コミックCDコレクション「鋼の錬金術師 偽りの光、真実の影」

 

 

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○中央司令部・電話室

ヒューズ、歩いてくる。
立ち止まり、電話の受話器をあげ、ダイヤルを回す。
回線接続音。交換手につながり、

ヒューズ「セントラルのヒューズ中佐だ。マスタング大佐を頼む」

ややあって、

ロイ「わたしだ」※回線越しのこもった声。
ヒューズ「よう、ロイ」
ロイ「ヒューズか。いっておくが娘自慢なら、即刻切るぞ」
ヒューズ「そいつぁまた今度だ」
ロイ「ほう?」
ヒューズ「おまえが気にしてた例の件。正式に調査するよう、上から俺に命令が来た」
ロイ「そうか。一刻も早く解決せんと、国家錬金術師の信用がなくなる一方だからな」
ヒューズ「ふん、そうならんようにがんばってみるさ」
ロイ「頼んだぞ」
ヒューズ「了解」

ヒューズ、電話を切る。歩きだして、

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○ある街

街のざわめき。ウェイトレスの声。
エドとアル、オープンエアのカフェに座っている。
エド、コップでコーヒーを飲んでいる。

エド「(コーヒーをすすり)ぶえっくしょい!……あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
アル「ちょっと兄さん、コーヒーこぼしたよ」
エド「うるへー…風邪気味なんだよ」
アル「やだなぁ、もう、やさぐれちゃって」

エド、ガバッと起きあがる。

エド「あったり前だろ!なんで俺が詐欺師呼ばわりされなゃいけないんだ!行く先々で『あんた本物かね?』『これを見ろ!!』『なんだ、偽者か』って何遍くり返したと思う!?」
アル「銀時計見せても誰も信用してくれなかったもんねぇ。それどころか恨みがましい目で見られちゃって……。そうだ、兄さん。気分転換にさ、この近くにあるっていう、大きな市場に行ってみようよ」
エド「市場〜?」
アル「そう。キンバードルテ。買えない物はないとまで言われてる、市場の街だよ。ほら賢者の石の情報もあるかもしれないし」
エド「賢者の石、か。あ〜〜、そうだな……」
アル「ほら。それにウィンリィのためにもね」
エド「ウィンリィ?」
アル「あ、忘れてたの?キンバードルテで買ってきて欲しい物があるっていってたじゃない。忘れたら二度と兄さんの機械鎧整備しないって」
エド「あー……。いってたっけかな」
アル「買い忘れたら特大レンチで殴るわよ、とも言ってたよねぇ」
エド「……っ」
アル「行った方がいいんじゃない?」
エド「ったく……」

エド、立ち上がる。

エド「……別に殴られるのが怖いわけじゃないからな」
アル「はいはい」
エド「賢者の石の情報、が目的だからな!」
アル「わかってるって」

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○タイトルコール
エド「少年ガンガン、コミックCDコレクション(31)。鋼の錬金術師vol?、『偽りの光、真実の影』」

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○キンバードルテ・市場

客を呼ぶ声、金物を打つ音、商品を値切る声、などなど。
エドとアル、市場の中を歩いている。

エド「あ〜、ちっくしょ〜」
アル「こんなに大きな市場なのに、賢者の石の噂話も聞けなかったし。上手くいかないね……」
エド「しゃーねえ。んで、ウィンリィがいってたブツでも探してやるか。どんなのだっけ?」
アル「たしか、この辺りでしか採れない鉱物で作られた、工具一式。機械鎧整備士、憧れの一品らしいよ」
商人A「(横手から)よう、そこのお二人さん!なにを、お探しだい?」
エド「あー、工具一式なんだけどさ。この街で作ってるっていう有名なヤツ。知ってる?」
商人A「この市場じゃ、大抵作った本人が店を持ってるぜ。名前が分かれば教えてやるよ」
エド「えーと……、えー………なんだっけ」
アル「ルノアさん、っていうんですけど」
商人A「ああ、ルノア=ウィンスレット!あの人はいい職人だ。――けど、残念」
エド「え。それ、どーゆー……」
商人A「彼女、もう長いこと店を閉めててね。工場にはいるらしーんだが」
アル「ええ!?……どうする、兄さん」
エド「せっかくここまで来たんだ。行くだけいってみるか。おじさん、その人の工場はどこにあるの?」
商人A「この通りをずーっと行った先の、ほれ、あそこに見えてる脇道に入って、そのつき当たりを右。んで、奥へと進んでった左手だよ」
アル「ありがとうございます。兄さん、行こう!」

