のーとのはし1 人形も見た夢




様々な問題のあった学年末テスト

その全てが終わった夜

人々は普段どおり心地よい眠りの中についていた・・・
教師は、翌日の点数発表という名のクラス対抗戦に備え、死ぬほど採点で頑張っているのだが



茶々丸は元来眠りというものは無いし、必要でもないのだが・・・
だが、本人は語る


その日は眠りについて、夢を見たと





夢に出てきたのは二人
凄まじいほどの存在感を持つ二人

十二の漆黒の翼を広げる禍々しい気配の男
茨の冠を被り貫頭衣というかローブをまとった神々しい気配の男


機械でできた自分がこういうのもおかしいがと、彼女は前置きを置き


直感的にこの二人は魔王と神であるとわかったと言う



「汝、乙女よ」
「あんさんは、ワイらの代行者の伴侶候補に選ばれたでー」

神々しいほうが先に口を開き、禍々しいほうが何故か関西弁で後を継いだという
その言葉を聞いて、神々しい方・・・つまり神は見咎めるように顔を向ける

「サッちゃん、その口調はやめて下さいといったでしょう?神託の威厳というものが・・・」
「そないなこと言ってもなー、こればっかりはどうにもならんわ」


気楽に肩をすくめる魔王に、深くため息を漏らす神


「まぁ、確かにそうですね・・・本質でしか私たちは語れないのですから」
「そーゆーこっちゃ・・・っと、ほら、神託、神託」


そう促されると、神はあぁ、そうでした・・・と何をしに来たんだかといった反応を取る

それを見守っていた茶々丸は、その言葉に声を発して突っ込みを入れることは出来なかった


何故か声が出せない
そして、モーター等の動く感覚がない
自分であって自分ではないような感覚が自分を包んでいる

もどかしげに顔をゆがめていると、神がそっと手を彼女の顔の前にかざす


「やはり魂が急速に構築されていますね・・・無理に声などを出そうとしないほうが良いです
 少しなら身体を動かせると思いますので、自分の身体を確認してみてください」

制止する声に従い、ゆっくりと茶々丸は視線を下ろす

そこには見慣れないものがあった

これは何だろう?と考える
だが、答えはいっこうに出てこない


機械ではない、継ぎ目のない体

血色良く柔らかな感触が伝わってきそうな肌

大きな乳房・・・正確な計測はしていないが同じクラスの那波さんに匹敵するほど大きいとおもわれる

よくよくセンサーを・・・感覚を研ぎ澄ませば感じる鼓動・・・心臓の脈動

肉体

ボディでは・・・機械の身体ではない
血肉を持った肉体・・・厳密には違うのかもしれないが、それが最も近く正確に表しているとおもう


これは・・・声にならない声で驚いていると、それに答えたのは魔王
ニヤニヤと、何かを企んでいますといった気配たっぷりである


「それは、あんさんが魂を明確にもったおかげで生まれた、あんさんの理想の肉体
 受肉するさいに想像されるであろう身体のイメージなんや・・・
 人間女性の肉体についての知識はしっかりとあるんやろ?」

うんうんと一人納得して頷く魔王に、何を言っているんだろうといった表情で首を傾げて見上げる


身体のイメージ?

それよりも、受肉?

ガイノイドである自分が、こんな・・・あの人の傍にいられるような肉体を得られるとでも言うのだろうか?

茶々丸は、それでも問いに対して首を縦に振って肯定する
マスターの身体を見守るものとして、その当たりの知識はしっかりと細かいところまで記憶してある


その答えに、二人は満足したように頷く


「これは神託・・・起こり得る事のみを伝えるために、貴方に心構えをしてもらうために用意した託宣です
 絡繰茶々丸さん・・・・貴方はあと一ヶ月ほどで、生涯に関わる選択を迫られることとなるでしょう」

「一つは、機械の身体のままマスター・・・エヴァちゃんに仕えることや
 もう一つは、仮初やけど受肉して新たなマスターに仕えることや」


二人の言葉・・・禍々しい存在の後の言葉に、茶々丸は心配と歓喜を覚える

自分がいなくなれば、マスターはどうするというのだろうか?
自分の新たなマスターというのは・・・その考えの時、頭に浮かぶのは一人の男性
くたびれたスーツに、オールバックに纏めた髪で猫と一緒に夕日を見ていた

頬が熱くなるのを感じる
よくよく考えると・・・今の自分はなんと人間的な思考をしているのだろうとおもう


自分の反応を見ながら何を考えているかを適切に汲み取った・・・もしくは読み取ったのだろう、二人が口を開く


「安心しーや。受肉しても、機械の身体はまた動いてキチンとエヴァちゃんに仕えるよって
 せやなー・・・魂が肉体に移って残りは機械の身体からコピーされるって感じやな。」

