これはタブー、あれはタブー? オフィスにおける新ガイドライン
(フィナンシャル・タイムズ 2009年10月11日初出 翻訳gooニュース) ルーシー・ケラウェイ
オフィスで働く何百万人もの人が鬱(うつ)と診断されているが、自分の症状を休憩室の世間話にするのはタブーのようだと前回書いた(訳注・未訳です)。なのにタブーについて書いたその記事で私はうっかり、別のタブーを犯してしまった。かつてイギリスで行われていた採用時健診で、医師は男性の睾丸を触診していたのだと説明するため、私は「タマ(balls)」という言葉を使ったのだが、これが問題だったようだ。オフィス・ライフについてのコラムでこの表現を使うのは不適切だと、複数読者から苦情が寄せられた。あちこちのオフィスで日常的に行われているひどい下品な行為に比べれば、かなりささやかなものだろう私の下品な発言に、わざわざ反応してくださったわけで、私は少なからず心打たれた。
しかしこうやって苦情を寄せられて私はつくづく、ルールブックが欲しいと思った。オフィスで何が許されて、何が許されないのかの。ネットで探してみたのだが、それらしいものは見つからなかった。なので自分で書くしかないということになり、オフィスのタブーを探しに出かけていった。そしてここら辺にタブーがあるだろうと見当をつけて探してみたのだが、それは空振り。ほとんど何も見つからなかった。というのも、古いタブーのほとんどが、今やタブーでなくなりつつあるので。
まず最初に、悪態をついたり汚い言葉を使ったりするのは、ほとんどの職場で容認されている。もっともこれは、お互いにそれでOKだと合意している、立場が対等な同僚同士に限っての話だが。あと、さすがにこれはまずいでしょうという本当に際どいいくつかの言葉を使わなければ。ただし、誰かを直接ののしるのは、相変わらずNGだ。特にその相手が、自分の上司だったりしたら。
セックスは今でもややタブーだ。オフィスの敷地内で実行に移すのは、特に。しかし軽いノリで異性の気を引くのはアリだ。これは過去15年間は完全にタブーだったのだが(男たちは、女性ににっこり笑いかけただけでセクハラで訴えられるのではないかと怯えていたし)、このところオフィスにカムバックしつつある。最近の男性はまた昔みたいに、女性同僚の見た目について何か言ってもいいだろうと思うようになっている。これは進歩だ。少なくとも、男の側がさりげなく上手にこれを出来るなら、進歩になるはずだ。私自身つい先週、男性同僚にこう言われたばかり。びっくり仰天した様子で「髪、どうしたの?」と。なので私は冷たくこう言い返した。「『君の髪、すごくいいね』って、こう言ってるつもりなんでしょ?」
職場のレイアウトが個室型でなくても、セックスについて話し合うのはOKだ。オフィスは、パーティションで個人ブースが軽く仕切られただけ。しかしそのあちこちから、周りにはっきり聞こえる音量で、プライベートのあれやこれやが赤裸々に聞こえてくる。離婚調停について弁護士と打ち合わせているやりとりも。ひどいデートの何がどうひどかったかという、細かいあれやこれやも。
強い感情をむき出しにするのは、自分の面子に関わる恥ずかしいことだと以前は思われていた。しかし今では違う。感情をはっきり示すのはいいことなのだ。職場で泣くのは構わない(少なくとも女性は)。職場で泣いても、キャリアに傷がついたりしない。怒りの表現も、復活しつつある。場合によっては、怒りをはっきり示した方がむしろ事態がすっきりするという研究報告もある。
服装に関して言えば、何を着れば露出オーバーということもないし、何がだらしなさ過ぎるということもない。たとえばうちのオフィスでは先日、ベアバックの背中丸出しドレスを着て廊下を闊歩(かっぽ)している女性をみかけた。あれはビーチならギリギリなんとかOKという代物だったのだが。
職場の居眠りも、実はそんなに問題視されていない。上司に何か言われている時に、眠りこけたりさえしなければ。オフィスによっては、眠たい従業員に仮眠室を用意しているところもあるくらいだ。
自分の鬱の症状をオフィスで世間話の話題にするのはタブーだ(私たちはメンタルヘルスについてあまりに無知なので)と前回書いたが、それ以外にNGな話題というと、給料の話くらいか。これはさすがに今でも、ありがたいことに、タブーらしい。「いくらもらってるんですか?」と尋ねるたりするのは。
しかし、これまであからさまにタブーだったものがタブーでなくなっても、だからといって何でもアリというわけではない。というよりもむしろ、何でもアリでは全くないのだ。ただし最新のオフィス・タブーはもっと細かく微妙なものなので、よほど常に気をつけていない限り、実はあっさり破ってしまっているだけなのだ。
たとえば、オフィスにおける最大のタブーが何かというと、それは「真実」だ。少なくとも、この仕事はとても大事なものなんだという勝手な思い込みをあっさり否定してしまうような、そういう真実はタブーだ。これは友人の体験談だが、電話会議に出席した時のことだとか。参加者は世界各地から。一人ずつ自己紹介をし、今どこにいるか言っていったのだそうだ。私はロンドンの会議室にいますという女性がいたり。自分は会社の専用機に乗っていますという男性がいたり。そこで私の友達は、「私はいまパジャマを着て家の台所にいて、トーストを食べています」と明らかにした。すると一瞬、しんと静かになってから、気まずい苦笑があちこちから聞こえてきたのだそうだ。
同様に、野心について認めることもタブーだ。あまりにあからさまに野心がありすぎたり、あるいはあまりに野心がなさすぎたり。どちらも決して、認めてはならない。「定年退職まで時間つぶししてるんです」なんてことを、決して上司に言ってはならないし、かといって上司に向かって「あなたの仕事が欲しいんですが」と言ってもいけない。むしろある意味で、上司に何かを言うことのほとんど全てがタブーだと思った方がいい。ジョークを言うのもリスキーだし、なつきすぎるのもリスキーだ。正直にフィードバックするのは決して賢明とは言えないし、皮肉も同様。
自分の会社を批判するのは、きわめて重たいタブーだ。たとえば、戦略コンサルタント会社で働くあなたは、「よその戦略コンサルとうちは全く同じですね」などと言ってはならない。社外の人間ならどんな阿呆でもそれくらい分かっているのだが、社内の大天才様たちにはそんなこと認められない。そんなことを認めてしまったら、自分たちの世界がガラガラッと崩壊してしまうので。
最後に、職場のタブーであるべきなのに、タブーになっていないことがひとつ。いい加減な仕事、低レベルな仕事をすることは、なぜかタブーになっていないのだ。ずさんな仕事ぶりは、地球上で最も社内競争の激しい会社でもなぜだか容認されている。ゴールドマン・サックスのアナリストになろうと思ったらたくさんの関門を通過しなくてはならないのに、それでも顧客にバカみたいな内容を垂れ流すことは何も問題視されていない。ゴールドマン・サックスの最新エネルギー報告にはこうある。「需要増という驚きにもかかわらず、供給も驚く方向で上昇。ほとんどの驚きの出所は旧ソ連の供給で、国際エネルギー機関の予想値をバレル50万ドル超えたし、我々の予想もバレル65万ドル超えるという驚きだった」と。自分が需要も供給もきちんと予測できなかったと認めている文章で、ひとつのセンテンスに「驚き」という言葉を4回も使うというのは、なかなかのものだ。驚くほどひどい、と言っていいだろう。
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(翻訳・加藤祐子)
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