やや奥でガシャーン、と陶器の品が割れる音。

商人B「な、なにするんだ!」
チンピラA「てめー、ジャックさんのおかげで店が出せてるって、わかってんのか!?」

チンピラ、商人をニ・三発殴る。

商人B「(苦悶)」
チンピラA「は!弱ぇクセにいきがってんじゃねーよ。……おい、そこの二人」
エド「あ?」
チンピラA「なにジロジロ見てやがる。何者だ?見かけねー顔だな」
エド「買い物客だよ。ここは市場だろ、あんたみたいなチンピラよりは、よっぽどふさわしいぜ」
チンピラA「はん、客だーぁ?へへっ、俺はこの市場の見回りをしてんだ。そーだな。おまえらみてーな、怪しいよそ者は、追いだしたっていーんだぜ?」
エド「安っぽい、脅し文句だなー。いい大人が恥ずかしい」
チンピラA「なんだと!?てめぇ……っ!!」

奥から悠然と歩いてくる足音。ジャック、登場。

ジャック「(鼻歌)おい、おまえ。ガキ相手になにをやってる?」
チンピラA「あ、ジ、ジャックさん!こいつらが生意気なことを言うから、ちょっと懲らしめてやろうと思っただけっすよ」
ジャック「クッ。威勢のいいヤツもいたもんだな」
エド「俺たちは買い物に来ただけだ。イチイチ絡むのやめてくれ。行こうぜ、アル」
チンピラA「待て、このチビ!俺たちを舐めるんじゃね――」
エド「……今、なんつった……?」
チンピラA「ん?」
アル「あーぁ……」
エド「チビ、と、いったな?いっちまったな?……そーか、いっちまったかー」
チンピラA「だからなんだ」
エド「……だ〜れ〜が〜……、豆粒ミジンコどチビだ―――――――――――っ!」

エド、チンピラにダッシュ&飛びげり。

チンピラA「(悲鳴)こ、こいつ!」
エド「くのっ、このっ」
アル「もう〜、なんで買い物に来ただけでこうなるんだか……。兄さん、行こうよ!」
エド「(荒い呼吸)ちぇっ!」
チンピラA「ふざけんな!」
エド「今日のところは、ここらで勘弁しといてやる!おい行くぞ、アル!」
アル「これじゃどっちがチンピラなんだか分からないよ」

歩きだすエド&アル。

ジャック「クッ……。まぁてよ、ガキども。楽しく遊んでいけって」

ジャック、腰から拳銃を抜き、撃鉄を起こす。

商人A「あ!おい!こんな所で拳銃なんか撃たないでくれ!」
ジャック「ばぁか、この街じゃ、俺が法律だぜ?」

ジャック、拳銃を連射。

ジャック「ハッ!」
アル「兄さん!」

銃弾、アルの体に当たって跳弾する。

エド「わわっ、問答無用かよ!!」

エド&アル、走りだす。

アル「こんな人混みで応戦なんかしないでよ、兄さん!」
エド「わーってるって!とりあえずどっか隠れるぞ!」

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○ウィンスレット家・居間

暖炉の中で、薪が燃えている。
ユナ、揺りイスに座っている。
ドアがあいて、女医モルガが入ってくる。

モルガ「――さあ、ユナちゃん、お薬を用意したわ」
ユナ「あ、モルガ先生。いつも、ありがとう……(咳きこむ)」
モルガ「薬、テーブルに置いておくから。これを飲んだら、ベッドに戻りなさいね」
ユナ「うん……。ごめんね、先生。診療所、空けさせちゃって」
モルガ「気にしないの。じゃ、わたしは台所で後片づけをしてるから」
ユナ「ごめんなさい、先生。お母さんみたいなことさせて」
モルガ「いいのよ。あなたのお母さん、ルノアから頼まれてることだしね」

ルノア、薬をテーブルに置き、居間から出ていく。

ユナ「(咳きこみ)……やだな。わたしの病気、いつになったら治るんだろう?」

ユナ、イスから立ちあがる。

ユナ「お薬、飲まなきゃ」

と、窓の外、前庭でがさごそと音がする。

ユナ「(びくっと)なに!?今の音……、外から?」

ユナ、窓辺へと歩き、窓をあける。

エド「わっ!」
ユナ「(咳きこみ)……誰かいるの?」
エド「え…えーと…」
ユナ「あなたたち……」
アル「あ、あのっ。僕たち怪しい者じゃ……、ちょっと庭に隠れさせてもらって」

