいまして、お考え願いたいと思います。(拍手)
    〔国務大臣青木孝義君登壇〕
○国務大臣(青木孝義君) 鈴木さんの御質問で、私のお答えすべき点だと思うところをお答え申し上げます。
 本年の四月経済安定施策を実施いたしまして以来、物価と賃金はともにおおむね横ばいでございます現状を見まして、政府としては、この際名目的な賃金ベースの改訂を避けて、減税や生活必需物資の充実によつて、実質賃金の増加をはかつて参りたいのであります。
 なお物価の状況でありますが、これも御承知の通りに、四月以降の財政の均衡であるとか、あるいはその他産業における合理化の進行等によりまして、多少生産の低下の面もありますが、一般的には上昇しておりますので、貿易の振興等とにらみ合せまして、昨年に比較して今年はさらに上昇するものと確信をいたしております。(拍手)
    〔政府委員淺井清君登壇〕
○政府委員(浅井清君) 鈴木さんより、給與ベースの勧告の問題に対しまして、人事院の独立性に対し多大の御支持を得ましたことは、感謝にたえないところでございます。内閣総理大臣の施設方針の御演説の中に、給與ベースを引上げないと仰せられましたことは、しかと拜聽いたしました。しかしながら、この勧告をするとしないと、いかなる時期にすると、またいかなる内容でするとは、国家公務員法二十八條によつて、まつたく人事院の自由になることと存じております。ゆえに、人事院といたしましては誠実にこの勧告を実施する決心でいるのでございます。
 なお鈴木さんより、国会へ勧告せずして内閣総理大臣と談合するとのおしかりがございましたが、私は二回の内閣総理大臣とのお話合いにおきまして、決してこの問題につき御相談をしたことはございません。ただ内閣総理大臣に対しまして、およそこの世の中に国家公務員法二十八條の存在することを指摘したにとどまるものでございます。(拍手)
○議長(幣原喜重郎君) 大蔵大臣は病気のため欠席されておりますから、大蔵大臣に対する質疑に対しては出席された際答弁を願うことにいたします。
 次は千葉三郎君。
    〔千葉三郎君登壇〕
○千葉三郎君 私は、民主党野党派を代表いたしまして、吉田総理に御質問申し上げるものであります。講和條約を前にして、われわれは無限の喜びを感ずるのでありますが、講和條約を有効にせんとするならば、まず国内において経済の自立化をはからなければならないことはもとよりであります。私は、この観点から、以下四項目にわかちまして御質問申し上げたいのであります。
 第一の点は今回のシヤウプ使節の勧告案でありますが、シヤウプ使節が四箇月にわたつて努力をしたその税制案に対しましては、まことに敬意を表するものであります。しかし、その内容については、われわれは今後十分検討を加えなければならぬのであります。このシヤウプ勧告案が発表された八月二十八日において、吉田総理は談話を発表いたしましたが、その談話によりますと、この勧告案は予想以上の朗報であつて、本年度においては所得税を二百億軽減する、明年度においては一千億の国民負担を軽減する、こういうように、はつきりうたつているのでありますが、今日この際、なおその御心境に変化がないかどうかということを承りたいのであります。
 もちろん、今日補正予算の提出はございませんが、シヤウプ博士によれば、あの所得税は本年において百五十億、しかし酒の税金を百億上げるから、結局五十億の国民に対する減税しか望めない、こう言つておるにかかわらず、吉田総理は二百億円は可能である、こう言うのであります、まことに力強いお言葉ではあるが、はたしてこれを実行する御意思であるかどうかを承りたいのである。
 明年度におきましては一千億と言つております。もちろんこの一千億は、單に一般会計にあらずして、地方税を含めてのものであろうと思う。来年になつたならば、所得税の二百億、あるいは織物消費税もありましようが、地方税を入れたならば住民税は二倍となり、また地租並びに家屋税は三倍半に値上げ、新事業税におきましては八十億の増徴になるとシヤウプさん御自身も言つておられる通り、この八十億は内輪の数字であつて、場合によつては三百億ないし四百億の増徴になるであろうということを言つておるのであります。しかも資産再評価の問題に対して、その税率六%になりますると、これはある意味において産業の破滅であるといつてもよろしいのであります。しかも、これらの不動産税といい、新事業税といい、みんな外形標準によつておるのであります。そこで最も損失をこうむるものは中小企業でありまして、彼らの多くのものは、住宅がすなわち営業所であり、また住宅が即工場である。そこで、地方税のうちで市町村税であるところの不動産税、さらに府県税であるところの新事業税がかかる。これを同時に併課されて、しかも増徴されることになる。まことに苦痛この上もないことであります。これをもつてしても、なお総理は一千億の減税ができる、こういうことを主張しておるのでありましようか。
 私は、あの八月二十八日の総理の談話を読んで、いまだにわからない。これ以上の朗報はない、すなわち予期以上の朗報であると言つておりますが、国民のこの苦しむ姿をもつて朗報と称しておるのでありましようか、その前提といたしまして、総理は国民所得は来年ふえるから一千億円の減税になる、こういうような発表をいたしております。この国民所得がふえるという意味は、どういうことであるか。もし今吉田内閣の行つておるところの経済政策、すなわちデフレ政策を敢行したならば、国民所得はここに減退する、あるいは現状を維持することすらむずかしい。その場合であつたならば一千億はできないというので、お逃げになるおつもりであるかどうか、その辺の御心境を承りたいのであります。
 私は、総理は従来国民所得の負担軽減問題に対して非常に御熱心であることは認めておりまするが、この負担軽減に対しましても、社会サービスの点、すなわち社会保障の点は、ややもすれば第二義的に考えておることはないであろうか。この点を私は申し上げたいのであります。何となれば、今回伝えられるところの補正予算におきましても、六・三制の経費はわずかに十五億と聞いております、総理大臣の施政方針の演説におきましても、文教は国家のために最も必要である、こう言つておりながら、その文教費として計上したものは十五億、しかもこれに反しまして、薪炭特別会計なるものによる損失補償としてここに五十四億を計上されるということが、過般の三十一日の本会議におきましての緊急質問に対する森農林大臣の御答弁であります。すなわち、この五十四億は補正予算として出すということは、はつきりしたのでありまするが、この内容について、総理大臣並びに農林大臣は十分御承知であろうか。すなわち現物の消耗、あるいは不正の有無、さらに売掛金の状態、そういうことを十分お調べになつて、そうして本国会に報告され、さらにこの五十四億の使い道を明確にする必要があると思うのであります。
 と申し上げるのは、私が入手いたしました昭和二十四年度薪炭需給調節特別会計歳入歳出の予算補正額、こういう書類が政府から出ておりますが、この書類によりますと、ここに一般会計より五十四億の繰入れがありますと、歳入超過として二十八億が計上されるのであります。二十八億はいらないものになる。従つて、本年度の予算におきましては二十六億だけ計上すればよろしいのであります。このいらないものをここに計上するということは、どういうわけであるか。私は、この問題は吉田総理に尋ねるよりも、むしろ国会の考査委員会にお願いいたしまして、考査委員会にその実情を報告願う方がよろしいのではなかろうかと思うのであります。(拍手)いずれにいたしましても、この薪炭特別会計の内容にいかなる不正があるか、そうしたことをあらかじめここに十分調査して、しかるに後に次の国会においてこれを審議しても遅くはないではなかろうかと思うのであります。しからば、ここに二十六億の金が浮いて参りまして、それによつて六・三制、災害復旧費を増額することもできるのであります。
 私は、こういうような観点から考えますと、総理は減税に執着するのあまり、社会的サービス面を閑却いたし、ことにいらない予算をここに提出しておるというそしりを免れないことも、いたしかたないと思うのであります。(拍手)
 第二にお伺いしたいことは地方自治の問題でありますが、過般シヤウプ勧告書によりますと、今回の税制の改革案は二つからできておる。一つは地方自治の確立が占領軍及び日本政府の究極の目的として宣言されておる、こういうことを言つておるのであります。また九月二日、マッカーサー元帥より、終戰第四周年の記念日にあたりまして、声明書が出ましたが、その声明書によりますと、明年になると、かつて存在した中央よりの支配を完全に断ち切る法律的素地ができる望みが抱かるるに至つた、こう書いてあるのであります。すなわち、中央よりの支配がここに完全に断ち切られるところの法律的素地が明年実地になるであろうということを予言しておりますが、これに対しまして吉田総理は何事かの示唆を受けたのであろうかどうか、この点を承りたいのであります。
 過般、吉田総理は談話を発表いたしまして、地方財政の健全化、地方財政の合理化を主張いたしました。しかし地方団体としても、今日は本年度配布税を二分の一に削減されたために、今やその運営さえも事を欠いておるのであります。この際私は、総理大臣が地方財政の緊縮を望み、合理化を望むのは、あたかも二合七勺の配給を二分の一に減して家計の合理化をはかれるということと同様に考えておるのであります。(拍手)
 そこで、この間総理に対してお尋ねしたいことは、わが国の市町村並びに府県の編成の問題であります。現在の市町村並びに府県の姿は、明治維新当時の廃藩置県そのままになつておるのであります。その後交通運輸の発達によりまして、社会的にも経済的にも幾多の変遷があつた。この変遷を考えて、ここに合理的に改組する必要があると思いまするが、これに対する吉田総理の所見をお尋ねしたいのであります。
