「今週のハイライト」は、米国科学振興協会(AAAS)の広報部門が報道関係者向けに作成したニュースを日本語に翻訳したものです。サイエンス誌に掲載された論文・記事とは表現が異なる場合もあり、その正確性、通用性、完全性について、保証をするものでもありません。正確な情報を得るためには、必ず原文をご覧ください。
2007年 6月 29日(金)
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Tabby’s Ancestors Traced to the Near East
新たな研究から、全世界のイエネコの祖先は近東に生息するヤマネコ、F. s. lybicaまでさかのぼれることが判明した。このヤマネコの地中海東部沿岸の少なくとも5種類の母性系統から家畜化が行われた。国際研究チームはイエネコや、ヤマネコの亜種(ヨーロッパヤマネコ、近東、中央アジア、南部アフリカのヤマネコ、ハイイロネコ)の間の進化関係を研究した。多くの場合、ヤマネコとイエネコはほとんど両者を区別出来ないほど混血を繰り返していた。
Carlos Driscollらは979匹のネコから採取した遺伝物質を使って、ゲノムの中のさまざまな「マーカー」部位の変異でDNA塩基配列の差異を分析し、どの系統同士が最も近い親戚関係にあるか調べ、それぞれの亜種とイエネコが遺伝学的にひとつのグループ、すなわち「クレード」に分類できることを発見した。イエネコとヤマネコの亜種数種を含むこの系統がこれまでの推測より古く、10万年以上前に起源をもつことが報告されている。クレードのひとつにはイエネコと中東のヤマネコ数種が含まれており、これはイエネコすべての元になった個体群から、このグループが分岐したことを示唆している。
"The Near Eastern Origin of Cat Domestication," by C.A. Driscoll, M. Menotti-Raymond, A.L. Roca, W.E. Johnson and S.J. O'Brien at National Cancer Institute in Frederick, MD; C.A. Driscoll, N. Yamaguchi and D. Macdonald at University of Oxford in Oxford, UK; A.L. Roca at SAIC-Frederick, Inc. in Frederick, MD; K. Hupe at Jagd Einrichtungs Buro in Furstenhagen, Germany; E. Geffen at Tel Aviv University in Tel Aviv, Israel; E. Harley at University of Cape Town in Cape Town, South Africa; M. Delibes at CSIC in Sevilla, Spain; D. Pontier at UMR-CNRS 5558 in Villeurbanne, France; D. Pontier at Universite Claude Bernard Lyon I in Villeurbanne, France; A.C. Kitchener at National Museums of Scotland in Scotland, UK.
本論文は6月28日(木)、Science Express(電子版)に掲載
Step Toward Synthetic Genomes
今回、バクテリア細胞内のすべてのゲノムを近縁種のゲノムと入れ替えることに成功したが、これは簡単なゲノムを合成することに向けた重要な一歩となる。合成ゲノムの作成により、バイオ燃料製造、毒性廃棄物の処理、炭素の隔離など、様々な応用が可能な微生物の開発が可能になることが期待されている。
合成ゲノムから生きた細胞を作るには、ゲノム全体を移動させ操作する技術が必要である。その目的に向け、Carole Lartigueらは、Mycoplasma mycoidesのゲノムを事実上タンパク質を含まないnaked DNAの状態で、近縁種の別のバクテリア、Mycoplasma capricolumの細胞内に移植することに成功した。移植を受けた細胞は、外見上ドナー細胞と全く同一であったと報告されている。
"Genome Transplantation in Bacteria to Change One Species to Another," by C. Lartigue, J.I. Glass, N. Alperovich, R. Pieper, P.P. Parmar, C.A. Hutchinson III, H.O.Smith and J.C. Venter at The J. Craig Venter Institute in Rockville, MD.
