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太地のイルカ漁描く映画「THE COVE」日本公開を期待

      現地で苦心の「かくれ撮影」敢行、数々の国際賞を受賞

TaylorAkiko2009/08/27
 映画「THE COVE(入江)」を観た。 オーストラリア・シドニーでは8月22日から2つの劇場で公開が始まった。ニュータウンのデンディと、ダーリンハーストのシェベル劇場だ。全米でも7月から公開された模様だ。

 2009年、ロバート・レッドフォード主宰のサンダンス映画祭でオーディエンス賞、カナダ(HOT DOGS)ドキュメンタリー最優秀賞、シドニー映画祭オーディエンス賞、ブルーオーシャンフィルム最優秀賞受賞作。 日本でも公開されることを切に願う。

太地のイルカ漁描く映画「THE COVE」日本公開を期待 |
 和歌山県太地町のイルカ追い込み漁で年2,300頭のイルカが捕獲される。水族館に売られる一部を除いては、殺されて鯨肉として市場に出回るという。その様子がフィルムに納められている。

 製作者リチャード・オーバリー(RICHARD O"BARRY)は1970年代に米国TV番組「フリッパー」(邦題「わんぱくフリッパー」)で主演したイルカ達の捕獲と調教をした。マイアミの水族館で たくさんのイルカを調教し、イルカショーを主催して人気を呼んだ張本人だ。テレビ局の思惑どおりにイルカを調教することに何の疑問も感じていなかったが、「フリッパー」の主役だったイルカがストレスで弱り果て自分の腕の中で息を引き取ったことで、考えを改める。

 以降、私財をなげうって、捕獲されたイルカを海に戻してやる活動に打ち込む。ハイチ、コロンビア、グアテマラ、ブラジルなどで水族館や劣悪な環境で見世物になっていたイルカを大海に返す運動をしてきた。1991年には国連の環境プログラムから、業績を表彰されている。著書に、「BEHIND THE DOLPHIN SMILE」1989年、「TO FREE A DOLPHIN」2000年がある。

 監督ロイ・シホイヨス(LOUIE PSIHOYOS)はナショナルジオグラフィック誌のカメラマン。優秀なダイバーでもある。「フォーチュン」「ディスカバー」「GEO」「タイム」「ニューズウィーク」「ニューヨークタイムズ」誌などの表紙カバーの写真を撮っている。2005年に海洋保護協会を設立した。

 カメラクルーは世界最高のフリーダイバーと言われるマンディー・ロー・クラックシャンク(MANDY RAE CRUICKSHANK)。彼女は水深90mまで6分間息を止めて自力で潜って上がってこられるそうだ。彼女とカーク・クラック(KIRK KRACK)が、ダイバーとして水中カメラをもって撮影に参加した。

 これにハリウッドの特殊撮影グループ、カーナー・オプティカル社(KERNER OPTICAL)が加わり、岩に埋め込んだ高解像度ビデオカメラで、追い込まれるイルカ漁の様子を崖の上から撮影した。また、鯨の形をした飛行船を造り、遠隔操作で上空からイルカ漁の様子を撮影することに成功。一連の撮影は特殊カメラのセンサーで警備員達の妨害を避けながらゲリラ的に行われた。


太地のイルカ漁描く映画「THE COVE」日本公開を期待 |
 太地町のイルカ漁は2007年に環境保護団体「シーシェパード」によって撮影され、世界に紹介された。以来、太地町では環境保護団体や外国人やフィルムクルーに神経を尖らせている。警備員を沢山雇い、撮影や見学にも介入して妨害をしている。

 撮影には大掛かりな撮影機具が要る。「オーシャンズイレブン」ならぬ、かくし撮影チームが太地町に入ったとたんに、24時間の尾行、警備員による嫌がらせ、執拗な追跡と一挙一動への介入が入る。ものすごく人相の悪い私服警官ともヤクザともいえない男達。

 イルカを追い込む入り江は高い崖に囲まれ、トンネルを越えないとたどり着けない。イルカの追い込み漁が始まるとトンネルが閉鎖され、崖の上の公園も立ち入り禁止になり、だれ一人追い込み漁の様子を見ることが出来ない。

 イルカ漁を空から、崖の上から、海底からと、3方向から撮影するために部隊が秘密行動を開始する。明かりもない深夜、カメラを岩に埋め込んで設置するために崖をよじ登るクルー、囲い込まれたイルカ達を海底から撮影する潜水クルー。そして、空から飛行船を飛ばすクルー。執拗に監視する警備員達から逃れながら行動する。

 そして、撮れたフィルムは、血、血、血の海だ。人と同じ、家族とそれの属するコミュニティーを持って暮らしていたイルカが群ごと捕獲され 人と同じ豊かな感情を持ったイルカが身動きできない狭い網に1昼夜囲われた末、1頭1頭刺し殺されていく。水中カメラで捉えた赤ちゃんイルカ達の絶叫ともいうべき叫び声。親達を求めて泣き叫ぶ幼いイルカの声、、、とても、正視できない。

