ファンタジスタ歌磨呂(以下、歌磨呂):もともと依頼されていたジャケットデザインに加え、アニメーションでミュージックビデオ(MV)も頼まれたんです。でも、アニメーションって作るのって大変だし、僕一人では出来ないし、「無理っす」って話をしていたんです。そんな時、HIFANAのコンピレーションMV企画で一緒になった(池田)一真くんの事を思い出して。彼のディレクションした鎮座DOPENESSのMV「WAKE UP FEAT. 鎮座 DOPENESS」が凄く好きだったんです。
アニメーション監督の万三郎は、ゆずの東京ドームのツアー映像を一緒にやったんですが、「次はもっとガッツリやろうぜ」って話をしてたところだったんです。
池田一真(以下、池田):最初の打ち合わせでは、初めて会うし、名前がファンタジスタって横文字だし、取り込まれない様に張っていこうなんて思っていたんですが、その3時間くらいの会議で異常なスピードで企画の骨子が出来ちゃったんです。
歌磨呂:予算的なことで、アニメのMVってループ素材多いよねって、最初はネガティブなとこからのスタート。
万三郎:アニメーションって予算が直接的にクオリティに関係する表現なんですよね。作れるカット数がどうしても少なく、ループになりそうなんだけど、ループってアニメーション業界ではタブーというか、使いまわし厳禁が常識。でも歌磨呂さんが、「ループがタブーって業界内のものでしかないから、その価値観をひっくり返せるんじゃないか」って。
池田:そう考えると全部腑に落ちた。転送(Transfer)でいろんな世界に行くことも、同じ動きをしているんだけど、映画「バタフライ・エフェクト」のように干渉し合って、本人も気付かない内に歴史が変わっていくこと。そういう女の子が主人公っていいよねって。
歌磨呂:ループのアイデアに行き着いたんだけど、最後のオチをどうするっていうのが、また大変だった。
万三郎:合わせ文字のアイデアっていうのは出ていたんですが、どう本編と繋がって終っていくかって悩んでましたよね。
――各シーンのネタは映像表現的な面白さやウィットの効いたもの、意味深なものなどと幅広いですね。
歌磨呂:一真くんを中心に“アイデアもの”と“映像表現もの”をバランスを考えて構成しています。モーショングラフィックス、ロトスコープ、アブストラクトなものなどアニメーションと合わせると面白くなりそうな表現を選んでいます。
池田:3人で箇条書き程度のネタ出しを自由にしていったんです。その後、話の仕組みをどう構築していくかという作業に移りました。
歌磨呂:基本となる舞台設定は、女の子が通学する同一の動きを効果的に見せていくこと。
池田:彼女は最初から最後まで通学しているだけなんですよ。周りで何が起こっていてもお構いなし。時間を移動しているというよりも、パラレルワールドの設定なんですね。違う宇宙にいるってことにしてもらってもいいですし。
――約30名のスタッフが関わって制作されたとのことですが、どのように進めたんでしょうか?
池田:万三郎くんの描いたオープニングの背景の無い状態、女の子が走るだけの素材をみんなで共有しています。大きく分けて3パートに分かれます。まずは万三郎くんのアニメーションパート。戦争シーンやギャートルズシーン等ですね。2つ目がモーショングラフィクス・パート。3つ目が静止画パートで、歴史ネタや結婚、お葬式シーンをフォトショップで納品してもらい、こちらで動かしているんです。モーショングラフィックスは、それぞれがコンポジットした状態まで仕上げたものを納品してもらっています。
――皆さんには女の子の走る素材と、各シーンの設定が渡されるんですか?
