*5 酒、ここじゃ・・・




『なんや・・・えらいべらべらと喋るなぁ・・・』
『いえいえ、これは暗示の効果といえますよ・・・』

コタツにみかん、目の前にあったかい緑茶入りの湯のみ 菓子受けには胡麻煎餅と栗饅頭
麻帆良学園を有する世界での、神魔の両最高指導者・・・デタントの功労者はのんびりとしながら
大型フルハイビジョンPDPに映る、横島と茶々丸、その後で二人を伺う、武道四天王の様子を見て話をしている

『どういうこっちゃ?』
『横っちにかけた暗示は唯一つ、<自分の大切な人となりえる人には認めたときに全部ゲロっちゃいましょう・・・それだけです』
『ほな、そのなりえるヤツに言っとる間に、偶々聞いている人はお咎め無しっちゅーことになるんやないか?』
『いえいえ・・・ちょっと見ててください・・・


そういって、黒く染まりだしている神界最高指導者の暗示(?)によって
一人のランニング中の女子高生が、その移動方向を横島がまだ喋り続ける教会の近くの道にへと向ける

その行動を見て、神が普通の人間にそう簡単に干渉しちゃいかんやろーと、常識を語る魔王
その言葉を無視しながら、胡麻煎餅をぼりぼり齧り事の成り行きを守る一神教の神


このふたり、本当にだらけきっています


女子高生が近づいていくと・・・横島は不自然な箇所で言葉をやめた
聞かれてはいけないことを喋っていましたよというような雰囲気があるが・・・女子高生はそのまま走り去る

それを見て、魔王・サッちゃんはほぉっと感嘆の声を上げる


『なるほど・・・それ以外の人間には絶対に聞かせへんっちゅーわけかいな』
『そう言う事です・・・つまり、横っちはあの五人を己の伴侶と認めたのですよ・・・私は全力を持って祝福しましょう


極論を振りかざし、神界最高指導者は実にいい笑顔でそんなことをのたまう
最高の暇つぶしが此処に生まれた瞬間だからだ


『さぁ、サッちゃん。神界と魔界へ、この賭けを広めましょう!オッズ等の発表は後ほどで・・・』
『せやな!横っちの元居た世界のワイらにも教えたらな・・・これはおもろいことになるでー!!!』


あっはっはと高笑いをしながらも、いそいそと準備を始める二人
調和ある対立というのは、良いことなのだが・・・・・やはり退屈だった様だ







「真名殿・・・今の横島殿の言葉は・・・」
「・・・・事実だと思う。六年前に消えて、そして再び現れた・・・世界を超えたとしか思えない事も起きている」

そういえば、自分の胸元に手を置く真名
そこにあるものを刹那は知っている、彼女が何時も大事にしていて・・・そして時に涙を流す原因となっていたもの


「そうアルか・・・でも、もっと知りたくなったアルヨ・・・色々と」
「そうでござるな。拙者も、もっともっと知りたくなったでござるよ。ニンニン♪」
「わ、私も知りたくなったな・・・なんであんなに・・・」

普通に振舞えるのかと・・・


真名は・・・ライバルが急増したことを薄々感づきながらもため息を漏らすにとどまった
ここで喚くほどみっともないことは出来ないのだ・・・彼がすぐそこにいるから

そう、クールで強く綺麗な女であろうと、あの時決めたのだから
あと、付け加えるならば・・・誰にも彼を想う気持ちが負ける筈はないと言い切れるだけの想いを抱いているから







茶々丸は、驚いたような納得したような様子で話を聞いていた
魔力とも気とも取れない力の理由がわかったのだ
あと、不思議な彼の魅力にも


彼にとって、種族というものは全く関係ない
自分であっても、受け入れてくれる時は受け入れてくれることを、彼は今自分から語ったのだ


だが、この硬い身体は・・・


少し前の自分ならばまったく気になど留めていなかった事に、沈みそうになる気持ちを引き上げたのは、やはり横島だった
ぽんっと頭に手を置くと、くしゃくしゃっとたっぷりの親愛を込めて頭をなでる


