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格差論争 ピケティ教授が語る

10月17日 13時10分

飯田香織デスク

格差は拡大しているのか。どこまでの格差なら許容できるのか。そんな世界的な論争のきっかけとなった本が「21世紀の資本論」です。
著者は、フランスのパリ経済学校のトマ・ピケティ教授(43)。アメリカではことし春の発売以降、半年で50万部のベストセラーとなり、多くの言語に翻訳されています。“ピケティ旋風”の裏にあるのは何か、経済部・飯田香織デスクの解説です。

300年のデータで実証

「21世紀の資本論」は英語版で685ページにも及ぶ、漬け物石のような分厚い本です。特徴をひと言で言えば、何となくみんなが思っていることを「実証」しようとしたことです。

ピケティ教授は、20か国以上の税金のデータを、国によっては300年前までさかのぼって集め、「所得」と「資産」を分析。日本については明治時代から調べています。

その結果、▽資産を持つ者がさらに資産を蓄積していく傾向がある、▽格差は世襲を通じて拡大する、と指摘しました。

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ピケティ教授は、NHKとのインタビューの中で、次のように語っています。

Q:
「21世紀の資本論」で伝えたかったことは何ですか?

ピケティ教授:
欧米や日本などでは、暮らしは楽にならないのに、金持ちばかりがいい思いをしていると感じている人が増えています。多くの人が今の資本主義の姿に疑問を持つようになっているのです。 私は、誰のもとにお金が集まってきたのか、歴史をさかのぼって明らかにしたいと思ってきました。所得税制度が作られたのは、フランスなど欧州各国やアメリカでは1900年前後です。日本ではもう少し早く始まりましたね。相続や資産に関するデータについては、イギリスやフランスでは18世紀にまでさかのぼることができます。無味乾燥なデータが、実は、私たちの暮らしそのものを表しています。

Q:
調べた結果、何が分かりましたか?

ピケティ教授:
とりわけヨーロッパや日本では今、20世紀初頭のころと同じくらいにまで格差が広がっています。格差のレベルは、100年前の第1次世界大戦より以前の水準まで逆戻りしています。

Q:
資本主義が問題なのですか?

ピケティ教授:
資本主義を否定しているわけではありません。格差そのものが問題だと言うつもりもありません。
経済成長のためには、ある程度の格差は必要です。ただ、限度があります。格差が行きすぎると、共同体が維持できず、社会が成り立たなくなるおそれがあるのです。どの段階から行きすぎた格差かは、決まった数式があるわけではありません。だからこそ過去のデータを掘り起こして検証するしかないのです。

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水はしたたり落ちなかった

富裕層と一般の人の間には、はじめは大きな格差があっても、経済成長による賃金の上昇などを通じて、上から下に水がしたたり落ちるように富が広がり、格差は徐々に縮小していくと言われてきました。

しかし、ピケティ教授は、20か国以上のデータを分析した結果、日本を含めたすべての国で、そうではなかったと指摘。例外は、皮肉にも2つの世界大戦の時期で、このころだけは格差は縮小したとピケティ教授は言います。

なぜ格差は広がったのか。

富を手に入れる方法を単純化すると、▽一般の人のように、働いて賃金やボーナスを受け取る方法と、▽資産家のように、金融資産の利子や株式の配当などを受け取る方法があります。

ピケティ教授は、富裕層の資産が増えるスピードが一般の人の賃金などが増えるスピードを上回っていることが問題の根源だと強調。つまり、働いて稼ぐよりも相続や結婚などを通じてお金を受け取るほうが手っ取り早いというのです。

そして、▽資産を持つ者がさらに資産を蓄積していく傾向がある、▽格差は世襲を通じて拡大すると結論づけました。

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分厚い経済専門書がいったいなぜここまで幅広く受け入れられたのか。ピケティ教授は大きな背景として、次のように述べています。

今、世界では、排外的な動きや極右の動きが広がっています。この裏には、格差問題を簡単に解決できず、それにみなが気づいていることがあります。国内で平和的に解決できないと、国どうしの緊張、世界レベルの紛争につながってしまいます。
こうした不安に加えて、私は、富裕層の側にも、このまま格差が拡大して分厚い中間層がなくなると、ビジネスが成り立たなくなるという警戒感があることも背景にあると思います。これは、アメリカの企業経営者や政府関係者と話していて、特に感じることです。

低成長、人口減少の日本

ピケティ教授は、日本についても語っています。低成長、人口減少が続くと、格差が拡大しやすくなると警鐘を鳴らしました。

日本は見事に逆戻りしています。1950年から1980年にかけて目覚ましい経済成長を遂げましたが、今の成長率は低く、人口は減少しています。成長率が低い国は、経済全体のパイが拡大しないため、相続で得た資産が大きな意味を持ちます。
単純に言うと、昔のように子どもが10人いれば、資産は10人で分けるので、1人当たりにするとさほど大きな額になりません。
しかし、1人っ子の場合、富をそのまま相続することになります。一方、資産相続とは縁がなく、働くことで収入を得て生活する一般の人たちは、賃金が上がりづらいことから富を手にすることがいっそう難しくなっています。その結果、格差が拡大しやすいのです。

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では、どうする?

それでは、いったいどう対応すればよいのか。

この論争で賛否が激しく分かれているのが「解決策」です。ピケティ教授は、富裕層に対する課税強化を訴えています。

格差を縮小するには、累進課税が重要で、富裕層に対する所得税、相続税の引き上げが欠かせません。国境を越えて資金が簡単に動かせる今、課税逃れを防ぐために、国際的に協調してお金の流れを明らかにするなど、透明性のある金融システムを作ることが必要です。

これには、世界中の富裕層などから猛烈な反発が起きました。稼いでもその多くを税金として納めるとなると、新しいアイデアやビジネスを生み出す意欲がそがれて、経済全体が停滞してしまう、というのです。
富裕層の富の拡大を抑えるのではなく、最低賃金を引き上げたり教育の機会を充実させたりして、一般の人の収入を底上げするべきだという意見も出ています。

広がる論争

この格差の問題、最近、国際会議でも大きなテーマになっています。また、この夏以降、アメリカの大手金融機関や格付け会社が相次いで「行きすぎた格差がアメリカ経済を弱くする」などと指摘。資本主義をいわば象徴する組織の報告書に、正直驚きました。

世界の議論は、格差のあるなしではなく、「格差は拡大している」というのを前提にして、いかに是正していくかという、新しい段階に入ったと私自身は感じています。日本を含めた各国で、どう議論が深まっていくのか、注目して見ていきたいと思います。

この論争に一石を投じたピケティ教授の本の日本語版は「21世紀の資本」として12月に発売される予定です。すでに「21世紀の資本論」として広く知られているため、この特集ではそのように統一しました。


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