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【政治】

遠藤農相が辞任 閣僚交代5人目 後任に若林前環境相

2007年9月3日 夕刊

辞表を提出し、記者会見する遠藤農相=3日午前10時36分、東京・霞が関の農水省で(梅津忠之撮影)

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 遠藤武彦農相(68)=衆院山形2区=は三日午前、自身が組合長理事を務める農業共済組合が共済掛け金を国から不正受給していた問題の責任を取り、首相官邸で安倍晋三首相に辞表を提出、受理された。安倍内閣での閣僚交代は五人目。後任には若林正俊前環境相が決まった。また、政党支部の政治資金報告書に領収書を二重計上していた坂本由紀子外務政務官(58)=参院静岡選挙区=も同日午前、引責辞任した。参院選惨敗から態勢立て直しを図った内閣改造後、わずか一週間で閣僚、政務官の交代劇。野党は十日召集の臨時国会で、首相の任命責任を厳しく追及する方針で、安倍政権は厳しい局面に突入することになる。 

 遠藤農相は辞表提出後、農林水産省で記者会見し、辞任の理由について「補助金執行の責任者である農相は厳正中立でなければならないが、自らが組合長の職にあった共済組合で補助金受給が不適正に行われたことは、厳正中立さを傷つけた。農業行政への信頼を傷つける前に辞表を提出した」と述べた。

 また、首相に辞表を提出した際には「ご期待に沿えず、今後の国会状況を考えると、申し訳ない状況になってしまった。心からおわび申し上げ、辞任させていただきたい」と陳謝したことを明らかにした。これに対し、首相は「非常に残念だが、これとは別にしっかり頑張ってください」と述べたという。

 後任の若林前環境相は改造前の内閣で、赤城徳彦氏の後任として農相を兼務していた。首相は若林氏に対し、「補助金、交付金の執行が適正に行われるよう厳正に指導してほしい」と指示した。

 一方、坂本外務政務官も辞表提出後、外務省で記者会見し、「深く責任を感じ、反省している。けじめをつけて職を辞したい」と陳謝した。

首相『私に任命責任』

 安倍晋三首相は三日昼、遠藤武彦農相の辞任について「大臣として辞任を決意するのは大変重い判断だ。厳正さを疑われてはいけないというのが大臣の思いだ」とした上で「すべての任命責任は私にある。結果は残念だが、農林水産行政に遅滞がないよう全力を尽くしていく」と述べた。

 また、大臣らの「身体検査」が不十分であったとの指摘については「適材適所で人事を行ったが、こうした結果になって残念だ。今後も政治家一人一人が身を引き締めていくことが大事だ」とだけ述べた。

『人心一新』に失敗

<解説> 政権浮揚を懸け、内閣改造による人心一新を図った安倍晋三首相の試みは失敗した。

 遠藤武彦農相の不正受給問題による辞任は、首相の求心力低下に間違いなく拍車を掛けることになる。

 参院選惨敗にもかかわらず、続投を宣言した首相。ちょうど一週間前に断行した内閣改造は、政権の命運を懸けたはずだった。

 首相は改造内閣発足にあたり、「失われた信頼を再び政治に取り戻す」と決意表明していた。それが臨時国会の召集も待たずに、崩壊しようとしている。

 農相の不祥事に加え、坂本由紀子外務政務官が「政治とカネ」問題で辞任に追いやられた。改造内閣の顔ぶれを見て、政権の再スタートに期待を掛けた国民の失望は計り知れないだろう。

 失墜した政権への信頼だけでなく、首相の政権運営は数の論理からみても極めて厳しい。

 今回の辞任劇を通じ、参院の与野党逆転によってひとたび閣僚に不祥事が発覚すれば、与野党攻防の主導権は野党が握ることが明白になったからだ。政府・与党が農相辞任を異例のスピードで決断したのは、こうした事情が背景にある。

 「美しい国」をつくるため「戦後レジーム(体制)」からの脱却を目指した首相だが、失った信頼感とねじれ国会の現実を考えあわせると、政権の存続に赤信号が点滅し始めたといっていい。 (政治部・吉田昌平)

 

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