前照灯

鉄道コラム前照灯(118) 暴走鼻眼鏡の片方(上)

 内田百閒「第三阿房列車」収録の「房総鼻眼鏡」の旅をたどろうと思う。初日は総武本線の汽車で両国~千葉~成東~銚子。犬吠埼(岬)に足を延ばし宿泊している。2日目は成田線で銚子~成田~千葉と戻って泊まり。これで鼻眼鏡の片方が完成した

▼3日目も千葉を起点に房総西線(内房線)で館山を回って安房鴨川で泊まり、4日目は房総東線(外房線)で勝浦~大網~千葉と走ってもう片方の鼻眼鏡を描き、稲毛に一泊。5日目に東京に戻るという「天皇陛下の御巡幸より手間が掛かる」旅である。残念ながらこの通り再現するほど暇はない。東側の片方の眼鏡を1日で乗り倒そう

▼百閒先生、ローカル線の乗り継ぎを「三等旅行」と、いささか軽侮している。毎度同行のヒマラヤ山系氏は汽車が動き出すや「風(邪)を引きそうなのです」と、キャラメル、稲荷鮨、サンドウィッチを平らげる。さて、こちらは東京駅9時40分発の特急「しおさい3号」でスタートする。山系氏に敬意を表し、稲荷鮨を食べた

▼雨雲が垂れ込めた田畑を眺めつつ、父親が八街に家を建てようとしたが家族の反対でやめた昔の出来事などを思い出した。11時25分、銚子駅着。百閒先生の旅に比べたら「暴走鼻眼鏡」とでも呼ぶべきか

▼銚子電鉄線に乗り換えようとしてウロウロしてしまう。JRのホームの端っこに、かわいい駅舎?があった。トコトコと1両の電車が入線し、外国人の鉄子さんが夢中で撮影していた。(N)

(2013年3月23日)

【神奈川新聞】