チンピラAが走ってくる。

エド「おっと」

エドとアル、がさりと草むらに頭を引っ込める。

チンピラA「くそっ。あいつら、どこに行った!?」

チンピラが通り過ぎる。

ユナ「ジャックの手下に追われてるの?」
エド「いきなり、いいがかりつけられてね。ジャックって何者なんだ……?」
ユナ「この街を牛耳ってる悪人よ。……あなたたち、中に入って」
アル「え?」
ユナ「そこにいたら見つかっちゃうわ。この窓から入って」
エド「……サンキュ!」

エド&アル、窓を乗りこえ室内に入る。そこに数名のチンピラの足音。

チンピラA「んー?おい!」
ユナ「(怯えながら強気に)な、なんですか!」
チンピラA「ここにガキと鎧の2人組が入ってきただろう?」
ユナ「……し、知りません!それより、人の家の庭に勝手に入ら――」
チンピラB「あんだと、こらぁ!?」
ユナ「きゃあっ」
チンピラB「庇うんだったら、痛い目見てもらうしかねーか!」
アル「(小声)兄さん、まずいよ」
エド「(小声)ああ。そーだな。――よっと」

エド&アル、立ちあがる。

チンピラ「ほうら、やっぱりいたな。出てこい!」
ユナ「ダ、ダメよ!こんな奴らのいいなりになることないわ!」

モルガ、扉をあけて居間に入ってくる。

モルガ「ユナちゃん?大きな声出して、どうしたの。なにかあった?」
ユナ「モルガ先生!ジャックの手下の人たちが……っ(咳こむ)」
チンピラA「誰だ?……ちっ。女医さんかよ」
モルガ「まあ。あなたたち、また、外から来た人たちにちょっかいをだしたのね。いい加減にしないと、今度ケガしても、治療してあげないわよ。……わかったら、とっとと行きなさい!」
チンピラA「チッ、先生に睨まれると面倒だからな。行くぞ」

チンピラたち、去る。

モルガ「あなたたちは……、見かけない顔だけど?」
エド「あ、俺は、エドワード=エルリック。たまたま、ユナに匿ってもらって――」
アル「僕は、弟のアルフォンス=エルリックです。」
モルガ「エドくんとアルくんね。そうだちょうどいいわ、わたし、診療所に戻らなくてはいけないの。すこしの間でいいから、ユナちゃんの話し相手になってあげてくれない?」
エド「それは、かまわないけど……」
モルガ「くれぐれも外出はさせないようにね。ユナちゃん体を悪くしていて、外の風に当たるのがよくないの」
アル「そうなんですか、わかりました」
モルガ「悪いわね。それじゃあ、よろしくね」

ルノア、出ていく。扉が閉まって、

アル「えーと……、ユナちゃん?」
ユナ「あっ、はい!」
エド「さっきはありがとう。でも、どうして見ず知らずの俺たちを庇ってくれたんだ?」
ユナ「わたしのお父さん……、あの人たちを街から追い出そうとして、逆に殺されてしまったの」
エド「えっ?」
ユナ「ジャックは暴力だけでこの街を支配してるわ。わたし、あの人たちが大嫌い。だから……」
エド「そっか……」
アル「さっきの人、白衣が似合ってて格好よかったね。モルガ先生っていったっけ」
ユナ「ええ。わたしのお母さん、ずっと忙しくて全然家に帰ってこれないの。だから先生が、代わりに世話をしてくれて……」
アル「そうなんだ」
ユナ「わたしね、病人だから、家事もなるべくしちゃダメ、お母さんの工場に、会いに行くのもダメっていわれてるの」
エド「お母さんの、工場?」
ユナ「ええ。お母さんは、この辺りじゃ有名な工具作りの名職人なの」
エド「名職人?まさか、ルノア=ウィンスレット!?」
ユナ「そうよ、お母さんのこと、知ってるの?」
エド「奇遇だな。俺たちは、ルノアさんの工場に工具を買いに行く途中だったんだ」
ユナ「あ、じゃあ……、お願いしてもいいかな」
エド「え?」
ユナ「お母さんに伝えてくれる?わたし、大分体が良くなったのよって。もうすぐお母さんの手伝いできるようになるから、そうしたら少しはゆっくりしてねって」
アル「お安いごようだよ。ね、兄さん」
エド「おお。――任されたっ」
ユナ「うれしい…」

