諸葛孔明の「後出師表」 の現代語訳です（コメント欄はこちらに設けてあります）。
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黄龍の迎賓彩池
Photo by : Quarter Repeater
こちらは「後出師表（ごすいしのひょう）」の現代語訳になります。
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原文等は以下のリンク先を見て下さい。
諸葛孔明の「後出師表」 の原文と書き下し文です。
諸葛孔明の「後出師表」 の語注です。
現代語訳：
亮（りょう）、つまり孔明（こうめい）は以下のように主君の劉禅（りゅうぜん）に言いました。 「大軍は祁山（きざん）と箕谷（きこく）にありますが、そこにはどちらも賊軍が多くいるのです。しかし我々が賊軍を破ることができなくて反対に賊軍に打ち破られている状況なのです。つまりこの苦しい状況は我々の兵の数が少ないからではありません。その責任はただ一人、私にあるのです。今は兵の数を減らして将軍の数を少なくして、刑罰を明らかにして間違ったところについて考え、事態に臨機応変に対処する方策を立てるためにいろんなことを引きあわせて調べることに致します。もしそうすることができなければ、我々の兵の数が多くても何の利益があるでしょうか。今から後は、いろんな事に真心を持ちながら国のことを考えて、ひたすらに私の過失を責めることに励めば、そうすればあらゆることが定まってきて、賊は死ぬことになるでしょう。功績はつま先立ちをするように期待をして待つことができます」 と。
これ以降は細かいところまで有事のことを考えて、勇ましく激しい兵士を育てて、自分自身の責任を取って自分の身を責めて、天下の人に自分の過失のあるところを広く述べて、兵士たちを鍛えて武術を鍛錬させる、そんな風に将来の計画を行い、兵士たちは選び出されて鍛えられ、民衆は前に戦に負けたことも忘れるほどでした。
亮（りょう）、つまり孔明（こうめい）は、呉（ご）の孫権（そんけん）が魏（ぎ）の武将である曹休（そうきゅう）を破り、魏（ぎ）の国の兵は東に下がって、関中（かんちゅう）、つまり函谷関（かんこくかん）の中の地方での勢力が弱まっていることを聞きました。
そこで十一月に、孔明は主君の劉禅に以下のように言いました。
「先の帝（劉禅の父の劉備）は漢のことを細かく配慮されて、賊（魏の国）に並び立つことができず、天下を治めるための事業は安定している状況とは言えませんでした。ですからそこ、先の帝は家臣である私に後のことを託して賊を討伐しようと思われたのです。先の帝の曇りのない知恵によって、家臣である私の才能を推量なされて、私が賊を征伐するには私に才能が乏しく、その上敵が強いことを理解しておられました。だからといって賊を討伐せずに、それによって天下を治める事業も失ってしまい、ただ目の前の状況をそのままにして自分が滅びるのを待つようであれば、一体誰が我々とともに賊を討伐するのでしょうか？そう思われたからこそ先の帝は、家臣である私に後のことを託して疑うことはなかったのです。私がその命令を受けた日には、寝るときも寝床に安心して居ることはできず、食事をするときもその食事がおいしいと思うこともなく、ただ私の気持ちは北への遠征にあるだけでした。そこで先に南方を平定した方がよいと考えました。ですから五月には瀘水（ろすい）の川を渡り、土地の性質が悪く農作物も十分に育たないような土地に深く入り込んで、二日に一度食事を取るほどの苦心をしました。私は自分を残念に思わないわけではないのです。天下を治める事業のことを常に考えて蜀の都を欠けることなく保つことはできていない現状ですので、危険を冒してでも先の帝が私に託されたご意思を大切にして万事を行っているのです。しかしあれこれと文句をつける者たちはこれを良いはかりごとではないと言っているのです。現在、賊軍は西に移動して疲れており、その状態でまた東へ備えている状況です。兵法の基本は相手が疲れているときにそれに乗じて相手を倒してしまうことにあります。 ここに謹んで陛下にそのことを以下のように申し上げます。
高帝（こうてい）、つまり漢の高祖（こうそ）である劉邦（りゅうほう）は、その曇りのない知恵はまるで太陽や月のようであり、彼のはかりごとのたくみな部下たちは奥深い知恵を備えていました。それでも危険なところを進んでいって傷を受け、そんな危険な状況から後には安全な状況になっていったのです。一方で今の陛下はまだその知恵においては劉邦には及ばず、陛下のはかりごとの巧みな部下たちの才能も劉邦の有名な参謀である張良（ちょうりょう）や陳平（ちんぺい）には及びません。そうであるにもかかわらず、すぐれた計画を立てて勝利のための計略を考えて、何もせずに天下を平定しようとお考えであるのはどういうことでしょうか。これは臣下の私のまだ理解していないことの一点目です。
