私の一枚

名門校入学の絶頂からどん底の引きこもり 山田ルイ53世さん

  • 2015年11月16日

山田ルイ53世さん(髭男爵)の人生の絶頂期という、兵庫県の名門校・六甲中学校の入学式の写真

写真:お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さん(撮影/中島慶子) お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さん(撮影/中島慶子)

写真:マガジンハウスから発行されている自伝「ヒキコモリ漂流記」 マガジンハウスから発行されている自伝「ヒキコモリ漂流記」

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 これは中学校の入学式で父が撮影した写真です。この日は親子共に人生の絶頂期でした。私立の名門中学を短期間の勉強で合格し、僕は自分を神童と思い、父もテンションが高かった。当時、合格者の父親はいわゆるエリートが多く、高卒の公務員だった父はそこに自分がいたことに上機嫌で。が、この後、僕は約6年に及ぶ引きこもり生活に入るのです。

 この頃の僕はとてもまじめでした。家が遠く、毎日早朝に起きて片道2時間かけて通学。それでもサッカー部に入り、文武両道で毎日くたくたでした。クラスに友達はいても、高級ホテルで誕生パーティーを行うような裕福な家庭の子が多く、僕は彼らをうっすら憎んでいたような気がします。両親も厳しくて、そのストレスで中学受験前からあった「段取り癖」が悪化。勉強の前に行う整理整頓も部屋のゴミの全てを取り去り、家具や文房具などあらゆるものを拭くような病的な状況となり、心も体もパンパンに張りつめていた。

 そんな中学2年生の夏休み直前、朝の通学路で便意をもよおし、もらしてしまったんです。

 最初の頃は、朝に親との「学校に行く、行かない」の攻防に勝利すると安心して一日が終わっていました。しかし、それに慣れると本当につらくなって。一番エネルギッシュな時期に体力と暇を持て余し、誰かと話をしたい、社会とつながりたいという欲求が募りましたが、学校にはどうしても行かれず。徐々に太って洋服が入らなくなり、部屋で半裸生活をしていました。家の屋根で日光浴をしたり、天体望遠鏡で道行く人を眺める。そんな奇行を近所からも責められ、余計に孤独感が強くなりましたね。

 中学卒業後は、親から強く言われてコンビニのアルバイトだけはしていました。引きこもり生活はまるで着ぐるみをかぶっているようで、いつか脱ごうと思いつつ6年も続いたのです。が、さすがに成人式の時にみんなが自分とは違う階層に行ってしまうという危機感を抱き、一念発起して大検を受け、愛媛の大学に合格。そこでお笑いの道に興味を持ちました。その後も失踪同然に上京し、自己破産したりといろいろあった約10年の下積みを経て、ようやくお笑いで食べられるようになった次第です。

 今も不安定で決して安全地帯に入ったわけではありません。でもあの引きこもり時期の寂しさや焦燥感を考えると全然へっちゃらです。「どこにも属せない人」の気持ちもわかり、陰気な話を笑いにできることは、あの時期があった自分だからこそだと思っています。

    ◇

やまだ・るい・ごじゅうさんせい お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。大検合格を経て、愛媛大学法学部夜間コースに入学。大学を中退し芸人の道に。2008年ごろからブレークし、現在は「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」などのレギュラーなど、テレビやラジオで幅広く活動中。

◆山田ルイ53世さんが、自らの引きこもり体験を赤裸々に語った自伝エッセー「ヒキコモリ漂流記」がマガジンハウスから発売中。名門中学に合格した神童が、引きこもりとなり、大検を受け大学に入学後、失踪するように上京してから芸人になった現在までが描かれる。そんな七転び八起きの人生から学んだやり直しのルールを伝授する。

 「自分のつらかった時期の経験を書くことで、ようやく債務整理をしたような気分です。この本は決してサクセスストーリーではなく、へこんでいる時も安心して読める白湯(さゆ)のような本です。現在引きこもっている人やその親御さんが読んでいただくことはもちろんですが、一般の方でも落ち込んでいる人、どこにも属せていない人、負けていると感じている人などにぜひ読んでいただきたいと思います」

(聞き手:田中亜紀子)

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