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○キンバードルテ・ルノアの工場・前

金槌を振るう音など、工場っぽい雰囲気の音。
エド&アル、歩いてきて立ち止まり、ルノアの工場の扉をノックする。

エド「ここだな、ルノアさんの工場。こんにちはー!」

返事はない。

アル「あれ?いないのかなあ……」
エド「いや、奥から音がしてるだろ。こーんーにーちーはー!ルノアさーん!」

エド、さらに扉を叩く。
扉ごしにルノアが歩みよってくる音。

ルノア「……誰、ですか?」※扉ごしの声。
エド「俺たち、あなたの作ってる工具を買いに来たんですけど」
ルノア「…………」
アル「あの、ルノアさん、ですよね……」
ルノア「帰ってちょうだい」
エド「ちょ、ちょっと!俺たち、怪しいモンじゃ!」
アル「僕ら、ユナちゃんの知りあいですっ」
エド「ああ。伝言も預かってる。もうすぐ、お母さんの仕事を手伝えるようになる、って」
アル「扉をあけてください!」

ルノア、がんっ、と扉を叩く。

ルノア「帰って!そんな話聞きたくない!迷惑よ、帰ってちょうだい!」
アル「ルノアさん?」
ルノア「ユナにも伝えて!わたしを手伝おうなんて生意気なこと、考えるなって!」
エド「待てよ。そんないいかたないだろ!」
ルノア「あなたたちは関係ない。いいから、帰って!」

ルノア、もう一度、がんっと扉を叩く。
工場の奥へと歩き去っていく足音。

エド「……なんだよ、感じ悪ぃ」
アル「会ってくれそうもないね。兄さん、どうしようか?」

歩きだすエドとアル。
そこに足音が近づく。モルガである。

モルガ「あななたち!なにをしているの?」
アル「あ、モルガ先生!」
エド「いや、実はユナの伝言を伝えに……」
モルガ「伝言?で、彼女のお母さんには伝えられたの?」
エド「いえ、まだ」
モルガ「仕方ないわね。彼女も忙しいから、わたしが伝えておくわ。わたしも、ルノアと話しに来たの」
アル「あ、そうなんですか……」
モルガ「あなたたちも戻ってなさい。あと……、ユナちゃんにもあまり心配かけるようなこといわないで。あの子は良くなったっていってるかもしれなけれど、まだまだ症状は悪いの。お母さんも、あなたに会いたがっていたわ、といってあげてちょうだい」
アル「モルガ先生、本当にユナちゃんのこと大切に思ってるんだね」
モルガ「当たり前でしょう?わたしの大切な患者さんですもの」

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○キンバードルテ・表通り

行き交う人々のガヤ。歩いているエド&アル。

アル「……ねえ、兄さん。ユナちゃんのお母さん、冷たかったね……」
エド「ああ」
アル「先生の言うとおり、嘘ついた方がいいのかな。会いたがってた、って」
エド「……なあ、俺たちの母さんのこと覚えてるだろ」
アル「当然だよ」
エド「……複雑だよな。ユナの母さんは生きてるんだ。俺たちにとっては、それだけで羨ましいのに、すぐそばにいるユナもルノアさんも、ちっとも幸せそうじゃない。ふたりは親子だってのに……」
アル「うん……。僕、うまく嘘をつく自信ないよ」
エド「俺もだ。さーて、どうしたもんかな――」
アル「あ、兄さん。ユナちゃんの家についたよ」

ふたり、立ち止まる。
アル、ドアの紐を引いて、カランコロン、とチャイムを鳴らす。

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○ウィンスレット家・居間

ぱたぱたと歩いてきて、ユナが扉をあける。

ユナ「あ、エドにアル。おかえりなさい、早かったのね。さ、入って」
アル「うん……」

ふたり、室内にあがる。

ユナ「お母さんに、会えた?わたしの言葉伝えてくれたんだよね。喜んでくれた?」
エド「あ、まあ……、その、なんだ」
ユナ「……なーんて。いいの」
エド「えっ」
ユナ「喜んでくれなかったんでしょう?分かってるわ。ごめんね、無理させて」
アル「ユナちゃん……」
ユナ「いいのよ、わたしに気を遣わなくて。あ、お茶でも入れてくるわね。待ってて」

ユナ、キッチンへと行ってしまう。
キッチンでカップが割れる音。

エド「ユナ?」

エド&アル、キッチンに駆けこむ。

エド「おい、大丈夫か?」
ユナ「ごめんなさい、カップを落としちゃって……(堪えきれず忍び泣く)」
アル「ユナちゃん、どうしたの?」
ユナ「やっぱり……、やっぱりお母さんは、わたしのことなんか邪魔なんだよね……」
エド「ユナ……」
ユナ「そうよね。病気で、手間ばかりかかるわたしなんか、嫌いになって当然だわ。きっと、わたしの顔も見たくないから帰ってきてくれないのよ!(思い切り泣く)」

