PoIC とは?

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情報カードの新時代

2005年頃、David Allen 氏の提唱する GTDと相まって、アナログメディアである情報カード(Index Cards)が世界的に注目を浴びました。この流れをさらに推し進めたのは、非常にコンセプチュアルで示唆に富む、次の二つの事例でした。

デジタル世代の私にとって、このデジタル・ハイテクの時代に、アナログ・ローテクの「紙」が人気を回復しつつあるという事実は、たいへん興味深く、新鮮に映りました。また、これらを通じて「生産性 (Productivity)」や「創造性 (Creativity)」という言葉の存在を知り、自分の生産性・創造性とは何だろうか、また、それを向上させるにはどうしたら良いかを考える大きなきっかけとなりました。

このように、情報カードの「新しい波」は、インターネットを通じて、アメリカから押し寄せてきました。一方で、我が国には、梅棹忠夫氏の「知的生産の技術」(1969) を初めとして、情報カードと生産性に関する優れた本が豊富にあります。これらを融合し、デジタル世代の私たちにとって「何か新しいこと」、「何か面白いこと」はできないでしょうか?

PoIC のエッセンス

このマニュアルで紹介する PoIC (Pile of Index Cards:情報カードの積み重ね) とは、「情報カード」を使った生産性向上のためのシステムと、それに付随するメソッド(方法論)を指します。

PoIC のエッセンスは極めてシンプルに表現することができます。

  1. 頭の中のアイディア・身の回りの情報を、カードを使って収集する
  2. それを箱の中にすべて時系列で保存していく
  3. それをあとで利用し、新しい知恵・知識・成果の再生産を行う

PoIC の目的は、この3行を成し遂げるためのものにほかなりません。

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常に情報を収集する習慣

David Allen 氏は、「Getting Things DONE(以下、GTD)」(2002) の中で、たびたび「情報を収集する習慣の偉大さ (Great Habit of Collection)」について述べています。

「まだ収集していない情報をすべて収集する。そうすると、気分が楽になるでしょう。」(p. 232)
「生産性の向上を実現させるには、頭の中のすべての情報を捕らえる必要がある。」(p. 233)
「アイディア収集のプロセスをできるだけ完全に行うこと、新しいアイディアが浮かんだ時に捕らえる習慣を生活に織り込むことで、あなたはより生産的になるでしょう。」(p. 233)

この David Allen 氏の提案に対し、PoIC は一つの解を提示します。

GTD から PoIC へ

GTD の哲学は次の3つに集約することができます。

  1. 頭の中のモヤモヤを紙に書き出す
  2. 大きなプロジェクトを細かいタスクに分解する
  3. フローにしたがって機械的に処理していく

タスクが完了したところで、項目はリストから削除され、長期タスクはいつか/たぶん(Someday/Maybe)リストに放り込まれます。

しかし、人生におけるプロジェクトをすべてタスクやチェックボックスだけで表現することは、本当に可能でしょうか?

例えば、個人の生活において「車を買う」というプロジェクトがあるとします。GTD は、「カタログをもらいに行く」、「展示場に行ってみる」といったタスクやアクションはカバーできても、「そもそも自分はどういう車に乗りたいのだろう?」、「何色がいいかな?」といった自分自身の小さな記録や発見をカバーできないのではないでしょうか? 何かを成し遂げるための第一歩は、まず自分が何をしたいのかを知ることです。そのためには、タスクだけでなく、自分の記録や発見も積極的に収集すべきです。

PoIC では、これを実現する手段として、4カード(記録・発見・GTD・参照)を導入します。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

すべての情報を捕らえる

短周期・長周期の波を同時に捕らえることで、背後に隠れたトレンドやパターンを見つける(拡大する

私は、何か一つのことを始めると、すぐに他の考えが頭に浮かんできてしまいます。

例えば、仕事に関して何か難しいことを考えているほんの数秒後に、「今日の夕食は何にしようかな?」などと考えていることが良くあります。

頭の中の考えは、ランダムに浮かんできます。これらの事柄を、頭に浮かんだ順にそのまま実行していたとすると、一貫性のない行動になってしまいます。しかし、長期的な観点からすると、ランダムに見える思考の背後にも、必ずトレンドやパターンが隠れています。

人間の思考やその複合として起きる身の回りの出来事は、短周期のランダムな波と長周期の秩序立った波を足し合わせです(右図参照)。したがって、個人の生産性の向上を考えたとき、この二つの波を同時に捕らえることが重要となります。

私はこれを実現するために、デジタル、アナログに関わらず、いろいろな方法を試してみました。そして最後まで生き残ったのが「紙」を使う方法でした。

PoIC では、頭の中の考え・身の回りのすべての情報を 5x3 サイズの「情報カード」を使って捕らえます。ノートではなく、初めからバラバラのカードを使うことで、短周期・長周期の2つの波を同時に追跡します。

ストレス・フリー

私たちはこれから、プロジェクトに関連するアイディア・情報を、5x3 サイズの「情報カード」を使って捕らえていきます。

その中で、私たちの書くカードは、すべて「時系列」で蓄積されていきます。そして、カードが十分に貯まったところでカードを抜き出し、新しい知恵・知識・成果を「再生産」します。その時が来るまでは、検索・分類に煩わされることなく、情報収集に集中することができます。

