これまでの放送

2015年1月14日(水)

新制度で揺れる“認定こども園”

阿部
「子育ての現場からの報告です。
働く親が子どもを預けたくても預け先がない、いわゆる待機児童の問題は深刻です。
その解消を目指して8年前、『認定こども園』が設けられました。」

寺門
「『認定こども園』は、現在、都市部で不足している保育園に代わって、誰でも子どもを預けることができる施設です。
国は、今後少子化で運営が厳しくなると思われる幼稚園に保育園の機能も持ってもらい、『認定こども園』にして待機児童の解消を図ろうとしています。
しかし、4月から『認定こども園』の補助金の仕組みが大きく変わることになり、子どもを預ける母親たちに混乱が広がっています。」

新制度で揺れる“認定こども園”

東京・杉並区にある認定こども園です。
夕方6時半、子どもを迎えに来た繁田聡子(しげた・さとこ)さんです。
フルタイムで仕事をする繁田さんは、認定こども園に息子のりょう君を預けています。
アパートでりょう君と2人暮らしの繁田さん、いわゆるシングルマザーです。

繁田聡子さん
「これなんですけど。」

ある日、園から届いた便りに繁田さんは驚きました。
そこには、来年度から認定こども園をやめ、保育料を見直すと書かれていたのです。

繁田聡子さん
「認定こども園じゃなくなるということ。
まったくそれは考えてもなかったので、『そんなことが突然ありうるの?』というのが一番最初に思ったことでした。」

りょう君の通う認定こども園はもともとは幼稚園でした。
7年前、この園は長時間保育もできるようにし、認定こども園になりました。
なぜ認定こども園をやめて、幼稚園に戻るのでしょうか。



これまで、認定こども園には自治体や国から補助金が出ていました。
しかし、補助金の申請が複雑だったため、認定こども園になろうという幼稚園は増えませんでした。



そこで、新制度では補助金を国が一元化し、こども園に移行しやすくすることにしました。




これまで東京など土地代や物価が高いところでは、独自に手厚く補助金を出すことができました。
ところが、新制度では、国が決めた基準で一律に補助金が支払われることになったため、多くの園で大幅な減収となることが分かったのです。


幼稚園に戻り、新制度に入らなければ、従来の幼稚園の補助金を受け取ることができます。
これまでよりは減るものの、大幅な減収は避けられます。
そのため、この園は幼稚園に戻る道を選択したのです。


認定こども園 玉成幼稚園 大塚兼司所長
「ふたを開けてみれば、なんでこうなのと。
その助成金では、とても運営できないというのが返上の大きな理由になっているわけです。」


認定こども園と同じように長時間保育を続けるためには、保育料を値上げせざるをえません。
園は親たちを集め、来年度の保育料に関する説明会を開きました。
園では、最大月額1万円の値上げを検討しています。

認定こども園 玉成幼稚園 大塚兼司所長
「できれば保育の質を基本的に落とさない。
保育料を値上げさせていただくという事態も想定される。」

参加した母親
「国の制度が変わることによって園が変わってしまうことが一番困る。」

参加した母親
「(保育料が)1万円上乗せされるので、7万円近く月額負担することになる。
それを負担していけるのか、例えば子どもが増えたりでもしたらどうなるか。」

家賃と保育料だけで、月収の6割が消えるという繁田さん。
多い月には、4万円近くの赤字になることもあります。
今はボーナスや貯金を取り崩してやりくりしていますが、これ以上、負担が増えると生活が立ち行かなくなると繁田さんは言います。

繁田聡子さん
「本当にマイナスばかりの状況に今なっていて、これで女性の活躍推進とか言われても、そんなの絶対進まないでしょうと実際は思いますよね。
特に子どもがいる人はますます厳しいんじゃないかと思います。」

阿部
「取材した市川ディレクターです。
国は認定こども園を増やしたいとしていますが、なかなか難しいようですね?」

市川ディレクター
「これまで認定こども園は、国の複数の官庁や自治体にまたがって管理されていました。
新制度は、これを内閣府に一元化することで手続きを簡単にし、補助金も統一することで、無駄を省きながら認定こども園の数を増やそうというものです。

しかし、待機児童の多い東京の場合、私立幼稚園母体の認定こども園の3割以上が認定を返上する事態に陥っています。
全国的に見ても、政府が行ったアンケートでは、新制度で認定こども園になろうという幼稚園は1割程度しかありませんでした。
認定こども園は、働いている人しか預けられない保育園と異なり、誰でも利用できるのが大きな特徴です。
今回の問題は働く母親ばかりでなく、これから働こうという母親にも影響を及ぼしています。」

“子どもを預けられない” 働きたい母親たち

神奈川県に住む尾留川真子(びるかわ・まこ)さん。
3歳と1歳の子どもを育てる専業主婦です。
認定こども園に子どもを預け、仕事をしたいと考えていました。


尾留川真子さん
「こども園であれば2人が行ってから(仕事を)探して、後からいろいろ変更できたりということであれば、融通が利くので選択肢も増える。」



認定こども園になるとのうわさを聞き、尾留川さんが入園を考えていた幼稚園です。
保育施設も整え、認定こども園になる準備を進めていましたが、およそ8,000万円の減収になることが分かり、認定こども園になることをやめました。
子どもを預けられなくなった尾留川さん。
このままでは、仕事をすることができないと諦めかけています。

尾留川真子さん
「今の段階で応援されている感じはない。
働きたいと思っている人にとっては、本当に残念だと思う。」

新制度で揺れる“認定こども園”

寺門
「こうした状況を受けて、国や自治体は何か対策とっているんでしょうか?」

市川ディレクター
「国としては、補助金への加算方法などを見直そうとしています。
これから補助金の最終決定に向けての議論に入りますが、どの程度、増額されるかはまだ見えていません。
自治体の中には、独自の補助金を用意しようというところも出てきていますが、検討段階にとどまっています。
子どもを持つ女性たちの社会進出を推し進めるためにも欠かせない認定こども園。
どのように増やしていけばよいのか、対策が求められます。」