「ま、この事は秘密なっ!黙っててくれれば、そのうち何かお返しするからさっ!」

その言葉に、茶々丸は呆然と横島の顔を見上げる
なんとも照れくさそうな顔で笑いながら頭をなでる手は・・・大きく暖かく感じる
猫を下ろして腰を上げる男

「んじゃ、またな・・・・後の四人もなー!」


そういって、横島は足元に薄く作ったサイキックソーサーを蹴りつけ、カタパルト代わりにその場を超高速で離脱した
後に残ったのは、五人の少女と数匹の猫のみだった









数時間後、横島はTシャツにジーパン&ジージャンの何時もの格好で、学園長と共に数日前の約束もかねて飲みに来ていた


かわいいおねーちゃんのいる店


・・・そういう約束だった・・・


「・・・学園長?」
「ん?なんぢゃ?」

学園長は、ひとり熱い茶を啜る
温かい烏龍茶、コンビニの冷えた烏龍茶に慣れた日本人には少し馴染みが薄いかもしれないがこれがなかなか美味い



「えぇ、料理は美味いですよ・・・」
「ぢゃろう?これほど美味い中華は外の名店に行かねばお目にかかれないからの」

目の前に並ぶのは中華料理
高級食材といったものはないが、それでも惜しまれていない手間のおかげか味は絶品である
それこそ、元の世界の魔鈴さんの魔法料理にも引けはとらない



「場所もなかなか洒落ていますし・・・」
「うむ、少し冷えるが冷えるからこそ、この暖かさが身に沁みる・・・あと、帰りも近いしのぉ」

これは、横島から学園長へのたっぷりの皮肉
場所は学園内だ
学園内といってもそれこそ下手な街よりも大きいわけだが・・・なんでまた、神木・蟠桃の根元で飲まなきゃいかんのか
周囲には木立があり風は完全に遮られている
たしかに、温かい飲み物が身体に染み渡るし、口の油を拭ってくれて、えぇ、料理がさらに美味いですよ?


此処で横島の声はぐっと小さくなる
学園長の顔に、顔を寄せて


「だけど、かわいいおねーちゃんは一人もいませんが?」
「目の前におるぢゃろう?ほれ、此処の店長」
「いや、おねーちゃんじゃないですし」



そこに、大皿を一枚持ってくるのは受け持ちの生徒の一人

「どうしたかネ、横島老師?」
「いや、なんでもないよ・・・にしても、夜間営業もやってたんだな超包子」


目の前に立つのは、中等部最強の頭脳と資金力を誇ると噂の超鈴音
美味そうな匂いの漂う大皿の上には、揚げたおこげに野菜餡がたっぷりと掛けられた一品
ゴトっと音を立てて置かれるそれを横島は見ながら

ちくしょう、美味そうなんだがタンパク質がたりねぇ!

そう叫びたいのを堪えながら、ごっそりと自分の取り皿にそれを取るのを忘れない


「いや、月に一度、土曜の夜に時間限定ネ。毎晩やってたでは、儲けは出ても四葉たちの負担が大きいネ」
「ま、それもそうか・・・っと、引き止めて悪りぃ」
「気にしないネ。じゃ、良い夜を」


そういえば、ひらっと手を振って超は立ち去った
むぅ、将来はカッコイイ女になるな・・・なかなか言いだせんぞ、あんな言葉


歩き去る彼女の後姿を横島が見ていると、何かゴム製の何かが横島の太腿を掠める
いや、掠めるというか・・・むしろ、抉る?


