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憲法から時代をよむ

第14回 国会と国会議員--51条~41条(水島朝穂-憲法から時代をよむ)

  日本でただ一人、「憲政の神様」と形容される人物がいる。尾崎行雄(咢堂)(1858~1954年)である。「元来議会なるものは、言論を戦わし、事実と道理の有無を対照し、正邪曲直の区別を明かにし、もって国家民衆の複利を計るがために開くのである」として、多数党の横暴を批判し、「議事堂とは名ばかりで実は表決堂である」と警告した(『憲政の危機』1920年)。この言葉は、安倍前首相(官邸)が、強引な国会運営を与党国対に指示し、「不正常な採決」(強行採決など)を繰り返していたときに紹介したことがある。尾崎がいうように、国会は「言論の府」であり、「事実と道理」こそ重要である。「熟慮の府」といわれる所以である。

 憲法上、国会は「国権の最高機関」であり、かつ「唯一の立法機関」とされる(憲法41条)。「最高」と「唯一」という言葉には強いインパクトがある。「最高機関」の意味をめぐり学説は、統括機関説、政治的美称説、総合調整機能説に分かれる。通説は政治的美称説である。憲法改正発議権(96条)や法律・予算・条約承認など、重要な権限は国会に帰属しているが、権力分立を崩すほどに国会が突出した強い権限をもつわけではない。どの機関に帰属するか不明な権限が、国会の権限と「推定」されるということである。

 「唯一」という点ではどうか。まず、実質的な意味での立法はすべて国会を軸に行われることから、「国会中心立法の原則」が導かれる。また、立法は国会の議決だけで行われることから「国会単独立法の原則」も出てくる。前者の原則からは、大日本帝国憲法8 条の緊急勅令のような行政立法は認められないことになる。もっとも、この原則には、議院(衆参両院)の規則制定権(58条)と最高裁の規則制定権(77条)という二つの例外がある。
 後者の「国会単独立法の原則」の例外は、地方自治特別法の住民投票(憲法95条)である。「一の地方公共団体のみに適用される特別法」については、衆参両院で可決されても、当該自治体の住民投票で否決されれば法律にならない。なお、「広島平和記念都市建設法」など、これまでの関係法律はすべて住民投票で同意されている

  「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」(前文1段)とか、「その権力は国民の代表者がこれを行使し」(同)、「全国民を代表する選挙された議員」(43条)といった表現のなかに、国民代表制の採用をみてとることができる。直接民主制的なシステムも個々に採用されてはいるが、基本は代表制である。直接民主制の契機を過大に評価することは妥当ではない。地方自治体が、一院制の各級地方議会と住民に直接に選ばれる長に加え、条例の制定・改廃請求権や長・議員のリコール権などを保障しているのとは異なり、国政レヴェルでは直接制の登場場面は限定されている。憲法改正国民投票法の議論のなかで、直接民主制的契機が注目されているが、将来的に、直接民主制の契機を強めていくかどうかは慎重に議論されるべきだろう。

 憲法は、両院制(二院制)を採用しながらも(42条)、第二院も「選挙された議員」で構成している(43条)。州政府代表からなるドイツ型参議院や、英国のような任命制の貴族院とは異なる。衆参両院議員の兼職禁止の規定(48条)により、参院から衆院に「鞍替えす」という言葉がある。首相の指名について衆院の優越があり、閣僚をめざす議員は衆院議員になろうとする傾きをもつ。なお、近年では閣僚の「参院枠」なるものがある。

 ところで、衆参両院ともに現在の選挙制度は選挙区と比例区の組み合わせだが、衆院に比べ参院の方が、選挙区定数5名(東京選挙区)のところもあり、少数野党でも議席を得られる可能性がある。議席配分の場面での「民意の反映」の面に限っていえば、参院の方が、小選挙区しかない衆院よりも高いといえる。

 選挙権に関しては、憲法14条の差別事由(人種、信条、性別、社会的身分、門地)に加え、教育、財産、収入による差別が禁止される(44条但書)。選挙人の資格のところにあえて加えられた三つの差別事由は、明治時代の選挙法が、直接国税15円以上(後に10円、3 円と引き下げられ、1925年に普通選挙権となった)を選挙人資格としたことへの反省という面がある。帝国大学教授の地位が貴族院議員の資格になったことも、「教育」という差別事由が加えられた背景にあるように思う。

