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ICHIQUPPA | 1980円 | Artist,Musician

家電量販店やディスカウントストアの、消費を煽るキッチュな看板が乱立するロードサイドの光景は、都心の一部以外で生まれ育った多くの日本人にとって、いまやリアルな原風景なのではないだろうか。そんな日本独自のガラパゴス的な進化を遂げた家電量販店の世界観を、ビジュアルからサウンドまで大胆にサンプリングした作品を制作しているのが、くろやなぎてっぺい釣心会によるユニット・1980円だ。「サイケデリック白物家電音楽グループ」を名乗り、活動拠点である名古屋を中心に、各地のクラブイベントでのパフォーマンスや、「ヨコハマトリエンナーレ2011」の特別連携プログラム「新・港村」への作品出品まで、活発な動きを見せている彼らに話を聞いた。

Text:松井友里
Photo:Junpei Kagawa and more

おふたりがユニットを組むようになったきっかけを教えてください。

くろやなぎてっぺい(以下K):打ち合わせだけを3年ぐらいやっていたんですよ。僕らは打ち合わせが大好きで、いつもお互いの夢を語るんです。今のユニットになる前は「米」という妄想ユニットと「半径三メートル」という架空のユニットをやっていました。コンセプトと作品イメージだけを煮詰めて実際には作らないというユニットでした(笑)。その中で、色々なタイミングが重なったこともあり、なぜか1980円だけが残った感じです。

それぞれ映像作家やトラックメイカーとしても活動されていますが、単独での活動についても教えてください。

K:ミュージックビデオやTVオープニングのディレクションなどをやらせて頂いています。また、以前はクライアントワーク以外にビデオアート作品を作っていました。

釣心会(以下T):ライブハウスやクラブ、路上でライブを行ったり、シンガーの方や映像作品、DVDなどに音楽を提供させてもらったりしています。

1980円としての活動以外に、おふたりでクライアントワークなども手がけられていますが、印象的だった作品について教えてください。

K:コマーシャルなどもふたりでいろいろと作っているのですが、やはり印象に残っているのはオリジナルコンテンツの「インドのしりとり詩シリーズ」です。新海岳人くんという映像作家も加わって、歌モノアニメコンテンツを何本か作りました。MTVやテレビ東京で放送していただきましたが、機会があればまた作りたいですね。

T:「インドのしりとり詩シリーズ」は大体自分の家で歌を録音したのですが、音が漏れやすいアパートなので、他の住民から変人扱いされるようになりましたね(笑)。少しクスっと笑えるようなユーモアが出るように意識した作品です。

1980円といえば家電を使ったパフォーマンスが特徴的ですが、結成当初から現在のようなライブやパフォーマンスをされていたのでしょうか。

T:結成当初は実験的でディープな作品やパフォーマンスが多かったです。そういった部分も1980円の要素ではあるのですが、家電量販店の持つ高揚感を追求した結果、直感的なダンスミュージックをベースにした楽曲で、ライブやパフォーマンスを行うスタイルに行き着きました。

K:僕らは家電に注目しているというより、家電量販店を取り巻く世界に魅了されています。毎週ポストにオートマチックに送られてくるチラシ群や、これでもかと配置してある毒々しい店内POPにバナー、パンチのあるメロディーラインで作られているCMソングのような、過剰な装飾感が土着的で面白いと思っているので、表現の中心は実際の家電商品ではなく、その周辺の多幸感にあります。掃除機や扇風機は量販店のシンボルとしてパフォーマンスに使っています。

T:家電量販店が持つ、ある種宗教的な感覚に興味がありました。一見きらびやかで楽しく、高揚感のある世界なのですが、その裏にあるさまざまな思惑や欲望が、現代の消費社会の怖さというものを象徴してるようにも思えます。

くろやなぎさんはアートディレクターとして、釣心会さんは絵描きとしての活動もされていますが、家電量販店やドンキホーテ的なビジュアルについてはどのように考えていますか? 家電量販店やドンキホーテ店内のPOPやチラシは、いわゆる美しいとされるデザインの文脈には全く則っていません。

K:僕はスイスのヨゼフ・ミューラー=ブロックマンというグラフィックデザイナーが大好きで、実際に彼が多くの作品を産み落としたチューリッヒにも足を運んだ事があるんです。駅に着くと彼の手がけたサイン計画が至る所にあり、興奮して何時間も構内に滞在しました。さらにその後、ダウンタウンに出てみると、街そのものが彼のグリッドデザインで統一されたような印象を受け、愕然としたのを覚えています。彼のミニマムで構成的なデザインは、実はこの土地の土着的な感覚をビジュアライズしたに過ぎなかったんじゃないかと感じて、それを日本へ持ち帰ったところで「○○風」のものはできても、僕らのものではないと、強く思いました。そんな時に家電量販店のチラシを見つけて、脳味噌が揺れました。「機能美」といった西洋的な考えはそこには存在しなくて、大きく配置された値段や売り文句のせいでもはや商品がほとんど見えないんです(笑)。何を販売しているかは分からないけど、この独特の高揚感は魅力的でした。日本の印刷物は、漢字、ひらがな、カタカナ、英語と異なる字面が4つ同時に存在しています。これらの形が異なる文字によって混合されているカオス感が日本の独自性じゃないかと感じたんです。ミニマムではなくマキシマムな方向性が心地良い、スイスにはないケミカルな過剰装飾文化が僕らの美意識だと。