 第二は、出先機関の問題でありまして、この問題については私からるる申し上げる必要もありませんが、第五国会から残つております農林省資材出張所の問題でありますが、この問題がこの国会でいかなる形で現われるか、いかなる形において改廃をするかという問題を承りたいのであります。もし吉田総理が真に国民の負担軽減に御熱心であるならば、地方民のために、むしろこの際一千二百億円の平衡資金を増額するか、あるいは地方債を大幅に増加いたしまして、それによつて新たなる不動産税あるいは新事業税をしばらく見送る措置に出たならばどうかと思うのでありますが、この間において吉田総理はいかなるお考えを持つておるか承りたいのであります。
 第三にお尋ねしたいことは、経済安定政策とその矛盾性であります。過般の施政演説におきまして、吉田総理は、国民経済はここに安定した、さらに積極的、本格的の段階へ進みつつある、かくのごとく言つて自画自讃しておるのであります。私はこの言葉を承ると、国民の一人として憤りを感ぜざるを得ないのであります。(拍手)現状はどうであるか。輸出の不振、さらに有効需要の減退、生産の縮小、滞貨の増大、ことに滞貨は今日において八百五十億の輸出不能に陷つておるものがあるのであります。さらに賃金の不拂い、こうした社会不安は随所に起つておる。これをしも吉田総理は、経済の安定によつてますます順調に進んでおるというのであろうか、私はまことに心外にたえないのであります。この間におきまして、民自党内閣においては何をされたか。私は不幸にして、米券制度以外におきましては、しかるべき経済政策を承つておりません。ほとんど大部分の方は、税金はシヤウプさんに聞いてくれ、金詰りはドツジさんに頼んでくれ、これは民自党の合言葉ではないかと思うのであります。(拍手)さきに片山内閣、あるいは芦田内閣をイエス・マンと言いましたけれども、先ほどの吉田総理の答弁と比べまして、ほとんどこれはオー・イエス・パーテイではないか、オー・イエス・マンではないかと私は思うのであります。
 なるほどドツジさんの処方によりまして、ここにインフレーシヨンの收束を見たことは、まことに喜ぶべきことでありますが、何といつても日本の経済は自立化という一段高い目標から見たならば、日本の経済は萎微沈滞いたしまして、ドツジさんの考えと逆行している。少なくとも現在におきましては、日本の経済は立ち能わざるような状態に向いつつあることを、総理は認めなければならぬと思うのであります。
 この金詰りの原因、これは明らかに昭和二十四年度の予算そのものがすでにデフレ予算であつたこと、さらに国際経済事情、特にポンドの切下げその他もありまして、それに対処するところの内地の金融業者が極度に金融を引締めたこと、その他にも原因がありますけれども、最も大きな原因は、何といつても現内閣が適時適切な手を打たなかつたというところにあるのであります。(拍手)政府は、これに対して従来いかなる手を打つているか。四月一日に復興金融金庫の機能をとめた。それに対して、長期資金はいかなる機関でこれを補つているのであるか。またさらに保証制度はどうなつているか。いまだに何らの目安もついておらない。大蔵省の預金部はどうなつているか。預金部に対しましては、地方債の二百三十億、公団に対する融資九十億、他の預金はどうなつているか。預金部の金の大部分というものは零細なる資金である。いわば中小企業並びに農民のために還元すべき金であります。(拍手)これすら怠つている。そこに政府の怠慢があるのであります。
 さらに問題の見返り資金でありますが、見返り資金は、千四百億中すでに資金化されたものは今日六百六十六億であります。この六百六十六億の中に、放出許可になつたものが、鉄道、逓信の建設公債二百七十億中百八十三億だけでありまして、民間企業に対しては、わずかに日窒の一億七千万円にすぎない。四月から今日まで七箇月の間に、長期資金としてここに放出されたものは、わずかに一億七千万円であります。このまま推移したならば、わが国の産業は総崩れになり、失業者はちまたに氾濫し、社会不安はいよいよ増大すると思うのであります。私は吉田総理に葉巻を捨てよとは申し上げません。白たびを脱げとは申し上げない。しかし、国民のために、私はよろしくこの国民の実情を進んでドツジさんに申し上げて、そうしてこの金詰りを打開することに協力することが、総理大臣としての責任ではないかと思うのであります。(拍手)
 過般の施政方針の演説におきまして、統制経済をよし、また補給金の撤廃をした。これを得意に申されたのであります。私どもは、もとよりこの処置に対しては異議はございません。異議はないのでありますけれども、ただ受入れ態勢に対して何らの措置を講じておらない、まだこれに伴うところの金融措置を講じておらないことは、すなわち九月十五日のあの配炭公団の廃止においても見らるる通りであります。何らの措置を講じておらない。銅においても、また非鉄金属その他におきましても同様でありまして、廃止はする、撤廃はするが、それにかわるべきところの受入れ態勢を親切にお考えになつておらないのであります。従つて、このまま参りますると、民自党のオーソドツクスのために、ほとんど優勝劣敗、栄えるものは栄え、盛んになるものは盛んになれ、つぶれるものはかつてにしろというようなこの経済政策、すなわち自由経済のオーソドツクスでありましたならば、日本の産業はほとんど立ち行くことができない。ただいま吉田総理の五箇年計画の廃止に対する弁明を承つたのでありまするが、われわれは資本主義の是正をするがためには、ある程度の計画経済をまじえなければならぬのであります。しかるに吉田総理は、鈴木茂三郎氏の質問に対して、この経済五箇年計画を捨てると言われたが、これではとうてい完全なる経済政策を望むことはできないと思うのであります。(拍手)
 補給金の撤廃によりマル公を上げる、こういうような問題につきましては、先ほど社会党の鈴木氏からるる御質問があつたのでありまするが、さらに運賃が上る、米価の改訂がなされる、税金の問題、こういうようなことになりますると、吉田総理の御主張になるように、賃金ベースをそのままくぎづけにしておくことができるかどうか、まことに疑わしいのであります。過般の施政方針演説の中に、厚生施設を充実する、さらに諸手当を充実するということを言つておりますが、これはいかなる意味であるか。私は、施政方針演説の中で、吉田総理が、労働力はわが国の貴重なる資源であるとまで言つておる、ここまで態度を一変して、おせじを言つておるのでありますから、むしろ進んで労働運動の健全化のために一歩これに御協力したらばどうかと思うのであります。(拍手)
 中小企業の問題につきましては、はたしてこの年が越せるかどうか、まことに疑わしい状態に立つておるのであります。御承知でもございましようが、この中小工業に対する設備金融としては、さきに政府は二十億を予定したのであります。この二十億を見返り勘定で出すと言つた。それがだめになつた。今度は預金部から出すと言つた。預金部から出すと言いながら、それもだめになりまして、今はオープン・マーケツトでこれを処理する。それでも通商局におきましては、これを努力せんとしておりまするが、一方におきまする日本銀行は、それと反対の考えを抱いておりまして、この二十億の資金ははたして出るか出ないか、まことにわからぬのであります。さらに運転資金の問題にいたしましても、日本の産業の九九%を占めるところの中小工業に対しましては、本年初頭から今日までに、わずかに二十二億の金しか出ておらないのであります。これがすなわち劣惡でありまして、現在中小企業は年末までに三億の金が得られるかどうか、まことに心配しておるのであります。こういうような状態であつたならば、中小工業はどこに行くか。業者の中で税金に泣き、生活苦に泣き、さらに今回の運賃の高騰によりまして自殺行為をする者ができて来るだろうと思うのであります。私は、この中小企業をして自暴自棄に陷らしめないために、特に吉田総理はここに絶大なる心構えをする必要があると思うのでありまするが、これに対する御所見はどうでありましようか。(拍手)
 貿易問題につきまして若干お尋ねしたいのであります。ポンドの切り下げに対して、わが国は円レートを変更しないということが、はつきりわかりました。しかし、それと同時にフロア・プライスを撤廃する。さらに最近においてローガン・フリール・ラインが現われて参りまして、貿易の前途に対しては若干の明るさを増して来たような感じもするのであります。しかしながら、経済の自立というためには、どうしてもわれわれは、ここに輸入を縮減しなければならない。何となれば、輸出に対しては相手国があるのでありまするから、相手国の事情によつて、今後といえどもなかなか困難である。そこで貿易の輸入を縮減しなければならぬのでありまするが、その点について、従来政府は怠慢ではなかつたか。たとえば硫化鉄鉱の輸入にいたしましても、また米炭の輸入の問題にいたしましても、いま少しく愼重なる考慮が願わしいのであります。しかもこの輸入滞貨が、六月の末をもつて実に三百億を越えておる。そのうち六十八億は焦げついておる。この六十八億の中で、化学薬品は二十九億、鉛のごときは十四億。御承知のように日本におきましては、鉛は十分の生産がある。輸入することによつて国内の産業を圧迫する。かくのごとき事例が枚挙にいとまがないのであります。しかも、こうした輸入品を販売することによつて、そこに莫大な損失を生ずる。その損失をカバーせんとして輸入補助金を利用する。もしくは日本銀行から借入れせんとしたことが、今回の池田・ドツジ会談の内容であると承つておるのであります。私は、これらの損失を一般会計から出すということに対しましては非常な悲しみを感ずるのでありまするけれども、一体だれがこうした損失をこうむらしめたか。いかなる人がこの責任を負うべきものであるか。責任は單に一通商大臣にあらずして、総理みずから、すなわち外務大臣としても責任の一半を負わなければならぬと思うのであります。(拍手)
