#29「12曲目の謎の巻」 2003.05.30 update!!

先日、でいずさんとおっしゃるから方から、こんなメールが届きました。

> はじめまして。でいずというものです。
> Sanaさんのステキな歌声にいつも聞き惚れています。
>
> いきなりで悪いのですが質問させてください。
> 以前発売した「さなコレ」についてですが、
> 一番最後、12曲目の物語(?)には曲名があるんですか?
> 「?」としか書いていないので友達とこの曲について話すときも
> 「あの一番最後の曲」としかいえなくてなんだか違和感があります。
> あるのなら、どうか教えてください。
>
> 質問だけですが、これで失礼します。
> P.S. これからも頑張ってください。


『pop'n music Artist Collection 新谷さなえ』(通称さなコレ)のは12曲入りですが、最後の曲目には「?」マークだけしか書いてありません。当初はモーニングコール等のボイスコレクションをおまけっぽくに入れようということになっていました。ところが、プロデューサーであるnazo2鈴木さんが意外な提案があがったのです。
「ボイスコレクションもいいけど、童話みたいなのを作って朗読してみたら?」
は?童話?
「やめてよ、鈴木さ〜ん。歌の作詞はともかく、童話なんてムリムリ〜、ありえな〜い。」と全然真に受けていなかったのですが、鈴木さんの次の言葉が胸に突き刺さったのです。
「Hさんの妹さんのことを童話にしてみたら・・・?」

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友人であるHには、若くしてガンになった妹さんがおられました。一昨年くらいからだったでしょうか。顔を合わせる度、Hの口から妹さんの話が出ないことはありませんでした。入院した妹さんは、すでに末期ガンだったので、Hの悲しみのあまりの大きさに、私はただ頑張ってと言葉をかけるしかませんでした。私も父をガンで亡くしているだけに、妹さんを助けてあげられないと言って自分を責めるHの悔しさや苦悩が痛いほどよく分かりました。
去年の早春、Hは医者から宣告を受けました。「妹さんは今年の桜を見ることができないでしょう」と。
 ところが、去年の桜は、妹さんに見て欲しいかのように、例年より早く開花しました。見事に咲き乱れた桜を見ながら、私は何度も思いました。この桜が、いつまでも散らなければいいのに・・・。
余命宣告した医者の言葉をよそに、妹さんは強い生命力で、桜が散るのを見届けることができました。そして、5月に入ってまもなく、訃報が届いたのでした。
告別式で焼香を終えても、妹さんのお顔は見るまいと思っていましたが、Hは言いました。
「妹の顔、見てやってよ。とっても安らかなんだ。」
棺の中には、理知的な顔立ちをした女の子が眠っていました。呼べば今にも答えてくれそうな清らかなお顔でした。仕事や恋やおしゃれや親孝行、まだまだやりたいことがいっぱいあっただだろうに、何故こんなに若くして一生を終えなければならないんでしょう。
亡くなった妹さんの若さが重たくて辛かったけれど、Hの言うとおり、妹さんに対面してよかったと思いました。うまく言葉に表せないのですが、妹さんは、この世にいる人々へ、しっかり生きるように語りかけてくれているような気がして、私よりも年下の妹さんが、心なしか大きく見えたのでした。

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「さなコレ」の印刷物の入稿期限がやってきてしまいました。12番目はボイスコレクションを予定していましたが、鈴木さんの言葉が頭から離れなかったし、最期まで気丈に生きぬいた妹さんに何か捧げたいという想いに駆られて、童話を作って朗読することに決めました。でも、入稿締切の時点でまだ題名が浮かばなかったので、やむなく表記は「?」とすることに。

童話の主人公の少女ユキちゃんは、毎日飼い犬のコロの散歩を欠かさない優しくて芯のある女の子。生前、こんな女の子だったにちがない妹さんの姿をユキちゃんに重ねてみました。大好きなユキちゃんに会えなくなったコロは、悲しみに打ちひしがれていましたが、やがてユキちゃんの死を受けとめ、死は決して「無」になることではないんだと理解します。コロは妹さんに先立たれたご家族のことを思って設定しました。

私の拙い朗読が商品となることの論議はさておき、 「さなコレ」の12番目にこの童話の朗読を選んで本当によかったと思っています。これは私から妹さんへのレクイエムだから・・・。

さて、でいずさんも疑問に思われた12番目の童話、正式なタイトルはつけていないけれど、この童話の仮称で鈴木さんが言っていた『星になったキミへ』、これをタイトルのように使っています。なので、今度から12番目の童話のことを話題にする時は、略して『星キミ』って呼んで可愛がってください。