「#%!*?$#!?」


声にならない声を上げて転がる横島、ふぉっふぉっふぉっとバルタ○笑いをしながら冷や汗を落とす学園長


サプレッサー(消音機)で殺された微かな射撃音は二人に届くことはない・・・が、こんな狙撃を出来る人間は極限られてくる


人外の治癒能力を有している横島でも三秒たっぷりかけて回復すると、がたがた震えながら椅子につく
その震えは、多少は知っていたつもりの少女がこんな過激なことをするのかということか

横島には、狙撃者がなんとなくわかった・・・




震える手で箸を取りながら再び食事を始める横島
さすがに、何時飛んでくるか判らないゴム弾が怖くてがっついて食べられない


「・・・で、説明してもらえるんでしょうね・・・」
「ん?何のことぢゃな?」
「ネギですよ・・・なんでネギが此処で教師をしているのかってことです」


とろりとした餡が染み込んだおこげを頬張り、美味そうに食べている横島に、此処ぢゃ無理と即答する学園長
一瞬理由を考えたが・・・なるほどと思い出す


ここは超包子


2−Aの生徒が経営する屋台
良く考えれば、学生が経営運営している屋台があるというわけで・・・この学校は一種の治外法権が認められているのかと考える


というか、それしか考えられない


まぁ、ある意味それがネギを雇っている答えなのだろうと思いながら、横島は食事をしていく

やがて、食事が終わり最後の茶と甘点心を楽しんでいると・・・背後から人が近づく気配に反射的に振り返る
そこに立っているのは・・・

「お待たせしました、学園長、横島先生」
「・・・学園長、誰っすか、この(ムチムチバイーンな)美人さんは」


女性を一瞥し、冷静に言葉を紡ぐ横島


もっとも、言葉とは裏腹に鼻の下は伸びきって、鼻息が危険なほど荒い


横島のストライクゾーンど真ん中だったらしい


「横島君・・・・君も学習能力がないのぉ・・・・」

学園長のため息と共に、再び姿なき(バレバレの)魔弾の射手が放ったゴム弾が横島の肩を抉る
勿論ごろごろと地面を転がって悶絶する横島


その姿を見て、肩にかけている竹刀袋を脇に構え、身構える美人
学園長は、茶を啜り一息つき


「あぁ、葛葉くん、構わんよ・・・龍宮くんのちょっとしたお茶目ぢゃ」
「龍宮真名・・・のですか」


学園長の言葉に、信じられないといった様子で言葉を繰り返すのは、葛葉刀子 中等部の補助教員を兼ねた魔法先生である

横島がよろよろと回復し、テーブルに手を着いて立ち上がる頃合、学園長は再び口を開く


「横島君、スマンが此処にいる葛葉くんと三人で今夜の巡回を頼むよ、地形も不慣れぢゃろうからな」

「ちょ、ちょっと・・・オレは今から・・・」
「あと一人は・・・まぁ、先ほどから君を狙っておる人物ぢゃ・・・ずいぶん楽しみにしておったからの・・・」
「YES.SIR 学園長、その作戦謹んで拝命します」


ズズッと背後の気配が濃厚になったのを感じると、すぐさま横島はその場に直立し最敬礼をする
次の瞬間には、背後の気配は薄まる

恐ろしいまでに判りやすい感情

本当にこれが、あのクールな龍宮真名かと呆れる刀子と、ニコニコと笑っているように見える学園長

(こりゃぁ、横島君に木乃香と見合いをさせるのは大変ぢゃのぉ・・・)

