言葉にならない感情に、しっかり形を与えているところがすごい。「人間を描こう」という監督の覚悟が伝わってくる骨太な作品でした。
事故で亡くした夫の故郷で再出発したシネは、息子を誘拐されてしまう。絶望の中で宗教に出合い、犯人に救いを与えようと刑務所で面会します。ところが彼はすでに神から許しを得たと言い放つ。シネは神に不信を抱き、親切な身近な人たちを逆に破滅させようとします。
劇的なセリフを全部省いて、日常の場面と会話だけで描いています。例えば、犯行現場を確認しに行くシーン。ショックを受けているシネの顔を撮ることはせず、川べりの急斜面で転ぶ姿を遠巻きに撮影するだけ。「ヒロインだから転ばない」なんて、ない。悲しくても人は転ぶ。すごくリアルに伝わりますよね。
DVD5040円、発売・販売元=エスピーオー、©2007 CINEMA SERVICE CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED
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神に裏切られ、自暴自棄になって恨み言をつぶやきながら外を歩くシーンもそう。「これってたまに見かける、道でブツブツ言ってるおばさんだ」って。こんなドラマを背負う人が私の隣をブツブツ通り過ぎていたとしたら。日常に突然割り込んでくる分、息をのむものがあった。そういう手法、私も作品にちりばめてみたいって思いました。
この演出は机の上では出てこないと思います。私もセリフ書きで苦労しますが、結局は自分の知っている言葉でしか書けない。知るためには現場に足を運ぶしかないんです。手間を惜しまず、セリフなどをみっちり作り込んでいる感じが好きです。
対極はハリウッド作品かな。「誰も予想できないラスト7分間」みたいな(笑い)。見せ場を設けて観客を裏切ったり奇をてらったりしすぎると、しっかり語らなければならない人間の本質的な部分がおろそかになる気がして。作り手として先を読まれたくない、他人と違うことをやりたいって葛藤がありすぎると、ハリウッド的になるのかもしれません。
この作品は展開が容易に予想できる。なのに何度でも見られるのは、監督の徹底した演出があるからだと思います。同じ作り手として、とても尊敬しますね。
聞き手・岡山朋代
撮 影・吉永考宏