気がついたら中国の岸
「早読み 深読み 朝鮮半島」で1年3カ月前に掲載した、木村先生と鈴置さんの対談の見出しは「ルビコン河で溺れる韓国」(2014年7月10日)でした。
鈴置:その時、木村先生は「韓国はついにルビコン河の米国側の岸から中国を目がけ飛び込んだ」と例えました。ただ当時は「まだ、中国側の岸にはたどり着いていない」とのお見立てでした。
そして鈴置さんが「ルビコン河という急流で、泳ぐというよりも溺れている感じですね」と言ったので、この見出しを付けたのです。
木村: 今や、韓国はルビコン河の急流に押し流され、気がついたら中国側に打ち上げられてしまった感じ――です。
保守派も中国に軸足
ついに、木村先生も中国側へ行ったとの「判定」を下されたのですね。
木村:ええ。政府の判断や政策もですが、とりわけ韓国の人々の意識です。彼らが米国よりも中国をはるかに重要視しているのはもはや誰にも否定できません。
ソウルの書店に並んでいるのは中国関係の本ばかり。日本関係の本が少ないのはすでに常識ですが、米国との関係に関わるものと比べても圧倒的に「中国本」が多い。
長い間、親米派の中軸を務めてきた韓国の保守派も「中国側に行くのはやめて、米国側に戻ろう」と言わなくなってきている。
もう少し正確に言えば、彼らは「米国との関係は重要だ」とは言います。が、彼らでさえ「中国側に片足を置く」のはもはや大前提で「米国にも片足をかけないといけない」と言っているに過ぎない。
しかも、重心は中国側にかかっている。だから、自らが汗をかいて米国へと舵を戻そうとはもはや考えない。ほんの1、2年前と比べ、明らかに韓国人の心象風景が変わりました。
趙甲済ドットコムは千早城
鈴置:朴槿恵政権の「離米従中」が進むほどに、保守は反発しながらも、やむを得ない現実として受け入れてきた感じです。
生き残った少数の親米派は、趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムや未来韓国(ミレー・ハングッ)など、読者数のあまり多くないウェブサイトに立てこもって、孤軍奮闘している感じです。
1本の記事の読者数は多くて4桁。1000人以下の記事も目立つ。数少ない親米保守の牙城として日本や米国の研究者もどっと見に行っていますから、実際の韓国人読者はもっと少ないでしょう。これらのサイトを開くたびに、楠木正成の千早城を思い出してしまいます。
木村:ワシントンの会議でも、米国人から「次の政権になったら韓国はこちら側に戻ってくると思うか」と聞かれました。韓国からの参加者ではなく、日本人の私に尋ねるのも面白いですよね。
米国の専門家も「もはや韓国人に中国傾斜の問題を聞いても、ちゃんとした答えが返ってくるとは期待できない」と感じているのかもしれません。
鈴置:同じ質問を私も欧米の研究者らから受けるようになりました。「離米従中」の現実を否認できなくなった韓国人が、新たな弁解として「朴槿恵政権の特殊性」をあちこちで言い始めたこともあるようです。