内心は滝のような汗をかいていたようで







夜十一時

横島は美女・美少女を連れて森の中を歩いていた

一人は、近接戦のプロ 神鳴流剣士 葛葉刀子
一人は、射撃戦のプロ 『横島忠夫の従者』 龍宮真名

二人のプロフェッショナルが居て、それぞれの距離が違うとなると、横島の仕事は自動的に決まってくる

二人の援護を勤める遊撃手である


「んじゃ、何かあったときは刀子さ・・・葛葉さんがフロント、真名ちゃんがバックで、オレがカバーっすね?」


なれなれしく名前で呼ぼうとしたら、首筋にチャキっと刀が突きつけられる
横島の頬を流れる心の汗はなんとも哀れを誘う

「それは良いのだけど・・・横島先生、貴方どんな力があるの?学園長も良く判らないって言ってたし・・・」

じと眼で前を歩く横島を見る刀子

ちなみに、横島の前を歩くと背筋に悪寒しか走らないという理由から、横島と真名が並んで歩き、その後を刀子という形である


「あー、俺の力は・・・こっちの世界でいう気に似た能力っすね・・・まぁ、主に使う三つだけでも」



暫く歩いて少し木々が開けた場所に出ると、横島は立ち止まってくるりと振り返る
そして、右手を軽く自分の胸の高さぐらいまで上げる

ボゥッと淡い燐光のような光が横島の手に浮かび上がると、その手には六角形の光を放つ盾のようなものが生み出される


「これが<サイキックソーサー>主に盾として使ってます、投擲すればかなりの威力かと・・・
 あと、地雷のように地面に置いたり、クレイモアみたいに指向性を持たせて爆発も出来るっす。同時展開は今だと七枚っすね」


刀子の眼がまん丸に開かれ、サイキックソーサーを見つめる
神鳴流も『気』を用いた剣術を突き詰めたもので、気の扱いにかけては一流との自負は持っていた
だが、物理干渉を起すほど圧縮された気というものは信じられないものなのだ


だが、刀子の驚きはこれではすまない


サイキックソーサーの像が歪むと、それを構成していた霊力は解けた毛糸のように糸状になり横島の右腕を半ばまで包み込む
淡い燐光を浮かべる籠手


「これが、栄光の手<ハンズオブグローリー> 伸ばしたり、鉤爪みたいにしたりもできますが・・・オレはこっちを多用してますね」

そういって、手刀を作ると1m近い長さにその光が収束する
霊力で作った剣
それは、並みの聖剣や神剣よりも強い力を帯びている


刀子には信じられない能力

アーティファクトでもなく、呪文詠唱も媒介仕様もなく、ただ無造作に自然にそれをなす男

そして、噂では・・・この男は決戦存在と謳われた男

三つといっていたので後一つ・・・徐々にその能力が戦闘向きになっていくのを感じると最後の一つは・・・



だが、横島は三つ目の能力を見せない


眼を閉じじっと動きを止めている

これが三つ目の準備動作なのだろうか・・・そう思っていると、不意に真名が動く

Yシャツにジーンズ&ジージャンと誰かと揃えた様な服装の真名は、何時もの銃を収めたアタッシュケースを持っていない
変わりにポケットからカードを取り出す


従者の証
初めて解かれる力の封印


「アデアット!」



瞬時に少女を包む淡く眩しい燐光
次の瞬間に立っていたのは、黒のスリムなシルエットのパンツスーツに身を包んだ少女
後ろ髪は赤いバンダナでリボンのように一つに纏められ、その両手には刃のついた大型拳銃


迷うことなく身体を旋回させ、長い髪を振り乱しながら引き絞られるトリガー
銃口から淡い銀の輝き放つ弾丸が、微かな銃撃音伴い飛び出す

硬質な金属音が響き渡る

ざっと構える三人
三人の周りにはいつの間にか、いかにも警備ロボットですというようなバスケットボール大の蜘蛛型の多足ロボットに囲まれている


「これは・・・大学工学部が夕方に暴走させたというガードロボ!?」

「なんで、そんなん放置してるんぢゃー!!」


刀子の歯噛みする声に、横島はすかさず突っ込みを入れる

変な気配がするから、神眼をうっすらと開いてみれば周りがいつの間にか囲まれている
バンダナに仕込んだカードから、念話で真名にアーティファクトを呼んでもらい牽制してもらったのだが・・・
凄まじく情けない理由で生まれた相手が敵であった


麻帆良学園での横島の初陣がここに始まる





「ここの大学は変なもん作ってー!責任者でてこーい!!」

横島は、涙目になりながらサイキックソーサー六枚を三人を中心に展開し不意打ちに対しての防御布陣を引く
美女・美少女を傷つけるわけにはいかない!!というように、その大きさはかなりのもの

ガラスに爪を立てるような音を立てサイキックソーサーに取り付くガードロボ

盾を破壊しようと、複数が飛び掛ってこようものなら、それを横島が見逃すはずもない
すかさず盾は指向性地雷にへと早変わりする

「サイキック・クレイモア!!」

技名を叫ぶ癖が抜けないのか、それともそれをすでに意識化での霊能のトリガーとしているのか
盾に僅かに亀裂が走ると、それはガードロボの方へ細かなサイキックソーサーの群れとなって爆発し襲い掛かる

