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米国

各国・地域情勢
ロサンゼルス事務所(米国における日本語事業担当)
ニューヨーク事務所

日本語教育の実施状況
教育制度と外国語教育
学習環境
教師
教師会
日本語教師派遣情報
学習目的
シラバス・ガイドライン
評価・試験
日本語教育略史
参考文献一覧


●2006年海外日本語教育機関調査結果
機関数集計円グラフ 教師数集計円グラフ 学習者数集計円グラフ
海外の日本語教育の状況について機関・教師・学習者を円グラフ化しました。

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日本語教育の実施状況
●全体的状況
【沿革】
 1970年代頃までは、日本研究のための日本語教育が主であったが、1980年代以降の日本語ブームで、日本語を学ぶことでビジネスや雇用機会の拡大を狙う学習者が増加した。日本のバブル経済破綻以降は日本語熱も冷めた感があるが、アニメやゲームなどを通じて日本のサブカルチャーが若年層に普及してきており、年少者層で再び日本語学習に興味を持つ学生が増加傾向にある。また2006年AP日本語プログラムの開始が、学習機会が拡大するきっかけとして期待が寄せられている。一方で近年の教育予算削減のあおりを受け日本語教育も含めて選択科目は一般的に削減傾向にある。さらに、中国語の教育熱の高まりと共に日本語プログラムを中国語プログラムに差し替える動きも見られ、日本語学習希望者の学習機会が減少するケースも見られる。

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【背景】
 2001年の米国同時多発テロ以降、外国語教育は国家安全保障の面でますます重視されるようになってきた。特に、2006年1月に発表された国家安全保障言語構想により、外国語を効率的に上達させることは国家安全保障にとって重要であるという認識が高まりつつある。
【特徴】
 米国の日本語教育を支えているのは小学校から大学までの学校機関である。日本の英会話学校のような語学学校で日本語を学んでいる人は、ほんのわずかである。地域的には西海岸の州(ワシントン・オレゴン、カリフォルニア)と中西部(ウィスコンシン・イリノイ・ミシガン)やハワイ州の学習者数が多いが、ニューヨークを中心として東海岸や日系企業を積極的に誘致している地域にも学習者は多数いる。総体的に見ると日本語教育は全米的に行われているが、南部の一部やロッキー山脈北部以東周辺などではコミュニティーの日本や日本語に対する認知度が低く、エアポケット状態にある。しかし、南部においては近年日系企業の進出が著しく、学校行政の日本語教育に対する関心が高まり始めている。

●最新動向
 学習者がみな一定の基準を上回る習熟度を達成させることのできる教育現場を目指すために2002年に採択された”No Child Left Behind”(以下NCLB)と呼ばれる法案の第2章では、「地方自治体(つまり州)には、高度な教育能力を有する教師と校長を採用する、またはその様な能力を得るために必要な準備や教育を施す責任がある」としており、2005年度以降、必須科目においてその達成度を測るべく公立学校で学習者の習熟度が測定されることになった。教師の立場からすると、これは教育能力が規格の対象とされるという意味でもあり、NCLBでは外国語を必須科目の一つとして定義していることから日本語もその対象となる。最悪の場合、今後教育能力が低いと査定された日本語教師のいるプログラムは教師の解雇あるいはプログラムの閉鎖の危機に晒される可能性があり、日本語教師の教育能力の向上は早急により多くの教師に認識させるべき最重要事項となっている。
 また、2006年度より本格的に日本語のAdvanced Placement Program『AP Japanese Language and Culture』(以下AP日本語プログラム)が実施の運びとなった。AP日本語のコースと学年度末に実施されるAP日本語試験からなり、AP日本語コースは、高校で大学レベルの日本語コースの履修を可能にする。AP日本語コースでは通常のクラスよりも成績の最高得点が1点多く5点となるため、有名大学入学を目指しより高いGPAを求める際に有利となる。また、毎年夏に実施されるAP日本語試験の合格者は大学での初級レベルの日本語コースが履修免除となったり、クラスを取らずに単位が認められるなどの特典が与えられる(特典は各大学の判断で決定される)。このようなことから、日本語APプログラムの導入は、中等レベルの学習者やその保護者への日本語の大きなアピールとなり、日本語の普及を大きく後押しする推進力となる可能性がある。
 日本語と同時期にAP中国語も始まり、全米各地で中国語コース開設が相次いでいる。 Chinese Language Association of Secondary-Elementary School(CLASS)の2003年の調査では、米国の初中等教育機関における中国語学習者は16,000人強で、同時期に実施された日本語教育機関調査による米国の日本語学習者数の約5分の1である。中国語は初中等外国語教育への連邦政府助成金(FLAP)の優先対象言語とされていることから、2006年度FLAPグラントでは、全米で新たに51初中等機関で中国語プログラムが開講されている。ちなみに日本語は一時的にFLAP優先対象言語から除外されていたこともあり、FLAPグラントに採用された日本語プログラムは7機関にとどまっている。また、米国全体が中国に高い関心を持つ昨今、保護者からの要望に応えるために日本語プログラムを閉鎖することで中国語プログラムの開講の予算を捻出したり、既存の中国語プログラムを拡張するといった現象が報告され始めている。さらに、AP中国語開始を受けて中国政府の資金潤沢な支援による手厚い中国語教育支援(ボランティア教師派遣、無料教師養成中国研修、行政担当者訪中招待旅行、留学奨学金等々)が本格的に始まっていることなどから、中国語は今後驚異的な伸びを示す可能性がある。
 2005年夏に南部を襲ったハリケーンによる被害は甚大で、2005年12月時点で特にルイジアナ州では日本語プログラムのみならず学校そのものが閉校に追い込まれているなど、日本語教育界にも深刻な影響を及ぼしている。また、学校が再開しても、生徒がまだ完全に戻ってきていない所が多い。このような理由から、ルイジアナ州の大半の日本語教師が未だ職場復帰できない状態にあり、大規模な教員の解雇やプログラム閉鎖が懸念されている。

