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漫画家

浅野いにお

2009年 3月号

浅野いにお
浅野いにお

「なんなんだ、この漫画は!?」という衝撃。浅野いにおさんの漫画『おやすみプンプン』のページをめくると、そこには鳥のような顔、照る照る坊主の体、そこから伸びる棒状の手足。小学生の主人公、プンプンはまるで落書きだ。確かにそんな漫画のキャラクターは他にもいるだろう。しかしこの漫画の驚くべきは、プンプンが緻密に書き込まれた背景とリアルに描かれた人間たちがいる街の中にポンと放り込まれているところにある。我々読者にとっては落書きに過ぎない彼が、漫画の中では極めて普通の子供として扱われる。

「二〇〇七年に連載を始めた当初は『何かしら可能性を感じる!』という程度の考えだったんです。それが十話目を過ぎたあたりから、プンプンは記号的な方が読者の感情移入を自然に促すんだなということが分かってきました。ストーリー自体が極端に日常的だから、仮に普通の少年の絵で描いていたら、顔のイメージが違うとか、こんなセリフは言わないはずだとかいうほんの些細な食い違いが出た瞬間に、読者の気持ちは離れていったと思います。

 それと、昔から僕はドラマや映画でよくある、状況を説明するための不自然な独り言が嫌いだったんです。大体、人は悲しいときに『僕は今、悲しい』と声に出しては言わない。でも漫画の場合だと肉声を伴わないから、心の中の気持ちを表現する方法としてそれほど違和感なく“モノローグ”が使える。ただ、モノローグには利点があると同時に弱点もあります。キャラクターの気持ちを言葉で限定できる反面、想像の余地をなくしてしまいますから。じゃあ絵の方は読者の想像に委ねてみようか、と思ったのもプンプンをああいう絵にした理由の一つです」

 浅野さんのデビューは一九九八年、十七歳のとき。

「高校の授業中、勉強が苦手だったからずっと四コマのギャグ漫画を描いていたんですね。自分で勝手に“一時間で一本”っていうノルマを設定して友達に見せていたんです。ギャグ漫画だから笑うか笑わないかで反応がすぐ分かる。これをプロの編集者に見せたらどう読まれるだろう、そう思って出版社に持ち込んだ原稿が、たまたま運よく雑誌の空きページに埋め合わせで使われてデビューしました。

 実はそのときはまだ漫画の描き方というか、知識が何もなかったんです。たとえば、下書きの前に話の流れやコマ割りを考える、“ネーム”をつくるという作業があるんですけど、知らずにいきなり下書きを持って編集者との打ち合わせに行ったら、『今度からネーム書いてきて』って言われて、『なんですかそれ?……名前??』って(笑)」

 それから四年後には「月刊サンデーGX」での連載が決定、連作のストーリー漫画を描くようになる。そんな浅野さんを世に広く知らしめた作品が、二〇〇五年から「ヤングサンデー」で約一年間にわたって描かれた初の長編漫画『ソラニン』だ……

続きは本誌で

撮影/中野義樹

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