イスラエルにおけるユダヤ人教会

― 現状と2010年の予想  バルク・マオツ 

 エルサレム在住の、バルク・マオツ師から、『イスラエルにおけるユダヤ人教会 ― 現状と2010年の予想』という題の、非常に興味深い内容の資料が送られてきました。この資料が作られた過程はこうでした。(1)この資料の原案が最初に提示されたのは、CWI(クリスチャン・ウイットネス・フォー・イスラエル)という英国に本部を置くユダヤ人伝道団体の年次スタッフ修養会においてでした。(2)そこで討論された内容が、イスラエルのメシアニック・ジューのリーダーたちに送られ、広範囲の人々の意見が反映されるような努力がなされました。(3)その結果をまとめたのが、この資料です。 

 この資料の内容を要約して、『つのぶえ』の読者の皆様にご紹介します。これを読むことで、私たち日本人クリスチャンも、メシアニック・ジューのためにより効果的な祈りが捧げられるようになると思います。なお、この資料では、「ユダヤ人クリスチャン」とか、「ユダヤ人教会」とかいう用語が使われていますが、日本語の要約文では、より一般的な「メシアニック・ジュー」や「メシアニック・コングリゲーション」という用語を使うことにします。(文責 中川健一)







メシアニック・ジューの人数 


《現状》

 過去12年間で、メシアニック・ジュー増加の最大要因は、旧ソ連からの移民であった。現在では、メシアニック・ジューの約50パーセントがロシア語を話すユダヤ人である。それ以外の帰還民としては、米国から帰還したメシアニック・ジューたちが、大きな影響をもたらしている。 

 というわけで、メシアニック・ジューの人口増加の最大の要因は、海外からの帰還民である。

 第二の要因は、メシアニック・ジューの子どもたちである第二世代が育ったことである。第三の要因は、伝道による増加である。 

 イスラエルでのメシアニック・ジューの人数は、現在約7,000人前後である。その内ヘブル語を読みこなせる大人は約900人、話せるのは約3,500人である。ロシア語を話すのは約1,500人、エチオピア語を話すのは約500人である。18才未満の子どもたちは約800人いる。 

 教会(コングリゲーション)の数は約70、家庭集会の数は53ある。ロシア語の教会と家庭集会は、合計で約30あり、エチオピア語の教会や集会は6ある。メシアニック・コングリゲーションの平均的なサイズは、約80名である。会衆のリーダーとなっているのは、ほとんどが海外で育ったか回心したメシアニック・ジューである。 


《将来の見通し》 

 帰還民の数が減っており、劇的な伝道の成果も期待できない現状では、メシアニック・コングリゲーションの成長は、ゆっくりしたものとなるであろう。年間10パーセントの成長を前提に計算すると、2010年には、イスラエルには2万人のメシアニック・ジューがいることになる。半数以上が、イスラエルで生まれ育ったメシアニック・ジューということになるだろう。

 ヘブル語以外の外国語を話すメシアニック・コングリゲーションの数は、今よりも減っていると思われる。新しい世代が、ヘブル語になじんで育つからである。ロシア語を話すコングリゲーションのほとんどは、ヘブル語のコングリゲーションに変化しているか、あるいは消滅しているかのどちらかだろう。2010年には、ヘブル語のコングリゲーションが約150、ロシア語のコングリゲーションが約5程度存在していることだろう。各会衆の平均人数の予想は、約150人である。

 イスラエル生まれの第ニ世代のメシアニック・ジューの数が増加しているであろう。ほとんどのコングリゲーションのリーダーは、この世代から出ているであろう。 





教育 


《現状》

 現在、正式な神学教育を受け、教会生活の経験があるメシアニック・ジューのリーダーは、非常に少ない。そのために、教会の組織や使命に関する決定は、聖書の教えとは無関係に行われることが多い。説教も、現実問題を取り扱ったものは多いが、教理を教えたり、聖書講解をしたりするようなものは少ない。そのために、熱心で献身的ではあっても、教理的な判断ができない信者が育っている。聖書的な背景、歴史的な背景、聖書の組織的な理解などが欠落しているので、イスラエルのメシアニック・コングリゲーション相互の間では、お互いの意見を尊重しながら、しかし、確信をもって静かに話し合うことが非常に困難になっている。 

 米国や旧ソ連からの帰還民で、程度の高い専門教育や一般教育を受ける人の人数は増えている。イスラエルの大学で学ぶメシアニック・ジューの数も増えている。しかし、メシアニック・ジューの間では、霊的な事項に関して、知的学びを軽視する傾向が依然として残っている。これは、ニュー・エイジ運動の影響のひとつである。書籍に関しても、聖書の意味を深く探るようなものよりは、いわゆる「ハウ・ツーもの」の方がよく売れている。そのため、聖書の学びが軽視されるようになり、感覚的、また、自己中心的信仰が幅を利かせるようになってきている。リーダーは、啓示された神の御心である聖書の教えを忠実に実践するよりは、人々の願いに答えることのほうに熱心になっている。また、正式な訓練を受けたことのない信者が、教会の働きとは無関係に、自分勝手なカウンセリングを行ない、地域教会の牧師が果たすべき役割の分野に足を踏み入れることも、頻繁に起こっている。このようなカウンセリングは、カウンセラーの必要を満たすための自己満足に終わる場合が多い。 

 また、「異邦人」的なものへの猜疑心があまりにも強いため(異邦人から送られてくる献金は例外)、異邦人の霊的指導者の意見に耳を傾けないという悪い傾向がある。これは、「ユダヤ性」、つまり、「自分がオリジナルであること」をあまりにも強調した結果起こっている現象である。その結果、教理的な混乱が起きつつある。三位一体、キリストの神性、悔い改めと新生の必要性などがそれである。時には、キリストを信じなければ救われないという基本的な教えさえも、公に疑問視される場合が出てきている。 

 メシアニック・ジューのための聖書大学が二つあるが、双方が各々の方法で神学教育を行なっており、しっかりした協力態勢が築かれていないのが現状である。一般信徒レベルでの教育機関も存在するが、さほど効果を上げていない。リーダー訓練プログラムも計画されているが、今までは関心を示すリーダーがあまりいなかった。この状況は、多少変化しつつある。 


《将来の見通し》

 聖書教育の機会が少ないことと、個性を武器にリーダーシップを発揮する指導者が多いという現状を考えると、教育の分野で早急に大幅な改善が行われることは考えにくい。道徳面でも、神学面でも、混乱は増すと思われる。中には、聖書の教理を教えられることのない信徒も出てくるであろう。2010年までには、メシアニック・ジュイッシュ運動の中のある部分が、意識しないままでカルト化する恐れもある。と同時に、正しい聖書教育を受けたイスラエル育ちのメシアニック・ジューがたくさん育ち、神のことばに基づいて、意見の相違を建徳的に話し合う道を開いていくことだろう。









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