東日本大震災

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帰郷へ一歩一歩 都路の長期特例宿泊開始 「仕事はかどる」

家族で畳作りに励む根内さん一家(左から)京二さん、雄隆君、富起子さん

 田村市都路町の避難指示解除準備区域で3カ月間の長期特例宿泊が始まった1日、住民からは「避難先から通うよりも楽になる」「帰還に向けた前進」と歓迎する声が上がった。安定していない東京電力福島第一原発の廃炉作業や放射線への不安を抱えつつも、復興を願い、古里での生活をスタートさせた。
 父親の代から畳店を営む根内京二さん(54)は1日朝、妻富起子さん(51)、高校3年生の次男雄隆君(18)と三春町の借り上げ住宅から戻った。自宅向かいの作業場には、張り替えを待つ畳が積み上がる。地域の復興への思いを込め、暗くなるまで作業に励んだ。「新しい畳から、地域が着実に復興へ歩んでいるのを感じてほしいんだ」
 作業場には予約者の一覧が張られている。今年に入り、家の修繕を進める地元の得意客から注文が相次ぎ、避難先との往復2時間の「通い仕事」を連日続けてきた。今回の長期宿泊では今月中旬まで滞在し、お盆を地元で迎えるご近所に新品を届けるつもりだ。
 根内さんは「自宅に泊まれば仕事は、はかどるし、時間を有効に使える」と喜ぶ。ただ、不安が全くないわけではない。地区内には、修繕が間に合わない家がある。除染後も放射線量が下がり切っていない地点も点在する。避難指示解除準備区域の解除時期について「政府は生活環境なども踏まえて、住民が納得できる時期を慎重に判断してほしい」と注文した。
 食材を買い込み、久しぶりに自宅の厨房(ちゅうぼう)に立った富起子さんも「避難先との往復がなくなるのは助かるが、また原発で何か起きたら...という心配はある」と複雑な思いを口にした。
 一方、区域内の自宅の隣でペンションを経営する呑田理美子さん(71)と夫の淳さん(67)は東日本大震災以降、約2年4カ月ぶりに宿泊客の受け入れが可能となった。1日は避難先の田村市内の借り上げ住宅から戻り、客室のベッドや寝具の整理に追われた。
 3日には区域外にある市都路運動場で催される「都路灯(ひ)まつり」に首都圏からボランティアスタッフで訪れる数人を「再開第1号」として迎え入れる予定だ。呑田さんは「商売として成り立つかは分からないが、住民のいない土地では復興は一歩も進まない。少しずつでも県外のお客さんに泊まってもらうことで、風評の解消につながってほしい」と希望を見いだす。

■戻れない住民も 家族の事情や放射線不安
 長期特例宿泊で初日から自宅に宿泊した人がいる一方、家族の事情や放射線への不安などの理由で戻れない住民も少なくない。
 田村市船引町の仮設住宅に避難している元行政区長の坪井和博さん(65)は1日から宿泊申請を出したが、近くの借り上げ住宅で暮らす幼い孫の世話などで宿泊できる日は週末に限られるという。
 自宅は除染が完了しているが、庭には放射線量が高い地点も残っている。「特例宿泊に全面的に賛成する人は少ないと思う。このまま、避難指示解除に突き進むことは歓迎できない」と先行きへの不安を口にした。

カテゴリー:福島第一原発事故

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