 私は、こうしたことを申し上げると同時に、日本の人口問題につきまして、いささかお尋ねしたいのであります。本年度わが国が外国から輸入した食糧費が二億七千万ドルであります。これに要する輸入補助金は、御承知の通り四百五十億円であります。ところが、現在の人口の増加率をもつて推算いたしますると、昭和二十八年度のわが国人口は八千七百六十六万三千人に相なります。このときにあたりまして、戰前と同様な栄養率をとり、しかも農産物が現在の生産量であるならば、不足物として、玄米の換算が五百七十万トンになります。この五百七十万トンに現在の輸入額をかけますると、外貨五億四千八百万ドルに相なるのであります。この輸入、輸出のはげしい状態において、この食糧だけのために五億四千万ドルを費すということは、わが国の経済の自立化という点から行きまして、とうてい不可能なことであります。わが国におきましては、外国から原料を輸入する。そうして生産加工をして、さらに再輸出をしなければならない。しかるに、この食糧のために五億万ドルをとられるということでは、他の工業が成り立たないことに相なるのであります。
 ここにおいてわれわれは、一方において人口の調節をはかり、一方において産業の振興、さらに国内の総合開発をして、人口の飽和点を見出さなければならぬのでありますが、同時に手取り早い方法といたしましては、食糧の増産、すなわち食糧の自給態勢を整えなければならぬのであります。その点につきまして、吉田総理は施政方針の演説の中において、今回治山治水事業に力を入れるということを言つております。これはまことに敬服すべき言葉でありまして、われわれはその治山治水の費用を惜しんではならぬと思う。治山治水問題、あるいは土地の改良の問題、水産の問題、あるいは畜産の問題、いやしくも日本の食糧を増産するものであつたならば、相当な予算を組んでも、この輸入食糧費のために四百五十億の金を使うことを考えたならば、ほとんどわずかなものでありまして、かくのごときことは十分われわれは賛成しなければならぬと思うのであります。むしろ、進んで吉田総理におきましては、この食糧の自給のために一層の推進をかけられて、少くともわが国におきまして、さらに二割の増産をする、そうしてこれにより外国から食糧を輸入しない決意を新たにする必要があると考えるのであります。
 私の最後にお尋ねしたいことは講和條約の問題であります。この講和條約の問題につきまして、一昨日の吉田総理の御演説を承りますと、一つの矛盾しておることを発見するのであります。すなわちその一つは、国際団体に復帰することを明らかにしておる。それが念慮になつておるのでありますが、一方において、わが国の平和を保たせるためには無防備であるべきだということを言つておるのであります。国際連合に入るならば、そこに安全保障理事会の制肘を受けなければならない。そこに防備の必要が起つて来る。そういたしますと、一方において無防備を主張しております点において撞着して来るのでありますが、その間の調整をいかにする御意思であるか。いずれにいたしましても、これらの問題はきわめて愼重を要する問題であり、またさらに單独講和、全面講和、さらに完全保障、永世中立の問題にいたしましても、また講和條約の内容そのものにいたしましても、実にワン・マンズ・パーテイーでは、これは不可能なのであります。私は、ここに全国民を網羅して、講和條約を迎えるに際しての愼重なる準備をしなければならないと思うのであります。その準備にあたりまして、吉田総理は有能達識なる外務大臣を専任して、その人によつてこれが準備に沒頭せしめるところの御意思があるかどうか、この点を承りたいのであります。
 以上をもつて私の質問を終わります。(拍手)
    〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) お答えをいたします。
 シヤウプ案に対する朗報と私が申した点については、今も同じ心境であるかというお尋ねでありますが、今もなお同じ心境であります。私がこれを今なお朗報と考えるゆえんは、いずれ補正予算において――いかに私の心境の証明せられるかということは、補正予算においてごらんを願いたいと思うのであります。補正予算を見ずしていろいろなお話もありましたが、これはいわば水かけ論になるのであつて、補正予算の数字についてさらに御検討をくださつて、そうして御議論を願いたいと思います。(拍手)
 また教育費とか、社会保障費とか、地方財政、自治の費用とか、いろいろお尋ねがありましたが、これまた補正予算についてごらんを願えば、おのずからわかると思うのであります。(拍手)
 地方自治に対するマツカーサー元帥の声明は、私においても、まことにけつこうな声明であると思います。また市町村等を合理的に編成する意思がないか。これはでき得ればいたしたいと思います。出先機関の整理については、着々整理いたしております。
 貿易政策あるいは為替レートその他については、しばしば私の施政方針において述べたのみならず、その他の場合において述べておりますから、これについて御承知を願いたいと思います。
 また講和條約についてのお話であります。むろん愼重を期さなければなりませんが、今日四年間にわたつて、外務省としては相当研究をしております。今日外務大臣をさらに任命する考えがないかとおつしやれば、任命する考えはございません。(拍手)
○議長(幣原喜重郎君) 志賀義雄君。
    〔志賀義雄君登壇〕
○志賀義雄君 一昨日行われました吉田首相の施政演説については、新聞にもいろいろ批評が出ておりまして、あるいはからつぽであるとか、あるいは不勉強であるとか書いてありましたが、私はそうは思いません。思わないわけは、実は今度の施政方針が、現在の国際情勢のもとにおいて、日本の将来の運命を決定する重大な時期において、きわめて危険な方向へ、日本が吉田首相の施政方針では、ひつぱつて行かれる危険があるので、この演説を重大視するわけであります。
 第一に、占領下における日本はポツダム宣言によつて管理されておるのでありますが、そのポツダム宣言を嚴正に実施する限り、日本の今回の戰争の結果における責任を果すゆえんであります。また、吉田首相としても、今度の施政方針演説においては、このポツダム宣言との関係をはつきり述べらるべきでありましたが、どこにもそれがなかつたのであります。最初私どもが受取つた施政方針演説の草稿によりますと、これこれの個所を追加してくれということで、そこにポツダム宣言の問題もありましたが、一昨日の総理の演説を聞くと、そこはまつたく省かれておるのでありまして、もしも今までの、この一月からの吉田内閣のやり方が続けられて行くならば、これは結局日本の独立が将来次第に失われて行く方向に行く危險があるのであります。
 総理の演説によりますと、最近外電にしきりに米英両国が條約整備中の旨を伝えられておる、これは米英のわが国民の耐乏と努力に対する好意ある理解の結果であると信ずべきであると言つておるのであります。なおそのほか、国際会議などに米国政府の勧請により伝々とまで繰返して述べておるのでありますが、総理の演説に二日先だちまして、ソビエト同盟の副首相であるゲオルギー・マレンコーフが、対日講和を大国の協和によつてやるということを言つておる。これは現在の世界は、アメリカ、イギリスだけでできておるのではなく、片方にソビエトもあり、中国もあり、植民地状態にある国もある。この全体の動きがどうであるかということをはつきりつかまなければ、日本の講和会議に対する日本国民の全体の態度も決定されず、それに適応して日本の外交方針を正しく進めることもできないのでありますが、総理はこの点について、遂に一言も触れることがないのであります。(拍手)もしもこういう状態で、すべての国でなく、若干の国とだけで講和を結ぶようなことになり、中国及びソビエト両国が除外されるようになれば、これは戰争が終つたあとの講和会議ではないのでありまして、そこに戰争状態の継続という事態も出て来るのであります。
 われわれは、この際第一次世界戰争後のベルサイユ條約の経験を思い起して見る必要がある。これには日本も参加しておつたのであります。ベルサイユ條約は、旧ロシア帝国から革命によつてかわつて出て来たソビエト同盟を除外したために、その運命は結局どうなつたか。これは第一には経済恐慌――今、戰後再び大きい経済恐慌が来ておりますが、そのために関係諸国が破産をし、そうしてドイツにはナチスが興り、遂に第二次大戰に落ち込むことになつたのであります。これは事実でありまして、…(「何を言うか」「ばか」と呼ぶ者もあり)木村君にはばかに見えようとも、これは事実なんであります。さらに、こういう状態のもとにおいてソビエト同盟も参加し、中国も参加するような講和條約でなければ、これは将来日本にとつて結局一方的に特定の国に賛成し、特定の国に反対するという状態になつて、これが将来の日本の不安と危險とのもとになるのであります。しかるに、先ほど社会党の鈴木君の質問もありましたが、この單独講和か全面講和かという問題について、この本会議における施政方針において、その点はつきりしておらないのであります。この点は、日本の全国民の聞かんと欲するところでありますから、このところにおいて、首相がそれを明確にされんことを望むものであります。(拍手)
 さらに今度の講和問題が起るに先だちまして、首相は、特定国が日本の講和條約締結後の駐兵を希望すると言つておられるのでありますが、今度その点について各国の意見が発表されようとしているとき、首相は今なおこれと同じ希望を持つておられるのかどうか。新聞の伝えるところによれば、経済協定及び軍事協定が今度の講和條約と並行し、あるいはその直後に出るといううわさもある次第であります。この点において、首相がこれと同じ意見を持つておられるとするならば、日本の将来の完全な独立に対しても重大な影響を持つものでありますから、この点を首相はどう考えておられるかということを、はつきりもう一度伺いたいのであります。(拍手)
 次に経済問題について若干伺いたいのでありますが、首相の演説によりますと、外国の信用を回復するために外貨債を償却する。これはポンド債のことでありますが、一体来年三月の年度末までに償却すべき、償還すべき元利合計は幾らになるのか。将来それは、およそいかなる計画をもつて償却し盡そうとするのか。