突き立つ破片は、関節などに入り込み回路を寸断しボディをぼろぼろにしていく
クレイモア一発で数体を巻き込み行動不能にし、すぐに新しいサイキックソーサーを展開する横島は小型のサイキックソーサーを投げつける

「ちくしょー・・・こんなん嫌やー!!」

そんなことを言っておきながらも、珍しく真面目にやっているようだ
敵の数は、クレイモアが一発発動するごとに急激に減りつつあるから





真名は、無言のままサイキックソーサーを盾にしつつアーティファクトの試し撃ちも兼ねて引き金を引き続ける
だが、その表情は笑みが絶えない

今背中には、憧れの人の背中があるのだから

手にした銃も最高だった
サプレッサー無しでも、音はないと思えるほど小さい
自分好みのリコイル
ただし、威力はマグナムクラスかと思うほど抜群

バシャンッ!と独特の音と共にスライドが開ききり、マガジンの弾を撃ちつくした事を告げる
マガジンを素早くリリースし、もう一丁で攻撃しつつ握り締めすぐに銃に戻し再び撃ち始める

最初、スライドが開ききった時、真名は驚いた
アーティファクトは、魔法で生み出されたもの。銃の弾丸ぐらい無限ではないのか!?
今日は予備の弾薬を用意していなかったので、焦りに焦った

慌ててマガジンを引き抜く、空になっているマガジンは装弾済みのそれに比べて軽い
そして、手の中の感触は・・・頼りないほどに軽い
歯噛みをし、弾切れを・・・自分が役に立たなくなったことを泣きそうな思いを隠しながら、横島に告げようとマガジンを握り締める

すると、急にマガジンが重くなる
慌てて視線を手に落とすと、そこには銀の輝きが装弾済みのマガジンが握られていた
真名は多少の混乱をしつつも、マガジンを銃に差し込み再びトリガーを引き絞り始める

再びのスライドロック

もう一度、マガジンを引き抜き、そして握り締めると・・・
真名の目の前でマガジンに淡い光が集まり、そして再び装弾済みのマガジンにへと変わっていた


誘導魔力弾


マガジンを握ることで、魔力をマガジンに誘導し弾丸に変換・装填するアーティファクト
真名にとってこれほど嬉しいアーティファクトはなかった

経費が浮くことも嬉しいのだが・・・何よりも一番嬉しいことは



いつでも、ずっと、忠夫にぃの役に立てる、同じ戦場に立っていられる
それが最も大きかった
無言の少女の笑みは深まるばかり

傍目には、とっても危ない子に見えてはいたが・・・





刀子は、野太刀を引き抜くと近づいてくる鋼の蜘蛛を一太刀の下に切り伏せる

技も何もない
気を纏わせた野太刀の一撃で十分なのだ


というか・・・・ようやく一体潰しただけというのが本音である


長距離は真名の正確無比な射撃・・・威力もそこら辺の銃など目でもないほどの破壊力を見せている

中距離は、横島のサイキックソーサーで落とされ、固まってきてもクレイモアの一撃で瞬殺状態だ
たまに打ち漏らしがあっても、真名が放った銃弾がいつの間にかそこに飛び込み、撃破する

恐ろしいほどの連携


そう・・・・なぜか、胸がもやもやとする・・・・羨ましいほどの意思疎通、信頼



楽は楽なのだが・・・居た堪れない感覚に刀子は襲われる
そして、その感覚を振り切るように、何も考えず踏み込む


彼女を知るものなら、珍しいと口にするだろう行動
防衛線となっている横島のサイキックソーサーの脇を飛び出し、振られる刃の銀の輝きが闇夜を切り裂く
タイトスカートが捲り上がろうが気にならない

もちろん、横島の視線は捲りあがったタイトスカートの中に釘付け・・・真名と違い大人な白の下着にドッキドキだ!