●教育段階別の状況
【初等・中等教育】
 日本の特に現代文化に興味を示す子供達が増え、それに伴い日本語学習者が増加しているが、学校行政側はボランティア教師派遣や連邦政府助成金などさまざまな資金優遇措置が得られやすい中国語プログラムを選ぶ傾向がある。
【高等教育】
 1980年代から1990年代初めに比べると学習者数は頭打ち状態で、日本研究よりも実学的志向が強くなっている。また、90年初頭の日本語ブーム期に開設された初中等の日本語プログラムで学んできた学生が大学に入る年代となり、ゲームやアニメなどのサブカルチャーや現代文化に強い興味を示す傾向がある。

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教育制度と外国語教育
●教育制度
【教育制度】
 義務教育は高校までの12年間。
 州や学校区によって異なり、多様性に富み、独自にカリキュラムがすすめられている。
【教育行政】
 各州に教育庁があるが、特に初・中等教育レベルでは学校区にほとんどの権限が委ねられている。

●言語事情
 米国には連邦政府の定めた公用語はないが、もちろん英語が最も広く使われている言語である。次に使われているのがスペイン語である。
 外国語に関しても確固とした言語政策はないが、簡単にいうとEnglish Only(英語の識字率を高めることが最も大切)とEnglish Plus(英語に加え外国語を習得することが大切)の二つの動きがある。

●外国語教育
 各学校、学校区により、千差万別である。外国語は選択科目の場合が多く学校行政における優先度は低いが、No Child Left Behind法においてCore Subjects(必須科目)の一つとして認定されているため、NCLB法を採用する州では数学など昔から必須科目とされていた科目と同様に外国語教師の教員資格が厳密な規定の対象になっている。

外国語の中での日本語の人気
 全体的には、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語に次ぐ人気であるが、近い将来中国語の人気が高まる可能性がある。に次ぐ人気である。

大学入試での日本語の扱い
 大学入試は存在しない。ただし、大学入学の一つの参考となる高校生のAchievement TestであるSATに日本語が1993年から加わった。しかし、日本語を母語とする学生が圧倒的に有利なため、外国語として学習している学生からは敬遠されているのが現実である。SATを実施しているCollege Boardは高校在学中に大学レベルのコースを履修できるAPプログラム(The Advanced Placement Program)を1955年から実施している。APプログラムは2004年11月に正式に開発が発表され、2006年秋に日本語APコースが各地の高校で開設された。2007年5月には第1回AP日本語試験の実施が予定されており、AP日本語試験作成委員会によって、試験の作成が進められている。なお、国際交流基金は、同プログラムの開発経費の半額を拠出している。


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学習環境
●教材
★国際交流基金ロサンゼルス事務所Teaching Materials を参照。