 御承知の通り第二次世界大戰後において、日本はやはり外国から借款及び信用を受けており、前国会において、阿波丸事件賠償請求権放棄の協定の了解事項の中にも、アメリカが日本に與えた借款及び信用は依然として有効なる債務であるという規定があります。これに占領費その他の問題が将来加わるとするならば、現在の償却すべきものより、さらに莫大なものがここに上つて来るのであります。もしここにおいて処置を誤るならば、ベルサイユ体制の下で、ドイツが遂にああいう状態に立ち至つた危險を巻き起さないものでもない。この点について、日本の財政関係とにらみ合せて、私どもは、とうてい今のようなやり方では日本の破産を招くよりほかはないと思うが、この点について吉田首相はどう考えておられるか、この点をはつきり伺いたい次第であります。(拍手)
 さて吉田首相は、インフレーシヨンは進行を停止し、国民経済は安定正常化したと言われているのであります。およそ吉田首相は、どこの国民経済のことを言われているのか。(笑声)もし日本であるならば、そういう状態は今の日本には絶対にないのでありまして、賃金は切下げられ、失業が多くなり、米価が不当に押えつけられ、税金が多いために、国民全体が非常にあえいでいるのであります。そういう状態であればこそ、今朝の新聞にも出ております通り、長野県において二千人の警官を動員して鎭圧の演習をやらなければならない。もしも経済が正常安定化しておるときに、どうしてこういうことをやる必要があるか。(拍手)これこそ、まさに不安定であり、自分たちが国民をこういう状態に陷れている。これをどうしても押えつけなければならないから、今からそれの示威運動をやり、威嚇をやつて押えつけようとする以外にないのであります。(拍手)まして、世界経済恐慌が始まつて一年、昨年十月から今年の十月まで、アメリカ経済は実に二二%も減つている。この前の一九二九年から三〇年の一年間にわたる恐怖の第一年において、わずか一八%であつたのに比べるならば、今世界を襲いつつある経済恐怖がいかに深刻なものであるかということは、容易にわれわれがこれを思い得るところであります。しかるに、その状態――賃金が切下げられ、首切りをどんどん吉田首相が先頭に立つてやつている、そうして米価を押えつけ、大衆課税をやつているときに、国民経済が安定正常化せりということは、まさに断崖のふちを目隠しをしながら歩いているようなもので、こういうことで日本の国政を指導されては、われわれ一同大いに迷惑至極なことなのであります。(拍手)
 さて吉田首相は、賃金ベースを改訂しない。その理由として、賃金の改訂はただちに物価に影響を及ぼし、賃金と物価の惡循環となると言つております。しかるに、昨年六千三百円ベースをきめて、それはそのままであります。いや、そのままどころか、政府支拂を遅延させ、この衆議院においても参議院においても通過した寒冷地手当なども、全然與えずにほつたらかしておきながら、他方昨年以来今月に至るまで、物価の方だけは――ことに国民経済に大きい影響のある国家独占価格だけは次々に上げて来ており、今度もまた貨物運賃の八割値上げというようなこともあり、電気、ガスなども値上げの予行演習として盛んに停電をやつているような状態であります。(拍手)そういうときにおいて、賃金ベースを改訂しないでおいて物価を引上げて行けば、吉田首相は、いろいろと方法を講じて実質賃金を引上げるということを施政方針の中で約束されておりますが、ただこの一事を述べただけでも、あべこべに実質賃金は切下げられることになるのであります。これは数字で計算しても、およそ普通の頭を持つた人間の数学ならば、そう答えが出るよりほかにはないのであります。それを、どうしてこういうことを吉田首相は言うのであるか。しかも、今賃金ベースを改訂することはいけない、こう言つておきながら、今度のこの国会に出ている議案の一つに、特別職の範囲を拡大し、これの給料を上げるという案も含まれておるのであります。一般職の給與は改訂せずにすえ置く、それを遅らせるという状態に置きながら、高級官吏の範囲を拡大し、その給料を上げるということをやつて、どうして政府が国民の信頼をつないで政治をやつて行くことができますか。(拍手)
 さらに人事院の問題については後に触れるつもりでありますが、失業者統計の問題であります。失業者数は、あるいは三十万といい、四十万というのが、最近の数字である。かつて私どもが若いころ、警保局でつくり、これを内務省で発表しておつた統計数字は、どんなに失業の多いときでも、やはり三十万ないし四十万であります。今日、日本において、政府がこの六月以来首を切つた者でも、実に数十万の多きに上つておる。また民間の企業もある。そうして戰争前と違つて、海外から帰つた人も多いし、新たに労働年齢に立つ人も多いのであります。そのときにおいて、実数がわずかに三十万、四十万というのは、あの天皇制のもとにおける最も幼稚で愚劣な統計学と同じものを現在の政府がやつておる。これで、どうしてりつぱな失業対策ができるのでありますか。(拍手)
 実際現在の失業者の中に数えていないものの第一は、これは部分失業者――一週八時間平均として、一定の四十八時間働けない、三十六時間、あるいは三十時間というような労働者も非常に多い。外国の統計では、これが明らかに失業者に数えられているのに、日本の統計では、これが就業者であります。さらに給料の遅拂いが二箇月、三箇月にも及ぶような者でも、給料をもらえない者でも、工場に就職しておれば、これは就業者というのが、日本の統計の実態であります。こういうことで、どうして失業保險制度を適切に運用することができるか。
 現在の日本の失業保險制度というものは、戰争中の強制貯蓄の変形をそのまま継いだもので、こういう失業保險制度では、第一、すでにこの七月首を切られた者が、年末には失業保險の掛金を受取る期間が過ぎ、遂に路頭に迷う者が続々と出て来るのであります。これに対しては、社会党の前田種男君が最初に緊急質問をやつて、これに対して政府の方からは何の答弁もなかつたのであります。こういうことであります。さらに緊急失業対策その他一千億円を動かそう、あるいはそれを八百億円動かそうとしたところで、現在のように、吉田首相自らが、最大の浪費者は政府であり、地方庁であると言つておる状態で、これほど莫大な資金を動かせるならば、それは失業者を潤すことにならず、結局低賃金を押えつけ、一部の者に恩恵を與えるだけで、ここでもまた政府及び地方庁が浪費するに至ることは当然なのであります。
 こういう状態をこのまま続けて行くならば、今度の第二次世界大戰に至るまで、常にソーシヤル・ダンピングとして列国から疑惑の目を向けられ、これによつて遂に日本が侵略の方向に進んだ、あのソーシヤル・ダンピングというものを、いま日本で復興しようとすることになるのであります。まさにこれこそ、日本を取囲む連合諸国の最も危ぶむところであり、最も反対するところであるのにかかわらず、産業合理化といつて首を切り、賃金を下げ、国内市場を狹くして、さてこつちの物を買えといつて、どんどん出している。この状態で、どうして列国がこれを受付けてくれるでありましようか。こういう政策をもつてすれば、結局日本は再び前のような侵略を繰返すか、あるいは植民地同然の、ほとんど飢える状態に陷るか、この二つよりないのであります。この点について、首相の演説を聞きますと、何らの明確な点もないのであります。
 さらに食確法と米価の問題に至りましては、農地改革の問題にはちよつと触れてあるけれども、これは廣川君も、食確法は民主自由党の苦手だと言つておられるそうであります。その苦手の食糧確保臨時措置法と米価の問題とは、この施策方針演説の中には、すつかり隠されておる。つまり農村の票を最も多く集め、一月の選挙で第一党になつたといわれた民主自由党は、今日農民に対して何らの政策を持つていないということを、今度の吉田首相の演説が証明しておるのであります。(拍手)
 さらに税制に至つてはどうか。前の第五国会のときに、シヤウプ博士が来られたならば必ず減税いたします、そのときまでお待ち下さいというのが、これが一つのきまり文句、殺し文句であつたのであります。(拍手)それがシヤウプ博士が来た。シヤウプ博士が帰つた。そうして、事実上どこに減税があるか。今ちまたにおいては、税金が重いので困つておる。しかるに政府は、税金に対して何らの措置を講じないばかりか、増税という形を隠すために、自然増收があるから、それを振合いにすれば幾らか減税が出るというのであります。今の日本の経済状況において、国民所得に自然増收があるなぞというのは、これはまつたくの夢であるばかりか、夢よりもつと惡い陰謀であります。結局たくさんとるために、自然増收があるように見せかける。そのために、今ちまたで、どういうことわざが出ているか。一に税金、二にどろぼう、これがちまたの言葉であります。(拍手)今までのところ、どろぼうが一番惡いと思われておつたが、最近の世の中においては、税金が一番惡い。一に税金、二にどろぼう。この格言が出るようになつたのは、実に吉田首相の責任なのであります。
    〔議長退席、副議長着席〕
 かような一連の政策をやつて、吉田首相は、最初に申しました通り、米英のわが国民の耐乏努力に対する好意ある理解と言つております。イギリスではどうか。耐乏生活をやつて、戰前よりも水準を回復した。ところが今年になつて、イギリスの経済はどうにもならずに、ポンドを切り下げたではないか。耐乏生活の結果は、まさにこの通り。この点では、片山首相も、芦田首相も、吉田首相と同様の責任を負わなければならないのであります。(拍手)