かつて長江下流域の江東（こうとう）の辺りを治めていた劉繇（りゅうよう）や王朗（おうろう）はそれぞれ州（しゅう）や郡（ぐん）に拠点を構えていました。国を安定させることを論じてそのためのはかりごとのことを言い、動くときには聖人の言葉を引いていましたが、多くの疑いにお腹を満たしてしまい、多くの苦難に心をふさがれてしまって、江東に新たに勢力を伸ばしてきた孫権の兄の孫策（そんさく）に対して、今年には戦わず、次の年には征伐をすることもなく、そんな状況だから孫策の勢力はひとりでに大きくなってきて、ついには孫策に江東を併合されてしまいました。これは臣下の私のまだ理解していないことの二点目です。
曹操（そうそう）の知力やはかりごとは、他の人たちとは全く違うほどにすぐれていて、彼が兵を用いる様子は、まるで兵法の書物でも有名な孫子（そんし）や呉子（ごし）を思わせるほどのものです。そうであるにもかかわらず、南陽（なんよう）の地で苦しめられ、烏巣（うそう）の地では危険な目に遭い、祁連（きれん）の地でも危うい状況になり、黎陽（れいよう）の地では敵に迫られて、北山（ほくざん）では何度も敗北し、潼関（どうかん）ではほとんど死んでいるような状況になり、その後にやっと一時の見せかけだけ安定しているという状況なのです。ましてや陛下の臣下である私の才能は乏しいのですから、それなのに危険を冒さずに国を安定させようとすることなどできるはずがないのです。これは臣下の私のまだ理解していないことの三点目です。
曹操は五回も昌霸（しょうは）を攻めましたが攻め落とすことはできず、四回も巣湖（そうこ）を越えても覇業をなし遂げることはできませんでした。そこで李服（りふく）という部下を用いて李服はそのためのはかりごとを立案し、夏侯淵（かこうえん）という将軍に任せましたが、夏侯は戦いに敗れてしまいました。それでも先の帝は常に曹操を有能な人物だと賞賛しておられました。そのご様子はこの有能な人物を失いたくないと思われるほどのものでした。先の帝があれほど賞賛された曹操までがこんな様子なのですから、ましてやほかの人々に比べて才能に乏しい私などは、どうして必ず勝つことができるなどと言えましょうか。これは臣下の私のまだ理解していないことの四点目です。
私が漢中（かんちゅう）に行きましてから、ただ半年が経っただけで、趙雲（ちょううん）・陽群（ようい）・馬玉（ばぎょく）・閻芝（えんし）・丁立（ていりつ）・白壽（はくじゅ）・劉郃（りゅうこう）、��銅（とうどう）という部下たちや、その下の曲長（きょくちょう）・屯将（とんしょう）の地位にある者たちの七十数名を失い、先頭で突撃していく将軍はいなくなってしまいました。賨叟（そうそう）・青羌（せいきょう）といった異民族の兵や陛下のそば近くに使える騎士やその他の勇敢な騎士千人余りを失いました。この者たちは皆、数十年の間に四方の各地にいた精鋭たちを寄せ集めたもので、一つの州の人員だけで構成されているわけではないのです。もしこの先数年も同じような状況を重ねるのであれば、さらに三分の二を失うことでしょう。そうなればどうやって敵にはかりごとを行うことができるでしょうか。これは臣下の私のまだ理解していないことの五点目です。
今、民衆は生活に苦しく兵は疲労してしまっておりますが、それでも有事（ゆうじ）は常に休むことなくやって来るのです。その有事が常に休むことなくやって来る状況であれば、その場に止まるにしても先に行くにしても、労働と、そのための費えは常に等しい状況なのです。しかしながら今はこのことに対してはきちんとした計画を立てることができず、賊に一つの州を与えることで何とか長い間持ちこたえているのです。これは臣下の私のまだ理解していないことの六点目です。
