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■正暦寺「薬師如来倚像」

 切れ長の二重の目に、形のよい細眉。シャープな鼻筋。りりしくもあどけなさが残る口もと。奈良市郊外の山にある正暦寺(しょうりゃくじ)の本尊薬師如来倚像(いぞう)(重要文化財)は、端正な面ざしが印象的な、高さ28センチの銅像です。ふだんは非公開ですが、春秋の特別公開期間と冬至祭の12月22日には拝むことができます。

 倚像は、両足を前にたらして台座に腰掛ける姿の仏像。足を小さなハスに乗せています。7世紀半ばから平城京遷都までの白鳳(はくほう)期の作と考えられています。一条天皇の命で992年にできたお寺になぜあるのか、詳しい来歴は分かりません。

 正暦寺は山一帯に80以上の僧坊がある大寺院でした。しかし、平安末期の平氏による南都焼き打ちで全焼。再興したものの、寺社勢力を恐れる江戸幕府の政策や廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で次第に廃れます。明治時代には盗難にも遭いましたが、このお像だけが奇跡的に戻りました。涼やかな顔立ちからは想像もつかない苦労を、このお像はしているのです。そう思うと、表情も違って見えます。