カードシステムの構築

PoIC は、カードを使った生産性に関する本から様々な方法を取り込んだ、言わば、ハイブリッド・システムです。システムの構築にあたっては、長続きするように、シンプルかつ楽しいシステムになるよう心掛けました。

シンプルなシステム

このシステムは、カードが増えるにしたがって、中・長期プロジェクトにおける情報の貯蔵庫(データベース)へと変化していきます。

システムの中のカードの数は、日を追うごとに増え、すぐに数百枚・数千枚を超えるようになります。システムの中の情報の乱雑さ(エントロピー)は、時間と共に増えていきます。これは自然の摂理であり、避けられない問題です。もしシステムの構成要素やルールが複雑ならば、すぐにコントロールを失い、破綻してしまいます。紙を使うアナログのシステムでは、特にその傾向が強いと言えます。

そこでカギとなるのは、いかにしてシステムの中の情報整理にかかる労力を少なくし、余った力をアイディア収集に注ぎ込むかということです。私は PoIC の中で、システムの崩壊をまねくような、いかなるルールも排除しました。他のシステムではうまく働いていたとしても、アナログ、カードという特有の状況から来る制約のために排除した機能もたくさんあります。

このマニュアルを通じて伝えたいことの一つは、それらの機能を排除してもなお、知的生産は可能であるということです。むしろ、それらを見切ることで、システムは活き活きとさえしてきます。知的生産は一過性の流行でははなく、それこそ一生続いていく活動です。そのような長期間の使用に耐え得るには、結局のところ、Less is more、Simple is best という結論に辿り着きました。

PoIC は、数年・数十年の単位で使い続けることを想定してデザインされています。必要なのは、紙とペンと箱と、ちょっとした技術だけです。

PoIC 以上にシンプルなカードシステムは、この世の中に存在しないかもしれません。

楽しいシステム

私は自分の好きなことを始めると、なかなか止められないという傾向があります。良く言えば熱中性、悪く言えば中毒性です。

私自身の生産性を向上を考えた時、このベクトルを「消費すること」ではなく「生産すること」に仕向けることが重要であると気付きました。

これを実現する一番簡単な方法は何でしょうか? それは、自分で使っていて、本当に「楽しい」と思える生産システムを構築することです。

私は、PoIC を構築するにあたって、いろいろな文房具を実際に購入し、組み合わせを試してみました。このシステムを楽しく使うためには、どういう文房具を使ったら良いかをあれこれ考えることは、とても楽しいことでした。そして、自分が本当に好きな文房具を使うからこそ、長続きします。

現在の PoIC システムを構成する文房具は、 私の試行錯誤の結果です。しかし、これらは強制ではありません。カードの種類やサイズ、ペンの色などは、個人の用途と好みによるところが大きいです。また、PoIC を使い続けていく中で、システムを構成する要素や、システムの役割が変化していくのは当然のことです。一番大切なのは、私たちがこのシステムを楽しく長く使い続け、そして生産性を向上させることです。

そこで、最小限のルール(4カード時系列スタック法)を守った上で、あなたのお気に入りの文房具を積極的に使って下さい。

このシステムの中心にいるのは、いつも、私たち自身です。

Build for me

このマニュアルでは、カードシステムに関する、いろいろなコツ・裏技・ハックを紹介します。これらはすべて、私が PoIC を使い続ける上で、いかにして楽しむかについて、あれこれと知恵を絞った結果です。その意味において、PoIC は私自身のためだけに構築したシステムと言えます。しかし、そこからあなたの生産性の向上につながる「何か」を見つけていただければ、たいへん光栄です。

PoIC の在り方

PoIC 曼荼羅(拡大する

PoIC は、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードを使った個人の生産性向上に関する本(梅棹、川喜田、渡部、板坂)と、2000年代に入って書かれたGTD(David Allen)、さらにデジタル世代の経験を組み合わせたものです。

何が新しいの?

PoIC を楽しく、長く使い続けるために、私は次の新しい機能を追加しました。

PoIC は、数年から数十年の単位で使い続けることを想定して設計されています。機能を最小限に留めることで、システムを頑強にしています。

PoIC を越えて

PoIC は、「デジタル世代の私たちが、アナログメディアを使って何ができるの?」という問いに対する、一つの実験という側面があります。

そこで、このマニュアルでは「再現性」を最重要視しています。ここで起きたことを追体験するには、何が必要か(メインシステム他)、それをどう使うのか(4カード時系列スタック法カードを書く他)、その結果分かったこと(PoIC を通じて見えたこと)、そして最後に参考にした資料(参考資料)が書かれています。情報を正しく伝えるために、表現が冗長で回りくどい部分もあります。しかし、それは PoIC というシステムの複雑性を示すものではありません。

これらの結果を踏まえて、PoIC は乗り越えられるべき存在です。PoIC に新しいアイディアを書き加えるのは、あなたです。