そもそも平穏を保つのが難しいのは、有事があるからなのです。昔、先の帝は楚の土地で戦に敗れて、まさにそのときに、曹操は自分の思う通りになったということを喜んで、これで天下は落ち着いたと言いました。その後に、先の帝は東の呉や越を支配していた孫権と同盟をして、西の巴州（はしゅう）や蜀州（しょくしゅう）を攻め取って、その後さらに兵を挙げて北に遠征し、魏の将軍の夏侯淵（かこうえん）の首を取りました。これは曹操の失策であり、漢の再興という事業が今まさに実現しようとしていたときでした。その後に呉の孫権は考え方を変えて我々との同盟にそむいて、関羽は偽りごとの策略によって敗れてしまい、それはホトトギスが足を滑らせるように、ちぐはぐになって失敗したのです。その後、曹操の息子の曹丕（そうひ）が皇帝を名乗りました。事態はおおよそ先ほど述べたようなものでありまして、これをあらかじめ予見して動くことは難しいのです。陛下の臣下である私は、心身を労して国家にお仕えし、死ぬまで全力を尽くして働きます。この先成功するか失敗するか、幸運に遭うか不運に遭うかは、私の知恵ではあらかじめうまく予測することはできないのです（ですから全力で取り組めば勝利を手にできるかもしれないのです）。」
と。
この後、散関（さんかん）での戦いが起こりました。
この劉禅に対する孔明の意思を表明する文章は、孔明自身が集めたものではなく、呉の張儼（ちょうげん）の『黙記（もくき）』という孔明を評論した文集の中から引用したものです。
解説：
以前の記事で訳した「出師表（すいしのひょう）」のあとに諸葛孔明（しょかつこうめい）が主君の劉禅（りゅうぜん）に意見を述べるために出した文章で、それと区別をするために「後出師表（ごすいしのひょう）」と呼ばれているものです。孔明の覚悟の程が伝わってくる名文です。
この文章の最後にあるように、この文章は、呉の張儼（ちょうげん）の『黙記（もくき）』という孔明を評論した文集の中から引用したものとされています。この人物は孔明を高く評価していた人物で、そのこともあってこの「後出師表」自体も後の時代の人による偽作ではないかといわれています。
しかし僕は学問的な云々を別にしても、この文章は名文だと思っています。
この文の終わりの方にある、「死而後已（ししてのちやむ）」という言葉は生きている限りは努力を続けるという意味で、とても好きな言葉なのです。
孔明は自分でも先のことは予測できないと謙虚な姿勢ながら、全力で取り組めば勝利を手にできるかもしれない、だからこそ命を懸けて取り組むんだと、そんな熱の籠もった言葉が心にしみてきます。
僕も同じようにして人生を燃焼させたいと思っています。
今後も漢詩を作ったり、日常の生活を行ったりする間にいろんな文章を読みながら、僕自身のの心を養って強くしていこうと思います。 |
「諸葛孔明」書庫の記事一覧
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2011/10/25(火) 午後 3:23
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2011/10/25(火) 午後 3:17
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2011/10/16(日) 午後 4:49
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2011/10/16(日) 午後 4:47
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「梁父吟（りょうほぎん）」の元になった『晏氏春秋（あんししゅんじゅう）』の一節です。（コメント欄はこちらに設けました）
![[photo]](https://web.archive.org/web/20140320220327im_/http://i.yimg.jp/images/mail/emoji/15/ew_icon_s8.gif)
2011/10/1(土) 午後 6:22
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2011/10/1(土) 午後 6:12
実は三国志は読んだことがありません。歴史物が不得意なせいかもしれません。
不安定な状況下で、周囲を理解し、自分の能力も理解し、その時点での最善の方策を見極めることはなかなか出来ることではありません。
しかしそれでも運はついてまわるのでしょうね。傑作。
2011/10/25(火) 午後 9:21
わー、三国志大好きです！
出師表はすばらしいですよね……！
一番はまっていた学生時代を思い出しました。
2011/10/25(火) 午後 10:32
ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕は横山光輝の『三国志』から、三国志のシミュレーションゲームにもはまっていました。
僕のお相手の方も好きな三国志なので、僕もいつもきちんと訳しています。