 そこで、円の切下げについて、吉田首相は、円を切下げることは、すでに三百円あるいは三百三十円という意見があつたが、特に三百六十円まで、あらかじめ下げておいたから、この際下げる必要はないと言つた。この後で、こういうことを言つております。イギリスにおいても、ポンド切下げが早すぎたという輿論が今一部にできつつある、これは吉田首相がみずから笑うのと同じである。イギリスでポンドの切下げが早すぎたならば、日本で当時の値打ちよりももつと下げた三百六十円に下げたことも、早過ぎたはずであります。(拍手)こんなつじつまの合わないことを平気で言つておられるようでは、日本の経済政策は、今後の最も困難な状態に、どうなるかわからないのであります。この前の国会のときに、吉田首相のもとで、池田大蔵大臣は、円の切下げは絶対にやりませんと、予算委員会で答弁しております。あにはからんや、そのときに大蔵省では、職員をカン詰にして、一生懸命円の切下げの作業をやつておつた。吉田首相は円を切下げないと言われるが、これについて、はたしていつまでこれを守つておられるかどうか。この点について、もつと明確な意見を伺いたいのであります。
 第三には、最近頻発する基本的の人権蹂躙、彈圧問題についてであります。吉田首相は、演説の中で、外国の矯激なる思想、国家を破壊と混乱に落とすと言い、あるいは自由と人格を無視する暴力的破壊的分子と言い、さらにまた治安を乱し、経済復興を阻害するがごとき好ましからざる事件とも言つている。(「その通り」)諸君がまさにその通りと言われるならば、吉田首相もまさにその通りのことを言つているが、これが日本の実情にまつたく当てはまる……(発言する者あり)外国の矯激な思想、あるいは共産党が今モスコーに向つているという人がありますが、吉田首相のこの演説をごらんなさい。だれの名前が引用してあるか。結局吉田首相はどつちに向いておられるのか。
 御承知の通り、ポツダム宣言に基きまして、日本には戰争犯罪分子の追放ということもあるのでありますが、私は特に吉田首相にお伺いしたのであります。新亜通商株式会社というものがありまして、これは昭和二十四年のことでありますが、そのもくろみ書には、発起人が第一回打合会を本年六月二日首相官邸において開き、とあります。新亜通商株式会社というものの文書の中に、こういうことが書いてある。はたして事実とするならば、首相官邸はそういうことに使われるべきものであるか、これを一点伺いたい。さらに第二には、この発起人の顔ぶれが小畑忠良、これは情報局の総裁であり、また翼賛会の幹事もやり、その前には住友本社の理事もやつた人で、現在私の聞くところによれば追放されている人である。発起人の中で柳田という人が、戰争犯罪人として追放されないという確証があるほかは、全部その疑いがあり、現にかかつておる人であります。こういう人々が、打合会という以上、柳田一人ではできません。やはり何人か集まるとするならば、この中の人が集まつた。一体そういう人が首相官邸に出入りしていいものかどうか、これをはつきり御答弁願いたいのであります。
 さて、日本において第一次大戰後の歴史を見ますときに、われわれがはつきり感じることは、日本においては、日本人を彈圧する前には、必ずまず朝鮮人の彈圧が行われているという歴史であります。関東大震災のときに、朝鮮人を、火をつけると言つて殺しておきながら、そのあとに出て来たものは何か。治安維持法である。またこの治安維持法をもつて、第二次世界大戰の中で、日本国民全体を監獄に追い込むところまで持つて来たではないか。さらに昨年神戸、大阪の朝鮮人教育事件のときに、これを日本の警察が彈圧して、そのあとに何が来たか。最近における教員の追放事件、これが発展して来ております。その結果、湯川博士がノーベル賞を受けたといつて、吉田首相は七日に祝電を打つておるが、その湯川君の京都における研究室を初めとして、京大の理学部は、定員法による首切り、国家公務員法による首切りによつて、実に半数が首切られる状態なのであります。まさに湯川博士がノーベル賞を受けた記念に、もはや日本には科学研究は要しないということを、吉田内閣が全世界に示すことになるのでありまして、これよりはなはだしき国際的な恥さらしはないのであります。さらに進んで下山事件、三鷹事件、松川事件、こういうような……(発言する者多し)諸君、この事件では、偽証罪というもので、検事の意見に反することを言う場合には、どんどんこれを縛つておるので‥‥(発言する者多し)何を惡いと言われるか。
 しからば、私からここではつきり吉田首相にお伺いしたい。昨年夏、佐賀において徳田球一君に爆彈を投げてこれを暗殺しようとした者が、先日衆議院の面会室に来ておる。これを保釈にするときには、病気靜養のためで、絶対に外に出てはいけないというのであつたが、それが衆議院に現れておる。さらにもう一人、連類者があいくちを持つて上京したということが、参議院の警務課に、大阪からちやんと電話がかかつておる。多くの者を偽証罪その他無実の罪によつて縛つておきながら、こういう明々白々な危險な人物が、日本の裁判所によつては公然と保釈されておる。これについて殖田法務総裁は何と考えるか。この点を、私ははつきりと伺いたいのであります。
 要するに、反ソ反共ということは、今日までの事実で見ても、侵略とフアツシヨが、いつでも彈圧の合言葉としたのでありまして、今日の日本でもどうです。根本博中将の義勇軍事件、これに対して、海上保安庁はどういう警備をやつておつたか、これを私は関係大臣に伺いたいのであります。
 要するに、今のようなやり方をもつてすれば、あの穏健なるデーリー・ヘラルドの通信員であるテイルトマンも言つておるように、日本が再び警察国家に帰る危險があり、ロンドン・タイムスも言つておるように、民自党はウルトラ・コンサーヴアテイヴとして、今後の国際関係のもとにおいて、講和條約を結ぶ上において重大な障害になると思つておるのであります。この点について吉田首相のご意見を伺うことにして、私の質問演説を終わることにします。(拍手)
    〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 志賀君にお答えいたします。
 私が施政演説の中にポツダム宣言云々のことを言わなかつたのは、これまで、さらに繰返す必要のないほど繰返しておるから言わなかつたのであります。またソビエト政府が講和の提議をいたしたということを新聞で了承しましたが、私の施政の演説の中にあることは、米英両国政府が講和條約の草案云々ということに対しての私の所見であります。ソビエト政府がもし対日講和條約の草案まで起草するということが新聞に報道でもありましたらば、同じようなことを申すでありましよう。(拍手)私は志賀君に申し上げますが、ソビエトのほかに米英両国のあることもお考えに入れていただきたいと思います。
 それから駐兵問題でありますが、講和條約の後に、條約が遵守されるかどうかを監視するために駐兵をするということは、これまでの慣例であります。ゆえに、対日講和條約の後において駐兵するということがあり得ると私は考えるのであります。
 また外債問題についていろいろお話でありましたが、外債問題及び日本の財政の前途については、志賀君のお考えとは違つて、私は前途洋々たるものがあると考えておるのであります。(拍手)
 また今日経済が安定でないというお話でありますが、しかしながら、安定しつつあるということは、これは国民の常識であります。ゆえに、安定についてお疑いがあるのは、これは志賀君個人のお疑いであり、国民は安定しつつあると考えておるのが常識であります。
 寒冷地手当は実施いたします。これも補正予算をごらんになればわかる通りであります。
 また高級官吏に俸給を上げたとかいろいろお話でありますが、私の一向知らないことであります。(発言する者あり)徳田君の話によると、総理は知らないだろう――なるほど知りませんから、もつと正確な知識を持つている各省大臣から、そのような問題についてお答えいたします。(拍手)
○副議長(岩本信行君) 法務総裁は他に要件がありまして、ただいまこちらにおいでになりませんので、別の機会にまたお答えを求めることにいたします。
    〔志賀義雄君登壇〕
○志賀義雄君 吉田首相が見解の相違と言われることを、ここでいくら追求してみたところで、それこそ惡循環でありますから、私はそれはやめます。今後の民主自由党内閣とわれわれとの争いの中で事実がはつきり証明するでありましよう。
 そこで吉田首相は、講和條約の後にも駐兵を求めている、その慣例があるということを言つておられるのでありますが、その慣例と言つても大小の範囲があるのでありまして、およそどの程度のことを吉田首相は考えておられるか。事態によつては、これはたいへんなことになるのであります。
 もう一つは、例の新亜通商株式会社のことについて、首相官邸が第一回の打合会に使われたこと、戰争犯罪人として追放された者が官邸を使つたこと、この点について吉田首相は何と考えるか。この点についてお尋ねいたします。(拍手)
    〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 駐兵問題は私は抽象的に申したのであつて、駐兵問題がいまだ具体的に問題となつておらないのでありまするから、かくのごとき仮想の問題についてはお答えいたしません。またお話の官邸云々は全然ない事実であります。
○副議長(岩本信行君) 井出一太郎君。
    〔井出一太郎君登壇〕
○井出一太郎君 私は、新政治協議会を代表いたしまして、一昨日行われました総理大臣の施政方針演説に関し、総理以下閣僚各位に対しまして若干の質疑を試みたいと存ずるものであります。
 一体施政方針演説が開会劈頭行われなかつたこと自体がはなはだ了解に苦しむばかりでなく、かんじんの補正予算のことを、先ほど来総理はしきりに繰返されるのでありまするが、この補正予算がいまだ提出に相ならず、予算の裏づけなき施政方針というものは、まことに変則であります。いわば献立だけ見せられて料理のうまい、まずいを判断せよ、こう言われたようなものでありまして、われわれといたしては、すこぶる当惑するものでございます。従つて、総理の演説もきわめて抽象的であり、当たりさわりのない作文に終わつたのでございますが、絶対多数を率いて意気軒昂たる吉田総理に、われわれは、もつと気魄あり熱情に満ちた演説を伺うべく期待いたしたのでありまするけれども、すこぶる失望したのであります。