T:家電量販店的なビジュアルは、日本人なら誰しも見たことがありますが、西洋の人から見たら完全に異質なものですよね(笑)。話が飛躍しすぎるかもしれないですが、岡本太郎さんが火付け役となって再評価された「縄文文化」や「縄文土器」というのがありますよね。弥生時代以降の日本のデザインには「侘び寂び」的な要素があり、それが一般的に認知されているいわゆる日本的なデザインであって、縄文文化は土着的で情報過多なドギツいデザインが多く、日本の歴史の中でも異質なものであると言われています。もしかしたら、家電量販店やドンキホーテの店内の過剰な広告、ビジュアルやチラシなどを作る際、無意識レベルでそうした縄文時代の記憶が反映されているのではないか…なんて思っています(笑)。僕らの「血」がそうさせるのかなと。自分が描く絵は古代的な要素やファンタジー感を意識して描いているので、そういった要素はどんどん取り入れていきたいと思っています。


制作にあたってビジュアルとサウンドはどちらが先行しているのですか?

K:全作品ワークフローが違いますが、わりと多いのが最初にワンビジュアルを作るやり方ですね。楽譜を書くイメージでキービジュアルを制作して、お互いの言語を統一してから音源制作に移行する方法がわりとしっくりきています。僕らの音楽はサンプリングが多いので、最近では架空の家電量販店のテーマソングを作ってから、お互いリミックスする方法を試しています。今後はチャンスオペレーションのような偶然性も制作過程に取り入れたいと考えています。

1980円の中でも「おまかせくださいのソナタ」は、端的に1980円の世界観が表されていて、とてもキャッチーな楽曲だと思うのですが、どのようなきっかけで生まれたのですか?

T:家電量販店のマッサージチェアからインスパイアされましたね。チェアに座って休憩している時に、家電量販店のテーマソングや販促音楽、家電量販店の雑踏が生み出すカオス感を音楽にしたら面白いかもと思ったんです。高速のブレイクコア的なリズムと、ユルめの家電音楽の対比で家電量販店の世界を表現しています。

インスタレーションとライブパフォーマンス、それぞれに取り組む際のスタンスの違いはありますか?

K:あまり線を引きたくないのですが、作る側としては「マラソン」と「100m走」のスタンスの違いに近いですね。走る方向は一緒ですけど、ペース配分や全体の構築の仕方が違うと思います。

アートや音楽以外も含め、なにか影響を受けたカルチャーがあれば教えてください。

K:道路から影響を受けることが多いです。映像作家の前は交通警備員や道路に区画線を引く「ライン屋」をやっていました。特にライン屋からは強い影響を受けています。道路の路面に白線や制限速度などをペイントしていく仕事ですが、そこでタイポグラフィーや画面構成力を学びました。師匠はパチンコ好きの現場のおじさんたちです。

T:80年代~90年代後半のアニメや漫画、ゲームですね。特に「ファイナルファンタジー6」、「クロノトリガー」、「宇宙船サジタリウス」から強い影響を受けています。独特の「ワクワク感」のようなものは唯一無二なものだと思っています。

1980円の作品は「メディアアート」にカテゴライズされると思うのですが、「メディアアート」についてはどのような考えを持っていますか?

K:僕は先端的なテクノロジーや新しい媒体にはそれほど関心がありません。むしろ使い古されたモノに興味があり、それらを掛け合わせて新しい価値を作ることが自分たちのスタンスだと思っています。日常の見慣れたものをあたかも初めて見たかと思わせるような視点が大切だと考えています。

T:自分は最先端の技術やテクニカルなモノがスゴく好きなのですが、正直頭があまりよくないので、実際作るとなると図画工作的なものになってしまいますね(笑)。メディアアートというのは自分のなかでは「見たことがない世界」を見られるものだと思っています。


 

名古屋は独自の土着的なカルチャーが、他の日本の地方都市と比較してもかなり特殊に発達しているように思うのですが、東京ではなく名古屋をベースにした活動を続けている理由と、そのことが1980円の活動や制作に影響している点があれば教えてください。

T:駆け出しの自分達が偉そうに言うのもなんですが、名古屋はスゴく面白い人たちがいるところだと思います。完全に地下に潜って活動しているような人たちもいるので、来たことのない方はぜひ名古屋のクラブやライブハウス、ギャラリーに足を運んでほしいですね。特に去年は「あいちトリエンナーレ」もありましたし、アート関連で色々と動きがあるみたいです。たしかに名古屋独特の組み合わせで面白いものや美味しいものを作る姿勢は、1980円の作品で無意識に出ているかもしれないですね(笑)。 

今後、海外での活動は視野に入れていますか?

K:2012年は海外のフェスに参加したいと思っています。全然予定はないですけど(笑)、日本の家電量販店文化をレペゼンしていきたいですね。

T:ソナーとかアルスエレクトロニカとか…夢のまた夢かもしれないですが(笑)。

最後に、今後1980円としてどのような活動をしていこうと考えていますか?

K:今、音楽アルバムを制作しています。2012年の2月頃に完成予定です。リリース先がまだ決まっていませんので、レーベルの皆様よろしくお願い致します。それと現在ファッションブランドのis-nessさんと何やら企画しています。早くて年内には発表できるかと思いますのでお時間がある時にでもis-nessのホームページをチェックしてみて下さい。

T:一応音楽ユニットなので(笑)、まずはアルバムを完成したいですね。今年9月に、ソーシャルTV局の2.5Dで1980円の番組をやらせてもらったのですが、そういった企画も今後やっていきたいです。


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