 リチャード・オーバリーが言う。日本には立派な環境保護団体や、科学者、良心的な海洋学者、グリーンピース、それを支持する人々がたくさんいる。WHERE ARE THEY?どこに行ってしまったんだ、と。

 彼は何人もの日本人にインタビューする。毎年9月になると2,300頭ものイルカが 殺されて食肉にされることを知っていますか? 道行く人々、誰もが答えはNONだ。

 IWCで、日本代表が写真を見せながら「ミンク鯨は年々増えています、、、」と説明している。そのフィルムの前で、太地町のイルカの血に染まった海で男達がイルカを突き刺して殺しているフィルムを映し出したコンピューターを腹にくくって躍り出るリチャード。これを即座に激写するニュースマンたち。

 くりかえして言う。この映画の日本での上映を切に願う。

 日本がクジラとイルカを捕獲していることについて、世界中から批判され孤立している状況を認識すべきだ。現状では、IWCで、日本は商業捕鯨を中止させられ、調査捕鯨についても厳しく中止を求められている。しかし日本は札束にものをいわせてIWCの票を買い、アジアやバハマ島などの小さな国から日本支持票を買い、辛うじて調査捕鯨を続けている。このことについて、先進諸国から厳しい糾弾を受けている。南極海での捕鯨については ワシントン条約にも違反するということで、毎年国際法に訴えるとの諸国からの圧力がかかっている。

 西オーストラリアのブルーン市はこの8月、イルカ漁に抗議して、太地町との姉妹都市を中止し、市議会が全会一致で太地町がイルカ漁を続ける限り交流を中止すると決定した。

 ブルーン市は戦前から日本の潜水夫がきて真珠を取って地域の産業に貢献してきた。日本の鯨とイルカ漁が問題になって以来、日本人墓が荒らされたり、日本人襲撃が起きて問題になっている。日本人は日本にいる限り何をやっても何を言っても安全と思っているかもしれないが、海外に住む日本人が襲われたり嫌がらせを受けるなど、被害が出ていることについて無視してもらいたくない。

 IWCでは一定程度の大きさの鯨を対象に保護基準を設定している。大きさが違うだけで、イルカは保護から外されている。イルカも鯨も鯨類(クジラ目)で、同じ大型野生動物だ。イルカは、社会のなかで、社会的役割をもち集団行動をとる高度な知性を持つ。その生態や生息範囲など、まだわかっていないことも多い。

 鯨もイルカも高い知能と社会性をもった野生動物だ。人とともに生きてきた家畜ともペットとも異なる。自由に大海に生きる大型野生動物は保護の対象であって、殺して食うものではない。鯨とイルカの捕獲、食肉することに反対する理由は以下の通り。

 1)他に蛋白源となる食品が豊富な日本で鯨肉を食べ続けなければならない理由がない。鯨肉を食べるのは日本の伝統文化だというのはウソだ。都市に住む多くの日本人が鯨肉を食べ始めたのは戦後であり、鯨肉が日本人の蛋白源だったという歴史はない。

 2)海は誰のものでもない。そこに生息する野生動物を世界中のひんしゅくを買いながら捕獲、食肉すべきではない。鯨は家畜ではない。

 3)殺し方が残酷きわまる。日本側はIWCで瞬時に殺しているというが、逃げ回る野生動物をモリで突き、力尽きるまで泳がせて引き上げて殺す鯨、岸に追い込んで一昼夜網で囲み、突き棒で1頭1頭突き刺して殺すイルカ。自由に大海を泳ぎまわっていた動物を瞬時に殺す方法があるわけがない。

 4)調査捕鯨に毎年5億円の調査費が税金から仕払われているが、それに見合う調査のフィードバックがない。 調査捕鯨の成果が国際的に権威ある英語論文雑誌にまったく発表されていない。科学研究のために億単位の国庫補助を受けて調査捕鯨していながら何ら研究発表が行われていない。このことについて、IWCからも、先進諸国からも激しく批判されている。

 5)調査捕鯨予算の多くは捕獲した鯨を売りさばいた利益でまかなっていることが明らかになっている。これでは公正な調査ができるわけがない。賄賂を取り締まる警察の予算に、もらった賄賂が充てられているようなものだ。取り締まろうとすればするほど、賄賂をもらわなければならないという滑稽な図式になっている。

 6)鯨やイルカなど大型海洋動物の肉は水銀汚染されている。小児、妊婦などは食べるべきではない。政府、厚生労働省でさえ、週40g以下に抑えるべきだとしている。1食分の鯨肉カツレツで約100g。危険とわかっている食べ物を、食べ物の選択肢のない子供に食べさせてはいけない。

 重ねていうが、この映画、日本での上映を切に願う。
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12月28日〜1月3日 

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