「それに、貴方の新たなるマスターというのは・・・えぇ、貴方が今想像している人物です」


神々しい存在の言葉に、顔が真っ赤になってしまうのを感じる
これは悪魔の取引なのだろうか?それとも神からの贈り物なのだろうか
あの人と、契約を結ぶことが出来るかもしれない・・・もしかしたら、その先まで・・・


「これにて神託は終わりです・・・後は、貴方の頑張りによってこのレース
 ・・・げふんげふん・・・貴方の人生は楽しく豊かなものとなるでしょう・・・ただし!」

「努力は怠ったらあかんよ?データを取り入れればモーションとして組み込める機械の身体と違って
 肉体っちゅーもんは、日々の研鑽が大事なんやからな・・・それは、エヴァちゃんを見ててよーわかるやろ?」


一つ頷く
これは確かに神託だ・・・本当に起こるというのであるならばだ・・・


「それでは失礼します・・・全ては貴方の御心のままに」
「ほななー、もし受肉を選んだ時にはもう一回来るさかいなー」


そう言い残して、その存在たちは去っていった

そこで茶々丸は眼を覚ます
周囲をセンサーで確認する、周囲は暗く未だ夜ということは判る
システムクロックを確認すると、今の時間は2時34分 スリープモードに入って2時間35分

システムログを確認するが、外部からの介入は一切ない
メモリーログも確認するが、さっきの二人に関するものは一切ない

ただ、覚えているのだ・・・これが、記憶に残る・・・ということなのだろうか?

不思議な感覚を持ちながら、その晩、茶々丸は朝が来るまでずっと思考していた







「ようやく、候補(学生側)の夢枕立ちが終わったなー」
「えぇ、三名に関してはすでに自分の気持ちに気が付いていましたから楽でしたが・・・」
「後の二人はちっと骨やったなー・・・二人ともまっすぐやったからな」

こくこくと頷きあう二人
だが、これくらいの種まきでへばっていてはいけない・・・全ては・・・

「え〜っと、ここからは時間的に二手に分かれたほうがよさそうですね」
「せやな、そのほうがよさそうやなー・・・・ほな、ワイは横っちの方にいくわ」

ふたりして、なにやら住所録か何かを覗き込んで話し込むキーやん&サッちゃん
サッちゃんが、時間を確認すると、そうですねとキーやんは頷く

「では、私は此方の方へ・・・・・・それでは、我々の楽しみの為に」
「ワイらの楽しみの為に」

変なところで妙な結束力と合言葉を見せつけながら、二人は分かれる






「汝、更なる力を欲するか」


夢の中に出てきたのは神々しい存在
問いかけられたのは、力

力が欲しいかと問われれば・・・首を横に振るしかない

だが、その返答に対し神々しい存在は嬉しそうに頷く

「そうでしょうね・・・・貴方が欲しているのは己の殻を打ち破る何か・・・・そのきっかけ」

こっくりと頷いてから・・・私は我にかえる
今の自分の格好は・・・いつも寝ている時のネグリジェ!
慌てて自分の身体を手で隠すが・・・それから気が付く、今の格好は普段のスーツ姿

その行動を見ていた、その存在はにこやかに笑いながら諭すように言った


「ここは貴方の夢の中・・・貴方の魂のありようが現れる場所、貴方の最も慣れ親しんだ姿が現れます
 それはそうと・・・これから貴方に神託を授けます・・・・貴方が己の殻を打ち破れるように」

その言葉に眼を見開く


殻を破る


それが如何に難しいかを知っている・・・いや、知らされている
それをこの存在は授けるというのだ
喜び勇んで首を縦に振るが・・・何故か嫌な予感がする

そして、それは的中する


「横島忠夫・・・彼があなたの殻を破る力となるでしょう」


聞きたくない名前が聞こえてきた
一番聞きたくない名前
確かに彼は強い、能力の汎用性も凄い、だが・・・あの助平な目つきだけは容認できない

それに・・・あの男といれば、何故かもやもやとしてしまう・・・

だが、その葛藤さえも彼の存在は見抜いていたようで・・・


「彼と手合わせをすれば判ります。彼の技術は実戦において凄まじく研ぎ澄まされています
 彼は・・・大事な人を守るためには何をも惜しまない、本来秘匿すべき技術・能力さえも教えてくれるでしょう」


大事な人
その言葉に、何か胸が痛いものを感じる
一度はそれと信じて契りを結んだ人もいるのに・・・それも解け消えてしまった
その渇きから求めてしまうが・・・彼がそうなるとは考え難かった

