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  • "中食"はポスト戦後の食文化にどう介入するか――アイランド代表・粟飯原理咲氏が語る「お取り寄せ」の現在 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.063 ☆

    2014-05-01 07:00  
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    "中食"はポスト戦後の食文化にどう介入するか――アイランド代表・粟飯原理咲氏が語る「お取り寄せ」の現在
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.5.1 vol.63
    http://wakusei2nd.com

    今朝の「ほぼ惑」に登場するのは、アイランド株式会社の代表・粟飯原理咲氏。氏が運営する「おとりよせネット」は様々な食品の口コミやランキングを掲載するポータルサイトである。実は「おとりよせ」好きな宇野が、粟飯原氏と都市の食文化の未来を語り合った。
    今回、PLANETS編集部が訪問したのは、アイランド株式会社が運営する「外苑前アイランドスタジオ」。白を基調にしたキッチン付きのその場所を見ると、「IT企業がイベントスペースを運営?」と思う人もいるかもしれない。しかし、ここには“新しい都市生活”を考える重大なヒントが隠されている。
     

     
    今回、インタビューをするのは、このアイランド株式会社の代表取締役社長・粟飯原理咲さん。お取り寄せサイトの大手「おとりよせネット」の運営が有名だが、他にも料理ブログを集めたサイト「レシピブログ」や、朝型生活を提案する「朝時間.jp」などの運営で、女性たちから強い人気を誇る。
    そんな粟飯原さんと宇野の対話から見えてきたのは、それら一見主婦向けに見えるサイトが秘める、都市の「ライフスタイル」への、男性をも包括する新しい提案だった。
     

    ▼プロフィール
    代表取締役社長:粟飯原理咲(あいはらりさ)
    NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナーを経て、2003年7月よりアイランド株式会社代表取締役。日経ウーマン誌選出「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」2000年度ネット部門第1位、2003年度同賞キャリアクリエイト部門第6位受賞。
     
    ◎構成・川口いしや/稲葉ほたて、聞き手・稲葉ほたて
     
     
    ■外食でも内食でもない中食の発展
     
    ――今日は粟飯原さんに、普段ビジネス誌では話さないようなことを聞ければと思っているんです。例えば、「おとりよせネット」や「レシピブログ」の背景で、考えていらっしゃるようなことです。
    粟飯原 ご期待に添えられるかはわからないですが……(笑)。
    ――そもそも、ネットと食に興味を持たれたのはいつ頃からなのですか? かなり早くから「中食」に注目されていたように思います。
    粟飯原 そもそも、お取り寄せに興味を持ったキッカケは、まぐまぐで1998~1999年くらいに「OL美食特捜隊」という食べ歩きのメルマガを、友人たちと発行していたことです。購読者は3万人くらいいたのかな。
    ――当時のメルマガブームの中でも、かなりの人気だったのではないですか?
    粟飯原 OLがそういう情報を発信していたのが、珍しかったみたいです。お陰さまで、テレビでレギュラーコーナーを持ったり、本を出したら上陸したばかりのAmazonで1位をとったり、当時は色々とラッキーな経験をしました(笑)。
     

    『TOKYO美食パラダイス』OL美食特捜隊(東京書籍・2011)
    http://www.amazon.co.jp/dp/4408028274
     
    そのメルマガ内のQ&Aコーナーで、「手土産に持って行けるようなお取り寄せはないか」とか「週末にホームパーティーやりたいけど、どうすればいいか」みたいな情報が盛りあがっていたんです。そこで、今度は「お取り寄せ」の情報を集めたコーナーを作ってみたら、とても大きな反響があって「これはニーズがあるな」と思っていました。
    ただ、当時はまだOLを続けていたんですね。結局、「おとりよせネット」をスタートしたのは2003年のことでした。2002年くらいに最初のお取り寄せブームのきざしみたいなものが来たのですが、そこで「絶対にもっとこの世界は広がっていくはずだ!」と勝手に確信しちゃったんです(笑)。当時はまだFAXや手紙で取り寄せる時代だったのですが、オンラインショッピングのシステム開発に携わった経験から、今後はネットで食品が売られていくはずだと見ていたというのもあります。
    ――実際に起業してみて、どうでしたか?
    粟飯原 最初から、わりと反響が大きかったです。というのも当時、いざオンラインショップを立ち上げたはいいけれど、どこでPRしていいのか悩んでいる運営者の方々が沢山いたんですよ。あと、ちょうどネットショッピングにハマる女性が増えてきた時期で、AmazonのようなECサイトはあっても、美味しいお取り寄せの情報だけを集めたサイトはまだなかったんです。
    当時は、美味しい食べ物に目がない人たちが、特別な商品を求めて買っていたように思いますね。例えば、3月に兵庫で取れる「いかなごのくぎ煮」や、土佐で2月に採れる「文旦」を取り寄せるんです。本当に、向田邦子さんの世界のような食事なんです。お取り寄せという存在が、今よりもっと特別感があった時代ですね。
     
     
    ■ "ハレの日"の特別な存在から"普段使い"へ
     
    ――言わば彼らはアーリーアダプタだと思うのですが、その後はどういう方に進みましたか。
    粟飯原 2005年に、電通さんがその年のトレンドワードの中に「お取り寄せ」という言葉を入れてくれたんですよ。BRUTUSでも2004年に、丸ごと一冊お取り寄せを特集した号がすごく反響を呼びました。この頃から、一気に一般化が始まったように思います。
    そういう状況の中で起きているのが、徐々にお取り寄せが普段使いのものに変化していることです。現在の食文化における大きな流れに、内食の中に定期的に「ハレの日」を作っていく発想があるんですよ。「雛祭り」とか「ハロウィーン」とか、日常の中に小さなイベントや旬を見つけて、それを大事にしていく文化です。
     

