【富良野、南富良野】JR北海道が根室線の富良野―新得間について、廃止を伴うバス転換を検討していることが明らかになった。現実になれば、布部、山部、下金山、金山、東鹿越、幾寅、落合の7駅が廃止の対象となる。沿線はしばしばテレビドラマや映画の舞台となっており、ゆかりの駅舎を訪れる観光客や近隣住民は、突然の廃止論議を複雑な気持ちで受け止めている。

 「北の国 此処(ここ)に始(はじま)る」。脚本家倉本聰さん直筆の木製看板があるJR布部駅。テレビドラマ「北の国から」の第1話が撮影され、ファンの間で「聖地」と呼ばれる。待合室には訪れた人が思いをつづる「旅ノート」が置かれている。連日多くの書き込みがある中、JRによるバス転換の検討が報じられた25日には早速、「布部駅も廃止になるのかと思うとさびしい」というコメントがあった。

 ドラマのファンで、原付バイクで道内を旅行中に同区間の廃止検討を知ったという佐賀県鳥栖市の会社員松隈亮さん(42)は26日、同駅を初めて訪れ、「もし布部駅も無くなったら、この集落の顔が無くなってしまうのでは」と惜しんだ。

 「北の国から」は富良野市内を舞台に1980年に撮影が始まり、81年に放送開始。シリーズ化され、2002年まで放送された。

 布部駅近くで商店を営む坂口道郎(みちお)さん(80)は、駅周辺で行われた撮影の様子を鮮明に覚えている。「駅前の通りで、岩城滉一さんがバイクを乗り回すシーンを撮影していた。あのころは有人駅舎だった」と振り返り、「布部地区はお年寄りも多く、自分もたまにJRを利用する。もし鉄路が廃止になれば、困る人も多いだろう」と懸念した。

 幾寅駅では、99年に俳優高倉健さん主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」の撮影が行われた。駅舎の外観は高倉さん演じる駅長が勤める「幌舞駅」として使われ、当時のまま保存されている。駅舎内には衣装やサインなどの資料が展示され、撮影から17年たった今も、年間2万5千人ほどの観光客が訪れる。

 8月下旬の大雨で、幾寅駅のある東鹿越―新得間は依然、不通のまま。駅舎にカメラを向けていた横浜市の鉄道カメラマン衣斐隆さん(41)は「台風被害から立ち直ろうとしている矢先に、廃止の話が出るとは。とても残念です」と、がっかりした表情を浮かべた。

 幾寅駅の「鉄道員」資料コーナーの管理を行っている南富良野まちづくり観光協会の小林茂雄理事は、JRの鉄路廃止の検討について「まさに寝耳に水。大変驚いた」と話す。

 高倉さんの人気は中国や韓国などアジア圏でも高く、近年は外国人観光客の姿も多い。小林理事は「訪日外国人が増える中で、廃止論議が浮上した。車の運転に不安がある海外客のためにも鉄路を残してほしいが、JRの経営は厳しい。複雑な気持ちだ」と話した。(渡辺拓也)