 選挙区の設計や投票方法などについては、法律事項になっている(47条)。小選挙区制、中選挙区制、大選挙区制、比例代表制などをどのように組み合わせ、デザインするかについては、憲法は立法の裁量に委ねている。死票が大量に出ることから小選挙区制の違憲論もあるが、議員定数不均衡訴訟でいわれる「投票価値の平等」が、小選挙区の議論にそのまま連動するわけではない。
 国民代表の選び方を決める選挙法の改正は、憲法改正に匹敵するという言葉があるが、この国の選挙制度は、1994年に「小選挙区比例代表並立制」になった。このとき、衆院で可決された法案が参院で否決されたことは想起されてよい(郵政民営化法案と同じ)。それだけ議論があったのだが、きわめて曖昧な決着がはかられた(細川・河野合意)。そのときの議論の不十分さが、その後のこの国の政治に深く影を落としている。

 さて、国会議員の任期については、衆院は4年(但し解散あり)(45条)、参院は6年(但し半数を3年ごとに改選)(46条)である。この設計は実によく出来ていると思う。一般に、下院の解散によって民意を問うことで、政権交代に連動することがある。上院は熟慮と再考の府として、どこの国でも解散制度を設けず、議員任期の安定性に重きを置いている。下院の場合は任期はあくまでも暫定的なもので、いつ、いかなる場面で解散があるかは予測できない。その意味で、下院はその時々の政策決定やその失敗をダイレクトに反映しやすい。だが、日本の場合、参院が3年ごとに選挙があるため、そのつど参院の半数にその時々の政策決定に対する民意が反映するよう機能している。
 例えば、1989年4月に消費税3%が導入されたとき、その前の衆院総選挙における「一般消費税は導入しない」という公約が破られたとして、同年7 月の参院選で、消費税反対を主張する野党が勝利した。2007年の参院選でも、年金や政治と金の問題での国民の怒り・不満が表明され、野党が圧勝した。このように、日本の場合は、参院の3年ごとの半数改選が、「疑似解散」的な機能を果たしているといえるだろう。

 ところで、国会議員は三つの「特典」をもつ。国会議員は、いったん選ばれた以上、小選挙区だろうと、復活当選だろうと、比例最下位当選だろうと、一切関係なしに、「全国民の代表」となる。その地位を確保するために、国会議員には、不逮捕特権(51条)、免責特権(50条)、歳費受領権(49条)が保障される。
 憲法は、「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない」(50条)と定める。これが不逮捕特権である。免責特権とは、「議員の発言・表決の無責任」(51条)である。議員が国庫から相当額の歳費を受けることは「歳費受領権」ないし「歳費特権」と呼ばれる。

 不逮捕特権についていえば、これは選挙母体への拘束の問題というよりは、行政権(特に君主権力)が議員活動を妨害したり、圧力をかけたりすることから議員を守る点に意味がある。現代においても、政権与党が議会内少数派に対して逮捕権濫用による政治圧力をかける可能性は絶無ではない。個々の議員の活動を守ることは、議院の組織活動を裏から支える意味をもつことは忘れてはならないだろう。
 この不逮捕特権は、会期中に限り、刑事手続に関して一般国民とは異なる扱いを認めたものだが、例外もある。「法律の定める場合」である。国会法は、具体的な犯罪の中身を定めることはせずに、きわめてシンプルに「院外における現行犯罪」に限定し、それ以外の場合はすべて「院の許諾」に委ねた(国会法33条)。会期前逮捕に対する釈放要求権も、会期中逮捕に対する保障の趣旨を徹底する意味をもつ。
 なお、憲法が定めているのは「不逮捕」特権であって、「不起訴」特権ではない。国会議員の起訴は会期中でも可能である。内閣の一体性や国務大臣の職務の重要性から、内閣総理大臣の同意のない訴追は認められないという趣旨とされている(75条)。
                                     
(2007年10月22日稿)

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