    おとりよせネット
    (http://www.otoriyose.net/)
     
    ただ、実はこれってこの10年くらいずっと続いていた流れでもあって、「おとりよせネット」が始まった2003年は、いま思えばちょうど「ホームパーティ」ブームが始まった時期だったんです。不況になって、外食指向から内食指向に移り変わり始めた時代の流れに、ちょうどリンクしていたんですね。
    ――「ホームパーティ」ブームというのは?
    粟飯原 バブルの頃の主婦文化って、ランチタイムにフレンチレストランに行って、3000円のコースを食べながら、わいわい喋るような感じだったんですよ。それが不況の中で、お家にそれぞれが食べ物を持ち寄って、ホームパーティーをしましょうという流れになっているんです。
    そのアイテムとして、お取り寄せはすごくインパクトがあるんですよ。持って行くと「何これ、どこで買ったの?」「実はね」みたいに、仲間のあいだで盛り上がれるんです。お取り寄せの商品って、独自のストーリーがあったりするので、そこが話の取っ掛かりになるんですよ。
    ――外食の「ハレ」としての機能を普段の生活に持ち込むのに、中食はピッタリなんですね。
    粟飯原 そうなんです! しかも、お取り寄せ品であれば「特別に取り寄せたのよ」と言えば、手抜き感はないし(笑)、それでいて食卓が華やかになる。すごい効果だと思います。最近は一般への普及がさらに進んでいて、お取り寄せの回数や頻度も増える一方です。安心感が定着してきたように思います。
    実は、お取り寄せがここまで普及した背景には、宅配技術の進歩があるんですよ。最初の頃なんて「ケーキを送ったのに宅配で潰れていた」とか「冷凍品を送ったのに溶けてしまっていた」みたいな報告がしばしばあったんです。それが現在では、ケーキ用の梱包の六角形の紙材が開発されたり、冷凍冷蔵ケースが発達してきて、冷凍ケーキなんかでも美味しく食べられるようになっています。
    ――物流側がそんな特殊なニーズに答えるようになったのは、むしろネットのお取り寄せ文化の発達のせいなのでは(笑)。
    粟飯原 かもしれないですね(笑)。両方の歩みがあったんだと思います。
     
     
    ■ストーリー消費から生まれたハウスワイフ2.0
     
    粟飯原 ネットによる変化ということでは、ソーシャルの存在で「内食」の世界を外部に見せるようになったのも大きいですよ。みんな「盛りつけ」のような見栄えにどんどんこだわるようになってます。
    これまでは、家の中で旦那さんや子どもなど、家族しか見てくれなかった食事が、あとでブログの読者に見せるからとなると、どんどん素敵にしようと工夫するようになるんですね。
    ――見られることって、とてつもないモチベーションを人間に与えると思うんです。例えば、ニコニコ動画の初期の有名人って、実は以前からネットで活動していた人が多いんですよ。その彼らが、なんでニコ動が出た途端にあんなに熱狂的な活動を始めたかというと、やはりお客さんの反応が可視化されるアーキテクチャだったのが大きかったと思うんです。
    粟飯原 それ、わかりますね。最近話題になっている、アメリカの『ハウスワイフ2.0』(文藝春秋 エミリーマッチャー 2014)という本を思い出しました。
     

    『ハウスワイフ2.0』エミリー マッチャー(文藝春秋・2014)http://www.amazon.co.jp/dp/4163900276
     
    この本は、アメリカの高学歴の女性が、キャリアウーマンをやめて専業主婦への道を選び始めたことを書いてるのですが、そこで重要な存在になっているのが、主婦ブログの存在なんですよ。著者によると、「彼女たちは、ブログを通して自分たちの生活を発信できるからこそ、専業主婦でいられる」と。
    自分がガーデニングにこだわったり、手作りのジャムや野菜での料理にこだわったり、家を丁寧に整えていることを、ブログを通じて人に知ってもらえる。それがあるからこそ、ハウスワイフ2.0の世界は成立するんです。
    宇野 なるほど。ある種の就職先として結婚した戦後日本的な中流家庭の主婦とは違う、完全に高等遊民としての主婦が、ネットの発達を背景に米国で発生しているということですね。
    粟飯原 一人一人の主婦の方に多くのファンがついてるんです。「この人の片付け方がすごく素敵」とか「この人の食器棚の並べ方はすごくセンス良い」とか、単なる日々の家事にみんなが憧れるんです。そういうことで、彼女らは、日々発信をしながら、誇りを持って生きているのだという世界観が書かれていました。
    ――家事という技能が、ネットのおかげで広く披露し合えるものになった、と。そういう意味では、粟飯原さんもレシピブログのプラットフォームを運営されてますよね。
    粟飯原 日本の「レシピブログ」も同じですよ。普通のレシピサービスと違ってストーリーがそこにあるので、それを見て「素敵だな」と思った人が、その書き手のファンになることが起きています。家事を上手く出来る人って、女性同士のあいだではライフスタイルデザイナー的な地位があるんですね。実際、「レシピブログ」にご参加いただいているブロガーさんの中には、ご自身の本が280万部出たという方もいます。

    人気料理ブロガーが多数登場する「レシピブログmagazine」
    (http://www.recipe-blog.jp/sp/140327campaign)
     
    ――巨大な市場ですね……。でも、ネットがなければ、ヘタすると家庭内だけでしか彼女の家事スキルは知られなかったわけですよね。
    宇野 家事労働というものは、今まで社会と繋がっていなかったせいで、そのクリエイティビティが評価される回路がほとんどなかったわけですよね。