風鐸
宗教や社会の諸情勢について思いをつづるコラム。軒下につるした風鐸の音色のように、読者の心に響くことを願って……。
●紛争になる前に
2014年5月28日付 中外日報
憲法の解釈変更で集団的自衛権行使を認めようという先の安倍首相の記者会見では、赤ん坊を抱いた不安顔の母子が米艦船で紛争当事国から避難する図を示し、「今、私たちはこれを守ることができない」と主張してみせた◆「国民の命を守る」と何度も繰り返すが、まるでお涙頂戴の芝居を見せられているようだった。強引な理屈を情に訴えている、と思った人も多かったに違いない。なぜ日本人が、自国でなく世界中で戦争に関与する米国に運んでもらわねばならないのか、紛争国になぜ母子が取り残されるのか◆そんな地域へ経済的利益を求めて日本人が押し寄せることの是非は。紛争以前に、外交交渉で危機を回避する努力は放棄したのか。仮に相手が理不尽な勢力であっても、平素から平和外交を展開しておれば事態改善に期待が持てる。その、日本の立場を裏付ける切り札こそ、世界の人々に高く評価される憲法9条ではないか◆中国の脅威を言い募るが、自らの行動で日中関係を悪化させたのは当の政治家だ。例えは悪いが、まるで暴力団同士が抗争になり、片方の親分に世話になっているから加担すると言っているようなものだ◆そもそも暴力団がはびこらぬような早い段階の予防措置、抗争を防ぐ手だてを講じるのがまともな知恵というものだ。そしてそのような争いを避ける知恵は、宗教者が昔から説いてきたものだ。(北村敏泰)