●マルチメディア・コンピュータ
 高等教育機関では、助成金を受けてCAIやインターネット上で自由に使える教材の開発が活発で一般公開されているものが多いため、リソースは豊富である。また、インターネットから得た情報をレッスンプランに組み込んでいる教師も多くいる。学校のIT環境の改善が進み、クラスに少なくとも一台はコンピュータがあるという学校や日本語環境が可能なコンピュータをそろえたラボを持つ学校は増加している。特に日本語環境はオペレーション・システムのグローバル化が進んだおかげで一層容易になってきている。また、積極的に IT技術を勉強し、コンピュータを高度なレベルで有効に活用できる教師も以前と比べかなり多くなった。しかし一方では、地方自治体の財政難の影響で未だに2-3世代前のコンピュータ使用を余儀なくされている教師や、日本語環境を整えるべき技術サポートの理解や協力が得られなかったり、教師自身のITの知識が不足していたりと、コンピュータを十分に生かせない教師がしばしば見受けられる。ハード面においても、知識面においても、貧富・能力高低の差が開きつつあると言える。
 2007年に実施開始予定のAP日本語試験では、AP史上初のオンライン試験となるため、中等教育でのカリキュラムへのIT技術導入に弾みがつくことが期待されている。

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教師
●資格要件
【初等・中等教育】
 公立校においては州の認める教員免許が必要となる。私立校においては必要ない。
【高等教育】
 大学によって要件は異なる。
【学校教育以外】
 特に要件はなし。

★詳細は国際交流基金ロサンゼルス事務所FAQを参照。

日本語教師養成機関
 日本語教育のコースを有する大学が多数ある。
その他CIEE(Council on International Educational Exchange), The Fullbright-Hays Seminars Abroad等の日本での研修プログラムがある。

●日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況
 約半数が日本人教師である。

●教師研修
 各教師会、大学等がそれぞれ主導でワークショップを開いている。そのほとんどが、春か秋の定例会合時に行われ、週末を利用して半日から2日かけて行われる。中には、カリフォルニア日本語教師会のようにカリフォルニア州外国語教師会主催の夏期ワークショップに日本語教師向けのセッションを設けてカリフォルニア州のフレームワークに即した日本語教師研修をおこなうところもある。各州によってフレームワークやガイドラインが異なるため、このように地元教師に特化した形の研修は、非常に理想的な研修のあり方である。「最新動向」欄でも述べた通り、NCLB法による州に特化した教師養成の需要が今後高まると考えられ、近い将来このような地方特化型研修が増加する可能性が高い。また、2006年のAP日本語コース開始に伴い、2006年春からはAP関連の教師研修が各地で実施される予定である。(各地方教師会の情報は国際交流基金ロサンゼルス事務所地方教師会情報ページを参照。)またロサンゼルス事務所でも隔年夏にワークショップを実施している。

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教師会
●日本語教育関係のネットワークの状況
 日本語教育に携わるATJ(日本語・日本文学)はAAS(アジア学会)に所属し、日本語教師の実用的支援を行っている。NCJLT(全米日本語教師会)はACTFL(米国外国語教育協会)に所属している。またNCJLT傘下には24の各地域の団体がある。これらの団体は総会やワークショップの開催を行っている。ATJとNCJLTはさらに連係を深めるため、1999年4月にAATJ(Alliance of Associations of Teachers of Japanese)とよばれる事務局を設置した。

★教師会・学会一覧へ

各地の教師会については、国際交流基金ロサンゼルス事務所地方教師会情報ページを参照。


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日本語教師派遣情報
 国際交流基金、JICAからの派遣は行なわれていない。

●その他からの派遣
REX(Regional and Educational Exchanges for Mutual Understanding)
 全米各地の小・中・高校へ毎年10数名派遣
ALLEX(Alliance for Language Learning and Educational Exchange)
 ・IEP(Intercultural Exchange Program) 全米各地の大学へ毎年20〜50名派遣
 ・J-Intern Program 全米各地の小学校へ数週間から最長9ヶ月まで毎年日本文化の教師を20〜30名派遣
J-corps Program (Japanese Cultural Resource Program)
 全米各地の初中等へ日本語教師の助手を1〜50名派遣
Japanese Internship Program
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学習目的
(2006年海外日本語教育機関調査結果)
 
1.
日本の文化に関する知識を得るため  
9.
日本との親善・交流を図るため(短期訪日や日本人受入)  
 
2.
日本の政治・経済・社会に関する知識を得るため  
10.
日本語によるコミュニケーションが出来るようにするため  
 
3.
日本の科学技術に関する知識を得るため  
11.
母語、または親の母語(継承語)である日本語を忘れないため  
 
4.
大学や資格試験の受験準備のため  
12.
日本語という言語そのものへの興味  
 
5.
日本に留学するため  
13.
国際理解・異文化交流の一環として  
 
6.
今の仕事で日本語を必要とするため  
14.
父母の期待に応えるため  
 
7.
将来の就職のため  
15.
その他  
 
8.
日本に観光旅行するため   (1.〜15.から5つ選択)  
初等・中等教育/学習の目的棒グラフ 高等教育/学習の目的棒グラフ 学校教育以外/学習の目的棒グラフ

