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Part1
一作一作チャレンジングに

Part2
濃密な人間関係が好き

Part3
指の間からこぼれ落ちることを

Part4
怪物を描く連載『グロテスク』

Part5
構成ではなく、無意識で書く

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桐野夏生 作 家     (5/全5回) 2001.05.28

【Part5 構成ではなく、無意識で書く】
福田和也 話が少し変わりますが、日常生活はどのようにされているんですか?

桐野夏生 8時か9時ぐらいに起きて、家でぼんやり新聞を読んで、お昼過ぎに仕事場へ行きます。そこで打ち合わせをしたり、ファックスに目を通したり、少し執筆をしたり。このところ、そういったパターンが多いですね。でも、本当に忙しい時は1日中書いています。

福田 執筆は仕事場でなさるんですか?

桐野 仕事場でもしますが、主に夜10時ぐらいから家でします。夜書いていると、深くなるけれど飛ばない。朝書くと飛ぶけれど深くならない。

福田 「飛ぶ」というのは時間が飛ぶんですか? それとも発想が……?

桐野 発想……、人間が飛ぶんですね。登場人物が、とんでもないことをしでかすんです。夜は比喩をぱっと思いついたり、ぐーっと深くなるけれど、人物が飛ばない。夜書いたものを朝読むと、どろどろ粘度が高いというか、つぼに入りすぎている。

 そこで昼間、少し薄める作業をやるんです。昼間に薄めていると登場人物がぽーんと飛ぶんです。だから、なぜこの人はこんなことをしたのかなという面白い発想は、昼間に思いつくほうが多いんです。ですから、夜と昼間の両方で執筆した方がいいかと思い、以前は夜型でしたが最近は午前中に書くこともあります。でも、締め切りに追い詰められると、どうでもよくなるんですけれど(笑)。

福田 書いてる間にどんどん見つけていくタイプですか?

桐野 そうです。何のためにこんなことを出したのか分からないという話が、後で有機的に結びつくことがあります。

福田 面白いですね。

桐野 無意識の勝負です。

福田 形式的に凝った作品が多いので、三島由紀夫のようにきっちりと構成しているのかと思っていました。

桐野 いいえ、全然。それでも、『水の眠り 灰の夢』までは、わりときちんとやっていました。伏線を考えたりするのが好きなんですよ、実は。
 でも、『OUT』ぐらいからどんどん突っ走ろうと、最後も分からないという感じにしているので、こういうふうになったんですけれど。

福田 面白いですね。

桐野 だから、もう何年も構成をしたことがないんです。

福田 構成をしない。

桐野 しない、全然。

福田 そうなんですか(笑)。

桐野 出だしで人称を決めるぐらいです。例えば三人称で多視点でとか、一人称1視点で「私は」という表記でやろうとか。何枚か書いてみて合わなければやめますし、連載の場合、発表形式によって決めたりもします。

福田 夜は遊びや、お酒を飲みに行ったりはなさるんですか?

桐野 時々しますけれど……、わりと私は地味な性格で、家で自分で惣菜を作って食べているほうが好きなところがありますね。

福田 でも、根を詰めて書いてらっしゃると、ストレスは溜まりませんか。

桐野 書くことは快楽ですね。書いていく上での楽しみがありますから。ただ、不安はあります。これまでかなという。先ほど、リスクを恐れないと言いましたが、それでも失敗するかもしれないと思うと怖いですね。構成していないので、話がどこに行くのか分からないですから。無意識がなくなったらどうしよう、という気持ちもあります。だから、無意識を溜めるには、本当は遊んだほうがいいとも思います。意識的に解放しなければいけないなと思います。

福田 私も書くことには全然ストレスはないんです。この商売を始めてからよく眠れるようになりました(笑)。ただ、やっぱり興味が枯渇するのが怖いんですよ。だから、どうしても夜遊びをして……。

桐野 分かりますね。

福田 雑多な人間というか、字を読まないような人たちと付き合いたい。

桐野 私も好奇心がなくなったらおしまいだなといつも思っています。変な人にたくさん会いたい。いまは取材に行っても、段取りが全部できていて、つまらないですね。昔、だれも私を知らない時には、「だれ、このおばさん」みたいな感じで冷たくされました。でも、そのほうがいいんですよ、辛いけれど。「私、もの書いてます」って言うと、みんなに「知らない」って言われて、ばかにされて、ひどい目に遭うんですけれど。

 でも、それは日常ですから、その人が見えるし、そういう目に遭うのってすごく好きですね。嫌だけど好きですね。だから、最近は取材に行っても、違うなという違和感がある。

福田 家庭でご主人やお子さんに接しているときは、かなり日常のレベルというか、普通の……。

桐野 それはもう普通ですよ(笑)。

福田 リアリティ。

桐野 まったく普通です。リアリティどころか、私が作家だなんて、家族だって信じられないと思います。本当に普通の感じですよ。

(全文終了)

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