本論文は6月28日(木)、Science Express(電子版)に掲載
Earliest Known New-World Crops
カボチャの仲間は新世界で栽培された最初の農作物の一つである。その栽培がペルーの高地アンデス地域で早い時期に始まり、その後ピーナッツや綿の栽培が続いたことが新たな発見から明らかになった。古代の新世界で農業が行われていたことを示す痕跡は、全体としてごくわずかだが、過去の研究から約5000年前にアンデス山脈に住む農民達がカボチャの仲間や綿、その他いくつかの農作物を栽培していたことが証明されている。
今回、ペルー北部の遺跡で新たに発掘された化石と新規の測定または再評価を行った放射性炭素年代測定の結果から、カボチャの仲間の栽培が約1万年前に始まり、それに続いて約8,500年前にピーナッツ、約6,000年前には綿の栽培が開始されたことがわかった。このことから、古代の農業は約1万年前までにアンデスで定着し、ほぼ同じ時期に旧世界でも発生したことが明らかになった。
Tom Dillehayらによる今回の新たなデータは、ペルー北部アンデス地域の西側傾斜地で埋没した状態で発見された遺跡の、家屋の密封された床および暖炉から発掘された化石化した植物の遺物から得られた。
"Preceramic Adoption of Peanut, Squash, and Cotton in Northern Peru ," by T.D. Dillehay at Vanderbilt University in Nashville, TN; J. Rossen at Ithaca College in Ithaca, NY; T.C. Andres at The Cucurbit Network in New York, NY; D.E. Williams at U.S. Department of Agriculture in Washington, DC.
Gene Variant Links Body Clock and Seasons
重要な体内時計遺伝子で最近発生した変異が、成長が停止する「休眠」と呼ばれる状態に入ることを助けることで、ヨーロッパショウジョウバエに利益をもたらしていることが2つの研究から報告された。この変異により、変異を持たないハエと比べて環境の変化に対してより迅速に対応することができる。関連のPerspective記事にもあるように、この遺伝子は生物圏の二つの大きなリズム(昼と夜の24時間サイクル、季節の年周期)と関係している。ショウジョウバエのヨーロッパでの野性種は、このtimeless遺伝子に二つの重要な変異を持っている。
Eran Tauberらは今回、これら変異のひとつは、温度と光の状態によって誘発される「休眠」をより高い確率で起こす可能性があり、そのため自然選択によってヨーロッパ中に広まっていったと報告している。Federica Sandrelliらが行ったもうひとつの研究はこれをさらに拡大し、変異が体内時計機構の中のタンパク質間の相互作用をより安定させていることを証明している。
"Natural Selection Favors a Newly Derived timeless Allele in Drosophila melanogaster," by E. Tauber, M. Pegoraro, C. Breda, A. Selmin, K. Monger, E. Rosato; and C.P. Kyriacou at University of Leicester in Leicester, UK; M. Zordan, F. Sandrelli, M. Pegoraro, N. Osterwalder, C. Breda, A. Daga, A. Selmin, C. Benna and R.Costa at University of Padova in Padova, Italy.
"A Molecular Basis for Natural Selection at the timeless Locus in Drosophila melanogaster," by F. Sandrelli, M. Pegoraro, G. Mazzotta, P. Cisotto, A. Piccin, M. Zordan and R. Costa at University of Padova in Padova, Italy; E. Tauber, E. Rosato and C.P. Kyriacou at University of Leicester in Leicester, UK; J. Landskron and R. Stanewsky at University of Regensburg in Regensburg, Germany; R. Stanewsky at University of London in London, UK.
"Tantalizing Timeless," by W. Bradshaw and C. Holzapfel at University of Oregon in Eugene, OR.
Breaking A Single Chemical Bond
単一分子による可逆性の化学サイクルが化学者によって実証された。彼らは走査型トンネル顕微鏡を使い水素原子を選択的に取り除いたが、その水素原子は室温で自然に元の通り結合する。この基礎研究により、単一分子によるシステム内に、反復可能なオン・オフ機能を作成することが可能となり、分子機械の新たな領域が開かれた。
Satoshi Katanoらはプラチナ表面に吸着した有機分子を対象に、走査型トンネル顕微鏡の探針を使い、隣接する炭素−水素結合に影響を及ぼすことなく、窒素−水素結合から水素原子をひとつ取り出すことに成功した。今回の実験は絶対温度4.7K、約3ボルトのパルスで実施され、非弾性のトンネルスペクトロスコピーによって確認された。
"Reversible Control of Hydrogenation of a Single Molecule," by S. Katano, Y. Kim, M. Hori and M. Kawai at RIKEN in Saitama, Japan; S. Katano, Y. Kim and M. Kawai at CREST-JST in Tokyo, Japan; M. Hori and M. Kawai at University of Tokyo in Chiba, Japan; M. Trenary at University of Illinois at Chicago in Chicago, IL.