低コスト化で岐路に立つM-Vロケット(1)〜表面化する日本のロケット開発力の衰退
相次ぐスペースシャトルのトラブル、国際宇宙ステーション計画の見直し、日本の宇宙三機関が統合して誕生したJAXAの混乱……宇宙開発は大きな曲がり角にさしかかっている。その最新動向と今後の展望を、この分野で長年取材活動を続けているノンフィクション・ライターの松浦晋也氏が解説する。
旧文部省・宇宙科学研究所、現宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究本部(ISAS)が開発したロケット「M-V(ミュー・ファイブ)」が岐路に立っている。
2003年10月に宇宙三機関が統合され、JAXAが設立された後、ロケットはすべて筑波宇宙センター内の宇宙基幹システム本部に移管された。とはいえ、すぐにM-Vのすべての面倒を筑波で見ることができるわけではないので、M-Vプロジェクトのプロジェクト・マネージャーとして、ISASの森田泰弘教授が就任し、表向きは「相模原(ISASの所在地)と筑波が協力して、M-Vロケット低コスト化の検討を行う」ということになった。
ところが、JAXAに統合されても、旧組織の縦割りは厳然として残っている。その中で筑波側が提案している、低コスト化案は技術的に見てあまりに稚拙で、センスが悪い。筑波案が通れば「確かに安いがそれ以上に性能が悪くてコストパフォーマンスは低下」というロケットが、開発予算と時間を消費した上で完成しそうな雲行きである。
すべてが徹底的に最適化されたM-Vロケット
この問題を理解するためには、まずM-Vロケットの出自と設計思想を理解しなくてはならない。
M-Vは宇宙科学研究所が、21世紀に向けた月・惑星探査機を打ち上げるために開発した全段固体推進剤を使用するロケットだ(写真)。
1990年から開発が始まり、1997年2月に1号機を打ち上げた。通常は3段式だが、惑星探査機などの打ち上げ時には4段目を追加できる設計になっている。直径2.5m、全長30.8m、打ち上げ時重量は140t。打ち上げ能力は、公称で地球低軌道に1.8t。
2000年2月に打ち上げた4号機が、第1段ノズルの破損で失敗し、その後大改修を受けた。5号機以降は、公称打ち上げ能力こそ1.85tだが、実際には2.3tもの打ち上げ能力を持っている。
M-Vの開発主体は、宇宙科学研究所に所属する糸川英夫直系のロケット研究者達だった。彼らにとって、M-Vロケットは単なる衛星・探査機の打ち上げ手段ではなく、それ自身が実験道具であり「固体ロケットの高性能化」をテーマに論文を書くための手段だった。
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