ふるさと納税、自治体が大臣通知を無視【地方議会ニュース解説委員 山本洋一】

 

ふるさと納税

 

■ 政府がふるさと納税の「お礼競争」に自粛を呼びかけ

納税先の自治体を自由に選べる「ふるさと納税」制度が今年から拡充されたことを受け、自治体の「お礼競争」が続いている。政府は納税者に見返りを送るお礼の自粛を呼びかけているが、自治体側に応じる気配はない。制度の趣旨を変えない限り当然の結果だ。

ふるさと納税は個人が住居地でない自治体に寄付した場合、納税額から2000円を除いた分だけ所得税と住民税を控除する仕組みだ。ふるさとと銘打っているが、寄付先の選択は自由。実際の行為としては寄附だが、実質的に納税先を選べる制度としている。

納税先は自由に選べるが、実際には都市部に住みながら、地方の自治体に寄付する例が大半。つまりは「ふるさと応援」という名目で、税収の豊かな都市部から、税収の乏しい地方に税収を移管する仕組みである。

政府は「地方創生」の一環として、今年から制度を拡充。所得税と住民税の控除額の上限を約2倍に引き上げ、控除に必要な確定申告も5つの自治体までなら不要とした。例えば年収500万円の個人なら、控除額の上限が3万円から5万9000円に増える。(給与所得者で、扶養家族が配偶者のみの場合)

制度拡充を受けて過熱しているのが自治体間のお礼競争だ。当初は故郷を応援するとの名目で作られた制度だが、各自治体が寄付を集めるために「お礼の品」を用意。徐々にお礼品が豪華となり、「故郷支援」という趣旨からかけ離れていった。

中には納税額の7~8割に相当するお礼品を送る自治体まで現れた。仮に10万円の寄付を受けて、8万円分のお礼の品を送った場合、自治体にとっては差し引き2万円のプラス。少しでも税収を増やしたい自治体がお礼競争に走るのは当然だといえる。

しかし、国家全体で考えれば、東京都千代田区の住人が北海道札幌市に10万円寄付して8万円の贈答品を受け取った場合、国の所得税と東京都と千代田区の住民税が合わせて7万8000円減る。

寄付者は10万円払って8万円分のお礼を受け取り、7万8000円分税金が減るので差し引き5万8000円のプラス。札幌市は2万円のプラス、国と東京都、千代田区が合わせて7万8000円のマイナスとなる。国と自治体合わせれば5万8000円だけ税収が減る。

総務省はたびたび高額なお礼の自粛を呼び掛けているが、自治体には届いていない。総務省がこのほど発表した今年9月30日時点の概況調査によると、全ての自治体のうち、返礼品を送っているのは84%。高額返礼品の自粛を呼びかけた今年4月の総務大臣通知を受け、「見直す必要はない」「見直しの予定はない」と答えた自治体は49.3%にのぼった。

 

■ 100万円以上寄付で「黒霧島」一升瓶一年分?!

総務省の調査では、今年4~9月に最も寄付を集めたのは宮崎県都城市。件数にして10万件超、金額にして13億円にのぼる。同市に寄付してもらえるのは地元産の宮崎牛や黒豚、地鶏など豪華食材。100万円以上寄付すれば、宮崎が誇る焼酎「黒霧島」の一升瓶が1年分、365本もらえるそうだ。

http://www.furusato-tax.jp/japan/prefecture/45202

霧島酒造の希望小売価格で換算すると約63万円分もの大盤振る舞い。毎日一升瓶を一本ずつ消費できるかどうか、という疑問も残るが。

今年4~9月のふるさと納税額ランキングを作成したが、上位はいずれも豪華返礼品を用意する自治体ばかり。現行制度では豪華返礼品をアピールして、寄付金を集めるのは自治体として当然だ。総務大臣が自粛を呼びかけたからといって、ほいほい聞いていたら「正直者が馬鹿を見る」。もし、本当にお礼競争をやめさせたいのであれば、寄付の見返りに有価物の贈呈を禁止するなど、制度を根本的に改めなければならない。

 

■ 本当の地方創生を目指すなら、ふるさと納税のあり方を考えなおすべき。

本来ならば寄付者に参政権を与える「ふるさと納税議員」といった提案や、寄付金を犬の殺処分削減政策に充てる広島県神石高原町の例など、金ではなく、知恵を使った制度が求められている。今のままでは単なる地方へのバラマキに終わってしまう。

本当に地方創生を目指すなら、政府もふるさと納税のあり方を考え直すべきだ。その時は地方自治体も発想を切り替えなければならない。

 

(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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