ドンドンドンと扉が叩かれる。

エド「なんだ、客か?ったく、こんなときに。……俺が出てくる」

ドンドンドンと玄関の扉が叩かれる。
エド、歩いていき、バン!と、ハデに扉を開ける。

エド「おい!もう少し静かにノックしてくれよ!こっちは今それどころじ……」
アレックス「む?おぬしは――」
ヒューズ「なんだぁ、エド?」
エド「アレックス少佐に、ヒューズ中佐!?どうしてここに!」

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○ウィンスレット家・居間

暖炉でぱちぱち薪がはぜている

エド「今、ユナを寝かせてきた」
アル「中佐も少佐も、私服ということは極秘任務中かなにかですか?」
アレックス「うむ」
ヒューズ「なあ、エドにアル、こいつ見てくれや」

ヒューズ、銀時計を懐から出す。

エド「ん?ああ、国家錬金術師の銀時計……」
ヒューズ「……に、そっくりだろう?」
アル「え?それ、偽物なんですか!?」
ヒューズ「最近、銀時計の偽造品があちこちの街に、出回ってる。これを使って特権を悪用してる連中がいるんだ。偽造品のことを知らない一般人は、銀時計をチラリと見せるだけで、信じちまうからな」
エド「まあ、国家錬金術師の顔を全部知ってる奴なんてそういないだろーし。使おうと思えば使えるだろう、け、ど……。あ!だから最近、俺の銀時計も、疑われることが多かったのか!」
ヒューズ「……やーっぱ、そうか」
アル「それで、どうしてユナちゃんの家に来てるんですか?」
ヒューズ「あの子に用があるわけじゃない。用があるのは、母親のルノア=ウィンスレット。ルノアは、キンバードルテでも一・二を争うスゴ腕の職人だそうだ」
エド「それだけで、中佐はユナの母親を疑ってるのか?」
ヒューズ「……銀時計の偽造品は、どうやらこの街から、バラまかれてるらしくてな。市場で聞きこんだところ、ルノアは最近、工具作りを止めてるって話だ。なのに、工場にこもりっぱなし……。怪しいだろ?しかも、軍の鑑定では彼女が作っていた工具と、銀時計の偽造品に同じような作り手のクセが見つかってる」
アル「作り手の、クセですか?」
ヒューズ「そーだ。あのな、エド。俺だって、見切り発車はしたくない。だから、先に家の様子を見にきてるんだ。いいか?これ以上被害が増えれば、国家錬金術師の信用がなくなる。軍として見過ごせないんだよ」
エド「仮に中佐のいうとおりだとして、母親のルノアさんが捕まったらユナどうなるんだよ。ただでさえ、嫌われてると思いこんで、悩んでるのに。ルノアさんだって、病気のユナを置いてそんなことするか?よっぽど、なにかワケありならわかるけど……」
ヒューズ「だとすりゃ、そのワケってのが問題になるな」

居間の奥の扉があき、ユナが歩いてくる。

ユナ「……ごめんなさい、お客さまがいらしてるのに、わたし」
エド「(すこし慌て)あ、ユナ。……もう大丈夫なのか?」
ユナ「うん、平気よ。……ええと、そちらはヒューズさん、でしたっけ?」
ヒューズ「よ、こんにちは。急におじゃまして悪かったね」
ユナ「いいえ。……それで、母にご用なんですよね?」
エド「(小声で)おいっ、中佐」
ヒューズ「いや、たいした用事じゃないんだ。街で買い物をしていたら、君のお母さんがすごくいい工具を作ると聞いてね、一度お会いしてみたくてお邪魔しただけだ。けど、忙しいみたいだし、また今度来るよ」
ユナ「あの、母は仕事場にいます。、わたしの話さえ出さなければ、会ってくれると……」
エド「ユナ、そんなこと」
ヒューズ「ふうむ。……あのね、ユナちゃん」
ユナ「あ、はい」
ヒューズ「俺も娘がいるんだけどさ、娘が熱出すと、そりゃあもう、親としてはあわてふためくわけだよ。とにかく効くといわれる薬を、片っぱしから、たくさん買ってきちゃったりしてな」
ユナ「…………」
ヒューズ「君の飲んでる薬は、医者から貰ってるのかもしれないが、お母さんがお金をだして、頼んでいるモノだろ?お母さんは君に治ってほしいんだ。少なくともその気持ちは本当だと思うよ。だから、嫌われてるなんてことはない」
アル「僕もそう思う。だって、親子だもんね」
エド「そうだよ、ユナ!元気だしてこーぜ!」
ヒューズ「そういうこと!んーじゃ、そろそろ、お暇しますか」