池田:はい、それと絵コンテを渡します。
万三郎:女の子の素材、まずは手描きの静止画を繋ぎ合わせたVコンテを、追ってマスク付きのQTデータを配布しました。
歌磨呂:万三郎の素材があってはじめて、背景の水平線のラインが見えてくるのでみんなに展開できるんです。パースが分かんないと背景が合わせられないんですね。
――オープニングシーンを担当された万三郎さんですが、基本設定となる通学路シーンのこだわりを教えてください。
万三郎:普通のアニメーションのオープニングのような質感や食パンや水かけババアといったベタで記号的なモチーフを盛り込んでいます。それが、次のシーンでいきなりガラッと変わって裏切るという構成になっています。
池田:ジブリアニメでもよく登場する水かけババアですね。
歌磨呂:平凡のアイコンとしてのマスターピースで、神様のような存在。これは、水かけババアのMVなんです(笑)。超安堵触媒系のささやかなトリガー。生まれた時から水撒きを自然にやっている設定なんです。フォルムには徹底してこだわって数百リテイクしていて、マクロスのバルキリーの第二形態、飛行機なのに足だけ生えているヤツあるじゃないですか? あのポーズを理想のフォルムとして目指してるんです。ロケーション撮影を兼ねて、浅草の仲見世で僕が水かけババア役をして撮影したんですが、日曜日だったから超混んでるし、恥ずかしかったなぁ。
池田:どのシーンに行っても水かけババアがいて、いつの時代もそこにいるのが面白い。目立つ山や神社といった案の中から水かけババアが選ばれた。
万三郎:普通のおばあちゃんが、シーンを重ねるごとに、世界を見てきた語り部のような存在になっていくんです。
■ 走る少女のこだわり
池田:パラレルになっている世界は、本編で描いている18の世界と最後のコマのみ登場するのを合わせると25シーンです。Vコンテを作って検証して、25シーンで1シーンあたり10秒のワンループと決定したのに、万三郎くんが描いてきた1ループがいきなり18秒だった(笑)。でも、見てる内にこのスピード感が気持ちいいねってなっちゃって。さすがに10秒じゃ無理があったか・・・と。
万三郎:ある程度始まりと終わりがないと脈絡がなさ過ぎて、10秒じゃきかなかったんです。こだわったところは、少ないカットでダイナミックに見えるような効率のよい絵作りです。それと、無意識に「奇跡の少女」的ニュアンスを感じてもらえるよう、戦場で流れ弾に一切当たらず走っているといったことを考えました。特にこだわっているのは4カット目と5カット目です。
一同:それどこだよ(笑)!
万三郎:踏込前と踏み込む所。足を踏み込むところは、どんな背景や設定でも置き換えが効くアングルを考えました。例えば地雷を踏んでも、足に何かが引っかかっても成立するような。
歌磨呂:背景と合わせていくってところでいうと、フィックス(固定)のカメラ・アングルが結構必要で、カメラワークの無い絵の中でどう面白く見せられるのかって知恵を絞んなくちゃいけなかった。
万三郎:最初は全部フィックスっていう予定だったんですよね。
歌磨呂:「面白い動き出来ね~な」ってなって。万三郎が準備した動きの参考資料で、俺らがいいねっていうのは全部カメラがガンガン動いてるやつだったしね(笑)。25シーン分の要素が絡んでくるから相当悩んでゲロはきそうだった。更に最後、各シーンが合わさってロゴになるオチだから、ロゴとして成立するよう背景を設計しておかなくちゃいけないんですね。
歌磨呂:僕は古城が一番面白かった。
池田:一番好きなのがこのディストピアワールド。
万三郎:自分が担当した所以外全部驚きました。僕の描いた背景に、いきなり戦車とかが追加されて上がってきたのにも、最初はびっくりしましたね(笑)。
池田:戦車とか兵士の人形を僕の方で追加しているんですが、「テイストが合わない」って万三郎から速攻連絡きたよね(笑)。
歌磨呂:万三郎は、もうね、ほとんど外人。専門用語のフルコンボ。元々ガチのアニメ畑の人間だから、彼にとってもこの作品は超トライだったよね。やっぱりテレビアニメとMVのような映像のアニメーションって違う。TVアニメのクオリティに近いMVってなかなかないし、そこには垣根があるんだなって思ってて。もう専門用語ばっかり使うからその都度キレまくってた。「分かんねぇよ!」って(笑)。僕の中では、そこがちゃんと融合するビデオを作るってこともテーマだった。おかげでアニメ用語はたくさん憶えました。
池田:そう、作り方のフローも変わってくるしね。アニメーションは関わっている人数が多いから、やりながら足したり、引いたり出来なくて、その辺のやりとりが大変だったね。
歌磨呂:万三郎はアニメーションディレクターとして、限られた予算で、セルアニメーションで、これだけ背景も描いて、クオリティが担保できるかどうかわかんない状態で、全体見ながらアニメーションを仕上げていく責任がある。強靭なイメージ力と度胸が必要。そういうのを皆でシェアしながらやっていったね。
■ 深夜に絶叫した納品一週間前
池田:オフラインで繋いだ時、一瞬みんな沈黙したよね。あまりにもテイストがバラバラすぎて。
歌磨呂:ある程度事前に色味のことは考えていたんだけど実際に並べてみると、うわ~ってなったよね。
池田:カラーコレクションと尺調整で最終的なバランスをとっていったんです。最後の一週間は地獄だった。
歌磨呂:更に最後のオチのロゴの所が成立するように、本編の色を反転させたり、剣の色を暗くしたりといった調整が必要だった。
歌磨呂:納品直前なのに、25シーン中終わっているのが15。またまた「やべー!」ってシチュエーションで、後に僕の相棒となる日本の未来、ターニーこと畳谷哲也大先生が大活躍してくれるんです。まだ23歳と若いアニメーターなんですが、とにかく尋常じゃない前のめりで全員をKOしちゃったんですよね。でも、めちゃくちゃ作業早いし、頭がいい。僕が超気合入れてフルバージョン作っていたら「歌磨呂さん、そこ頭、映んないから描く必要ないっすよ」って。ズコー! みたいな。
池田:あと勝手に煙みたいなの描いてきて、「このエフェクト全部に使ってもらっていいすよ」とか(笑)。
歌磨呂:超前のめり!