いや、ただ単に・・・考えることを拒否してしまったのだろうか


「・・・悩みなさい、大いに。考え、選ぶことも人に許された特権なのです・・・
 私は、きっかけを与える者を教えただけ・・・・後は貴方次第なのです・・・悩む貴方に渡す言葉は・・・

 汝の御心のままに」


思考の渦に沈んでいると、響く声にスゥッと何かが離れていく感覚を感じ取る


其方に視線を向けようと・・・気が付けば、自分がテーブルに突っ伏して寝てしまっていた
テーブルの上の答案用紙は・・・多少怪しい文字も見受けられるが全部採点は終わったようだ
時計を見ると、3時13分・・・後三時間は寝られる

部屋のファンヒーターはすでに自動消化されていて、部屋も冷え始めている

妙な夢
だが、何故か夢と片付けられないほど深く胸に語りかける何かがあった

もう一度寝よう・・・また、あの夢が・・・もう少しまともな神託が得られるかもしれない
そう考えると刀子はベッドの布団の中にもぐりこんだ







「おきーやー、横っち〜」

「・・・くかー・・・・すぴー・・・・」

夢の中でも眠りにつく豪傑、横島忠夫を見下ろし、サッちゃんはぽりぽりと頭をかく
自分の欲求に素直というのは、悪魔から見れば美点だが・・・それでも、釈然としないものが、サッちゃんの胸によぎる

「ほら、おきーやーって・・・あんまり、ワイも時間があらへんのやけど・・・」

「かー・・・・すぷー・・・・」

「・・・あ、あんな所で刀子はんが水着・・・」
「どこじゃ!お宝映像!!」


今だ言葉途中にもかかわらず、がばりと身体を起した横島は周囲を血走った眼で見渡す
周囲が中学生ばかりということで、よっぽど欲求が溜まっているのだろうか・・・それを見て、ため息をつくサッちゃん

ため息に気が付き、横島がようやくサッちゃんに気が付く

「あ?・・・なんだ、サッちゃんじゃねーか」
「横っち、久しぶりやな〜・・・にしても、溜まっとるんか?」
「あたりまえじゃー!幾ら良い女ばかりといっても中学生ばっかやぞ!ナンパもできんやないかー!」

相変わらずの真正面切っての言いっぷりに、腹を抱えて笑うサッちゃん

それを見た横島は、己の手に霊波刀を纏わせる


「ほほー、よっぽど切って欲しいんだな?夢の中といえど、俺の世界ならば俺もちょっとは強いよな?な?」

「あー、やめや?確かに横っちは強いけど、ワイに敵わんのは判ってるやろ?
 『本当の全力』出すんなら話はちゃうけど」

「ふーんだ、確かに判ってるよーだ・・・
 どーせ、魔神殺しっても美神さんあっての戦果だったしー、最後はあんたらに助けられたしー」


己の夢の端っこで器用にいじけている横島を見て、また笑い転げそうになるのを堪えるサッちゃん
また、まだ思い違いをしていることに、さらに笑いが増幅される

美神だけでは、どうしようもなかったということにまだ気が付かなかったのか
同等の力でしか同期共鳴合体はできない・・・人間において最強の力を持っていた美神と同等の力を持っていた
それも、僅か一年足らずの時間のなかで・・・それがどれほどの事なのか理解していない方が不思議でたまらない

また、夢の中は己が中心であって、端っこなどにはいけるはずがないのに・・・

あらゆる不可能を可能にしてしまうこの男は、なんと楽しいのだろうと思ってしまう


「ま、そういじけんと・・・・ほら、ワイは良い話もってきたんやで?」
「なんだ、美人でも紹介してくれるって言うのか?」

横島の言葉に、サッちゃんはん〜と少し考えるそぶりを見せて

「魔界のサキュバスやら、下位の魔神の綺麗どころなら紹介してやれんでもないけどなー・・・
 条件は魔界に永じ・・・」
「ごめんなさい、その話はなかったことにしてください」


すぐさま、土下座で切り返す姿を見て、ふぅっとため息と共に自分中心やないんやなーとサッちゃんは考える

今、横島が魔界に来るというのは魔神となるということであり・・・
それは、今成立しているデタントに不満を持つ魔族たちの火種に、良く燃える油とニトロを混合して注ぐようなものだ
魔界から、人間界に魔族を向かわせても、今度は逆に神界の不満を持つ存在に対してそういう反応を渡すわけで