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○キンバードルテ・表通り

ガヤ。
エド、アル、ヒューズ、しばらく歩く。

ヒューズ「さーて、どうする?俺としても偽造品の密売ルートごと根絶したいが、あまり時間の余裕はない。この件は軍の上層部でも問題になっててな。手がかりがなければ、ルノアを捕まえて、尋問するしかねーぞ」
エド「わかってる。けど、絶対、裏があるはずだ。他に黒幕がいるとか……」
ヒューズ「ああ。このままじゃ、ルノア一人が真犯人として捕まることになる。これだけの大事を単独で行なったとなれば、最低でも終身刑だ。子供をおいて、一生刑務所で暮らさせるのは、同じ親として忍びねぇ」
エド「俺たち、も一回、ルノアさんのとこ行ってみる。な、アル」
アル「うん、僕もそういおうと思ってた。ユナちゃんのこと、心配だし」
ヒューズ「わかった。いいか、黒幕を探すのはいいが、絶対、無茶するなよ」

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○キンバードルテ・ルノアの工場・中

鉄を削る音や機械の音。

突然、バンと、扉が開く。

ジャック「(鼻歌)――よぉ、順調に進んでるかい?天才職人ルノアさんよ」
ルノア「くっ、ジャック!」
チンピラA「すいやせん、こいつ、ちんたら作業しやがって」
ジャック「おいおい、ダメじゃねーか。今夜のパーティは大物客が山ほど来んだぜ。きっちり仕事してくれよ。もし手を抜いたりしたらどうなるか、あんたもわかんねーほどバカじゃないだろ。なあ?」
ルノア「わ、わかってます。時間までに品物は完成させるわ。だから、邪魔しないで」
ジャック「仕上がるまで見せてもらうぜ。観客は多いほうが燃えるだろ?」

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○キンバードルテ・街角

ヒューズ、ガヤを背に、電話している。
硬貨投入口に、次々、硬貨を注ぎ足していく。

ヒューズ「ああ……、ああ、そうだ。いや、こっちの調査は――」

ヒューズ、手を止め、

ヒューズ「は?なんだって!ロイ、そりゃ、どういう!」
ロイ「でかい声を出すな」※回線越しのこもった声。
ヒューズ「出さずにいられるか!調査はまだ済んでないんだぞ!」
ロイ「軍の上層部は、二十名からなる部隊をキンバードルテに派遣すると、先ほど決定した。今夜、その街の南にある廃墟で闇オークションが開かれるらしい。銀時計の偽造品も間違いなく、そこで取引される。軍は、その現場を力ずくで押さえにかかるそうだ」
ヒューズ「……そいつぁ、早計だ!部隊なんか動かしゃあ、組織の黒幕どもはとっとと逃げる。そうなれば、捕まるのは見捨てられた小者だけだ」
ロイ「だろうな――」
ヒューズ「くそ!このままじゃあ……」
ロイ「わたしも、できるだけ足止めしておく。だが、……長くはもたんぞ」

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○キンバードルテ・ルノアの工場

エド&アル、扉を叩く。

エド「ルノアさん!いるんだろ!」
アル「開けてください!話を聞かせてほしーんです!」

返事がないので、さらに叩く。
扉の向こう側で鍵のあと音。ガチャと扉が開く。

ジャック「……あん?なんだ、おまえらか」
エド「てめ、ジャック……っ、なんでおまえが、ここに!」
ジャック「フン、俺はここのお得意さんなんだよ。しっしっ、ガキは帰んな」
エド「!まさか、ルノアさんになにかさせてんじゃ――」
ジャック「んー、なんだ?」

ジャック、腰から拳銃を抜く。撃鉄を起こしながら、

ジャック「ガキどもめ、余計なことまで知ってるみたいだな?……ククッ。どこまで知ってるか、聞かなきゃならねーか」

ジャック、空に一発撃つ。
家の周りから、チンピラ五・六人が出てくる。足音とガヤ。

アル「……兄さん!囲まれたよッ」
チンピラB「ジャックさんのいうとーり。さっさと口割らねーと、ケガすんぜ!」

チンピラたち、ジャキジャキ、と銃を構え、乱射。

エド「わっ、たた!ッのやろ――!」

エド、ぱん、と拍手を打って、手を地面につける。
どごん、と土が隆起して壁になる。

チンピラB「地面が壁に!こいつ……、錬金術を使えるのか!」
ジャック「錬金術師か。実物見るのは、二人目だ。どーやら、手加減はいらねーな」

ジャック、拳銃を構え、撃つ。

エド「当たるかよ!はぁ!」

エド、ジャックの手から拳銃をけり飛ばす。

ジャック「ちっ、銃が!」

銃が奥に転がる。

エド「よっし、あとはこっちのモン――――」

奥から扉をあけて、ルノアが出てくる。

ルノア「ジャック?」
アル「ルノアさん!まだ出てきちゃ危ない!」
ジャック「くそ!おいルノア、足元の拳銃を拾ってこっちに渡せ!」
ルノア「銃……?」
エド「やめろ!もう、こいつらのいうことなんか聞くな!」
アル「脅されてるんでしょう?でも、こいつらは僕たちが――」