畳谷哲也(以下、ターニー):小粋に女性を落とすような気持ちでやりましたね。みんなのパワーが凄くて、いいモノ作りたいって、本気になりました。
歌磨呂:そういうところがいいよね。人のパソコンの画面めっちゃ見るし。普通、他人のパソコン画面を見るのって躊躇するじゃないですか。
ターニー:一番ぺーぺーなので吸収出来る時にしとかなきゃって思って。歌磨呂さんがパソコンで何かされてるのを見て、「あ、これ絶対見とかみなきゃ!」って。そしたら普通のメールでした。最近やっとその辺分かってきました。
歌磨呂:総天然色(笑)。でも、彼は作業するとき、その先もイメージしようとしてるからアニメーションには凄い向いていると思う。
■ シンプルなルールと共同作業
――万三郎さんに伺いたいのですが、「Transfer」のアニメーション業界からの反応ってどうだったんですか?
万三郎:通常アニメーション制作って、システム的にルールに沿わないと作れないので、こういう経験は新鮮でした。業界の友達には「よくやったね」とか、構造としてタブーとされているところにあえて触れてかかったところは羨ましがられました。ループって誰でも考えつくアイデアだけどやらない、あまりに飛び道具過ぎる。それをやりきったっていうのは価値ある挑戦だったなと思います。
歌磨呂:いや~疲れたね。僕は、もうMV卒業しました。
一同:えっ!?
歌磨呂:今もやってますけど、最初のプランとコンテだけ書いて監督に委ねます。
池田:ずっと言ってたね、これ卒業制作だって。
歌磨呂:それくらいの気持ちでやってたってことですかね。常に命かけれるかどうかっていうのをずっと考えてて、僕が関わるんだったら絶対に今までなかったものを作らないとやる必要がないって考えてる、もうそういう風にしか出来ないんですよ。「変わったことやってるぜ」って言いたいわけじゃなく、可能性という隙間、余白を作りたい。この作品だったら、アニメをやってきた人が見て、うわ、こういうやり方あるんだっていうような。チャラくない作品でなければいけないと思うんです。若い人にも、面白いことやってるって思ってもらいたい。僕も若いときミシェル・ゴンドリーとか見てそう思ったから。
池田:ディレクターとして仕事をしている人たちがこの作品に関わっていて、誰かの冠でやるんじゃんくて、こうやってチームでやるスタイルがもっと流行ればいいのにって思いましたね。タレントみたいに作品や監督を祀るんじゃなくてね。
歌磨呂:結局そういう考えって窮屈になってくるんですよ。インターネットは、みんなで育んで共有していける最たる象徴の場所。モノづくりの現場において凄い大事なことだし、そういうものの方が残る。「この監督のすげー」ってなっちゃうと、強迫観念みたいな感覚に陥っていくというか。少なくとも僕は、そういうものに意味を感じなくなってきた。僕ら作り手のウマ味っていうか感動出来るところって、やっているうちに想像してなかった奇跡生まれるところ。ここだけ守ろうっていうシンプルなルール作りに僕は集中して、あとはそれぞれが楽しめるようにっていうのがいいんじゃないかな。
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