2010年5月13日
1日の中で1番ホッとするのって、どんな時だろうか。
仕事を終えて、どこかで1杯飲むとき。
家の玄関を開けるとき。
湯船に浸かって、ほー、となるとき。
寝床にもぐりこんで、うつらうつらするとき。
どれも捨てがたいけど、私は、“小丸を寝かしつけた瞬間”だ。その後にめくるめく自分だけの世界。自分のことだけを考え、行動できる幸せよ。
ぼうっとするもよし。本を読むもよし。さらにその際に、1杯のコーヒーがあるとなおよし。だが、そんな時間にカフェインを摂るとテキメンに眠れなくなるので、しかたなくほうじ茶とか麦茶とかを飲んでいる。いや、好きなんですけどね、ほうじ茶も麦茶も。
ところでこの“至福のひととき”だが、チャンスは1日に2回ある。
夜の寝かしつけ時と、もうひとつ、昼寝時のそれだ。
昼寝の場合は、コーヒーも飲めるし、一石二鳥……のハズなのだが、最近体力がついてきたらしい小丸が、なかなか寝てくれないのが難である。
このまえ、友達のKさん&Mちゃんと一緒だったときもそうだった。
その日。4人で昼ごはんを食べ、少し外で遊んで、時計を見ると2時過ぎだった。私とKさんは暗黙のうちに「そろそろだわね」と視線をかわした。これから午後のひと仕事――“午睡、その寝かしつけ”が始まるのである。
最初の関門は、子供らをベビーカーに乗せること。
機が熟していないと「乗らない!」「まだ遊ぶ!」と激しい抵抗に合う。また、Mちゃんか小丸か、どちらか一方がグズると、もう一方もグズりだすので、2人の様子をよく見て切り出さなければならない。
この日は午前中からさんざん遊んでいたためか、2人とも幸いすんなり乗ってくれた。
お次は、寝かしつけのための徘徊である。
静かで刺激の少ない場所、かつ、青空が見えて風がそよそよと頬をなでるような、気持ちのよい場所を探す。遊具があったり、子供の声がしたりする、魅惑の場所はNGだ。
良い場所が見つかったら、あとはひたすらベビーカーを押して歩く。
子供らが無口になってきたらしめたもので、こうなったらもう話しかけてはいけない。「毛布が少しズレているから、かけなおしてやろう」とか、「眠る前にお茶を一口飲ませてやろう」とか、下手な親心を出してもいけない。かなりの確率で裏目に出る(イチからやり直すハメになる)からだ。
だからできるだけ気配を消す。
無心でベビーカーを押す。
「早く寝てくれ。私たちは茶を飲みたい」という念が生じてしまうのはやむをえないが、あまりに強く念ずると、それが通じて子供が泣き出したりするので、ほどほどにする。
さて。徘徊すること1時間、ようやく小丸が寝てくれた。
心身ともにホッと息つき、待ち合わせ場所の喫茶店へ向かうと、先に入店していたKさんが奥の席から手を振ってきた。隣ではMちゃんがベビーカーでぐっすり眠っている。かれこれ30分前には寝付いたらしい。
足並みをそろえるのはなかなかに困難で、入眠時間の差が15分以内であれば大成功である。30分以内だと小成功。それ以上かかったり、どちらか(主に小丸)が寝なかったりしたら、残念賞。
というわけで今日は小成功だ。おかげでオトナ2人でゆっくりとコーヒーが飲めた。
それにしても、この年になってこれほど“昼寝”に頭を悩ますとは思わなかった。朝起きたときから「今日の昼寝の時間は」「場所は」と考えたりする。
おまけに小丸は、ベビーカーか自転車に乗っていないと寝ないので、どんな大雨でも強風でもいったんは外に出なくちゃならない。
大雨と強風のなかをひたすら歩き、寝たら寝たで今度は、大急ぎで家に戻る。ベッドに移して安眠させてやりたい一心からだが、移すのが入眠後10分以上経過してからだと、たいがい失敗に終わる(起きてしまう)。10分を境に、眠りががくんと浅くなるみたいだ。
だから、「寝た!」と思ったら即Uターン。あとは競歩。必死である。今の私の人生でもっとも激しい時間帯といえる。できれば誰にも見られたくないものである。
小丸は体力がついてきたといっても、昼寝ナシで1日を乗り切れるほどの体力がまだない。なので昼寝は大事だ。うまく取れないと、夕方から夜にかけて元気に過ごせないし、当然機嫌もよろしくない。ただぼんやりと、時間をつぶすような感じになってしまう。
人間というのは、午後2時から3時ぐらいにかけて活性が低くなるらしい。だからその間に昼寝をとるのは合理的で、スペイン圏のシエスタなんかはそのいい例だそうだ。
幼児にそれが当てはまるのかは知らないけれど、たしかに小丸もそれぐらいの時間帯にほどよく眠ることができると、その後とても元気だし楽しそうだ。
こちらとしても、友達とゆっくりお茶を飲めたりするわけで、お互いの健康と平和のために、昼寝は今後もぜひ成功させてゆきたい行事(?)なのであった。
ベランダのイチゴがちょくちょく生って、小丸が喜ぶので、調子に乗ってミニトマト、ナス、キュウリの苗を買いました。思ったよりずっと大変そうで少々不安ですが、今のところ順調に(もっぱらN氏の手入れによって)成長しています。夏が楽しみです。
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。近著『ホームシックシアター』(実業之日本社)も好評発売中。
春口さんへのメール、このコラムについてのご感想、ご質問は問い合わせページからお願いします。こちらをクリック(※プライバシーについて)