言葉の結合術と人工言語
3 2006.4.27
 人工記憶−修辞学と記憶術

レトリック−弁論術/修辞学
ギリシア語文化圏に成立した技術体系
書きことばよりも話しことばを重視する、弁論家のための技術
古代ギリシア的民主制:集会の場における評議や裁判のための説得の術

artes liberales(自由学科)
自由人 lieber にふさわしい、営利に役立たない勉学。
ローマ末期の4〜5世紀、以下の七科目に定まる(Curtius
grammatica, rhetorica, dialectica, arithmetica, geometrica, musica, astronomia
文法、修辞学、弁証術[論理学]、算術、幾何学、音楽、天文学

ars 技法としての修辞学
inventio, dispositio, elocutio, memoria, actio
構想・創案、排列・結構、措辞、記憶・想起、講演法



記憶術
イメージを場所に按配する。イメージ・図像・文字の結びつき

アリストテレス Aristoteles(BC384-322)
 『レートリケー 弁論術』
 『記憶と想起について』
topos: 記憶貯蔵の場。合理的心理学
「思い出というものは、時に場所 τόποσ から生じるように思われる。というのは、あることばから他のことばへ、たとえば牛乳から純白へ、純白から大気へ、大気から湿気へ、湿気から秋の思い出−−この季節をつとめて思い出そうとすると仮定しての話だが−−へと、ひとは速やかに連想してゆくからである」

キケロ Cicero(BC106-43)
『De Oratore 弁論家について』
locus: Simonides の逸話
場所の選定、イメージ形成、イメージの場所への按配。

クインティリアヌス Quintilianus(35-ca.100)
『弁論術教程』全12巻
場所として、建物を一軒利用することを推奨。

作者不詳『ヘレンニウスにささげる修辞学書』
 「記憶には二種類ある。ひとつは生得のもの、もうひとつは人工のものである」
 場所:神殿(住居)、柱間、コーナー、アーチなど。「ちょうど文字を知っていれば言われたことを書き取り、朗読できるように、記憶術を習得すれば、耳にしたことを場所に按配し・・・」

記憶術は言葉と場所を結びつける「連想結合術」と言えるか。

アルベルトゥス・マグヌス Albertus Magnus(ca.1193-1280 または ca.1206〜1280)
 アリストテレスの哲学をキリスト教の教義に。

トマス・アクィナス Thomas Aquinas(1224/25〜1274)
 アルベルトゥスの弟子。中世最大の哲学者。 「記憶が思慮深さの一部とされるのは正しい」


「人工による記憶」の伝統
パオロ・ロッシ『普遍の鍵−−ルルスからライプニッツにいたる記憶術と結合論理学』

中世、記憶術の思弁的領域/技術的領域への展開
魔術的記憶術
 修辞学と宇宙論
 象徴宇宙体系、カバラ
14世紀、記憶術と説教術
 ドメニコ修道会に記憶術が普及していた
 人工説法の教授法
15世紀、記憶術
 思弁的特質は放棄される
 場所を見出す技術、形式的枠組みが心的内容で充たされる。
「実にイメージとは言うなれば文字にあたり、場所は紙面のようなものであるとこころえてもらいたい」

ピエトロ・ダ・ラヴェンナ『フェニックスあるいは人工記憶』(1491)
著者は、10万個以上の場所を操れると豪語
この著書はまず最初ヴェネツィアで刊行、ウィーン、ヴィンツェンチア、ケルンで再版、1500年代中葉にはフランス語版から英訳もなされた。
 イメージの作用:想像力への興奮剤

ルネサンス期になぜ記憶術(人工記憶)がもてはやされたのか
観念を知覚できるように具象化することを好む時代。しるし、紋章、図像、寓話、エンブレームなど:これがイメージを組み立てるものとしての記憶術と結びつく。記憶に仕えるシンボルとイメージ。

ジョン・ディーとロバート・フラッド

フランシス・イェイツはルネッサンス期の記憶術の隆盛について、新プラトン主義との関連を重視。
ルネサンス時代にはさまざまなかたちでイメージの世界が開拓された。(『記憶術』)

ジュリオ・カミッロ『記憶の劇場』
ジョルダーノ・ブルーノ『イデアの影』

John Dee(1527-1608)
Robert Fludd(1574-1637)
「本書がまず第一に焦点をあてているのは、イギリスのルネッサンス哲学を代表するジョン・ディーとロバート・フラッドの二人である」『世界劇場』序

ディー:ユークリッド『原論』への「序文」(1570)
数を扱う諸学:算術、代数、幾何、測地学、地理学、水理学、遠近画法、天文学、音楽、占星術、静力学、記述人類学、人体比例、回転運動学、螺旋学、気力学、地下学、動物誌学、建築論、航海術、魔術・・・について論じている。
「魔術とは、人々が眼でみて大いに驚きの念を抱く不思議な作用が生じるよう指図を与える数学的技術である」(p.45)

フラッド『両世界誌』(大宇宙誌 1617, 大宇宙技術誌 1618, 小宇宙誌 1619, 小宇宙技術誌 1620, 超自然誌 1621, 宇宙の気象学 1626)
「小宇宙技術誌」に記憶術の項目がある。

フラッド『普遍医学』(1629-1631)

Frances A. Yates: The Art of Memory, London, 1966
フランシス・イェイツ『記憶術』(水声社)
Frances A. Yates: Theatre of the World, London, 1969
フランシス・イェイツ『世界劇場』(晶文社 1978)


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