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東映社長 岡田裕介さん

変わらないのが魅力
新設した「からくり忍者屋敷」の前で。「改装後、市場調査しながら柔軟に内容をどんどん変えていきたい」(京都市右京区・東映太秦映画村)

 東映太秦映画村(京都市右京区)が14年ぶりに改装した。映画の街・太秦周辺で育った東映の岡田裕介社長(62)にとって、父で東映名誉会長だった故岡田茂氏が開設した映画村や周辺地域への思い入れは強い。
 「右京区で生まれ、蚕ノ社や嵐山などに住んでいたので、子どもの頃から太秦周辺は遊び場でした。天龍寺や大覚寺でよくチャンバラをした思い出があります。映画村はまだなかったですが、当時の撮影所はとても大きかった。片岡千恵蔵さんや市川右太衛門さんとかがいたりしてね。

 撮影所に付属の馬場があり、厩(うまや)で寝泊まりして小学校に通っていた時期もあります。日曜日にロケについていき、大名行列で馬を引いたことを覚えている。太秦にもいえることですが、京都の魅力は変わろうとしない部分でしょう。やはり昔のままでありたい。建物は新しくなっても人の心は変わらない。それは京都のいい部分だと思います」

 テーマパークが苦戦する中、映画村の改装に30億円を投資した。
 「新施設の忍者屋敷は体験型で、アニメミュージアムは大人も子どもも楽しめる。コスプレも時代劇にとらわられず、プリキュアなど当社のアニメキャラでやってもらえるようにしたい。JR太秦駅から撮影所内を通る歩道もでき、アクセスが向上しました。今は歩く観光が人気なのでスタジオの現場を垣間見られるようにしたい。太秦で育った人間として映画村への思いは途絶えません。どう再生するかみてもらいたいですね。

 ただ、太秦は映画を中心にまちづくりをしてきましたが、映画にこだわりすぎると古くさくなる。映画は数ある中の一つとしてとらえ、アニメも特撮も何でもある場所として浸透すれば面白い。嵐山とも連携できる。平安京ではない『平成京』の観光ゾーンを太秦を中心に作りたいのです」

「平成京」の観光ゾーンを 時代劇人気またくる

三本足の鳥居があることで知られる蚕ノ社。「幼いころは右京区の寺社でよく遊んでいた。嵐山の渡月橋も懐かしい」(京都市右京区)

 「水戸黄門」の終了が決まり、時代劇の行く末が懸念される。
 「当社のアニメは好調ですが、根っこの時代劇は絶やさぬようにしたい。ただ時代劇の状況は厳しく、スポンサーがつかなくなっている。時代劇の最後の砦(とりで)の水戸黄門が京都でなくなる精神的ダメージは大きいですね。

 時代劇の次世代への継承は実践なくしてありえません。映画村を活用し、衣装やかつらの扮(ふん)装などを通じ、技を伝えていくしかない。映画やテレビの需要はくるくる回る。時代劇は何十年か後にまた求められる時期が必ず来ます。

 ただ、映画村の展示物も昔の映画スターを知る人は減っている。子どもはアニメに興味がある。素直にそれを満たす施設はないといけない。映画村のイベントの半分ぐらいがキャラクターものになればと思います」

 観光客のニーズの変化を肌で感じる岡田さん。京都観光に何が求められているのか。
 「京都がアニメなどのポップカルチャーを重視しすぎてしまうと、観光客は『別に京都に来て見なくても東京でいい』という話になり、逆に意味がない。ポップカルチャーが少ないから京都に施設を造っただけで栄えると思っていません。だからそれを京都がもともと持っている文化と融合させることが大切です。今回の改装でももっとデジタル機器を入れた映画村を作れば、ポップカルチャーの雰囲気に変えていけるのだけれど、それは違う。もっとアナログの部分を大事にして、もとからある時代劇のよさをアピールするのです。京都に来た人は歴史に触れたいと思っているので、どこでも観光客の意識とあまり遊離させてはいけません。

 かつて俳優や映画プロデューサーをやってた頃はよく京都で仕事しました。今、映画はどんどんデジタル化が進んでいます。そうなるとデジタルの取り込みが京都はどうしても弱い。それでも『昔はこうやったんじゃ』とそのままやろうとする。変わらないのはいいのだけれど、京都は新しいものを排他的に扱う部分はありますね。

 京都では、行政や大学で映像に関する人材育成に力を入れています。そういう人材を育てる事業には最大限、協力していきたいですね」

おかだ・ゆうすけ

若い頃に俳優になったきっかけも京都。祇園のバーでスカウトされ、俳優を志したという。

 1949年、京都市生まれ。慶応大卒。1970年、映画「赤頭巾ちゃん気をつけて」で俳優デビュー後、映画プロデューサーとして活動。88年東映入社。東映東京撮影所長などを経て、2002年から現職。主な映画プロデュース作品に「きけ、わだつみの声」「千年の恋ひかる源氏物語」「北の零年」など。

【2011年9月17日掲載】