space
COLUMN
STUFF COLUMN
COLUMN TOP
   
BACK
space
マッドハウス風雲録
space
いしづかあつこ
■其の二 いしづかあつこ
プロフィール:
1981年9月3日愛知県生まれ。愛知県立芸術大学在学中から自主アニメを制作し始め、DoGAやNHK「デジスタ(デジタル・スタジアム)」などのコンテストで受賞を重ねる。大学卒業後マッドハウスへ入社、『MONSTER』の設定制作を担当する。キャラクターデザイン、絵コンテ、作画監督を務めた「月のワルツ」が、昨年NHK「みんなのうた」で放映され、好評を博した。 http://www.geocities.jp/a_axo_o/

今回登場していただくのは、設定制作のいしづかあつこさん。彼女の手がけた「月のワルツ」(うた 諫山実生)のアニメーションが、昨年NHK「みんなのうた」で放映されて話題となったのは記憶に新しい。そんないしづかさんがアニメを作るようになったきっかけや「月のワルツ」制作の経緯などを聞いてみたぞ。

―― アニメを作りはじめたきっかけからお願いできますか。

いしづか 自分でもよく分からないんです。昔からそんなにアニメを観ていたわけでもありませんでしたし、小さい頃からエレクトーンを習っていて音楽が好きだったので、将来は芸大や音大の方面に進むんだとずっと思っていました。でも、高校の頃にはエレクトーンはやめていて、当時美術部に入っていたということもあって、音大ではなく芸術系の大学に進むことにしたんです。それで大学では、将来の仕事のことを考えてデザイン科を選んだんですが、この学科がとても自由で、何をやっても良かったんですよ。DTPの課題の代わりに、映像を提出しても良かったりして。じゃあ音楽好きだし、物語考えるの好きだし、絵も好きだしっていうのを全部合わせて自由にモノ作ってみようって考えたら、それがアニメーションだったんです。

―― 特に大学の先生が、アニメに関することを教えてくれたわけでは……。

いしづか いえ、大学時代は完全に独学でした。サークルにも入っていませんでしたし。だから、このままじゃまずいと思って、それでプロの業界に入って勉強したいなと思ったんです。

―― 大学時代に作品を何本ぐらい作っているんですか。

いしづか 発表したものだと6本位ですね。全部デジタル作品です。ペンタブレットで描いて。あ、ペンタブレット買う前に作った作品は、紙に描いたのをスキャンして、そのままパラパラアニメの要領で作ったんですけれど。タブレットを買ってからは、画面にガリガリ描いて、ひたすら手描きベースでやってます。

―― ということは、3Dのものは作っていないんですか。

いしづか 作っていないですね。CGといえばCGなんですけど、元は手描きのようなものです。

―― その中でも、自信の作品をちょっと紹介していただけますか。

いしづか 自信があるというわけではないんですが、自分がこの業界に入る一番のきっかけになったと思ってるのが、『引力』という作品です。その作品以前は、そんなにアニメーションに興味があったわけでもなくて、何となく面白いからやっていたという程度だったんです。でも、その頃に自分の作品制作に関して物凄いスランプを迎えていて、そのスランプを乗り越えるために、試しに1本作ったのが『引力』という作品でした。それが、たまたまNHKの「デジスタ(デジタル・スタジアム)」という番組で取り上げられたら、随分周りの評価が良くて、そこから色々なお仕事の話が展開していったんです。

―― いしづかさんのホームページに画像が上がってましたよね。どんな内容のものなんですか。

いしづか モノクロ作品で、黒い背景の上に白い線でエッチングのようなタッチで描いたアニメーションです。月と女の子をテーマにした話で、その月の引力によってその女の子や周りのものが全て吸い上げられていくというSFタッチのストーリーでした。

―― その作品は大学4年の時に作られた?

