道路使用許可を中原署に申請 ヘイト問題で公園不許可の男性
- 社会|神奈川新聞|
- 公開:2016/06/02 00:30 更新:2016/06/02 02:03
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津崎氏(左手前)にデモをやめるよう訴える崔さん(右)=川崎市中原区
同署は申請を受理した。県警警備課は「新しい法律の理念を説明し、デモを中止するよう促した。厳正、冷静に判断し、開催の24時間前までに結論を出す」としている。
男性は同市在住の津崎尚道氏。川崎区の公園を集会とデモの集合場所として利用申請していたが、市は5月30日、ヘイトデモが行われる可能性が高いとし、ヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして市民の安全と尊厳を守るため、不許可にしていた。
同署によると、デモは5日午前11時半から午後0時半の時間帯に、10~50人の参加を見込んでいると説明しているという。出発地やルートは決まっていない。
中原区道路公園センターによると、区内の公園に対する利用申請は1日までに出ていない。
在日コリアン「子ども傷つけないで」
津崎尚道氏がデモ申請の手続きを終えるのを、崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(42)は中原署内で待った。デモ申請があった際は受け付けないでほしいという思いを署に伝えるため、足を運んでいた。
津崎氏はわが街、川崎市川崎区桜本を標的にヘイトデモを繰り返してきた。小声で「怖い」。でも、覚悟を決めた。
姿が見えた。歩み寄る。在日コリアンであることを告げ、名を名乗った。
「津崎さん、デモをやめていただけませんか。差別をやめていただけませんか。誰も幸せになりませんよ」
それには答えず津崎氏は外へ。崔さんは報道陣より先に後を追った。
「私の首を絞めますか、真綿で首を絞めますか」
津崎氏は直近1月のヘイトデモで「桜本は日本だ。デモをやって当たり前だ。終わらせてやる。一人残らず日本から出ていくまで、じわじわと真綿で首を絞めてやる」と発言していた。「桜本」「終わらせてやる」の発言に、標的は自分自身なのだと崔さんは受け取った。
津崎氏は見下したように言った。
「あなたのような相手に私が犯罪を犯して、牢屋(ろうや)に入るようなバカなことはしませんよ。以上」
署の入り口の門の外で立ち止まった津崎氏だが、崔さんに向かい合おうとしない。それでも諦めない。
「津崎さん、もういいじゃないですか。差別をやめて共に生きられませんか。差別をやめて共に幸せに暮らしましょうよ」
人を傷つけ、差別をする人生が幸せであるはずがない。「共に生きよう」「共に幸せに」-。それは崔さんが地域の社会福祉法人青丘社の職員として寄り添う桜本の子どもたち、若者たちが次なるヘイトデモに備えて作った横断幕に書かれた言葉でもあった。
「子どもたちをこれ以上傷つけないでください」
津崎氏がたしなめるように「子どもをだしに使わないでください」と言うと涙があふれた。「だしにしてない。大切だから守りたいんです」
「そういう感情論はいらねえんだ」と吐き捨てた津崎氏は決して目を合わそうとしない。崔さんは続けた。
「言いたいことがあればデモじゃなく、いま私に言ってください。いま首を絞めますか。目の前にいますよ。気が済むならそうしてください」
「いまごろ都合よく泣き落としをするんじゃない!」といら立ちをあらわにする津崎氏。崔さんはなおも「津崎さんのお話をうかがいますから、私の話を聞いてください」「お願いします。もうやめましょうよ」と何度も何度も懇願した。
津崎氏は「うるさい」と声を荒らげ、「何度言ったら分かるんだ、やめる気はない!」。
崔さんは追いすがって手紙を差し出した。
そこには、こう書かれていた。
〈津崎さん。私は、できなくなってやれないのではなく、あなた方の良心でもって、あのヘイトデモをやめてほしかったですし、今でもそう願っています。
津崎さん。私たちの出会いは悲しい出会いでした。
津崎さん。私たち出会い直しませんか。加害、被害の関係から、今この時を共に生きる一人の人間同士として出会い直しませんか。
加害、被害のステージから共に降りませんか〉
津崎氏は手紙を受け取ることなく、立ち去った。その背中に崔さんは振り絞るように言葉を掛けた。
「幸せに生きてください、津崎さん」
この間、約20分、津崎氏は崔さんの目をまともに見ることはなかった。
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