鍵のかかった4つの部屋 榎本&純子が今回挑んだ密室の謎とは!? 構成/友清哲

「佇む男」
ドアの前に佇んでいた男の不審な死の真相は?
 山奥の別荘で、遺言書を傍らに死んでいた葬儀会社社長。完全なる密室での出来事だが、顧問司法書士・日下部が自殺と考えるには不自然であると主張したことから、榎本&純子が調査に乗り出すことに。白幕が張られた奇妙な部屋で、死んだはずの社長が一人佇む姿を目撃した人物も現れーー。読者の予想をはるかに飛び越える“あるもの”を利用した、前代未聞のトリックに刮目せよ!
「鍵のかかった部屋」
辣腕の侵入盗が対峙した、完全なる密室の死
 不運な偶然によって逮捕された空き巣狙いの会田は、刑務所を出所した後、今は亡き姉の家族を訪ねた。ところが、そこに待っていたのは、閉ざされた一室で死んでいた甥っ子の姿だった。しかし、甥っ子の死を「絶対に自殺じゃない」と語る会田。“サムターンの魔術師”の異名を持つ会田をしても解き明かせない密室に、榎本が挑む。絶妙なアイデアで密室が“仕上げ”られる、珠玉の一篇。
「歪んだ箱」
地震によって作り出された理不尽な密室
 結婚を控え、新婚生活を送るつもりでマイホームを建てた高校教師の杉崎。ところが、震度4の地震によって、新築家屋は無残に歪んでしまう。修繕、保証について工務店の社長・竹本とやり合う杉崎は「この忌まわしい欠陥住宅ーー歪んだ箱こそが、この男に最もふさわしい棺に違いない」と殺意を固める。一般的な住宅の常識が通用しない、まさしく“歪”な密室を前に、榎本&純子は……。
「密室劇場」
バカバカしくも謎が極まる舞台上の殺人劇
 シリーズ前作『狐火の家』に続き、劇団『土性骨』が『ES&B』と名称を変えて再登場。前作で座長を失った同劇団だが、今回は舞台の本番中に、自称・日系パナマ人の劇団員、ロベルト十蘭が謎の死を遂げた。たまたま招待を受けていた榎本&純子が、その不審な死の真相を暴きにかかりーー。読者をけむにまくような、これまでの3本とはまったくムードを異にするコメディ短編。
この密室、貴方ならどう解く!?続きは7月28日発売の本編にて、ぜひご確認を!!

榎本径、青砥純子という「カギ」 今回も名探偵ぶりを発揮するふたりの人物像をレビュー 構成/友清 哲

 冷静にして明晰な頭脳を駆使し、純子から持ち込まれる密室の謎を次々に解き明かしていく榎本。その経歴には一抹の胡散臭さを漂わせつつも、防犯コンサルタントとして見事に事件の真相を手繰り寄せる手腕は、やっぱり名探偵そのものだ。  防犯コンサルという職務上、あらゆるセキュリティ事情に通じているのが榎本の最大の武器。密室破りの様々な可能性を吟味し、純子の珍回答を含めた別解を片っ端から潰した末にたどり着く真相は、いつでもサプライズに満ちている!

 弁護士として、様々な事件に立ち会うことになる純子。端麗な容姿に豊富な法知識を携えているが、密室を解く才能には恵まれなかったのが玉に瑕!?
 毎回、事件の謎を解こうと躍起になるも、的はずれな解を掲げては榎本の失笑を買う。「なるほど。……今度こそ、わかりました!」「はいはい。言ってみてください」。こんなやりとりも今ではお馴染み。ただし、微笑ましいこの掛け合いが、しっかり別解潰しに一役買っている点は見逃せない。二人はやっぱりいいコンビなのだ。

著者略歴

貴志祐介(きし ゆうすけ)/1959年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。生命保険会社に勤務後、作家に。1996年「ISOLA」が日本ホラー小説大賞長編賞佳作となり、『十三番目の人格 ISOLA』と改題して角川ホラー文庫より刊行される。翌年『黒い家』で第4回日本ホラー小説大賞を受賞、100万部を超えるベストセラーとなる。2005年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、2008年『新世界より』で日本SF大賞を受賞。2010年刊行された『悪の教典』は第1回山田風太郎賞を受賞したほか第144回直木賞の候補ともなり、その年の話題を独占した。他の著書に『クリムゾンの迷宮』『青の炎』『ダークゾーン』など。

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