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終了課題
クラスターファンVTOL技術の研究

クラスターファンVTOL機の概要


図1 クラスターファンVTOL機
クラスターファンVTOLとは、直径60cm程度の小さくて軽いファンを、図1に示すように機首と主翼部分に、水平に多数搭載して垂直方向の推力を発生させます。また推進用には、同様に多数の小型ファンを機体後部に装備しています。このように小さなファンを束ねて(クラスター化して)必要推力を得ているので、このエンジンをクラスターファン・エンジン、またこのVTOLをクラスターファンVTOLと名付けました(米国特許取得:多ファン式コアエンジン分離型ターボファンエンジン)。
クラスターファンVTOLの特徴は、低騒音で垂直に離着陸することが可能であり、かつファンジェットエンジンで飛行するビジネスジェット機と同様な高速度で飛行することですが、これを実現するには既存のエンジンではできません。新しい発想により考案されたエンジン技術によります。
 

新しいエンジン技術の考案


図2 VTOLエンジン・システム
図1のリフトファン及び推進ファンは、チップタービン・ファンと呼ばれる形式のファンを、独自の発想で高効率化したもので、図2に示すようにファンの駆動空気を生成するコアエンジン(エア・ソースエンジン)で回転し、両者で1つのエンジンを構成します。
図2では、コアエンジンから2基ずつのリフトファンと推進ファンに空気配管がつなげられており、この空気は垂直離着陸ではリフトファンへ、水平飛行では推進ファンへそれぞれ切り換えられます。従って両者のファンを駆動する重いコアエンジンは共通となるため、軽量化が求められるVTOLエンジンとして成立します。
また垂直離着陸と水平飛行の推力を担うファンが別々に独立しているので、特にVTOLで難しいとされる離着陸から水平飛行に至る遷移飛行では、非常に高い安定性と安全性が得られます。 またコアエンジンと各ファンは空気配管でつなぐだけで良いので、ファンを任意に配置することができ、非常にフレキシブルです。これよりいろいろなファン、エンジンの機体への搭載方法が可能になり、このことがクラスターファン・エンジンの最大の特徴であると同時に、VTOLを成立させる理由にもなっています。
 

エンジンの安全性


図3 クラスターファン・エンジン
(6組のリフトファンとコアエンジンが集積)
VTOLは垂直に離着陸するため、その時にエンジン故障などで推力を失うと大きな事故に直結します。従ってエンジンの安全性は一般の航空機より高いことが要求されます。 一般に、航空機が搭載しているエンジンの数が多いほど重大な事故の発生率は低くなりますが、クラスターファン・エンジンは、ファンおよびコアエンジンのユニット(図2)が独立して多数搭載されているため、飛行中にいくつかのファンやコアエンジンが故障しても、重大な事故が起きにくいと考えられます。 また一般航空機に搭載されているエンジンは、十分な整備能力を注ぐことで安全性を確保していますが、クラスターファンは、ファン自体の構造が整備や補修が容易なように、数種類の部品の組合せによる単純な構成なので、複雑な整備を必要としないで、(クルマの部品交換のように)そのまま新しい部品と交換する方法を提案しています。

図4 クラスターファンの全部品
図4にクラスターファンの全部品を示します。このようにクラスターファンは主要な5つの部品とベアリングなどに簡単に分解でき、組立も数分で可能です。なおベアリングはオイルレスで、高速回転体では一般的な潤滑油の供給が必要ありません。
このように、クラスターファンは従来の航空エンジンの常識とは異なり、単純化された構造になっているため大量生産が可能です。これは安全性だけでなく開発および製造コストを大幅に低減することにもなります。
また離着陸時にエンジンが鳥などを吸い込み(FODといいます)、エンジン推力が瞬間的に低下する事故が時々あります。垂直に浮かぶVTOLでは、このような事故は致命的な結果をもたらしますが、クラスターファンは一般的なファンと異なり、動翼が非常に頑丈でかつファンの外周がシュラウドでつながっているファン構造(図4の中央の部品)のため、FODには大変強いと言えます。
 

VTOL機の姿勢制御

VTOLはエンジンを含む推力システムとともに、空中に浮かぶVTOLを水平状態に保つ「姿勢制御システム」が必要ですが、クラスターファンVTOLでは、クラスターファン・エンジンの推力の一部を使ったリアクション・コントロールと呼ばれる姿勢制御システムとなるでしょう。