いしづか いえ、それを作ったのは、大学2年の終わりから3年に入る春休みですね。4年の時には、すでに小さい仕事をしていました。Local Bus(ローカルバス)というバンドのプロモーションビデオを作ったり、携帯電話のAUの着ムービーを作ったりとか、そういう仕事を受けたりしつつ就職活動をしてました。

―― そういったお仕事がくるようになったのは、「デジスタ」をやった後ですね。

いしづか そうですね。「デジスタ」以前は、作品を外に発表するなんてことは全然意識していなかったので、せいぜい大学の先生にみせるだけで終わりだったんです。

―― その後、就職試験を受けて、一大学生としてマッドハウスに入ったんですよね。個人でアニメーションを作っていたことは、面接などで言いましたか。

いしづか ちらっと言った覚えはあります。こういう仕事もやってますっていうのは。

―― 制作として入社したんですよね。最初のお仕事は何でしたか。

いしづか 今も同じなんですけど、入社した時から『MONSTER』の設定制作です。先輩の下について色々勉強させてもらって、今ようやく1人で設定を任されるようになりました。まだペーペーですけど。

―― 折角なので、設定制作がどういう仕事なのか教えて下さい。

いしづか 簡単にいうと、そのシリーズの中で必要なキャラクター設定や美術設定などを管理する仕事です。でも、それ以外にも監督の下について打ち合わせを組んだり、スタッフ間のやりとりの橋渡しもします。たまに撮影さんの手伝いでテクスチャーや素材を貼り込んだりもしてますし……どんな仕事か一言で言うのは難しいですね。

―― 色々やってるってことですね。それで、マッドハウスに入ってから、「月のワルツ」を作ることになったのは、どういう経緯でなんですか。

いしづか NHKの「デジスタ」に出した作品で、『引力』の他に『CREMONA(クレモナ)』という作品があって、その作品を「デジスタ」のプロデューサーが、他の何人かの方の作品と一緒に「みんなのうた」にプレゼンして下さったのがきっかけです。それを観た「みんなのうた」のプロデューサーが気に入ってくださったらしくて、お話をいただけました。ただ、先方は私がフリーの作家だと思っていたらしくて、最初は個人で受けてもらえませんかというかたちで話がきたんですけど、その時、私はマッドハウスの正社員だったので「ちょっと難しいです」と言って半分お断りしてたんです。そうしたら「マッドハウスさんといったら、アニメーション制作会社じゃないですか」ということで、会社を通して話を下さって。

―― 会社の業務としてやったわけですね。アニメーション制作会社の中にいる人が「みんなのうた」を1本作るというのは画期的なことですよね。

いしづか 自分でも「やっていいのか」って思いました。最初、プロデューサーの吉本さんが「自分で決めろ」って言ってくれた時には、なんて寛大な人なんだろう、なんていい会社なんだろうって凄く感動しましたね。

―― 実際のメイキングの話はあちこちでされてると思うんですが、先に曲をいただいて、イメージを膨らませるという形だったんですよね?

いしづか はい、最初に曲をいただいてから、まず絵コンテを起こして、それから作打ちを始めるという流れでした。

―― キャラクターデザインはご自身でおやりになったんですよね。作画はどなたが?

いしづか 作画は、主に『MONSTER』のスタッフの中からお願いしてます。主に前半部分を2人の作画の方にやってもらって。それが、バンバンさん(佐藤雄三)と兼森(義則)さんなんです。主にそのお2人に描いていただいたんですけど、その他数カットずつ沢山の方にお願いしてあります。その方々も超豪華スタッフなんですよ。

―― 美術的なことはどういう風にやっているんですか。

いしづか これも『MONSTER』の繋がりでスタジオ ワイエスさんにお願いしました。まず、私がボードを各シーン全部描いてから、ワイエスさんに描いてもらいました。

―― 作画監督や美術監督はご自身でおやりになったんですね。例えば原画にキャラ直しをのせたりしているんですか。

いしづか そうですね。でも、あまり時間がありませんでしたし、上がってきた原画を見る度にいちいち感動してしまっていたので、そんなに直した覚えはないんです。多少キャラが違っても、雰囲気が統一されてればいいと思ったので。