世界のバランスが崩れるといっても過言ではない状況を生み出す・・・それを横島は嫌ったと判ったからだ


「なんちゅーか、ほんま優しいんやなー」

「・・・さぁ・・・優しいかどうかなんて俺にはわかんねーよ。それを決めるのは他人だしな・・・」


ぶすっとしたような顔でそっぽを向いているが、少し顔が赤いのは照れているのだろう
褒められることにあまりなれていないというのは結構いじりがいがあるかもしれない


「それもそうやな・・・っと、時間があらへんな、単刀直入に言うでー
 その寮から北に五キロくらいかなー・・・森の手前にでかい空き家があるんよ」

「空き家?・・・あぁ、そういやなんか立ち入り禁止っつーか、そんな風になってるやつがあったかも」

「そそ、それや。実はそれの基礎なんやけど、地脈の一部をえぐっとるんよ」


その言葉に、げーっといった表情を浮かべる横島
地脈を弄るというのは、文珠を使えば確かに楽なのだが・・・それでも相当の集中力を必要とする
元の世界では、一流どころのGSが五人程いて、強力な儀式魔方陣を描いた上で数日かけてずらすような大規模事業だ


「まま、そないな顔せんと・・・その地脈から溢れた力が学園に溢れて、妖怪をさらに多く引き寄せているんやから」

「なんだ、蟠桃を狙ってアレだけ来てる訳じゃないのか」

「それはそれで来てるんやけどな・・・ま、三分の一ぐらいは減る計算やな、地脈逸らせば
 まぁ、学園長と掛け合って、空き家を貰いや?今後もこの麻帆良を拠点にするんなら家あった方がえぇやろ
 地脈ずらすくらいなら今のままでも余裕やろ?」


サッちゃんの言葉に、う〜〜〜んと唸る横島
確かに、いつかは家を買うつもりではあったが・・・それでも、色々と考えても見たかった
だが、その思考は即座に中断される


「あそこなら、寮長に煩く言われんし・・・なにより、DVDとか隠さずとも・・・」

「よし!起きたらすぐに学園長に直談判じゃー!!」


ころっと変わる反応に、愉快そうに笑うサッちゃん
その笑いも、すぅっと存在が消え始めたことで、止まる

「っと、時間やな・・・今度、三人で酒でも呑もかー」
「そりゃいいけど、こっちの世界に下りてくるなよ?えらい騒ぎになるの見えてるんだし」
「そりゃ判っとるわ、あっちの世界に顔出すときにでも、ちょこっと時間を割けばえぇやろ?」
「それもそうだな・・・んじゃ、その時にでも。キーやんにもヨロシクなー」
「わーっとる。ほなまたー」


すっと、夢からサッちゃんが消えていくと・・・横島は再び夢の中で眠り始める

神魔双方の代表者との酒盛りを取り付ける
非常識ここに極まり







ガチャッと扉を開けて部屋に入ってくる禍々しい人
その人物を見ながら、一足先に部屋に戻ってきていた神々しい人は、ドリッパーのコーヒーをマグカップに注ぐ

「ふぅ、ギリギリやったなー」
「お帰りなさい、サッちゃん・・・なんとか、人間界に影響が出る前に引き上げて来れましたね」

コトリと音を立てコタツの天板にカップを置くキーやん
スコーンやクッキーの入った菓子入れを勧めながら、コタツにへと座りなおすと、ほっと改めて一息つき

「それにしても、横っちの方の反応はどうでした?」
「んあ?・・・あぁ、最初はごねとったけどお宝が安全になるといったら即OK出したわ」
「相変わらず、煩悩が原動力ですね・・・」
「だけど純粋やで?
 悪行に走るわけで無し、かといって聖人君子であるわけで無し・・・ルシオラはんとの約束、しっかり守っとるわ」
「何時までもヨコシマはヨコシマのままで居て・・・ですか」

あきれ返りながらも、返ってきた言葉に納得し・・・彼女の最後の願いを思い出した
そして、彼の生涯で最も愛した少女の最後の言葉を守り続ける、青年の純粋さにも思いをはせる

「・・・感傷的になってもうたな・・・」
「彼の経験を思い出せば、どうしてもそうなってしまいますよ・・・・ですから、少しでも幸せになってもらうために」
「ワイらは動くと・・・・そして、そのついでにたっぷりと楽しませてもらうと♪」
「そうそう、そうですよ♪」


キーやんとサッちゃんのひみつきち
そう書かれたプレートの下がっている部屋からは、それなりに楽しげで今後どうなるかオッズの変動はどうするか等
自分達の楽しみ中心に話し続ける最高指導者たちの姿があったとか


翌日、横島はお告げ(?)に従って、学園長に直談判をし
後日に大学部の建築学科が実習で建てた巨大家屋を一つ丸々手に入れることに成功する


その結果、確かに結界に侵入してくる人外存在の数は減り・・・・横島には多少の時間的余裕が生まれる



そして、キーやんとサッちゃんの主催する『チキチキ横っちラブレース』は新たなるステージにへと踏み込んだのであった




全ては神と魔王の思し召し




                                     

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