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国家安保戦略 日本守り抜く体制を構築せよ(12月18日付・読売社説)

 ◆「積極的平和主義」の具体化が急務

 日本の安全保障環境は近年、急速に悪化している。東アジアの平和と安全の確保へ、包括的かつ体系的な指針を初めて定めた意義は大きい。

 政府が国家安全保障戦略を決定した。1957年の「国防の基本方針」に代わる歴史的文書だ。

 今月上旬に発足した国家安全保障会議(日本版NSC)が策定した。防衛力だけでなく、外交・経済・技術力など国の総合力を駆使し、国益を守る道筋を描いたことは、画期的だと言える。

 戦略は、国際社会とアジアの平和と安定に積極的に寄与するという「積極的平和主義」を基本理念に掲げている。

 ◆NSC主導で国益守れ

 北朝鮮は核・ミサイル開発を進展させ、軍事的挑発を繰り返す。中国は軍備を急速に増強・近代化し、防空識別圏の設定など、尖閣諸島周辺で「力による現状変更」を試みている。国際テロやサイバー攻撃への警戒も怠れない。

 日本単独で自国の安全を維持するのは難しい。世界と地域の平和に貢献することで、周辺情勢は改善され、米国など関係国との連携が強化される。日本の安全保障にも役立とう。

 日本が国際社会の主要プレーヤーの地位にあれば、海洋活動や自由貿易など、様々な国際ルール作りで発言権を確保できる。

 そのために重要なのが、「積極的平和主義」の推進だ。

 戦略は、日本の平和、更なる繁栄などを国益と定義し、大量破壊兵器の拡散、中国の台頭といった課題を列挙した。総合的な防衛体制の構築、日米同盟の強化などの戦略的アプローチも明示した。

 NSCが主導し、この戦略を具体的な政策にきちんと反映させることが急務である。情勢の変化に応じて、戦略を修正し、より良い内容に高めていくサイクルを作り出す努力も欠かせない。

 戦略が、安全保障の国内基盤を強化するため、国民が「諸外国に対する敬意を表し、我が国と郷土を愛する心を養う」方針に言及したのは前向きに評価できる。

 安倍首相は、新たな外交・安保政策について「国民、海外に対し透明性をもって示す」と語った。中国の独善的な外交手法との違いを明確化するためにも、内外に丁寧な説明を行うことが大切だ。

 ◆「統合機動防衛力」整備を

 安保戦略と同時に閣議決定された新しい防衛大綱は、「統合機動防衛力」という概念を打ち出した。2010年策定の現大綱の「動的防衛力」を発展させたもので、機動力に加えて陸海空3自衛隊の一体運用を重視するという。

 平時と有事の中間にある「グレーゾーンの事態」への対処を強化し、防衛力の「質」と「量」の両方を確保する方向性は妥当だ。

 冷戦後、日本本土への着上陸侵攻の恐れはほぼ消滅したが、離島占拠、弾道ミサイル、テロなど、新たな脅威が出現している。警戒監視活動を強化し、制海・制空権を維持するには、「質」と同様、「量」も確保せねばならない。

 新大綱が、減少が続いていた護衛艦や戦闘機の数を増加に転じさせたのは適切である。無人偵察機グローバルホークの導入や早期警戒機の増強を急ぎたい。

 新大綱は、離島防衛の強化に力点を置き、陸上自衛隊への新型輸送機オスプレイの導入や水陸両用部隊の新設を明記した。

 離島防衛には、迅速に部隊を動かす機動力の向上が重要だ。様々なシナリオを想定し、米軍との共同訓練を重ねるとともに、グレーゾーンの事態における武器使用のあり方を検討する必要がある。

 疑問なのは、陸自の定数を現大綱の15万4000人から5000人増やしたことである。

 厳しい国家財政の下、防衛予算の大幅な伸びは期待できず、防衛力整備のメリハリが不可欠だ。新大綱は、戦車・火砲を減らしたように、優先順位の低い分野は合理化すべきだった。北海道の陸自定数維持は過疎対策ではないか。

 ◆集団的自衛権を可能に

 敵の弾道ミサイル基地などを攻撃する能力の保有については、検討を継続することになった。

 日本単独で攻撃するのでなく、日米同盟を補完するにはどんな能力を持つのが効果的か、しっかり議論を深めることが肝要だ。

 集団的自衛権の憲法解釈の見直しも、残された課題である。

 「積極的平和主義」の具体化や日米同盟の強化には、集団的自衛権の行使を可能にすることが必要だ。来年の通常国会閉幕後に結論を出せるよう、安倍政権は、行使に慎重な公明党や内閣法制局との調整に入るべきである。

2013年12月18日01時36分  読売新聞)
東京本社発行の最終版から掲載しています。

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