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シラバス・ガイドライン
 90年代に中等教育レベル以下での日本語教育が普及するにつれ、全国的な目標基準と教育指針の設定の重要性が唱えられ、まずNFLC(National Foreign Language Center)が“A Communicative Framework for Introductory Japanese Language Curricula in American High Schools and Colleges”を1993年に発表した。
 その後ワシントン州において、中等教育の日本語教育の向上を目指し、“A Communicative Framework for Introductory Japanese Language Curricula in Washington High School”が1994年に作成された。次に、隣のオレゴン州でも同様に“The Oregon Proficiency Package for High School Japanese”が制定され、中・高生の日本語能力の具体的な評価基準と検定法が明確化した。また、ウィスコンシン州においても、“Japanese for Communication: A Teacher's Guide”が1996年に刊行された。
 その他の多くの州でも1990年半ばから初中等教育カリキュラムの基準化が進み、州の教育庁公式ウェブサイトで閲覧できるようになったが、ほとんどは外国語全般を対象にした一般的な基準であり、マサチューセッツ州のCurriculum Frameworks for Foreign Languages(1998年)のように中には中国語と合わせてアジア言語として少しだけ日本語に言及したものも見られる。日本語だけを対象にした基準はフロリダ州のFlorida Course Description(1998年)、ジョージア州のQuality Core Curriculum Standards and Resources(1995年)がある。
 さらには、ACTFLが開発した全国レベルでの各言語共通のGeneric Standardに基づいて、日本語教育界全体より代表者がタスク・フォースを結成し、日本語版スタンダーズ作成に取り組み、その成果は1999年に Standards for Japanese Language in the 21st Centuryの一部として出版されている。なお、このスタンダーズは強制的なものではなく、これを実際に取り入れるかどうかは州や学校区が決定するが、高校と大学の連携の鍵とされるAP日本語がスタンダーズに準拠しているため、今後教育現場へのスタンダーズ浸透に拍車がかかるものと思われる。

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評価・試験
 口頭試問についてはACTFL開発のOPI(Oral Proficiency Interview)とオレゴン州のCASLS(The Center for Applied Second Language Studies)が開発したOregon Japanese Oral Benchmarksがある。CASLSは読解・作文能力を評価するOregon Japanese Literacy Benchmarksや中高等教育レベル向けオンライン評価システムのStandards-Based Measurement of Proficiency(STAMP)、初等教育レベル向けオンライン評価システムのNational Online Early Language Learning Assessment(NOELLA)等も開発している。
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日本語教育略史
1941年: 米陸海軍が日本語プログラム創設
1988年: Educational Exchange Program(北米大学教育交流委員会)による日本語教員派遣開始
1990年: REX (Regional and Educational Exchanges for Mutual Understanding)計画による日本語教員派遣事業開始
1992年: 国際交流基金ロス・アンジェルス日本語センター発足。NCSTJ(National Council of Secondary Teachers of Japanese)(現NCJLT:National Council of Japanese Language Teachers)発足、JALEX Program始まる。
1993年: College Board のachievement test(SAT)に日本語が加わる。A Framework for Introductory Japanese Language CurriculaがNFLC(National Foreign Language Center)より発表。米国において、日本語能力試験実施開始。
1994年: NCOLCTL(National Council of Organizations of Less Commonly Taught Languages)発足。ワシントン州において日本語スタンダードカリキュラム完成。
1995年: オレゴン州において日本語スタンダードカリキュラム完成。NCSTJが正式にACTFL(American Council on the Teaching of Foreign Languages)に加盟。
1996年: ウィスコンシン州において日本語スタンダードカリキュラム完成。ACTFLによる、"The Standards for Foreign Language Learning for the 21st Century"完成
1999年: ATJとNCJLTのAlliance officeとしてAATJ(Alliance of Association of Teachers of Japanese)を開設。
1999年: The Standards for Japanese Language Learning (National Standard)完成。
2001年: NBPTS(National Board for Professional Teaching Standards)が日本語のNational Board Certificationを開始するも受験者不足のため頓挫。
2004年: AP日本語プログラムの開発が本格的に始動。
2005年: AP日本語試験作成委員会発足。
2006年: AP日本語コース開始。
2007年: 第一回AP日本語試験実施。
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参考文献一覧
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