刀子は何も考えられない・・・目の前の敵を屠る事しか考えられない
ただ我武者羅に自分を包み込もうとする感覚を振り切るために、刀を振り回す

振り下ろした切っ先が、的確に関節の隙間に入り切り落とし
跳ね上げる刀身が、ボディを真っ二つに切り裂く
横薙ぎに払った刀は、擦れ合う金属音を立てながら蜘蛛を弾き飛ばす
飛び散る破片が身体に降り注ぐ


何かを壊すことに快感を覚えるなんて・・・
背徳的なものを感じながらも、その衝動に意味は身をゆだねることがとても心地よい


前に・・・前に・・・ひたすらに前に踏み込み、斬り付け、踏みつけて・・・・



「あぶないっ!!」

遠くから声が聞こえる
男の声
別れた前の夫とは似ても似つかないが・・・ぞくりと心を揺さぶる力強くどこか優しい声

目の前の敵を・・・最後の一体を切り伏せたところで振り返れば





自分に向け飛び散る赤





鶯色地に朱糸で縁取りや刺繍のされた傾いた着物姿
その人物の両袖は捲り上げられている

右手には白に朱のラインの入った籠手、左手には黒に金のラインの入った籠手を身に着けており
足元は黒のブーツのようだ

目元から額を覆うのは、白に緑色のラインの入ったバイザー

ナイトキャップのような二股に分かれた帽子を被り、その先に淡い緑色の輝きの珠が一つずつ付いている
その珠は良く見なければ判らないが、<加><速>の文字が一つずつ浮かび上がっている


和洋折衷の異様な装束の男


その男の肩を抉るのは鋼の爪

刀子の頬や眼鏡に飛び散った血が、ピシャッと付く


「どっせぇぇぇぇえええっい!!」


気合一閃、黒い籠手から黒に近い濃赤の光の剣が伸び、自分の肩を抉っていたガードロボに止めを刺す


いったい、この男は誰だ・・・


肩で息をする男に向けられた刀子の無言の問いに答えたのは、共に見回っていた少女だった
その表情は、明らかに焦りと心配とで埋まっている・・・この少女がここまで心傾ける相手は・・・


「忠夫にぃ!!あぁ・・・なんでソーサーを投げなかったんだ!」

真名が横島に近づき、その肩の傷を確認する
骨は折れていない、縫合も必要とするような傷でもない・・・だが、それでも余り軽いとはいえない傷
ヴゥン・・・と耳慣れない音と共に、横島の身体を覆っていた衣装が幻のように大気に消える


刀子は立ち尽くしたままその様子を見ている
気付いてしまったのだ・・・自分の取った軽率な行動のせいで、無傷で終わる戦いが男が負傷を負うことになったと


肩口の裂かれたジージャンとTシャツ
真名はその傷の治療を申し出るが、横島は断る・・・彼にとってこの程度の傷は、シリアス時に負ったとしてもたいした事はないのだから

その反応に、真名はムスッとしながら、それでもとアーティファクトを解くとジージャンのポケットから取り出したハンカチで傷口付近の血を拭う
そして再び問い返される先ほどの行動


「イテテッ!いや、あの距離だとソーサーの爆発に巻き込まれる可能性があったし・・・何より時間的に届かんかったからな
 <己魂影装術(きこんえいそうじゅつ)>で加速に入らなかったら、庇うことも危なかったんやぞ?
 ・・・それに何より、これで刀子さんの俺を見る目もこう鰻のぼ・・・あんぎゃぁぁぁあああああああ!!!!!


横島の余計な一言に、真名はハンカチをわざと傷口に押しあてぐりっと血を拭う
響く凄まじい声

この夜の戦闘はこれ一件だけだったのだが・・・刀子と横島&真名の間には微妙に奇妙な空気が漂っていた


ちなみに、不用意な一言で斜めになった真名のご機嫌を戻すために、自分の心霊治療で傷口を塞いだ横島は暫くの間土下座を続け・・・
近づいてきた学年末テストの勉強に付き合うことで許してもらえる事となった





                                     

感想は此方までお願いします

ご意見掲示板