 現内閣の組閣以来の足跡をたどつてみまするならば、政局は多数党による安定感をもたらしておりますることは、これはわれわれも率直に認めましよう。しかしながら、実際において現内閣みずからの手によつてどれだけの業績を示したか。これを検討いたしまするならば、驚くべきほど何にもしておりません。各種公約の不履行を私がここで指摘いたしますることは、民主自由党の名誉のために、あえて差控えたいと思います。一番大事な予算は、あげてドツジ公使の方寸に出ているところであり、画期的と銘打つ税制改革はシヤウプ博士の処方箋の通りであります。行政整理が奇蹟的に成功したといたしまするも、この一半は、なくなつた下山総裁の犠牲においてなし遂げられたものと言うべきでありましよう。かくのごとく、みずからの主体的努力によるもの、まことに少ないと言わなければならない。従つて現内閣の安定性というものは、以上のごとく外的要因によつてささえられているのでございまして、ようやくこれからもろもろの矛盾が露呈し始めて、幾多の困難に逢着いたすことでありましよう。デイスンフレの破綻は完全なるデフレの様相を示して参り、輸出の不振、金融の梗塞、租税の重圧、有効需要の減退、企業や家計の一般的危機が今や深刻となつて参りました。それにもかかわらず、総理の演説の底を流れているものは、一種のオプテイミステイツクな甘さがあるのを見のがすわけには行かないのであります。もちろん、いたずらに危機感や切迫感を強調いたして、被害妄想に陷つてはなりませんけれども、日本の運命のきびしさ、またそのけわしさを思いまするときに、現内閣のごとく希望的観測に終始しておることは、すこぶる危惧の念を抱かざるを得ません。私は、かかる観点から、以下若干の警告を政府に呈しつつ質疑を展開したいと思うのであります。
 総理はその演説の冒頭において、外電の伝える対日講和問題に言及せられ、独立回復の日近きにあらんかとの期待を表明せられました。もちろん、占領治下にあるわが国の今日の立場において、本問題に対する総理の発言はきわめて微妙であり、愼重を要すると存知まするが、でき得る限り明快にお答えを願いたい。
 講和会議はいつ、いずこにおいて開かれるやは存じませんが、来るべき平和はインネゴシエーテツド・ピースと呼ばれ、戰敗者としてのわれわれの論議すべからざるがごとくに伝えられて参りました。ポツダム宣言の規定するところは、きわめて嚴粛である。われわれは、過去における平和破壊の罪をあがなうため、懺悔の気持を失つてはならないのであります。しかしながら、民族の自主独立と、祖国の興隆発展を願わないではおられません。思えば、四年の長きにわたるところの忍従も苦難も、一に平和への長き道程であつたのでございます。今一筋の光を見詰めながら、国民の胸中にもやもやとして鬱積したものがあるとすれば、これを十分に暢達せしめ、納得せしめなければなりません。首相は、いかなる講和の方式において、国民を真に納得せしめ得るや。国民が講和について語ることが一種のタブーとして禁ぜられているのではなく、国民的輿論が活発に起ることに関しまして、総理はどのようにお考えになつておるか、これをまずお伺いいたしたいのであります。
 関係諸国との完全なる了解が成立いたし、連合国の信義と誠実とに信頼をいたして全面的な講和が成立いたしますことは、国民のひとしく願つてやまないところでありまするが、單独講和というような場合には、どのような困難がつきまとうか、これはおそらく想像に余りあるところでございます。総理が強調せられるように、わが国の安全保障は、非武裝国家たるの本質をどこまでも貫徹することにある。これは私も同感でございます。非武裝国家が、ある特定の国と敵対関係のままで置かれるということは、一体何を意味するでありましようか。また別にある特定国と、もしも軍事協定が別個に結ばれるというようなことでありますならば、われわれは非常に妙な話と思うのでございます。この点について、講和の方式に対し、対立的な紛糾が国論の間にもしもあつたといたしまするならば、これはたいへんでございまして、吉田内閣は重大責任を自覚せられまして、国家百年のために深謀遠慮を行うべきであると考えます。
 講和の前提をなすべきところの国内の民主化の問題を、私はまず取り上げてみたい。われわれは国際社会の一員といたしまして、名誉ある地位を占めたいことを念願として参りました。そのために、われわれは、日常坐臥すべてこれ民主化の心構えにおいて行動をいたさなければなりません。しかるに、昨今の風潮は、左に大きくゆれた振子が、今やゆれ返つて、右の方に大きくゆれもどつておるという感じがいたすのでございます。ある特定の政治勢力が暴力的傾向を帯びて参りまするや、これに対抗いたしまして、権力的なにおいが一方において強く出て参つております。警察力増強の問題が、ちまたにおいていろいろなうわさをせられましたり、あるいはまた行政整理の問題が、特に政治色ゆたかに取上げられたことなどもございます。農地改革の精神が歪曲せられ、地主勢力が再びその復活を企図するような方向が生れて参りましたこと、またこれが占領軍当局の注意を引いたことも、諸君御承知の通りであります。さらにまた、本来民主主義の大きなにない手であるべき労働組合が、最近は妙に萎縮してしまいまして、ただいまのところでは、組合の執行部になり手がない。これは首をかけることになる。こういうような状況にまでも立ち至つておるのでございます。こういつたもろもろの事項は、講和へ通ずるところの民主化の近道では決してないのでございまして、吉田内閣が、何かしらその性格においてウルトラ・コンサーヴアテイヴであると言われるところの具体的の事例は、ここにあろうかと思うのでございます。日本の民主化が停滞を思わせるようなこの一連の施策は、今講和会議が近きを伝えられるこの際に、嚴に排除せられなければならないところでありまして、総理はこの点をいかようにお考えになりまするか。これを伺いたい。
 第三点として、私は東亜諸地域に対する国交の調整回復の問題についてお伺いをいたしたい。われわれは西欧民主主義の陣営に一応属するものであると考えられますが、ことにアメリカの好意と援助にささえられておりますことは、われわれも自覚をいたしております。けれども、わが日本民族の自然的、歴史的條件は東亜地域と密接不可分の立場に置かれており、東亜諸民族とは運命協同体的な関連に立つておるのでございます。しかるに、今や中国は中京支配が決定的に確立せんとしており、また海を隔てた朝鮮は二つの世界に分かれております。さらに南方諸地域も、ようやく往時と異なつた様相を呈しつつあるのでございまして、これら東亜諸地域を含めたところの東亜貿易というものが、わが国の宿命的なスタンド・ポイントであるということを考えますときに、この問題はきわめて重要でございます。北大西洋條約に類したところの集団安全保障の計画なども、一時だれやらによつて伝えられたことがございました。あるいはフイリピンのキリノ大統領によつて防共同盟の提唱もあつたようでございます。首相は、東亜諸地域との国交回復調整に関しまして、いかような指導理念をもつてお臨みに相なるか、これを伺つておきたいのでございます。
 今や講和の成る日の近きを予想いたしまして、一切の国内体制を急速に整備しつつ、これを待たなければなりませんが、おそらくは総理みずから心中深く期するところのものがおありになろうと私はお察しをいたし、安政の和親條約のことを思い、またベルサイユ体制を考えますときに、われわれは歴史の審判がこの民族の上にくだされる時期が今まさに近づいておりますことを思うとき、心粛然として愼むものがあるのであります。私は、吉田内閣が條約締結担当者として一切の條件を急速に整え、国際間の理解と信頼の上にフエアな講和締結を急がれるということに対して、決して異議をさしはさむものではなく、むしろその日の一日も早からんことを願うのであります。しかしながら、もしそれ講和受入れに際しまして、超党派的な挙国一致体制というものが望ましい、かような意見も一方においてあるようでありますが、これに関しまして、総理はどのような心用意をお持ちになるか、これを第四点として伺いたい。
 問題を財政経済の方面に転じて、まずお伺いしたいのでありますが、大蔵大臣がおいでになりませんので、願わくば大蔵大臣の御答弁は、後ほど一括してお伺いしたいのでありますが、どうか当面安定本部長官によくお聞取りを願いたいのでございます。
 その第一点は、先ほど社会党の鈴木議員も触れられたドツジ・ラインの修正に関してでございます。総理演説の中においては、ドツジ・ラインはこれを堅持する、こう声を大にして断ぜられましたが、はたしてさようでございましようか。なるほど超均衡予算の強行によつて、インフレの高進はブレーキをかけられ、いわゆる安定の面においては予期以上の成功を見たと言い得るでありましよう。しかしながら、経済の復興は停頓し、デイスインフレなる逃げ口上では追いつかず、今や完全なるデフレの様相に転化して参りました。ペーイング・ペイシスをどこまでも貫徹しようとする結果は、いきおい集中生産方式と相なり、日本経済の脆弱なる生産構造を破綻に陷れつつあります。すなわち、中小企業や農業に向つて一切のしわを寄せまして、その結果、破局はまずこの方面の産業から現れようといたしておる。経済合理主義を貫くためには、日本経済の体質が十分に回復をしておりません。かつて私は、病気が直つても病人が死んでしまうおそれがある、かようにドツジ・ラインを批評したことがあるのでありまするが、この危惧が、今やまさに目のあたり現れて参つております。
 石炭の増産こそは、かつていわゆる傾斜生産方式においての最重点として取上げられて来たのでございまするが、本年度の目標である四千二百万トンは、およそ至難な数字となつて参つており、この基本的物資が今日余剰を告げておるということは、何を意味するでありましようか。貧困の中の過剰、これこそ縮小再生産にほかならないのでございまして、いわゆる生産復興の面から見ますると、これはゆゆしい事態でございます。日本経済が海を越えた再生産を使命といたしております以上、経済安定九原則におけるピラミツドの頂点が貿易にありますることは論をまちません。