ルノア、地面から拳銃を拾う。

ルノア「……帰って」

ルノア、拳銃をエドに突きつけ、撃鉄を起こす。

エド「え……?」
アル「ルノアさん!?……なんで、兄さんを狙うの!」
モルガ「……あなたたち、いい加減にして」
エド「お、おい。俺たちは、あんたを心配してきたんだぞ」
モルガ「余計なお世話よ!!いいから、帰って!もう、ここにはこないで頂戴!」
ジャック「くっ、くっくっく……。だぁとさ。形勢逆転だな、ガキども」

ジャック、立ちあがる。

エド「おいおい……。俺たちが悪者かよ?」
ジャック「その女は、ここに閉じこめられてんじゃねんだよ。なあ、そーだろ?クッ」
ルノア「……っ。そう、わたしは自分の意志でここにいるの。だから、ほっといて!」
エド「嘘だろ!?そんなの、いわされてるに――」

ルノア、拳銃を撃つ。エドの足元、地面に命中。

エド「わッ」
ルノア「次は当てるわよ!なんの関係もないあなたたちが首をつっこまないで!」

ルノア、再び撃鉄を起こす。

アル「ま、待ってよ、ルノアさん!どういうこと?僕たちは――」
エド「(声を低めて)……アル、一旦引くぞ」
アル「兄さん?う、うん、わかった……」

エド&アル、走り去る。

チンピラB「おい、待ちやがれ!」
ジャック「放っておけ。錬金術を使うとはいえ、あんなガキに、なにができるってワケでもねーさ。第一、こっちには切札があるんだ」

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○キンバードルテ・表通り

エド&アル、走っている。

アル「兄さん、待ってよ。どうしたのさ、そんなに急いで!」
エド「アル、ユナの家に急ぐぞ!」
アル「え?どういうこと?」
エド「俺は、ルノアさんが閉じこめられてるって思ってたけど、たぶん違うんだ」
アル「ちがう……?」
エド「なにか、弱みを握られてる。だとすれば……、考えられるのは、ユナだ!」
アル「あ、そーか。だからルノアさんは、あいつらのいうことを!」
エド「とにかく、戻るぞ!」
アル「うんっ、わかった」

エド&アル、ウィンスレット家の前で、ざざーっと地面を削って立ちどまる。

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○ウィンスレット家・居間

エド、ばーん、と扉を開く。

エド「ユナ!」

駆けこんできたエドとアル、たたらを踏んで停止。

エド「……あ、あれ?」
モルガ「まあ、エドくんに、アルくん」
アル「モルガ先生!」
モルガ「すこし、時間ができたから。また、診療所に戻らなくていけないんだけど」
エド「や、それはいーんだけど……」(俺の読みははずれたのか……)
ユナ「あははははっ。すごい、すごーい!」

ユナ、拍手。

アレックス「ユナ殿に、そんなに喜んでいただけるとは。ではもう一度。ふん!」

ぐおおおお、と筋肉を盛りあげるアレックス。

ユナ「わー、すてき!アームストロングさんの身体って、逞しいのね!」
アレックス「ユナ殿も鍛え上げれば、わが輩のような身体になれますぞ!」
ユナ「ほんと!?」
エド「………………おいおい、なにそそのかしてんだよ」
ユナ「あら、エドにアル。ゴメンなさい、気づかなくて」
アレックス「おおう、いいところに。ささささささ、おぬしたちも一緒に見るがよい。これから、本腰を入れるところである」
アル「本腰って!な、なんの!?」
アレックス「もちろんユナ殿が早く健康になれるよう、筋肉祈願を。ぬふふーん」
エド「聞いたことねえ!」
ユナ「(クスクス笑って)ああ、楽しい。こんなに笑ったのって、久しぶり」
アル「わあ……、やっぱりユナちゃんには笑顔が似合うね。ね、兄さん」
エド「おー。家ん中まで明るくなった感じだ」
ユナ「ふふ、そうかな」
アル「そうさ。今のユナちゃんの笑顔を見せたら、きっとお母さんも帰ってきたくなるよ」
ユナ「うん、アル、ありがとう!」
アル「あ、いやあ……」
エド「なーに照れてるんだよ、アル」
モルガ「ふふ。よかったわねユナちゃん。なんだか体の具合までよくなってるみたい」
ユナ「うん!先生、わたしもそんな気がしているの」
モルガ「だからって、無理はダメよ。じゃあ、わたしは診療所に戻るわね」
ユナ「あ、はいっ」

