知られざる統合失調症の薬物治療、身体合併症の発症リスク

―NPOコンボ わが国初の当事者むけ 対処法をまとめた書籍を発行―
統合失調症の薬の副作用で他疾患の合併症に。突然死も問題。
多くの精神科病院では定期的な血液検査などの対処せず

特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構(略称COMHBO、コンボ)は、2007年の創設以来、精神障害者の社会復帰をサポートするとともに、代表的な精神疾患である「統合失調症」の治療薬(抗精神病薬)の不適切な使われ方を是正するための情報提供を続けてきました。

統合失調症は全人口の約1%にみられる、ごく身近な病気です。わが国では、病気および当事者への根拠なき誤解、偏見によって、長きにわたって当事者の入院収容が続けられてきましたが、近年は精神保健思想の普及はもとより、治療薬の進歩によって統合失調症の治療ゴールは当事者の社会復帰、就業の実現へと着実に転換しつつあります。すなわち、抗精神病薬による適切な薬物治療が行われば、病状をコントロールして、QOLの維持、または向上につなげることが期待される時代になったと言えます。
しかしながら、今日の統合失調症の薬物療法においては、「多剤・大量処方」という、わが国特有の処方慣行がいまだ支配的であることも事実です。
 「多剤・大量処方」との因果関係が否定できない副作用も非常に多く報告されており、皮肉にも社会復帰への道筋をつけるはずの薬物療法が、当事者の普通の生活を送る上での阻害要因となってしまっている可能性があります。

副作用の一部は薬の量を減らせば消失する場合もありますが、慢性疾患である統合失調症の薬物治療は長期にわたることから、長年にわたって続く副作用が、やがては他の疾患の合併症を惹き起こす可能性も否定できません。ある調査*1によると、当事者の12%に糖尿病、15%に高脂血症、18%に高血圧、そして5%に心臓疾患、同じく5%に肝機能障害の薬剤を投与されていたという報告があります。

コンボではこうした実態を踏まえ、統合失調症の薬物治療における身体合併症の発症リスクについて、広く注意喚起を促すため、以下のポイントをお示しするとともに、わが国初となる、当事者むけの対処方法をまとめた書籍の刊行をお知らせします。

【コンボからのお知らせ】
●統合失調症の治療薬(抗精神病薬)は、「多剤・大量処方」による副作用が問題に
●長年にわたる副作用によって、他疾患の合併症になることが多い
●薬の副作用によって、こうした合併症を併発することはこれまでほとんど問題にされてこなかった
●糖尿病・高脂血症・高血圧・心臓疾患・肝機能障害などの身体合併症が広く認められる
●上記身体合併症の他に、突然死が多いことも問題
●それにもかかわらず、定期的な血液検査はほとんどの精神科病院で行われていない

【精神科病院では定期的な血液検査はほとんど行われていない】
合併症の有無は血液検査によって把握することができるとされます。ところが、精神科病院において、血液検査を定期的に行っているところはほとんどないのが実情です。血液検査を定期的に受けている患者さんも、精神科病院ではなく、内科や健康診断などで受ける場合が多く、また、精神科の主治医に自ら要望して検査を受ける場合がほとんどです。
 つまり、精神科病院では、合併症が広く認められるにもかかわらず、事前の把握を積極的に行っているとは考えにくいのです。合併症の問題は、本人や周囲の人が症状を自覚し、初めて他科の病院などにかかることによって明らかになることがほとんどです。

【当事者本人が合併症の知識を持つことが必要な現状に――当事者むけに対処法をまとめた初の書籍発行】
統合失調症の身体合併症や突然死に関して、長年にわたり、この問題を訴え続けてきた数少ない内科医である長嶺敬彦医師(山口県・吉南病院内科部長)は、「こうした状況だからこそ、合併症の問題や対処方法を本人が知っておく必要性が極めて高い」と話しています。
コンボでは、かかる統合失調症の薬物治療と身体合併症の問題について、広く患者さん達に知識と対処方法を知ってもらうために、長嶺先生による「ココカラ主義で減らす 統合失調症治療薬の副作用」を11月19日に発行いたしました。
 報道関係の皆様には是非、この問題について調査報道を展開いただき、また、患者向けに日本では初めてその対処法を記した書籍について、ご紹介いただき、統合失調症当事者の権利擁護にご支援をいただきたいと願っております。
                                         以上