 ドツジ・ラインの一つの大きなねらいでありましたところの貿易の振興が所期の成果を收めずにおることは、当初の計算が大きく狂つて来たことを意味するのでございます。これはもちろんアメリカの物価の低落や、またポンドの切下げ等の外的條件によるところも多かろうと思いまするが、数百億の歳出滞貨は、今日日本経済に対する大きな重圧であります。しからば有効需要を国内において喚起することができるかどうか。安定方策と衝突をいたすことに相なり、為替レートの変更は絶対にせないと言明せられておりまする手前、この矛盾を政府はいかにして解決せられんとするか。歳末を前にして、特殊な金融措置というようなものでも考慮せなければ、倒産者は続出することに相なるでございましようし、このことが合理化遂行上やむなしという御見解でありまするかどうか、この点をお伺いしたいのでございます。総理は、日本経済は本格的復興に進みつつあつて御同慶の至りであると述べられましたが、われわれは、むしろ憂慮の至りにたえないのでございます。(拍手)この点、総理並びに大蔵大臣、経本長官の御所見を承つておきたい。
 シヤウプ博士の勧告書を基調として、広汎なる税制改正が本国会の重要な議題と相なるでありましようが、われわれもまた勧告書を拜見して、シヤウプ・ミツシヨンの労を多とするものでございます。しかしながら、ドツジ・ラインと表裏一体に置かれましたこの勧告は、やはり資本主義的な合理性を貫こうとするものでございまして、日本の実情と必ずしもマツチせない面を随所に発見いたすのであります。個々の問題は委員会に讓るといたしまして、政府は一体この勧告を金科玉條として、このそで陰に隠れんとするのか、これに十分の伸縮性あるいはフレキシビリテイを認めていらつしやるかどうか、そして、日本の実情にアダプトして考えられるかどうか、この点をお伺いいたしたいと思います。
 また税の徴收に関しまして、総理の演説の中においては、公正ならざる徴税に対しまして遺憾の意を表し、この積弊は一朝にして拂拭できがたいと述べられておられます。これこそ私は遺憾にたえないのであつて、いやしくも責任ある政府というものは、徴税機構の刷新充実を行い、苛斂誅求の絶無を期さなければならぬのでございます。豪毅果断、行政整理を勇敢にやつてのけられた首相としては、まことに歯切れの惡い表現でございます。本年は、所得税だけでも昨年の七割を余計に増徴する。かりに補正予算で若干の軽減を見るにいたしましても、その徴税は容易ならない困難が予想せられます。公正なる徴税のでき得ざる責任を国民の側にも負わしめようとする表現は言語道断であつて、この点明確なる答弁を煩わしたいのでございます。(拍手)
 補正予算が明示せられない今日、これに言及することは他日の機会に讓ることといたしますが、総理は力を災害復旧にいたすということを特に強調せられました。これはまことに同感でございます。そもそも連年災害の起りますゆえんのものは、国土の裝備がまつたく脆弱化してしまつたからでありまして、そのために起る災害から国民を守るということ、これは政治の最もプリミテイヴな基本線でなければなりません。かかる災害というような物理的な障害から民生の安定を守り得ずして何の文化国家ぞやと私は言いたい。されば、減税に対しまして散発的に区々に財源を支出いたすことよりは、むしろ一括したものをまとめて、これを重点的に、災害対策というような方面へ、大幅に支出することが望ましいのでありまするが、それに対する御用意はいかがであるか。総理は、治山治水、あるいは電源開発等の根本的、総合的国土開発を呼号いたされておりまするが、聞くところによれば、補正予算の数字は比較的僅少であつて、この点もしも数字が明確にせられ得るならば、この機会にお示しを願いたいのであります。
 さらに私は、もう一点シヤウプ勧告に関連をいたした地方税の問題に触れて参りたいと思う。シヤウプ勧告のおもな中心は、所得税その他の国税よりも、むしろ地方税にあるのではないかと私は考えておるものでございます。地方の独立財源として特別な財源を付與して地方自治の強化をはかることは、これは了承いたすものでございます。入場税、飲食税、附加価値税というようなものを中心とする都道府県の財政は、かえつて弱体化するおそれはなかろうかどうか。また住民税、不動産税を中心といたしまする市町村の財政が大きな重荷を背負うというようなことも、この際指摘しておきたいのであります。ことに、市町村にこれらの税を取立てるだけの徴税能力や徴税技術というものが現在あるかどうか。町村財政にボス支配に基く不公正が起つたり、あるいはこの不動産に関して地域的に非常に地域差があるのでありますが、これを無視されるというようなことも大きな懸念でございます。これに対しましては、大蔵大臣並びに木村国務大臣は本日いらつしやいませんが、御答弁を他日伺いたいと考えております。
 今や、ようやくにいたしまして、戰後の欠乏経済、飢餓経済から脱却せんとするにあたり、戰争以来もろもろの統制が解除せられんといたしております。これは、けだし経済の自然でございまして、私はあえて民主自由党のお家の芸であろうとは思わない。日本経済は、その基盤たるところのきわめて狹小なる国土、貧困なる資源及び厖大なる人口に制約をせられまして、いたずらに野放図なる自由放任が許さるべくもないことは当然であります。私どもは、その間合理的な計画性というようなものがどうしても必要であると考えるものでございまして、統制をはずして自由に移行するところのこの過渡的なフリクシヨンを、できるだけ手ぎわよく避けて参らなければならないと思う。一例を申し上げるならば、たとえば本年蚕糸の統制を不用意に解いたがために、本年度におけるところの繭の買いあさりのごとき現象と相なつて、養蚕家や製糸家を大きなスペキユレーシヨンに巻き込んでしまつておる。あるいはまた、いも類の統制撤廃、これも最近大きな話題でございまするが、これまた危險きわまるものでございまして、これは後刻農林大臣にお尋ねをする予定でございます。経済安定本部の功罪は、いろいろな角度から論議がありましようが、今やその機構は著しく縮小せられております。この際、青木安定本部長官は、これらの統制から自由経済への移行を、どのような考え方に基いて策定をなされておられるか、これを伺いたい。各種公団等も漸次廃止の方向へおもむくようでありまするが、これらを官僚統制から切り離しまして、協同組合等によるところの民主的な、自主的な統制に切りかえる考えはないか、また、安定本部がそのスタツフを動員して作業をしたところの五箇年計画は、先ほど、どなたかも触れられたように、今日はいずこにあるか。聞くところによりますと、総理の一喝にあつて、日の目を見ずに終つてしまつたと、こういうふうに聞くのでありまするが、日本経済が困難であればあるほど、科学的なデータに基く長期計画の必要性、これを私どもは痛感いたしまするがゆえに、あえて青木長官にお尋ねをいたすものでございます。
 もう一つ青木さんに伺いたい問題は、物価の趨勢についてでございます。米価に関しましては、パリテイ指数を中心といたしまして、相当値上がりが予想せられるのでございまするが、近く電力料金も値上げになるというし、あるいは貨物運賃も上げられるという状況に相なつておる。また人事院は新給與ベースを勧告するというような状況に相なつて参りまして、これらは、一般的物価改訂が必至であることを示す條件でございます。しかるに総理は、賃金ベースの改訂を行わない、こう明言いたしておりまするが、はたしてこの主張が貫徹せられまするやいなや。昨今の安定恐慌を突破いたしまするためには、産業資金を思い切つて供與することが必要である。また追加購買力が付與せられることによりまして一連の経済循環が始まりまするならば、おそらくは物価をこのままにすえ置くということは困難でありましよう。明年度予算の單価を、大蔵大臣は楽観的な見通しにおいて策定をしておられるようでございまするが、おそらくこの物価関係が来年度予算にどのような影響をもたらすか、これをもあわせ伺いたいのであります。
 次に私は森農林大臣にお尋ねをいたしたいのでありますが、戰後の日本農業は着々と回復をいたして参りましたが、これを戰前と比較いたしまするときには、著しい変貌が起つて参つております。農地改革が行われ、協同組合が設立され、近代農村建設のためのいろいろな手が打たれております。食糧の絶対量の不足は、国際農業と無競争関係に置かれておるわが国農業に対して、外国農業の脅威を当分の間は防いでおりましよう。けれども、今や供出は日々に強化せられ、税金は隠すところなく徴收せられ、しかも農産物価格は、主食なるがゆえに、きわめて低位に置かれておるのでございます。
○副議長(岩本信行君) 井手君にちよつと申し上げますが、時間が参りましたので結論をお願いいたします。
○井出一太郎君(続) 一方、購入生産資材は漸次統制を解かれ、補給金は撤廃と相なり、農産物と工業生産品との不等価交換が顕著になつて参りました。こうした條件を背景といたしまして、まず私の伺いたいのは、日本農業における食糧自給程度、この限度をどこに策定するかという問題でございます。すなわち、今や講和会議が近く、二つの世界にはさまれたこの非武裝国家において、食糧の確保こそは最も緊要な要件でございます。見返り資金の大部分を食料の輸入に使つておる現状において、われわれは、できるだけ多くの食糧を、みずからの手によつて確保しなければなりません。そのためには、土地改良あるいは技術の指導ないし開墾等が考えられまするが、しかしながら、これに全力を傾注いたすとしても、一定の限度というものが必ずやあるでありましよう。従つて、一方において輸入食糧二百万トンというものとにらみ合せて、農林大臣はどこに日本の食糧自給の限界を求めようとするか、この問題についてお伺いをいたしたいのでございます。