―― キャラクターデザインが結構独特なんですけど、あれはご自身の普段の絵なんですか。

いしづか はい、ちょっと怖いって言われましたけど(笑)。私が描くのは、あんな絵ばかりですね。

―― 全然違うラインでお聞きしますが、「月のワルツ」は、『(Manie-Manie)迷宮物語』の「ラビリンス*ラビリントス」に、近い雰囲気があるという感想もあるんですが、意識はされましたか。

いしづか 絵コンテをあげるまでは観たことなかったんです。絵コンテを色んな方に見てもらった時に、「『迷宮物語』の「ラビリンス*ラビリントス」を観ておいた方がいいよ」って何人かからその作品名を聞いたので、「これはぜひ観なくちゃ」と思って。それで、作打ちに入る前に観たら「ああなるほど、そう言われるのも分かるな」と思いました。

―― なるほど、先に観ていたら、あのようには作らなかったかもしれないですものね。前後関係が分かって納得しました。 ちょっと作品内容の話に戻りますが、作品を作るにあたってのコンセプトはどんなものだったんですか。

いしづか 主に歌詞を意識してるんです。湯川れい子さんの歌詞に具体的な言葉が沢山出てきて、どうしてもそれに引っ張られるので、何とかその歌詞を生かしつつ雰囲気のある物語が作れないだろうかと思って。だから、その歌詞からインスピレーションを受けて、自分のオリジナルの物語を作るということを、まず最初に決めました。そこから「不思議の国のアリス」とか「アラビアンナイト」とか、その歌詞の中からイメージされるものを自分で読んでから、私の頭の中で描いた完全な夢物語なので、コンセプトって言われると……。

―― では、映像で語られているストーリーについて教えて下さい。

いしづか これはあんまり表に出したくないんです。観る人がとても色々な解釈をされているのを後から知って。

―― 時計の上で男性が変身したように見える理由は? とか。

いしづか そうなんですよ。ですから、これは私が言わないほうがいいかなと思ったんです。

―― じゃあ、それは僕らも考えることにしましょう。ところで、作品に対する反応が相当あったと思うんですけれども、どうでしたか。いしづかさんのホームページの掲示板をみると、ほっとする心温まる書き込みがいっぱいありますよね。

いしづか 実感が湧かないぐらいの反応がきて、しかもいい感想を下さる方たちばかりで、とても感動しました。アクの強い絵だし、気合い入りすぎてるし、「みんなのうた」にしてはやりすぎだろうって、もっと反感買うかなと思っていたんですが。

―― 作品内に漂う空気が濃密ですよね。

いしづか その濃さがちょっと嫌がられるかなとも思っていました。ひょっとしたらそれが嫌だという方もいるかもしれないんですけど、それ以上に好きだって言って下さる方が沢山いて、もう本当に嬉しいです。

―― でも、現状では「月のワルツ」はイレギュラーなお仕事だったわけですね。

いしづか そうですね。

―― 今後どんな風に活動していきたいって思いますか。向こう10年ぐらいのスパンの話でいいですよ(笑)。

いしづか 10年先ってあんまり具体的に思い浮かばないんですけど、また今回みたいに自分のテイストを生かした作品を作ることが出来たら、それは理想的だなと思うんです。もちろん、原作もので演出が出来たら、それも今の自分からしてみれば凄く立派なことなんですけれど、やっぱり今回のことで味をしめてしまったので(笑)。こういうイレギュラーな仕事がまた出来たらなって思いますね。

―― なるほど。じゃあ、何か仕事をお願いしたい人はマッドハウスのホームページにメールを送るようにということで。

いしづか 口を開けてお待ちしてます(笑)。


space
ページの先頭へ戻る