【参考資料】
ココカラ主義で減らす 統合失調症治療薬の副作用(発行=特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構)
ご購入はこちら
【著者・長嶺敬彦医師 略歴】
1956年生まれ。'81年自治医科大学卒業。麻酔科医から出発し、プライマリ・ケアと僻地医療を専門としたのち、1999年から清和会吉南病院で内科医として精神疾患患者の身体疾患の治療に従事。統合失調症の患者に多い身体合併症の治療経験が豊富で、それにかんする論文も多数発表している。
【患者向け書籍】
ココカラ主義で減らす 統合失調症治療薬の副作用(NPO法人 地域精神保健福祉機構 2010年)
【専門職向け書籍】
抗精神病薬の「身体副作用」がわかる~The Third Disease~(医学書院 2006年)
予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」~Beyond Dopamine Antagonism~(医学書院 2009年)
抗精神病薬をシンプルに使いこなすためのEXERCISE(新興医学出版 2010年)

本プレスリリースに関するお問い合わせ先
特定非営利活動法人  地域精神保健福祉機構・コンボ
担当:丹羽(にわ) TEL 047-320-3870(コンボ)、携帯090-5558-7235、niwa@comhbo.net
〒272-0031 千葉県市川市平田3-5-1 トノックスビル2F

身体合併症に関するQ&A;
回答 長嶺敬彦(吉南病院内科部長)

■副作用と合併症との違いは何でしょうか?
【回答】これは包含関係の問題です。身体合併症のほうが広い概念で、副作用はその中の大半を占めると思います。身体合併症では薬によるものではない、精神疾患以外の身体疾患を含みます。例えば双極性障害では糖尿病に罹患しやすい。もちろん薬も関与しますが、薬の投与を受けていない双極性障害でも糖尿病の罹患率が高いのです。遺伝的なリンクが考えられています。副作用は薬と身体疾患が因果関係にあるものです。

■長嶺先生は、検査は「6か月に1回の頻度が目安」と述べていますが、その理由をお教えください。
【回答】疾患のなりやすさ(at risk)で異なりますが、1年では不可逆的な変化を起こすことがあるからです。代謝異常など可逆的な内に見つけることが必要で、出来れば6ヶ月くらいで検査をすることを勧めています。また体重が増えたり、何らかの症状があるときは臨時で検査をすることが大切です。

■ある統計によると、約56%の患者さんが、数ヶ月おきから6か月おき程度の頻度で血液検査をうけています。しかし、コンボ読者に行った別のアンケートでは、血液検査を精神科ではなく、内科で受けている人が多く、また、精神科医から血液検査をしましょう、と言われるのではなく、自分で希望して行ってもらう場合も多くあるようです。
【回答】その通りです。精神科で受けることより内科での検査が多いです。一つには臓器別の医学の弊害でしょう。

■長嶺先生の印象では血液検査の必要性を認識している精神科医は多いでしょうか? 少ないでしょうか?
【回答】少ないと思います。身体疾患に対する認識が少ないのは、身体疾患に関する知識の不足があります。知の枠組みが影響します。枠組みを持っている医師は検査を思いつきますが、関心がない(枠組みがない)医師は検査は当然思いつきませんよね。

■精神科医にとって、知の枠組みが違うとすると、入院している患者さんの身体合併症などのチェックはされにくい状況にあるのではないでしょうか? また、そうした場合は、身体合併症が見過ごされたり、治療が遅れたりする状況が生まれるのではないでしょうか?
【回答】その通りです。様々な習慣(暗黙の了解)が疾患の形成や発見に大きな影響を与えます。そのことに精神科医自身が一番気がつきにくいのです。それをこのたび出版した「抗精神病薬をシンプルに使いこなすためのEXERCISE」(新興医学出版・2010)の中で、無意識も含めて論述しました。

■なぜ、身体合併症や突然死の問題は、あまり問題になってこなかったのでしょうか。
【回答】精神科病院が収容施設である側面が強かったからでしょう。病気を治すという意識があれば、突然死は大きな問題です。家族も病院に預かってもらっているという感覚がある場合、突然死しても問題視しませんから。

■精神科医は、あまり合併症の知識はもっていないものなのでしょうか。
【回答】人によると思いますが、身体疾患の知識の前に身体の疾患に対しての基本的な知識や感覚が不足している医師もいますし、医学的に正しい知識を有している精神科医もいますが、身体疾患を毛嫌いする精神科医も多いです。

■患者が身体合併症の知識を持ち、定期的な検査を受けることで、身体合併症や突然死の問題は減らせるとお考えでしょうか?
【回答】効果があると思います。知の枠組みを持つことで、対応が異なります。そういう意味でも、今回の本での啓蒙活動は大切です。