不安定で先が見えない中で、全力を賭して努力する、
孔明でさえもこんな気持ちであるというのは熱い気持ちになります。
運を天に任せるというのは、ここまで努力をした人にこそ
ふさわしい言葉なんだなと改めて思いました。
僕もお相手の方のために全力を尽くしていきたいなと思います。
2011/10/26(水) 午前 7:24
キャサさん、コメントありがとうございます。
今までこちらのブログを訪問した形跡も全くなかったですね。
三国志ネタは僕のお相手の方が好きなので時々訳しているのです。
またお相手の方のためにがんばります。
2011/10/26(水) 午前 7:28
後出師表も三国志のクライマックスの中の一つですね。ポチ！
2011/10/26(水) 午前 8:35
2011/10/26(水) 午前 8:24 の鍵つきの内緒さん、コメントありがとうございます。
僕のお相手の方の好きな三国志の漢文を訳しています。
お出かけなのですね。また後でゆっくりと読んで下さい。
2011/10/26(水) 午前 8:47
みなせさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕のお相手の方も好きである三国志の、
一番良い場面の一つなので力を入れて訳していました。
最後の方の「死自後已」の言葉は僕の一番好きな言葉です。
また日々きちんとがんばっていこうと思います。
2011/10/26(水) 午前 8:49
もう前に息子がゲームまではまり、私に本やDVDを・・・
家族ではまって、共有できた作品でした。
思い出して、懐かしく、心熱く・・・
そうですね・・お相手と一つの事を共有できる事への喜びは、素敵な事ですね。
秋の夜長を楽しみながら・・・ポチ☆
2011/10/26(水) 午前 11:33 [ さんぼうやま ]
さんぼうやまさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕と同じ年代の人たちも、かなり三国志にはまっている人が多いです。
僕とお相手の方と、共通の好みの部分があるのが嬉しいです。
お相手の方のために、日々いろんな事をしていければいいなと思います。
これからもきちんとがんばります。
2011/10/26(水) 午後 2:04
こんばんは✿
有能な将軍たちを失い苦悩に満ちた軍師の姿が伺えます。
趙雲は関羽とともに私は好きな将軍でした。
孔明の素敵なところは謙虚ではありますが内なる闘志が
あるところだと思います。
*私は、心身を労して国家にお仕えし、死ぬまで全力を尽くして働きます。この先成功するか失敗するか、幸運に遭うか不運に遭うかは、私の知恵ではあらかじめうまく予測することはできないのです*
この文面はとても孔明らしいと思いました。
*死而後已*という言葉は素敵な言葉ですね✿
私も好きになりました。
傑作ポチッ♫☆。.:*:・'°★°'・:☆*゜・+♬*゜・+✿
2011/10/30(日) 午前 1:06
ゆーみんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
ほんのわずかの間に多くの仲間を失った悲しみを
孔明は感じていたのだと僕も思います。
幼い頃の劉禅を抱えて駆けていた趙雲の姿も浮かびますね。
その最後の文面には、孔明の謙虚さと熱い闘志とがよく見られます。
あなたも熱い気持ちを持っていることを知ったときには、さらに好きになりました。
「死而後已」、僕もとても好きな言葉なのです。
この言葉の通りに僕自身を日々燃焼させていきたいのです。
あなたのためにも、僕のためにも、これからもきちんと生きていきます。
2011/10/30(日) 午前 6:45
こんばんは。
あまりにも有名な日本人にも愛読されてきた三国志、
玄さんのお話しにもう一度、じっくりと読みたくなってしまいました。
でも 日々、何かと追われるような忙しさ・・・
いつかまた手にしてみたいと思います。
玄さんは本当に素晴らしいです！ 傑作です。
2011/10/30(日) 午後 10:18
y5812y さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕もお相手の方も好きな三国志の話ですので、
僕も丁寧に訳して解説を入れることに力を注ぎました。
それでも長い文章になっていますので、
読んでいただくのも時間がかかるのではと思います。
漢文を訳すのは新しい言葉を学ぶ勉強にもなりますので、
お相手の方を想う漢詩とともにこれからも続けていこうと思います。
2011/10/31(月) 午前 7:21