2ヵ月半で飛び込み5件。JR新小岩駅で自殺者が相次ぐワケ

[2011年09月28日]


「以前から、事故はたまに起きていたけど、最近は立て続けですからね。これでもう完全に自殺の名所になってしまった……。日曜日の事故が決定打になったと思います」

憂鬱な表情でそう語るのは、毎朝、JR総武線の新小岩駅(東京都葛飾区)から通勤している20代男性会社員。男性の言う「日曜日の事故」とは、9月18日午前11時過ぎ、新小岩駅で起きた40代女性による飛び込み自殺のこと。多くのメディアがこの事故を報道した。それもそのはず、新小岩駅での同様の事故はこの2ヵ月半で5件目となるからだ。

最初の事故が起きたのは7月12日午前10時。駅を通過する大船行きの特急「成田エクスプレス」に40代の女性が飛び込んだ。女性は列車にはね飛ばされ、ホーム上のキオスクに衝突。割れたガラスなどで周囲にいた4人の男女が負傷したこともあり、テレビのニュースやネットで大きく取り上げられた。

すると、翌7月13日の13時過ぎに50~60代とみられる男性が、その12日後の7月25日夕方に30歳前後の男性が、さらに1ヵ月後の8月25日朝に20~30代の男性が、そして、今回の40代女性が立て続けに飛び込み自殺を図り、亡くなっている。

なぜ、新小岩駅で自殺が相次いでいるのだろうか。新小岩駅の駅員さんたちを直撃するも、彼らの口は一様に重く、まともに相手をしてもらえなかった。だが、駅周辺で地元住民に聞き込みをすると、こんな声が聞こえてきた。

「事故のことは当然、近所でも話題になっていますよ。新小岩駅では成田エクスプレスがホームすれすれをものすごいスピードで通過するので、自殺しようとする人がここなら確実と思うのかも」

そう、5人の自殺者はいずれも同じホームから、駅を通過する成田エクスプレスに飛び込んでいたのだ。『鉄道員裏物語』(彩図社)などの著書もある現役鉄道会社職員の大井良氏が解説する。

「成田エクスプレスの下り列車は東京駅を出た後、総武線快速の線路を通って千葉駅までノンストップで運転します。そのため、総武線快速が停まる駅の多くでホームのそばを通ることになる。なかでも新小岩駅周辺は大きなカーブもなく、東京駅を出た列車がちょうどスピードを出すところにあたるのです」

JR東日本によると、成田エクスプレスは新小岩駅周辺で時速120㌔に達することもあるという。成田エクスプレスの最大速度は時速130㌔だから、これは相当なスピードだ。加えて、大井氏は7月に起きた3件の事故の影響を指摘する。

「自殺が報道されると連鎖して自殺が増えることはよく知られていますが、飛び込みの発生場所でも同じことが言えます。1件目の事故は、女性がホーム上のキオスクにまではね飛ばされたため、かなり話題になりましたよね。2件目の事故はその翌日ですから、亡くなった方は1件目の報道を見ていた可能性が高い。そうして2件目、3件目と起きるうちに“格好の自殺スポット”として認知されてしまったのかもしれません。よく中央線は自殺が多いといわれますが、そうした理由で定着していった部分がある」

防止策はないのか?

「よくいわれるのが防護柵(ホームドア)の設置で、実際、効果的なのですが、設置費用とその後の維持に莫大なコストがかかりますので、費用対効果を考えると難しいでしょう。JR東日本はアルバイトスタッフや同社OBにホームを巡回させているそうですが、コストを考えるとそれくらいしかない」(大井氏)

新小岩駅では今後も事故が起こる可能性があるということか。

「駅で人身事故が起きた際の現場の初期対応とその後の清掃作業は主に駅員が行なっています。手当などなく、精神的な負担も大きい。初めて作業をする駅員のなかにはショックで倒れる人間もいます。実は、私も作業をして以来、トラウマになっています。新小岩駅の駅員は相当大変だと思いますよ。こうした実態を知って、自殺を思いとどまってもらえれば幸いですね」(大井氏)

そんな大井氏の願いが届くことを祈るばかりだ。

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