緘黙について | 笹森洋樹 |
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家族や親しい友人とは何の問題もなく話しているのに,学校などの特定の場面では,ひと言も話すことができない状態を緘黙といいます。言語能力(発語・理解)はほぼ正常であるにもかかわらず,学校などの特定の場面や状況で話さなくなることから,場面緘黙症または選択性緘黙症といわれています。生活場面すべてにわたって話すことができない状態を全緘黙といいます。
情緒障害教育では,選択性緘黙等があるものが対象とされています。
登下校中は親しい友人とおしゃべりをしていても,校門に入った途端に黙ってしまったり,家族とは楽しそうに会話していても,家族以外の人が入ってくると口をつぐんでしまったりすることもよく見られます。行動も抑止的で,極度の緊張から身体が硬直してしまいがちです。重症の例では,行動や動作も止まってしまう場合があります。
米国の精神医学会の診断基準である「DSM−W精神疾患の分類と診断の手引き」では,選択性緘黙について次のように記載されています。
幼児期に最初に出現することがきわめて多く,幼稚園や保育園,小学校に入園,入学した時にまわりが気づきます。幼少期は特に女子に多く見られます。中学校まで続くとそのまま成人まで改善しにくいようです。
まったく声を出さない状態から小さな声では話す,首を振ることで意思表示をする,特定の限られた人となら話す等,状態や程度は様々です。一般的には以下のような特徴が多く見られます。
話さないことだけに注目してしまうと,話させようという働きかけが多くなります。そうした働きかけが極度の緊張と萎縮を生じさせ,対人恐怖やひきこもり等の二次的な不適応を引き起こします。わざと話さないのではなく,話そうとしても話せないという視点に立ち,緊張や不安,恐怖心を取り除くように関わることが大切です。
緘黙の状態は成長と共に改善する例も多く見られます。大切なのは社会的な場面での活動能力です。話ができなくても取り組みやすい課題や場面設定等,安心できる雰囲気作りを心がけます。必要に応じて専門機関も利用しますが,日常生活に般化していく場合には,家庭・学校との協働は不可欠です。