第3次焼酎ブームが到来 若い女性にも「芋」が人気
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カレッタ汐留(東京・港)に昨年オープンした焼酎専門店「Sho−Chu AUTHORITY」。九州産を中心に約3000種類をそろえる |
第3次焼酎(しょうちゅう)ブームが熱気を帯びている。主役はかつては「芋臭い」と敬遠されがちだった、九州の芋焼酎だ。技術の向上と造り手の熱意が「臭み」を「香り」に変えた。首都圏には焼酎専門の酒販店や焼酎バーが相次いで登場し、プレミアムがつく「幻の焼酎」も現れた。若い女性も巻き込んで、さわやかな酔いは深まる一方だ。
1970年代初めに「さつま白波」などが起こした「6:4のお湯割り」の第1次焼酎ブーム、80年代の「酎ハイブーム」に続く、現在の第3次焼酎ブームは、同じ「焼酎」と言っても中身が違う。酒税法上、焼酎は「甲類」「乙類」に分類される。「樹氷」「トライアングル」「純」などの銘柄で知られる甲類は蒸留を繰り返して不純物を極力減らす連続蒸留法で造る。味は無味無臭に近くなる。一方、「本格焼酎」と呼ばれる乙類は1回だけ蒸留する単式蒸留で造る。蒸留を1回で済ませるため、原料の風味が出やすい。乙類にさまざまな風味、香りがあるのは、この製法の違いが理由だ。
「酎ハイブーム」で主流となったのは、乙類に比べブランドごとの特徴に乏しく、「ホワイトリカー」とも呼ばれる甲類だった。対して現在のブームの立て役者は、銘柄ごとに独特の味わいや香りを持つ乙類、いわゆる本格焼酎だ。かつての乙類焼酎、特に芋焼酎はその臭みが「芋臭い」と嫌われ、「オジサンが飲む酒」というイメージも手伝って、女性や若い層を遠ざけてきた。しかし、近年の乙類は、すっきりした味わいをもたらす減圧蒸留に代表される技術の進歩などを背景に、風味を残しながらも鼻につかない商品が増え、飲み手の幅を大きく広げている。もっとも、最近は飲み手の懐が深くなったせいか、原料や製法によって異なる香り自体を楽しむ本格焼酎の愛好者が増え、かつての欠点が長所に転じた感がある。
とりわけ人気を集めているのが、「芋王国」の鹿児島県をはじめとする九州の焼酎だ。「森伊蔵」(森伊蔵酒造)、「村尾」(村尾酒造)、「魔王」(白玉醸造)は「鹿児島の3M」といわれ、入手がきわめて難しい。「森いいぞ」というメッセージを込めて、フランスのシラク大統領が森喜朗元首相をもてなすのに使った「森伊蔵」は一部で1本2万円ものプレミアムがつく。ただ、こうしたプレミアムは流通経路で発生しており、蔵元が不当に値をつり上げているわけではない。過熱気味のブームで生産量が需要に全く追いつかないために、蔵元からすれば不本意に起きている現象だ。
もともと鹿児島、宮崎、熊本の南九州3県の本格焼酎は大半が生産地に近い九州内で消費される「地産地消」型の酒だった。しかし、独創的な造り手の登場や、熱意ある流通業者の支援などをきっかけに、徐々にその販路は九州の外へ広がっていった。「幻の焼酎」の登場は、九州圏以外での話題づくりに大きく貢献したといえる。
本格焼酎のイメージアップに一役買ったのが、麦焼酎「百年の孤独」(黒木本店、宮崎県)だ。その味わいはもとより、斬新なネーミングとスタイリッシュなボトルデザインが高く評価された。「百年の孤独」という名前は、ラテンアメリカ文学を代表する、コロンビア出身のノーベル賞作家、、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」から命名した。同社の米焼酎「野うさぎの走り」は「不思議の国のアリス」でアリスを不思議な世界に導いた野うさぎをイメージして造られた。文学者・中沢新一氏に同名の著書がある。今ではどちらも入手困難な銘柄の一つだ。
革新的な若き造り手の登場も焼酎の革新につながった。東京農業大学の醸造科で学んだ西酒造(鹿児島県)の西陽一郎社長は昔ながらの甕(かめ)を使って発酵させる「富乃宝山(とみのほうざん)」や、蒸留の最初の段階で出てくる初留部分(初垂れ、はなたれ)を使った「ちびちび」などの斬新な商品を次々と世に出した。
日経トレンディ(日経ホーム出版社)は「2003年ヒット予測ランキング」の20位に「スタイリッシュ焼酎」を挙げた。日本政策投資銀行は、本格焼酎の市場規模は2001年度の約2000億円から、2006年度には2500億円へ、25%増えると予測している。事実、清酒や洋酒の販売量が低迷しているのを尻目に、本格焼酎の2001酒造年度(2001年7月−2002年6月)の出荷量は4年連続で過去最高を更新した。欧州ウイスキー業界の「外圧」などによる、度重なる増税を乗り越え、本格焼酎はブームから定着に向けて、仕込みの段階を終えたようだ。
(ニュース編成部 西村顕治)