 さらにまた、それに関連して伺いたい問題は、このほど来話題となつておりまする米券の問題でございます。民主自由党の諸君は、しばしば思いつきにいろいろな案件を放送いたしまするが、この米券も私はその一つではないか、このように思うのでございまするが、前国会以来、継続審議という、あのむりな措置をもつて、今日に至つておりまする食糧確保臨時措置法の改正の問題と、この米券制度とは、真正面から衝突をいたすはずであります。これに対しましては、おそらくただいま、農政専門家であられたところの森大臣も、相当に苦心を重ねておらるると思いまするが、食確法をたな上げいたしましたこの後、一体どのような始末をつけるか。また国会は当然継続審議をする義務があると思うのでありまするが、この扱いに対して伺いたいのでございます。
 また米価が四千二百五十円という決定が近々になされるというように聞いておりまするが、これでは一体生産者の期待をまつたく裏切るものであつて、米価審議会が先に答申いたしたところの四千七百円を、まつたく無視し去つたものであると言わなければなりません。今日の農家は、供出と税金ではだかに相なつており、公正なる農産物価格に唯一の突破口を求めておるのでございます。パリテイ指数は政治的の操作によつていかようにもできるものであり、生産費を加味したところの適正米価の設定が望ましいのであります。おそらくは、かかる低米価の不合理性は、森大臣の最もよく御承知になつておられるところと思いまするが、これに対しまして、大臣自体は満足しておられるかどうか、この点をも伺いたいと思うのでございます。なお若干の問題を私は残しており、通商産業大臣あるいは厚生大臣にもそれぞれ質問の通告がしてございまするけれども、議長よりの御注意もありまして、大体以上に限定をいたしましてご質問を申し上げます。何とぞ明快なる御答弁を願いまして、私の質問を終わります。(拍手)
    〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) お答えをいたします。
 講和に関して、当局者たる政府としては、これに対してかれこれ申す自由を持つておりません。また言わない方がいいと思いますが、国民はかかる希望を持ち、かかる期待を持つということは、自由に発表して、むろんさしつかえないことであります。また單独講和、全体講和がいいか惡いかという問題は、実は政府としては、ないのであります。政府としては、その選択の自由はないのであります。これはまつたく外交の環境によつて、事情によつて、單独講和となり、全体講和となりますか、一に外界の事情によるものと御承知を願いたいと思います。
 また、わが民主自由党がウルトラ・コンサーヴアテイヴなりやいなやということは、各自の批評にまかせまするが、しかしながら、はたしてどうであるかということは、補正予算あるいは本予算等の予算についてお考えになつたならば、わかるであろうと思います。あえて説明はいたさない。
 東亜諸国との提携云々ということがございます。主義としては、むろんけつこうでございますが、今日は政府としては、具体的にこうする、ああするということを言う自由がないのであります。
 また、建設復興の途上にあると言つたのは間違いである、まことに憂慮にたえないというお話であるが、私は、憂慮にたえる、たえないのではない、前途はなはだ洋々たるものがあると確信いたすのであります。すでに食糧その他の問題は解決いたしておりますし、今日としては、さらに建設的の問題を取上げて、現に予算に組み得ておる次第でございますから、補正予算の場合において御検討くだすつたならば、この問題も、自然あなたの心配も解けるであろうと思います。
 その他は補正予算が出た上でさらにお答えをいたします。(拍手)
    〔国務大臣青木孝義君登壇〕
○国務大臣(青木孝義君) 井手さんの御質問に対してお答えを申し上げます。
 現在は、ドツジ・ラインによる均衡財政、金融の正常化を嚴格に実施して半年余であります。ようやくインフレーシヨンが收束した段階に達したと考えるものであります。政府といたしましては、この上に立つて経済の自立と復興とを推し進めて行きたい所存であります。なお実施の途上において生じた輸出の不振であるとか、あるいは建設投資の不円滑等も多少はございますけれども、インフレの再発を招来しない限度におきまして、極力これが是正に努めたいと考えておる次第でございます。
 なお、本年四月経済安定施策を実施いたしまして以来、先ほど鈴木さんのときにもお答え申し上げましたけれども、政府としては、この際名目的な賃金ベースの改訂を避けて、減税や生活必需品等を充実することによつて実質賃金の増加をはかつて行く考えであります。
 それからもう一つは、戰後の経済統制は、生産の上昇によりまして、供給の増加と、それに伴う実効価格の下落によつて、統制が不必要となつた物資が多くなつたので、政府といたしましては、それらの物資については漸次統制の撤廃を進行いたしておる次第であります。(拍手)もちろん現状把握を忠実にいたしまして、経済の実勢に伴つた統制の撤廃、緩和をいたして参る所存でございます。(拍手)
    〔政府委員小野哲君登壇〕
○政府委員(小野哲君) 井手さんの御質問中、所管事項につきましてお答えをいたしたいと存じます。
 井手さんの御質問は、主として市町村税に関することと拜承いたしたのでございまするが、その徴税能力の点につきましては、最も充実をいたさなければならない地方自治体が市町村でありますことは、シヤウプ勧告にも示されておるところでございまして、政府といたしましても、この線に沿いまして、できるだけ市町村に事務を委讓いたしますとともに、その独立財源の強化をはかりたいと考えておるのでございます。この場合、市町村の徴税能力をあわせ考えなければならないことは、もちろんでございまして、現実の市町村の徴税能力は、このままでは、これらの新しい租税の徴收に対して十分でないという点もありますので、できるだけ徴税機構の拡充に対して努力をいたしたい、地方税法改正の際に万般の措置を講じたい、かように考えておる次第でございます。
 なおまた不動産の課税については、地域差の点を考えておるかという御質問であつたように思いますが、この点につきましては、その尺度といたしまして、不動産の時価の差というふうに解釈をいたしますと、当然地域差を考慮しておることに相なつておりますので、特に賦課率の点で地域差を設けるということは、この不動産税が收益税であるという性質から考えまして、適当ではないと考えておる次第でございます。
 なおお説のごとく、市町村に租税が委讓されましたあかつきにおきましては、その運営につきましては愼重かつ万全の措置を講じたい、かように考えておりますことを申し述べておきたいと存じます。(拍手)
○副議長(岩本信行君) 農林大臣は渉外用務のために退席されましたので、農林政務次官坂本實君。
    〔政府委員坂本實君登壇〕
○政府委員(坂本實君) 農林大臣にかわつてお答えを申し上げます。
 まず第一点の、日本農業におきまする食糧自給度の限界はいかんというお話でございますが、食糧自給率の向上は、日本経済再建上必須の條件であると考えられるのでありまして、今後ますます食糧の増産に力をいたさなければならないことは申すまでもないのであります。すなわち、土地の改良、耕地の拡張及び災害農地の復旧の施策に重点を置きまして、また一面農業技術の改良普及及び農業用資材の増産及びその品質の向上をはかり、農業経営の合理化に意を用いる所存でございます。しかしながら、完全なる食糧自給は、過去並びに現在から見まして、なかなか困難だと思われるのでありまして、現在の配給基準量を確保いたしまするためには、二割五分程度の食料輸入が必要でありまするが、今後も人口の増加、あるいはまた人口の増加によります需要の増加、さらにまた作況等を考えまするとき、当分この見当の輸入は必要であろうかと存ずるのであります。
 次に米券制度についてのお話であつたのでありまするが、国内産の食糧の最大限のものを政府によつて集荷いたしますることは、今日われわれが努力をして参つたところでございます。今日の供出制度におきましても、なお若干の不備欠陷がありますることは認めざるを得ないのでありまして、民主自由党におきまして、米券制度を利用することによりましてその欠陷を補い得る、かような見地からこの案が研究されておるのでありまするが、政府といたしましても、ただいまこの案につきまして研究を進めておるような次第でございます。
 さらに米価の問題でございますが、今日なお米価の決定を見ないことは、まことは遺憾に存じております。本年米価の決定につきましては、早くから農業団体あるいは農民団体からも御要請があつたのでありますが、政府といたしましては、国会の御意思も尊重いたしまして、各界各層から委員を選びまして米価審議会をつくつたのであります。生産者、消費者ともに、いろいろ活発な御意見が出たのでありまして、われわれは、この米価審議会の結論の趣旨に基きまして、できるだけこの決定の米価に落ち着きまするように努力をいたし、せつかくただいま関係方面と折衝中でございます。
 さらにかんしよの統制撤廃につきましての尋ねでございます。本年度のかんしよの生産事情、配給事情及び食管特別会計の操作能力等を勘案いたしまして、このかんしよの統制撤廃について、いろいろ研究を進めて参つたのでありまするが、供出後の自由販売という方向に向つて、政府は司令部と折衝中でございます。まだ結論を得ておらないのでありますが、今申しまするような意味合いにおきまして、司令部との折衝を続けているところでございます。(拍手)
○副議長(岩本信行君) 大蔵大臣の答弁は適当な機会に願うことにいたします。
    ―――――――――――――
○山本猛夫君 国務大臣の演説に対する残余の質疑は延期し、明十一日定刻より本会議を開き質疑を継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。
○副議長(岩本信行君) 山本君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○副議長(岩本信行君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後四時二十三分散会