モルガ、歩いて出ていく。ドアの開閉音。

ユナ「わたし、お茶入れてくるね。みんな、飲むでしょう?」
アレックス「いや、わが輩たちは用事で、出かけなければならんのです。申しわけない」
エド「……少佐?」
アレックス「(小声)ヒューズ中佐が外で待っておられる。話があるとのことだ」

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○キンバードルテ・街角

エド、アル、アレックス、歩いている。立ち止まり、

ヒューズ「よーう、来たな」
エド「なんだよ、中佐。こんなとこで待ってるなんて」
ヒューズ「あの子に、聞かせたくない話もあってな。どうだった?おまえらのほうは」
エド「ルノアさんに会ってきた。この街を裏で仕切ってるジャックって奴に、無理やり働かされてるみたいでさ。けど、俺らが、逃げるチャンスを作ったのに、ルノアさんは逃げなかった。だから、ユナを脅迫材料に使われてるんじゃ、って思ったんだけど……」
ヒューズ「脅迫材料……、人質ってことか?」
アレックス「ですが、家の回りに、彼女を見張ってるような人影はありませんでしたぞ」
ヒューズ「そいつはちょいと気になるな……。実はこっちでも面倒なことになってる。今夜、銀時計の偽造品も出品される闇オークションが、この街の近くで開かれるんだが……、黒幕が出てくる可能性が高いらしい。それに合わせて中央から軍の部隊が派遣されるって話だ。そうなれば間違いなく、黒幕どもはルノアをスケープゴートにして逃げるだろうな」
エド「ユナの母さんだけが捕まるってことか?」
アル「兄さん、なにか方法は……」
エド「軍より先にオークションに踏みこんで、黒幕を押さえるしかない、か」
ヒューズ「ああ。俺も同じ考えだ。んーじゃ、その手順を決めるか……」

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○キンバードルテ・表通り

商人たちのガヤ。
ふらふらとユナ、歩いている。
ひゅうう、と冷たい風。

ユナ「どれくらいぶりかな、家の外に出たの……(咳こむ)」

ユナ、歩く。

ユナ(M)「せっかく、体調もいいんだもの。家にとじこもったまま悪い方向に考えてばかりじゃダメ。わたし元気なのよ、ってお母さんに、教えてあげたい。そうすれば、お母さんだって――」

ユナ「あの角を曲がれば、お母さんの工場だよね……(咳こみ)」

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○キンバードルテ・ルノアの工場

ルノア、かちゃかちゃと銀時計の偽造品を製作中。
ジャック、がつん、と床をけり、

ジャック「……ちっ。まだ、できねーのか?いつまでかかってやがる」
チンピラA「ジャックさん、そろそろ会場に向かわないと……」
ジャック「しょーがねえ。おい、あとで取りにこさせるからな。急げよ」

ジャック&チンピラA、扉に向かって歩きだす。

ルノア「待って。いつまで……、いつまでわたしに、こんなことを続けさせるの?」

ジャックたち、足を止め、

ジャック「いつまで?愚問だな。稼げる限りは、ずっとさ。あんたには、これからもどんどん出来のイイ偽物を作ってもらう。俺たちは、それを高く売りさばく。くく、あんたにも分け前は渡してるだろ?」
ルノア「……くっ、それは……」
ジャック「俺たちは、運命共同体だろ。なあ、おかーさん?」
ルノア「……わかってる、わ。でも」
ジャック「これからも、頼むぜ。お互いのためによ」
ルノア「……は、い」
ジャック「よし、行くぞ」

ジャックたち、扉をあけて出ていく。開閉音

ルノア「(大きくため息)……しかた、ないのよ」

ばたん、と扉があく。

ルノア「ジャック?どうし――(ハッ、と息を飲む)」
ユナ「お母さん」
ルノア「ユナ!」
ユナ「ジャックたちとの会話……聞いちゃった……」
ルノア「……っ」
ユナ「お母さんが家に帰ってこれない理由、よくわかったわ。そうだったんだ。……お父さんが死んだのは、あいつらのせいなのに!それなのに、どうしてなの!?信じられないよ!」
ルノア「聞きなさい。お願い、聞いて、ユナ。お母さんは、」
ユナ「呼ばないで、母親づらしないで! あんたなんか、お母さんじゃない!」

ユナ、走りだす。

ルノア「ユナ! ダメよ、あなたは体が……ッ」

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     ■コミックCDコレクション「鋼の錬金術師 偽りの光、真実の影」につづく■