覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)

 太公望(たいこうぼう)と言われた呂尚(りょしょう)がまだ書生(しょせい)だった若い頃、縁(えん)あって馬氏(ばし)の娘(むすめ)と結婚(けっこん)をしました。しかし、呂尚は暮(く)らしむきの事などは考えもせず、毎日読書(どくしょ)ばかりしていました。こんな呂尚に愛想(あいそ)をつかした馬氏は、とっとと実家(じっか)に戻(もど)ってしまいました。

 やがて周(しゅう)の時代(じだい)になると、呂尚は周王(しゅうおう)に取り立てられ、さらには斉(せい)の国に封(ほう)ぜられるまでになりました。

 出世(しゅっせ)した呂尚と別れた事を後悔(こうかい)した馬氏は、復縁(ふくえん)してくれと頼(たの)みに来ました。すると、呂尚は黙(だま)って盆に水を入れ、それを傾(かたむ)けて地面(じめん)にこぼし、馬氏に向かって言いました。

「その水を元通りにすくってみよ」

 馬氏は地面にこぼれた水をすくおうとしましたが、何度(なんど)やっても泥(どろ)をすくっただけで水は元通りにすくえませんでした。そこで呂尚は馬氏に向かって言いました。

「覆(くつがえ)した水を二度と盆に収(おさ)めることが出来ないのと同じで、別(わか)れた者はもう一緒(いっしょ)にはなれないのだよ」

 この故事から、いったん実行(じっこう)してしまったことは、あとから取り返しがつかないという事を「覆水盆に返らず」と言うようになりました。

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